一人で教室に戻った安倍を、心配そうな一〇の目が出迎える。
「大丈夫だべ。よっすぃーには誰にも負けない浪人魂があるだべさ」
一同が物問いたげに見るのを無視して、安倍は大きな紙を床に広げた。学校
の周辺図だ。
「さて、どう手を打つべ」
一同は表情を改め、地図を囲んで円座になった。
「外塀を利用して校庭まで含めた広い範囲で防ぐべ。校庭向こうの正門に二
人、西門に一人、裏門は橋を落として侵入を防ぎ、ここにも一人予備部隊を
兼ねて配置するべ」
「それじゃ〜裏の職員駐車場は守れないじゃんかよ〜」
「あそこは塀に囲まれていないから守りきれないべさ。職員の車は校庭にラ
ンダムに配置して侵入した敵バイクの足を殺す」
「わかった、オイラが裏門を受け持つ。職員の説得もしておくわ」
「じゃあ、そっちを矢口にお願いして、正門はカオリを主将、加護ちゃんを
副将に付ける。隘路沿いの西門はバリケードを張ってよっすぃー任せるべ」
吉澤の名前が出た所で一同は視線を交えたが、特に異を唱える者はいなかっ
た。
「で、圭ちゃんとごっちんは遊撃隊として適宜必要に応じて動いてちょうだ
い。基本的には圭ちゃんが正面玄関前、ごっちんは体育館周辺に布陣して。
本陣は校舎付近に置いてなっちが詰めるべ」
「師匠、正門にもバリケードを張った方がええんやないか?」
「一カ所入口を作れば敵はそこに集中するべ。加護ちゃんはカオリの指示に
従って、巾着の口を開けたり閉じたりするんだよ。できるなら校舎内への侵
入は許さずに、決戦の場は校庭に置きたい。戦場のイニシアチブを握る最も
大事な役だから頼むよ」
大役と聞かされて、加護の顔がゆるむ。
「任しときぃ」
「各部署に配置する学生はどうしたもんだべか……」
「そうねぇ、高等部の生徒は体調不良の者を除いて全動員しましょう。中等
部からは志願兵を募って、その中から選抜するの。漏れた者には非戦闘員の
警護をさせればいいわ。
クラスごとに分けられた集団を一個小隊とし、二個小隊をもって一個中隊
としたらどうかしら。各中隊を私たちがそれぞれ指揮するのよ。
ただし、特異な技能を持った者は、それを活かせる部署に配属すべきね。
一般の部隊の他に、斥候隊、連絡部隊、補給部隊、衛生兵、弓箭兵……それ
から工兵部隊もいるわね」
「へぇ、圭ちゃんすごいね。部隊の編成については任せてイイかな?」
「今日中に志願を募るわ。編成は今夜考えて明朝周知ね。あいぼんに手伝っ
て貰うわ」
「ウチが?」
「これも修行よ──オリエンテーションと基礎訓練をして、午後一番に各部
隊を担当者に引き渡すわ」
「じゃあ、それまでオイラ達は武器になりそうな物を作っておくね。それか
ら、校庭にはバイクに不利になるように障害物をたくさん設置するよ」
「糧秣はどうかしら」
「さっきウチが調べたら、残り二、三日分ってところやわ」
「カオリ、日持ちがする食料をできるかぎり調達してきて」
「了解。あいぼんにも一緒に行ってもらうわ」
「え〜っ! そっちも行くんかい」
「そうよ。これも……」
「修行や言うんやろ。分かったわ。ど〜なっても知らんで」
「ゴトーは変わった才能がある人を選抜する」
「ちょっと待って! それもウチに手伝え言うんやないやろな」
「いいよ。ゴトー一人で」
「ほっ」
「アテにしてないから」
「!」
* * * * *