その日の午後、飯田と加護は石川と高橋を道案内として引き連れて食料の
買い出しにワゴン車で出かけた。米と缶詰、レトルト食品、インスタント食
品、ミネラル水、トイレットペーパー等を買い込み、積めるだけワゴンに積
んで残りは配達して貰う手配をした。また、可能な内は毎日生鮮品を配達さ
せるよう交渉した。帰路の途中で飯田は車を止め、加護を降ろした。
「あいぼんは偵察も兼ねて、ここから東を回って帰りなさい。賊の尖兵の気
配がないかよく注意するのよ」
「アイアイサー」
加護は息苦しい飯田の助手席から飛び出して、小走りに路地裏へ入った。
入り組んだ細い道を縫うように進みながら、加護は妙な気配は無いかと辺
りを探った。しかし、緊張もはじめの内だけで、堤防道路に出る頃には散歩
気分になっていた。川から吹く涼しい風を受け、鼻歌交じりに歩いていくと、
河川敷一面に真っ白なコスモスが群生する場所に出た。
「何や、ここ!」
加護は駆けだして花畑に飛び込んだ。真ん中ででんぐり返って大の字に寝こ
ろび、手足をバタつかせて花びらの吹雪を舞わせる。目を閉じ、夢見心地で
花の香りを胸一杯に吸い込んだとき、突然頭に冷水をかけられた。
「誰や!」
飛び起きた加護は腰の刀に手をやる。見ると、自分と同じような背格好の少
女が、水の滴るホースを手にして立っていた。少女は加護の威勢に一瞬たじ
ろぐが、口をギュッと結んで相手を睨んだ。
「何や、お前」
「辻希美れす」
「いや、そう言うことやのうて、何やて人の頭に水なんかかけよったんや」
「ここはお花の家なのれす。ここで暴れたらお花が可哀想なのれす」
辻は加護が寝ていた辺りに屈み、折れた茎を両手で支えた。
「そ、それもそうやな。すまなかったわ」
辻の変に神妙ぶった顔を見て、加護は珍しく素直に謝った。辻は八重歯を覗
かせて笑った。加護もつられて笑った。
「ところで辻」
「ののと呼んでいいのれす」
「そうか。じゃあのの、それってハロモニ学園の制服やろ。学園の生徒がな
んで今時分こんな所におるんや?」
「お花のゴハンの時間なのれす」
「そりゃ、そうかもしれへんけど……何か調子狂うなぁ」
加護の当惑を意に介さず、辻は持っていたホースで花に水をやりはじめた。
「しゃあない。終わるまで待って、送っていくか」
真っ白な花畑に虹を渡す辻を、加護は言いしれぬ思いと共に見守った。折り
からの黄昏によるものか、二人の顔は真っ赤に染まっていた。
その晩、保田と共に部隊編成表を作る予定の加護だったが、机の前に座っ
た途端、スースーと寝息を立て始めた。
「背伸びしてるけど、やっぱり子どもね」
保田はそう言って、加護の肩にそっと毛布を掛けた。加護はニコニコしなが
ら何やら寝言を言ったようだが、保田には聞き取れなかった。
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