決戦の朝は観測史上例を見ないほどの大雨であった。安倍は味方を集めて
作戦を確認する。
「残る敵は全て校庭に引き入れるべ。正門部隊は敵が通り過ぎるのを待って
追撃、指令台付近で待ち伏せた本体とで挟み撃ちにするべさ。この一撃が勝
負だべ」
作戦は理解したものの、決戦に挑む一同の顔はおしなべて固い。小川ですら
笑おうとしたその顔が引きつっている。安倍は砕けた口調で味方の緊張を解
す。
「さあ、いよいよ本番だべ、みんな元気出して。特に加護は頑張らなくっち
ゃダメだべ。何せ大事なオトモダチがいるんだからさ」
一同が破顔する。禁断の友情とは言え所詮は人ごとである。一夜明ければ笑
い話だ。ただし当の加護だけは体裁が悪く、後頭部を掻いて苦笑するしかな
い。
「まったく、イヤやなぁ」
吉澤は降りしきる雨の中を駆けだして、武器庫から引きずり出した一〇本
余りの刀を指令台の脇に突き刺していった。
「よっすぃー、どうした」
飯田に問われ、吉澤はまくし立てた。
「一本の刀じゃ五人と斬れやしない!」
それは自分が二、三〇人も斬ってやろうという気概が言わせた科白であった。
飯田は決戦に挑む吉澤の心意気を良しとし、自らも覚悟を新たに部署へ急い
だ。
風向きが変わり、空気が変わった。吹き付ける風雨に向かって吉澤が吠え
る。
「さあ、どっからでも来やがれ!」
吉澤が招いたわけでもなかろうが、正門に怒号が起こり、決戦の火蓋が切っ
て落とされたことを告げる。安倍は愛用の弓を取り出し弓弦を張った。飯田
と加護は顔を見あわせ頷きあった。後藤は鯉口を弛め、高橋は槍をしごき、
小川は指を鳴らし、紺野は謎の装置の電源を入れた。それぞれに戦闘準備を
完了する。
その先に待ち受けていたのは混沌とした乱戦であった。狂乱した盗賊団が
校庭になだれ込み、指令台前で安倍の率いる部隊と対峙する。後背から駆け
つける飯田・加護隊に尻を煽られ盗賊の群は四分五裂する。安倍の狙い通り
敵を分散させた。各個撃破に一縷の望みを託すのみだ。
安倍は弓を引き絞り、攻め入る敵に狙いをつける。弓弦が唸るたびに豪雨
を縫って白羽が飛び、一人、また一人と地に落ちた。
傍らの吉澤は泥まみれになりながら刀を振るい続ける。行き違ったバイク
を後ろから追いかけて、その背に太刀を浴びせる。自刃も辞さないケンカ殺
法に敵も味方も恐れをなした。
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