小説「七人の娘。」

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242カコイイ名無し
 保田の守りは堅かった。遠方から矢を射かけ、かいくぐって近づいた敵は
バリケードごしに槍で突いた。討ち洩らしは保田が自ら仕留めた。自軍に損
害を出さないのが保田の信条だった。その堂々たる指揮ぶりが逆に保田の死
期を早めた。敵は保田をリーダーと見るや、狙撃手に命じて狙い撃ちにした。
即死だった。保田が倒れた瞬間、柴田は射手を見つけて逆に射殺した。狙撃
手が倒れるまでに更に三本の矢が刺さった。
243カコイイ名無し:02/10/11 22:25 ID:cX0Ispv2
 敵は保田を討ち取った勢いに乗じて西門に迫った。丸太を引き出してバリ
ケードの破壊にかかる。高橋が飛び出し、手にした槍でまず一人突き、更に
縦横無尽に槍を振るって二人を手負いにした。
 敵の中から一人の男が進み出た。その目に宿るただならぬ殺気に高橋は恐
怖した。人を斬ることを楽しむタイプの男だった。高橋は槍を低く構え、慎
重に呼吸を整えた。額からつたう汗が地に落ちて小さな音を立てる。その刹
那、男は必殺の一撃を放つ。高橋は腰から真っ二つに斬られる所であったが、
バレエで培った驚異的な柔軟性で身体を逸らし、間一髪でこれをかわした。
砂塵渦巻く中、二人は再び対峙した。
244カコイイ名無し:02/10/11 22:27 ID:cX0Ispv2
 高橋は槍を旋回させると、穂先を下に向け、柄を背中に回して右手一本で
構えた。通常の戦法ではこの男には通じない。技量は圧倒的に相手が上だっ
た。ただ、敵をいたぶって楽しむ性癖がある。付け入るとすればその傲慢さ
だ。高橋は賭けに出た。穂先を低くして突進する。相手は不敵に笑うが、高
橋はその顔に向けてガマの油を投げつける。視界を失った男はハヤブサのよ
うなスピードで横に薙ぐ。手応えを感じ薄目を開けるが、そこに高橋の姿は
なく、ただ両断された槍があるばかりだ。気配を感じ天を仰いだ時はもう遅
かった。槍を使って棒高跳びの要領で天空高く舞い上がった高橋は、トンボ
を切って稲妻さながらに迫り、敵の眉間に短刀を突き入れた。男はある種の
喜びを感じながら息絶えた。
 手練れの男が倒れたことで盗賊の群は怖じ気づいた。高橋がゆっくりと立
ち上がり、血まみれの顔で笑うと、野盗どもは悲鳴をあげて逃げていった。
245カコイイ名無し:02/10/11 22:28 ID:cX0Ispv2
 安倍が到着したとき、保田の亡骸が戸板に乗せられ運び出されるところだ
った。
「圭ちゃん! 圭ちゃん!!」
安倍は息絶えた保田にすがって不覚にもすすり泣いた。自分の傍らで剣を取
るなら飯田がいるが、自分の代わりに剣を取るのは保田しかいないと思って
いた。その保田に先立たれ、安倍の心に暗雲が垂れ込めた。
 慚愧に耐えぬ吉澤は地に突っ伏して震えた。自分の愚かさが悲しかった。

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