それを最後に敵の攻勢がやんだ。安倍は戦況に生じたこの奇妙な間を訝し
く思う。用心のため各部隊を所定の配置につけたとき、とんでもない情報が
安倍の元に飛び込んできた。
「師匠、大変や。新垣からの連絡で、駅前ロータリーに敵の増援部隊が集結
中やて。その数、およそ……ひゃ、一二〇!」
加護の報告を受けて安倍は指令台に陣取る新垣のもとに急いだ。新垣はパソ
コンを前に頬杖をついて眉間に皺を寄せていた。安倍がモニターを覗き込む
と、確かに駅前ロータリー周辺が真っ赤に光っている。
「これは間違いないデータだべか?」
「間違いありません。FLAME、W−indsをはじめ、関東一円の盗賊
が集ってしまったようです」
安倍は膝を屈して地面を見つめた。
「これまでだべ……」
砂を掴んで茫然自失する安倍に新垣が声を掛ける。
「魔法の時間ですか?」
安倍は以前新垣が言ったことを思い出し、指令台の上を仰ぎ見た。
「何か対策があるんだべか?」
「ええ、一応」
「なんでもいいべ。できることがあったら何でもやって欲しいべ」
「はい!」
指示を受けた新垣はものすごい勢いでキーボードを叩きはじめた。額にうっ
すらと汗が浮かぶ。ときどき舌打ちしたりガッツポーズをしたり、安倍には
さっぱり分からないが、やがて派手に勢いをつけてEnterキーを弾いた。
「完了しました!」
新垣は満面の笑みで言った。
吉澤は空に向かって鼻を鳴らした。
「クンクン。なぁ、なんか空気変わったんじゃない?」
問われた石川も吉澤に倣って空気を嗅ぐが、小首を傾げて答える。
「別に何も……」
正門前では加護が飯田の頭を指さして腹を抱える。
「ハハハ、飯田さん髪の毛立っとるやん」
「何だ、あいぼんだって……」
東広場では南の空を呆然と眺める紺野を後藤が見咎めた。
「紺野、何見てんの?」
「後藤さん……来ます!!」
「んぁ?」
後藤もつられて空を見上げる。
駅上空の雲が大慌てで逃げ出し、空に丸い大きな穴があいた。天空を貫い
て、巨大な光の槍が地に刺さる。数瞬遅れて轟音と突風が巻き起こる。
「な、なんだべ」
つむじ風に煽られながら安倍が尋ねる。駅方向の空が赤黒く染まり、一帯が
焦土と化したことを物語る。
「軌道レーザーです」
新垣はそう言ってノートパソコンを閉じた。
「もう衛星にアクセスできません。私の出番は終わりです」
新垣はパソコンを脇に抱えて、少し寂しげに微笑んでから自分の教室に戻っ
ていった。
「あ、ありがとう……」
安倍は言い忘れた礼を新垣の背中に投げかけた。多分、新垣には聞こえてい
なかった。
* * * * *