小説「七人の娘。」

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373カコイイ名無し
 吉澤は四本目の剣の柄に手をかけた。引き抜きざまに反転して背後に迫る
敵を斬った。勢い余って剣が折れる。それを投げ捨て、五本目を後ろ手に探
して引き抜く。
「ヒョー、ノッてきた、ノッてきた!」
吉澤は迫るバイクに正面から飛び込んだ。相手は驚いて急ハンドルを切り、
泥で滑って転倒する。吉澤はスピンしながら迫るバイクをジャンプでかわし、
着地と同時に乗り手を刺す。
「次!」
意気揚々と立ち上がる吉澤は周囲を見回して新しい標的を求めた。
374カコイイ名無し:02/11/18 20:57 ID:BcKOj7Dc
 吉澤の荒武者ぶりに三下どもは算を乱す。そこへ盗賊のリーダー格の一人
が素早く指示を出した。再編された敵は三人一組となり、順番に切っ先をそ
ろえて吉澤に迫る。そのくせ吉澤が咆吼と共に飛びかかると引き潮のように
後退する。勝手が違う相手に翻弄されるうち、吉澤はいつしか敵のまっただ
中に孤立していた。
 蹴り飛ばした相手の胸が朱に染まる。妙だと思って俯いて見ると、どこを
斬られたものか、吉澤の右脚からおびただしい量の血が噴き出しているでは
ないか。多少の刀傷に臆する吉澤ではないが、不覚にも自分の血に足をとら
れて片膝をついてしまう。敵はここぞとばかりに吉澤めがけて殺到する。
(これまでか!)
375カコイイ名無し:02/11/18 20:59 ID:BcKOj7Dc
覚悟を決めた吉澤が、せめて一人でも道連れにと振りかぶる。その時、攻め
来る敵の一隊が右側から大きく崩れた。乱刃をかいくぐり、両の手にそれぞ
れ大小を携えた安倍が駆けつける。二本の刀が風車のように目まぐるしく旋
回し、竹林に若竹を刈るかの如く敵陣の側面に大穴を穿つ。
「よく凌いだよぉ!」
安倍が激しく斬り結びながら吉澤に呼びかける。確かに吉澤がここで敵を引
きつけていたおかげで安倍は校舎前の敵を容易に一掃できた。誉められた吉
澤は照れ隠しに下唇を突き出して横を向いたが、その実嬉しくなって、妙に
甲高い掛け声を発しては敵を威嚇する。安倍と吉澤が肩を並べて敵に挑めば、
もはや向かってくる者などいなかった。
376カコイイ名無し:02/11/18 21:01 ID:BcKOj7Dc
「おととい来やがれってんだ!」
逃げる敵の背に吉澤がどやしつける。その吉澤の脚が血まみれであることに
安倍が気づいた。
「よっすぃー、その脚……」
「え? ああ、これくらいの血、ひっ縛っておけばすぐ止まるって」
「そうだべか?」
安倍は吉澤が袖口を裂いて脚に巻くのを覗き込んだ。巻かれた布が見る見る
血に染まる。その傷は安倍の看立てでも明らかに深手で、すぐにも治療が必
要だと分かる。だが、安倍の口から出た言葉は別の見解を表していた。
「無理しない程度に頑張るべ」
ここで吉澤を戦線から外すことはできない。安倍は心の中で吉澤に深く詫び
ながら、その肩を叩いて次の修羅場に導いた。

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