「お〜い、私も連れて行ってくれよ〜」
自称吉澤ひとみが痛む頭を振って起きてみると、安倍達はすでに出立寸前で
あった。急ぎ支度を整えた頃にはすでに一行は出かけた後だ。駆け足でよう
やく追いついたものの、矢口や加護に邪険にあしらわれ、安倍や飯田等には
無視されて、吉澤は一行に加えて貰えない。
やがて、とうとう諦めたのか、吉澤の姿が見えなくなった。
「キャハハ。いればうるさいけど、いないと寂しいもんだね〜」
矢口が思わず漏らすと、先回りしていた吉澤が得意満面に飛び出して、矢口
に抱きついた。
「な、な、そうだろ。私だっていた方がいいんだよ。役に立つぜぇ」
「わか……分かったから少し離れてよ〜」
小さな矢口は大柄な吉澤に完全に包み込まれ、なんとか抜け出そうと必死に
もがいでいる。迫り来る吉澤の唇を、両腕を一杯に張って凌いだ。そのやり
とりを見て一行は暫し笑った。
やがて道中もはかどり、石川の通うハロモニ学園が見えてきた。学校は予
想以上の荒れようで、校舎の窓ガラスはことごとく割られ、校庭も雑草に覆
われていた。
「みんな〜、帰ってきたよ〜! 味方をたくさん連れてきたよ〜!」
喜びに満ちた石川のキンキン声が校舎にこだまする。
……。
「ちょっと、誰もおらへんやないの?」
「何でぇ何でぇ、助けが欲しいって言うからわざわざ来てやったってのに
よ! 出迎えもなしかよぉ」
「キャハハ、誰もよっすぃーの助けなんて頼んでないよ〜」
「変だべな。お〜い、何か恥ずかしがってる〜?」
呼ぶうちに、校舎の玄関から二人の生徒が出てきた。一人は毅然としている
が、もう一人は少しオドオドしている。二人は安倍達から一〇メートルほど
の所で止まりこちらを窺っている。
「高橋さん、これは一体どういうこと?」
石川がヒステリックに詰問するとオドオドした方が早口の福井訛りで話し始
めた。
「あのぉのぉ、いしかぁ先輩。せぇ徒達は浪人の人らが怖いと言って教室に
閉じこもってしもたぁんやざ」
「そんな〜。この人達は怖くなんかないわ。石川が保証する」
「ほやけどぉ……」
戸惑う高橋を見かねて安倍が声をかける。
「高橋さんとやら。私たちは必要以上に生徒さん達には近づかないべ。でも、
四〇人の荒くれ者を追い払うには私たちだけじゃあとても手が回らないんだ
よ。だから、みんなにも手伝って貰いたいんだべさ」
「だから、はじめから浪人どもの助けなんて必要ないって言ったんだ!」
高橋の隣で今まで黙っていた方が叫んだ。
「小川さん、何言ってるの!」
「だってそうだろ! どうせ私たちの学校は私たちが守らなきゃならないん
だよ。よそ者なんてアテになるもんか!」
「なんやて!」
飛び出しそうになる加護の肩を掴まえ、保田が笑顔で答えた。
「頼もしいこと言ってくれるじゃない。あなたの言うとおり、学校はあなた
達が守るのよ。私たちはその方法を教えるだけ」
一同の目が小川に向けられるが、小川の方は怖めず臆せず睨み続ける。
「とにかく、部屋は用意してあるんやざ、のでの、そちらの方にどうぞどう
ぞ」
高橋の案内に従って校舎に通される一行。小川の前を通るとき、飯田が剣を
閃かせ小川の鼻先に突きつける。思わず一歩さがった小川に飯田が言った。
「退かぬ気概を教えてあげる」
剣を収め立ち去る飯田の背中を、小川は歯がみしながら見送った。
* * * * *