保田の守りは堅かった。遠方から矢を射かけ、かいくぐって近づいた敵は
バリケードごしに槍で突いた。討ち洩らしは保田が自ら仕留めた。自軍に損
害を出さないのが保田の信条だった。その堂々たる指揮ぶりが逆に保田の死
期を早めた。敵は保田をリーダーと見るや、狙撃手に命じて狙い撃ちにした。
即死だった。保田が倒れた瞬間、柴田は射手を見つけて逆に射殺した。狙撃
手が倒れるまでに更に三本の矢が刺さった。
敵は保田を討ち取った勢いに乗じて西門に迫った。丸太を引き出してバリ
ケードの破壊にかかる。高橋が飛び出し、手にした槍でまず一人突き、更に
縦横無尽に槍を振るって二人を手負いにした。
敵の中から一人の男が進み出た。その目に宿るただならぬ殺気に高橋は恐
怖した。人を斬ることを楽しむタイプの男だった。高橋は槍を低く構え、慎
重に呼吸を整えた。額からつたう汗が地に落ちて小さな音を立てる。その刹
那、男は必殺の一撃を放つ。高橋は腰から真っ二つに斬られる所であったが、
バレエで培った驚異的な柔軟性で身体を逸らし、間一髪でこれをかわした。
砂塵渦巻く中、二人は再び対峙した。
高橋は槍を旋回させると、穂先を下に向け、柄を背中に回して右手一本で
構えた。通常の戦法ではこの男には通じない。技量は圧倒的に相手が上だっ
た。ただ、敵をいたぶって楽しむ性癖がある。付け入るとすればその傲慢さ
だ。高橋は賭けに出た。穂先を低くして突進する。相手は不敵に笑うが、高
橋はその顔に向けてガマの油を投げつける。視界を失った男はハヤブサのよ
うなスピードで横に薙ぐ。手応えを感じ薄目を開けるが、そこに高橋の姿は
なく、ただ両断された槍があるばかりだ。気配を感じ天を仰いだ時はもう遅
かった。槍を使って棒高跳びの要領で天空高く舞い上がった高橋は、トンボ
を切って稲妻さながらに迫り、敵の眉間に短刀を突き入れた。男はある種の
喜びを感じながら息絶えた。
手練れの男が倒れたことで盗賊の群は怖じ気づいた。高橋がゆっくりと立
ち上がり、血まみれの顔で笑うと、野盗どもは悲鳴をあげて逃げていった。
安倍が到着したとき、保田の亡骸が戸板に乗せられ運び出されるところだ
った。
「圭ちゃん! 圭ちゃん!!」
安倍は息絶えた保田にすがって不覚にもすすり泣いた。自分の傍らで剣を取
るなら飯田がいるが、自分の代わりに剣を取るのは保田しかいないと思って
いた。その保田に先立たれ、安倍の心に暗雲が垂れ込めた。
慚愧に耐えぬ吉澤は地に突っ伏して震えた。自分の愚かさが悲しかった。
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