戦場は混乱し、学園側の殆どの部隊が瓦解した。その中で飯田は部隊をよ
く持ちこたえさせた。飯田の的確な指揮ぶりが部下を引きつけて離さなかっ
た。多くの者は、この部隊にいれば安全だと感じ、飯田の後を追って言われ
たとおりに戦った。だが、三人目を倒して気がつくと小川の姿がなかった。
「加護! 小川はどこだ!?」
「あれ、おれへん。どこ行ったんやろ。捜してくるわ」
駆けだす加護の背中を見送りながら、飯田は小川が死に急ぎはしないかと心
配した。
その頃、部隊からはぐれた小川は自分の身長の倍はあろうかという男と相
対することになった。男が拳を振るうと竜巻のような突風が起こった。自分
の頭ほどもある拳を間一髪かわした小川は、後ろにあった車が自分の身代わ
りに殴られて五メートルも吹き飛ばされるのを見て口笛を吹く。
「ヒュー、面白れぇ!」
小川は両手を打って低く構えた。
男が第二撃を放つ瞬間、小川は相手の懐に飛び込んだ。スライディングで
相手の股の間を素早く抜け、後転しながら逆立ちすると、そのまま腕の力で
跳び上がって相手の背後からその首に両足を絡める。強引に頭を反らされ呻
く大男の爪が小川の白い脚に食い込む。小川が身体を激しくツイストすると、
鈍い音を立てて男の首があらぬ方向に曲がる。崩れ落ちる大男から離脱した
小川はズボンに付いた泥を払いながら言った。
「ハッ! 見かけ倒しかよ」
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