小説「七人の娘。」

このエントリーをはてなブックマークに追加
72カコイイ名無し
 その日の午後、飯田と加護は石川と高橋を道案内として引き連れて食料の
買い出しにワゴン車で出かけた。米と缶詰、レトルト食品、インスタント食
品、ミネラル水、トイレットペーパー等を買い込み、積めるだけワゴンに積
んで残りは配達して貰う手配をした。また、可能な内は毎日生鮮品を配達さ
せるよう交渉した。帰路の途中で飯田は車を止め、加護を降ろした。
「あいぼんは偵察も兼ねて、ここから東を回って帰りなさい。賊の尖兵の気
配がないかよく注意するのよ」
「アイアイサー」
加護は息苦しい飯田の助手席から飛び出して、小走りに路地裏へ入った。
73カコイイ名無し:02/09/14 23:34 ID:u5llboig
 入り組んだ細い道を縫うように進みながら、加護は妙な気配は無いかと辺
りを探った。しかし、緊張もはじめの内だけで、堤防道路に出る頃には散歩
気分になっていた。川から吹く涼しい風を受け、鼻歌交じりに歩いていくと、
河川敷一面に真っ白なコスモスが群生する場所に出た。
「何や、ここ!」
加護は駆けだして花畑に飛び込んだ。真ん中ででんぐり返って大の字に寝こ
ろび、手足をバタつかせて花びらの吹雪を舞わせる。目を閉じ、夢見心地で
花の香りを胸一杯に吸い込んだとき、突然頭に冷水をかけられた。
74カコイイ名無し:02/09/14 23:35 ID:u5llboig
「誰や!」
飛び起きた加護は腰の刀に手をやる。見ると、自分と同じような背格好の少
女が、水の滴るホースを手にして立っていた。少女は加護の威勢に一瞬たじ
ろぐが、口をギュッと結んで相手を睨んだ。
「何や、お前」
「辻希美れす」
「いや、そう言うことやのうて、何やて人の頭に水なんかかけよったんや」
「ここはお花の家なのれす。ここで暴れたらお花が可哀想なのれす」
辻は加護が寝ていた辺りに屈み、折れた茎を両手で支えた。
「そ、それもそうやな。すまなかったわ」
辻の変に神妙ぶった顔を見て、加護は珍しく素直に謝った。辻は八重歯を覗
かせて笑った。加護もつられて笑った。
75カコイイ名無し:02/09/14 23:35 ID:u5llboig
「ところで辻」
「ののと呼んでいいのれす」
「そうか。じゃあのの、それってハロモニ学園の制服やろ。学園の生徒がな
んで今時分こんな所におるんや?」
「お花のゴハンの時間なのれす」
「そりゃ、そうかもしれへんけど……何か調子狂うなぁ」
加護の当惑を意に介さず、辻は持っていたホースで花に水をやりはじめた。
「しゃあない。終わるまで待って、送っていくか」
真っ白な花畑に虹を渡す辻を、加護は言いしれぬ思いと共に見守った。折り
からの黄昏によるものか、二人の顔は真っ赤に染まっていた。
76カコイイ名無し:02/09/14 23:36 ID:u5llboig
 その晩、保田と共に部隊編成表を作る予定の加護だったが、机の前に座っ
た途端、スースーと寝息を立て始めた。
「背伸びしてるけど、やっぱり子どもね」
保田はそう言って、加護の肩にそっと毛布を掛けた。加護はニコニコしなが
ら何やら寝言を言ったようだが、保田には聞き取れなかった。

*   *   *   *   *