小説「七人の娘。」

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258カコイイ名無し
「増援部隊は殆ど残っていないべ。でも、明日には残存部隊を再編して死に
物狂いの総攻撃をかけてくるべさ。決戦は明日だべ」
作戦会議に集まった面々は一様に表情を厳しくした。
「決戦に備えて、みんな交代で休みを取った方がいいね。生徒達はずいぶん
疲れているみたいだし」
飯田が実務的判断力を見せる。
「じゃあ、そのように指示するべ」
「悪いけど石川は休憩前に生徒達の点呼を頼む」
「はい」
快い返事と共に石川は校舎の方へ駆けだした。同時に、作戦会議の面々も自
分達の部署に散って行った。
259カコイイ名無し:02/10/13 22:35 ID:8tlGp7m+
 紺野を休みにやった後、後藤は紺野の部下の西田と木下を呼び止めた。精
鋭部隊でも一二を争う優秀な学生であった。
「ちょっと聞きたいんだけど、二人は紺野のことどう思ってるの?」
「と言いますと?」
後藤の真意を捉えかねて西田が聞き返す。
「だってほら、紺野って何て言うか、あまりパッとしないじゃない」
「う〜ん、はじめは戸惑いましたけど、慣れたって言うか。あさ美ちゃんっ
て一生懸命じゃないですかぁ。だからこっちも何とかしてあげなきゃって思
うんですよ」
「そうそう、本とか読んでいっぱい勉強しているみたいだし。後藤さんに教
わった剣の構え方だって、一人で夜中まで練習しているんですよ。あまり上
手じゃないけど、そういうの見せられちゃうと、ねぇ」
西田と木下は顔を見あって頷いた。
「あ、そう。いや、だったらいいんだ。ありがとう」
後藤は二人を退がらせた。部隊の中に紺野に対する不満がないと聞き、後藤
は少し安心した。そして、周囲のフォローがあることを前提に作戦計画を見
直しながら散策しはじめた。
260カコイイ名無し:02/10/13 22:36 ID:8tlGp7m+
 正門付近に歩いていくと、前方の暗がりから声をかける者がいた。小川麻
琴だった。
「後藤さん」
「ん、何?」
小川と直接話したことはなかったが、その風評を聞いていた後藤はやや身構
えた。
「後藤さんがどんな理由であさ美ちゃんをリーダーにしたか知りませんが、
あまり無理なことはさせないでくださいね」
厳しい表情と裏腹に、意外にもしおらしいことを言ってくる小川に、後藤は
内心ホッとした。
「わかってる」
そっけなく言って立ち去る後藤を小川はずっと睨み続けた。最後に後藤の背
中に一言浴びせる。
「何かあったら承知しないぞ!」
後藤は肩をすくめて西門に向かった。
261カコイイ名無し:02/10/13 22:37 ID:8tlGp7m+
西門には高橋が歩哨に立っていた。
「異常はない?」
闇に目を凝らしていた高橋は背後から声をかけられて五〇cmも跳び上がっ
た。
「い、異常ありません」
しどろもどろに報告する高橋に後藤は微笑みかけた。
「あのぉ、後藤さん」
立ち去ろうとする後藤に、高橋が話しかける。
「何?」
「後藤さんの所のあさ美ちゃんなんですけど……」
(またか)
「あさ美ちゃんって、マイペースで少し要領が悪い所があるんです。だから……」
「ああ、わかった、わかった」
後藤は手を振っておざなりに答えた。恐縮しながら任務に戻る高橋を見て、
後藤は少し突っ慳貪な言い方だったかなと反省した。
「それにしても……」
(ホント、不思議な子だなぁ)
後藤はそう思いながら月を見上げた。紺野の顔のような、まん丸の月だった。

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