「イヤ〜、今日はさすがのオイラも参ったよ」
初日の夜、教練を終えて詰め所に戻った矢口の口から最初に漏れた言葉がそ
れだった。そしてそれは、そこに集まる全員の気持ちだった。
「私たち、単純に考えていたわね。だけど、女学生を戦士にするって並大抵
じゃないわよ」
「あ〜、分かります。なかなか思い通りに動いてくれないんですよね」
「もーっ! 弓道部とアーチェリー部はなんであんなに仲が悪いのよ!」
「アーチェリー部のレギュラー三人は弓道部の柴田さんを妬んでるようです
よ。柴チャン美人だから」
「あの高橋っていう子、一年生で生徒会書記ってだけあってしっかりしてる
べ。だけども訛りがきつくって、何言ってるんだかさっぱり分からないべさ」
「そうそう、何年東京にいるんだ!って思いますよね」
「カーッ、あそこのスーパー、なんでベーグル置いてないんだよ〜」
「あそこは品揃えが悪いですよ。ホントは隣町に行けば大きな量販店がある
んですけどね」
「……」
「交信中ですか。小川さんはいい子ですよ」
「んぁ〜」
「あ、悩んでますね。紺野さんでしょ? あの人、ボーッとしているようで
結構頑固ですよ」
「って、お前誰だよ!」
先ほどから当然のようにこの部屋にいて、人の話に相づちを打っている少女
を矢口が見咎めた。誰も彼女には見覚えがないのだが、矢口に指摘されるま
で彼女の存在に疑問を持つ者はいなかった。
「あ、私は新垣里沙です」
「新垣里沙です、じゃね〜よ。何であんたここにいるワケ?」
「いえ、別に。ただ、皆さんの大ファンで、何か役に立てたらと思いまして」
「どうしてみんな、この子に気付かなかったのさ〜」
「あ、どうしてだろ。そういう矢口だってしばらく気付かなかったじゃん」
「だから腹が立ってるの!」
「まあまあ、みなさん。私のことでケンカしないでください」
「ケンカじゃね〜し、自分で言うなよ! 早く自分の部屋へ帰れ」
そう言うと、矢口は新垣の襟首を掴んで詰め所から叩き出した。憤然として
部屋に戻ると、自分の寝台に腰を下ろし、鼻息荒くまくし立てる。
「まったく、なんであんな子がオイラ達の中にいるのさ〜」
「まあ、本人に悪気があるわけじゃないんだし、第一怒ると身体に毒ですよ」
ギョッとして横を見ると、追い出したはずの新垣がニッコリ笑っていた。矢
口は拳を固く握りしめた。
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