小説「七人の娘。」

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61カコイイ名無し
 通された部屋は教室に寝床と僅かな調度を設えただけの簡素なものだった。
埃っぽい空気が漂い、部屋の天井はクモの巣だらけだ。破れたガラス窓は段
ボールで補強され、蛍光灯も何本かチカチカしている。
「予想してたんと随分違った趣向やなぁ」
「ま、女子校ったってこんなモンでしょ〜」
「しかし、本当に私たち、邪魔者かもしれないわね。小川って子の言葉は、
ある意味、学園の総意かもしれないと思うわ」
「命懸けで戦っても感謝もされない。戦は不毛が常とは言え、ここまでひど
い戦も無いな」
みな口々に不平を鳴らす。このような状態では全員を引き止めるのは困難だ
と安倍も思った。仲間の命を危険に晒す価値があるのかも疑問だった。一同
の憤りが頂点に達したとき、これまで安倍同様に沈黙を守っていたもう一人
の人物が口を開く。
62カコイイ名無し:02/09/12 22:52 ID:15kxSqUR
「おいおい、お前ら。一体どうしちまったんだ、あん? カッケー素振りで
自分から進んでこの学校を守りに来たんじゃないのかよ。女学生の迎えが無
くてヘソを曲げて帰る気か? お前ら、女学生は仏様だとか思っていたのか。
颯爽と現れればキャーキャー騒いで寄ってきて、こちらを召し上がれ、あち
らをどうぞってか?
 いいか、女学生ったって綺麗ばかりじゃないんだよ。他人の善意など踏み
にじって、利用できるモノは骨の髄まで利用し尽くす海千山千の化け物だ。
そう、お前やお前、お前ら全員と同じ……まったく同じ人間なんだ! 畜
生!」
63カコイイ名無し:02/09/12 22:54 ID:15kxSqUR
言い募る内に吉澤の目に涙が浮かんできた。上を向いて落涙を堪えるが、つ
いに教室から駆けだしてしまう。後を追おうとする保田を止め、安倍は自ら
迎えに出るため立ちあがった。部屋を出がけに安倍は一同に言い残す。
「みんなでもう一度考えてみるべ」
安倍が去った後、ある者は床を、またある者は天井を見つめ、それぞれ思索
に耽った。
「まったく、オイラ達がよっすぃーに説教されるとは思ってもみなかった
よ〜」
矢口がおどけてみせたが言葉を返す者もなく、再び教室に沈黙が降りた。
64カコイイ名無し:02/09/12 22:55 ID:15kxSqUR
 吉澤を追って階段を駆け上がる安倍。遥か頭上に吉澤の足音が響く。
「お〜い、待ってくれよぉ。よっすぃー、あんた……浪人じゃないべ」
吉澤の足音が止まる。
「あんた……現役の女子高生だべ」
暫し沈黙の後、再び吉澤の足音が駆けだす。遠のく足音に安倍が語りかける。
「私たち、守るから……この学校、最後まで守るからね」

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