小説「七人の娘。」

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235カコイイ名無し
 大通りに人の気配があり、正門を守る飯田と加護は腰の物に手をやって身
構えた。二人が固唾をのんで見守る中、先の路地から吉澤が通りに飛び出し
た。次いで二台のバイクが追ってきた。吉澤は振り向きざまにライフルを放
つ。弾は大きくそれたものの、バイクの乗り手が一瞬ひるんだ隙に吉澤は正
門から校庭へ転がり込んだ。騒ぎを聞きつけた安倍が吉澤に問いただす。吉
澤は得意顔でライフルを安倍に渡すが、安倍は手ひどく吉澤を叱りつける。
「おバカ! 抜け駆けの功名は手柄にならないべ。軍隊ってのはそう言うと
ころだよ!」
236カコイイ名無し:02/10/10 22:03 ID:FaDgZAOb
何より吉澤の身を案じて出た言葉だが、吉澤はむくれて口を利かない。遅れ
て来た後藤が吉澤の肩を叩いて励ました。
「どんまい、よし子」
だが、後藤と張り合おうとして無茶をやった吉澤である。当の後藤に励まさ
れてむしろ消沈してしまった。
(私ってば、何やってんだろ……)
 喧噪が聞こえ、一同に緊張が走る。
「裏門だべ!」
237カコイイ名無し:02/10/10 22:04 ID:FaDgZAOb
 裏門を固めるバリケードに火矢が打ち込まれた。賊は堀にワンボックスカ
ーを突っ込ませて橋の代わりにした。バイクの一隊がバリケードの燃え具合
を見ながら侵入の機会を窺う。石川が消火に駆け回るがバリケードは焼け落
ちる寸前だ。その時、ひときわ大きな炎が石川を包む。
238カコイイ名無し:02/10/10 22:05 ID:FaDgZAOb
「ババァ、何どきだぁ!! くたばれ腐れ外道!」
炎に包まれて石川の理性がトンだ。崩れかけるバリケードの上から堀に落ち
た車の屋根に飛び降りて、先頭の乗り手のヘルメットをツルハシで砕いた。
着地してふらつく勢いで、ハンマー投げのようにツルハシを振り回す石川の
前に更に二人が倒れる。敵は石川のガムシャラな攻撃に一歩退くが、その足
元がおぼつかない様を見て一斉に組みかかるよう身構える。
239カコイイ名無し:02/10/10 22:06 ID:FaDgZAOb
 真っ先に駆けつけたのは一番近くを守っている紺野だった。紺野は高台か
ら戦況を見ると、直接戦場に向かわずに堀の東端から裏門に近づいた。途中
何やら作業をすると、堀から這い出して戦場に目を凝らす。状況が切迫して
いることを知り、慌てて懐から小さなスイッチを取り出した。
「ポチッとな」
240カコイイ名無し:02/10/10 22:07 ID:FaDgZAOb
 石川に飛びかかろうとした盗賊の一団は小さな爆発音に顔を見あわせる。
音のした方向を見ると、逆巻く濁流が堀に沿って襲いかかって来るではない
か。紺野が仕掛けた発破がプールの壁を突き破り、堀に洪水を起こしたのだ。
激しい水流にワンボックスカーは横倒しになり、石川と盗賊の一団はまとめ
て水に投げ出された。波に飲まれそうな石川に、吉澤の長物の柄が差し出さ
れる。引っ張り上げられ、泥水を吐き出す石川の背中をさすりながら、吉澤
は何度も何度も詫びた。
「梨華ちゃん、ごめん、ごめんよ……」
石川は答えようと顔を上げるが、少し微笑んだだけで再び吐き気を催し這い
つくばった。安倍、加護も大事に至らなかったことに安堵する。その時、乾
いた音が二度響いた。
「圭ちゃんの守る方だ!」

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