吉澤は四本目の剣の柄に手をかけた。引き抜きざまに反転して背後に迫る
敵を斬った。勢い余って剣が折れる。それを投げ捨て、五本目を後ろ手に探
して引き抜く。
「ヒョー、ノッてきた、ノッてきた!」
吉澤は迫るバイクに正面から飛び込んだ。相手は驚いて急ハンドルを切り、
泥で滑って転倒する。吉澤はスピンしながら迫るバイクをジャンプでかわし、
着地と同時に乗り手を刺す。
「次!」
意気揚々と立ち上がる吉澤は周囲を見回して新しい標的を求めた。
吉澤の荒武者ぶりに三下どもは算を乱す。そこへ盗賊のリーダー格の一人
が素早く指示を出した。再編された敵は三人一組となり、順番に切っ先をそ
ろえて吉澤に迫る。そのくせ吉澤が咆吼と共に飛びかかると引き潮のように
後退する。勝手が違う相手に翻弄されるうち、吉澤はいつしか敵のまっただ
中に孤立していた。
蹴り飛ばした相手の胸が朱に染まる。妙だと思って俯いて見ると、どこを
斬られたものか、吉澤の右脚からおびただしい量の血が噴き出しているでは
ないか。多少の刀傷に臆する吉澤ではないが、不覚にも自分の血に足をとら
れて片膝をついてしまう。敵はここぞとばかりに吉澤めがけて殺到する。
(これまでか!)
覚悟を決めた吉澤が、せめて一人でも道連れにと振りかぶる。その時、攻め
来る敵の一隊が右側から大きく崩れた。乱刃をかいくぐり、両の手にそれぞ
れ大小を携えた安倍が駆けつける。二本の刀が風車のように目まぐるしく旋
回し、竹林に若竹を刈るかの如く敵陣の側面に大穴を穿つ。
「よく凌いだよぉ!」
安倍が激しく斬り結びながら吉澤に呼びかける。確かに吉澤がここで敵を引
きつけていたおかげで安倍は校舎前の敵を容易に一掃できた。誉められた吉
澤は照れ隠しに下唇を突き出して横を向いたが、その実嬉しくなって、妙に
甲高い掛け声を発しては敵を威嚇する。安倍と吉澤が肩を並べて敵に挑めば、
もはや向かってくる者などいなかった。
「おととい来やがれってんだ!」
逃げる敵の背に吉澤がどやしつける。その吉澤の脚が血まみれであることに
安倍が気づいた。
「よっすぃー、その脚……」
「え? ああ、これくらいの血、ひっ縛っておけばすぐ止まるって」
「そうだべか?」
安倍は吉澤が袖口を裂いて脚に巻くのを覗き込んだ。巻かれた布が見る見る
血に染まる。その傷は安倍の看立てでも明らかに深手で、すぐにも治療が必
要だと分かる。だが、安倍の口から出た言葉は別の見解を表していた。
「無理しない程度に頑張るべ」
ここで吉澤を戦線から外すことはできない。安倍は心の中で吉澤に深く詫び
ながら、その肩を叩いて次の修羅場に導いた。
* * * * *