小説「七人の娘。」

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83カコイイ名無し
 午後に入り、各部隊が引き渡されると、それぞれの所属部署に応じたミー
ティングが行われた。二日目以降は保田の組んだ訓練メニューに従う予定だ
が、初日は自分の役割をしっかり覚えさせる必要があったのだ。
 正門を守護する飯田隊、加護隊は、二個中隊合同でミーティングが行われ
た。最初に飯田が演説をぶつが、なんとも要を得ない話で一同戸惑いを禁じ
得ない。一生懸命何かを伝えようとするのだが、ピント外れであったり、例
えが非一般的すぎたりで、話せば話すほど本題から離れていった。
「そんなくだらない話はいいから、さっさと稽古つけてくれよ!」
集団の中から大声が上がった。前段はみな頷くところだが、後段については
顔を青くして首を横に振った。
84カコイイ名無し:02/09/16 23:05 ID:OG33d4+J
「誰や!」
加護の誰何に応じて一団の中から一人歩み出る者がいた。
「小川!」
「飯田さんよぉ、あんた昨日は不意打ちしたくせに、随分立派な講釈垂れる
じゃねえか」
「ああ、本物の刀を見てお漏らししちゃった子ね」
「なんだと、このヤロー!」
飯田の挑発に乗って小川が掴みかかる。飯田は軽く体をかわすと、脇を抜け
る小川の足を引っかけた。小川は頭から派手に転んだが、回転しながらすぐ
に立ちあがった。
「お望み通り、稽古をつけてあげるわ。加護、木刀!」
飯田に命じられ、加護は午前中切り出したばかりの長柄の木刀を二人に投げ
た。
「さあ、構えなさい」
「なんだ、こんな物。あたしは素手で十分だ」
「構えるのよ!!」
予想外の大声で命じられ、小川は渋々木刀を手にした。
85カコイイ名無し:02/09/16 23:06 ID:OG33d4+J
「まず、こう構えて」
「うるさいわ!」
飯田が構え終わらない内に小川が遮二無二突っかかった。ブンブン振り回さ
れる木刀を、飯田は最小限の動きでかわす。小川の動きも鋭利で素早いが、
何度木刀を振っても飯田にはかすりもしない。次第に小川の息も上がる。
「あ〜っ! 面倒くさい!」
業を煮やした小川は木刀を投げ捨て、足を大きく開いて低く構えた。次の瞬
間、パチンコ玉のような勢いで飛び出して飯田に迫る。その右手が飯田の首
に掛かる寸前、飯田は木刀の柄で小川の眉間をしたたかに打った。反り返っ
て崩れ落ちる小川。見守る誰もが息を飲んだ。
「精進しなさい!」
86カコイイ名無し:02/09/16 23:07 ID:OG33d4+J
踵を返して立ち去ろうとする飯田のズボンの裾に、小川の手が絡んだ。
「お……おい、もうバテたのかよ……」
「なっ!」
飯田は眉間にしわを寄せ、足を引いて乱暴に小川の手を振り払った。
「全員、グランド二〇周だ。加護! この馬鹿を片付けろ」
飯田は憤然と校舎の方に立ち去った。
「逃げるのか! このヤロー」
威勢良く叫ぶ小川だが、身体の方はピクリとも動かせなかった。
「なんや、飯田さんも大人気ないわ。こんなに酷く打つこともないやん」
加護は足元に転がるボロ雑巾のような小川を眺めて言った。
87カコイイ名無し:02/09/16 23:08 ID:OG33d4+J
 校舎の暗がりに入った途端、飯田は右脇腹を押さえて膝をついた。シャツ
の裾をめくってみると、赤い手形が青く変色し始めている。
「ちょっとヒヤッとしたべ」
物影から声をかけられ、飯田は身をすくめる。一番見られたくない人物に見
られた。
「見てたの? なっちも人が悪いね」
「右手で首を狙うと見せて、左手で脇腹を突いてきたべさ。あんな技、なっ
ちも見たことないよ」
「思わず本気で打っちゃった」
「それでもまだ喋る元気が残っていたべ?」
「うん。面白いヤツなんだけど……手を焼きそうだよ」
飯田は曖昧に肩をすくめた。

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