【 外 伝 1 】
戦とはままならぬもので、多くの生徒が訓練で培った技術の半分も発揮で
きなかった一方で、実戦に際してはじめて頭角を現す者もいる。
高等部一年の松浦亜弥は、当初矢口の部隊に配属されたが、程なく指導者
を失い十分な訓練を受けられなかった。代理で指揮をとる後藤も何やら気が
かりなことがあるらしく、旧矢口隊は事実上解散していた。そこで松浦は独
力でこの戦に参加する決意をする。
松浦が用意した武器は飛距離二〇メートルの圧搾空気水鉄砲だ。裏門脇に
陣取った松浦は、電動ポンプを堀に放り込み、水を吸い上げながら敵を狙撃
した。豪雨を貫くジェット水流を受けて、野盗のバイクは面白いように転倒
した。
松浦に気付いた一台のバイクが正面から突っ込んできた。カウルに身を伏
せてジェット水流を防ぐ。
「あ、いくよ!」
気合いと共に松浦は予備の水鉄砲を発射した。ハデハデなピンクの液体が迫
る野盗の視界を塞いだ。敵は目標を見失い、そのまま裏門から飛び出して堀
に落下した。松浦は勝ち誇った声で敵を嗤った。
「イェ〜イ、めっちゃ堀でい!」
落ちた男は松浦の声を聞き、悔しそうに呻いた。
「ダジャレかよ……」
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