小説「七人の娘。」

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330カコイイ名無し
 幾多の悲劇を生んだ混戦にもようやく終わりが見え始める。飯田の部隊は
三分の一を失いながらも善戦していた。加護は分散した部隊を何度も再結集
させながら、戦果こそ乏しいものの敵を追い立てる役割を果たした。高橋は
犬部隊を率いて戦場を駆け巡っている。後藤は感情を無くした戦闘マシーン
のように淡々と仕事をこなした。吉澤は疲れなど微塵も見せずに獰猛さを遺
憾なく発揮した。石川は負傷者の救助に奔走した。喉を潰した新垣が声にな
らない声援をただ繰り返す。安倍は大局が決したことを悟りながら、最も危
険な時間帯に神経をとがらせる。
331カコイイ名無し:02/10/25 22:14 ID:IyxprL8H
 いまだに校庭内を走り回る二台のバイクを後藤が続けざまに斬り捨てる。
その洗練された剣技に加護が歓声を送ったとき、銃声と共に後藤の身体が三
メートルも宙を泳いだ。後藤は胸に深紅のバラを散らしながら刀を杖に立ち
上がり、射手の潜む校舎の窓を睨みつけた。しかしそこで力つき、頭から水
たまりに倒れ込んだ。駆け寄った加護が抱えて起こそうとするが、すでにそ
の魂魄は後藤の身を去っていた。
332カコイイ名無し:02/10/25 22:15 ID:IyxprL8H
「ひゃあぁぁぁ!」
加護は火のついた赤ん坊のような泣き声をあげて狙撃手に駆け寄ろうとする。
しかし動転するあまり泥に脚を取られて進めない。その加護の肩を誰かが掴
み、泥の中に引き倒す。素早く脇を抜けて校舎に飛び込むその影の主は吉澤
だった。
 いつの間にか校舎に侵入していた賊を見据え、吉澤は後藤の仇とばかりに
歩み寄る。相手は吉澤目がけて手にしたライフルを放つ。吉澤は腹に銃弾を
受けて倒れるが、不敵に笑って立ち上がると、そのまま敵に突っ込んでいく。
更に一発が発射されるが吉澤は倒れない。敵は不死身の化け物に捕らえられ
た恐怖に腰を抜かす。廊下まで這い出た敵を脇差しで貫き、吉澤はそのまま
自らも倒れた。壮絶な最期であった。
333カコイイ名無し:02/10/25 22:16 ID:IyxprL8H
 ここに至り、盗賊は完全に統制を失って散り散りに逃げはじめる。加護は
半狂乱になって敵を追い求めるが、もはや斬るべき相手は残っていない。安
倍に両手を押さえられ、ようやく刀を降ろす加護。天を仰いで子どものよう
に泣き叫ぶ彼女を笑う者はいなかった。叩き付けるような雨に打たれ、誰も
が冷たい涙を流した。
 物見やぐらに矢口の作ったノボリ旗が翻る。激しい嵐を受けながら、旗は
凱歌を奏でるように力強くはためく。けれど風を切るその音は死神の口笛の
ようにもの悲しく響き渡るのだった。

*   *   *   *   *
334カコイイ名無し:02/10/25 22:16 ID:IyxprL8H
 前日の豪雨を忘れたかのように、明くる日は雲一つない青空だった。生徒
達が力を合わせて戦死者の埋葬を終え、壊れた校舎を直し、校庭を平らにな
らす。戦いを終えたその顔には晴れやかな光が宿っていた。
 ツルハシを肩に担いだ石川が加護に歩み寄る。
「あの、お借りしたお金ですけど……」
石川が言いにくそうに切り出すと、加護は笑って手を振った。
「もう、ええわ。少し余分に貰いすぎたくらいや」
335カコイイ名無し:02/10/25 22:17 ID:IyxprL8H
 昨日までの悪夢が嘘のようだ。学園は急速に正常化し、すでに一部の授業
が始まっている。華やかな学園生活を仰ぎ見て安倍と飯田は揃って溜息をつ
く。
「また負け戦だったべ」
「え?」
安倍の意外な言葉に飯田が思わず聞き返す。
「勝ったのは生徒のみんなだべ。私たちじゃない」
「確かにね」
飯田も合点がいき頷いた。
336カコイイ名無し:02/10/25 22:18 ID:IyxprL8H
 学園の墓地には数多くの真新しい墓ができた。安倍、飯田、加護は戦死し
た仲間を偲んで手を合わせた。
「あいぼ〜ん」
遠くから辻に呼びかけられて加護が手を挙げる。そのとき体育教師の笛が鳴
り、辻の名が呼ばれた。辻は加護に応じることなく授業に戻った。
「のの……」
「さ、行くべさ、加護ちゃん」
安倍は加護の肩を抱いて向き直らせた。加護は安倍達に連れられ、何度も何
度も振り返りながら学園を去っていった。

*   *   *   *   *
337カコイイ名無し ◆BOCKOo2hac :02/10/25 22:19 ID:IyxprL8H
 風薫る川辺の道を並んで歩く三浪人。未練が加護に花畑を見下ろさせた。
「!」
加護の異変に気付いた安倍が心配して声をかける。
「加護ちゃん? どうしたんだべ」
加護は答えることなく目頭を押さえた。コスモスは辻のメッセージの形に刈
り込まれていた。
“ありがとお あいぼん”
「……アホやなぁ、のの。『ありがと‘う’』やろ」
加護は安倍の胸に顔を埋めて泣いた。暖かい涙だった。
338カコイイ名無し ◆BOCKOo2hac :02/10/25 22:20 ID:IyxprL8H
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                    糸冬

              ノノヽヽヽ _,,,,    〃ノハヽ 
      (ノ~\\  ,(^〜^0)''"  / || | |ヽ^◇^ノノ人ヽ ノノノ从ヘ
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       ハ y i)   レ'リ=ツ=⊂シ   ハ y@ノハ@]y「ト,  (⌒ハd)
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