小説「七人の娘。」

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220カコイイ名無し
 深夜になっても後藤は帰ってこなかった。加護は心配で、腕組みをして何
度も行ったり来たりした。安倍が座って体力を温存するように言っても、
一〇分も待たずに再び立ち上がってはウロウロしだす始末だ。空耳に驚いて
駆け寄り、小さな物音に喜んで周囲に声を掛ける。それは明け方まで続き、
ついに安倍が叱りつける。
「加護ちゃん、もう諦めるべ」
「師匠、確かに聞こえたんや。今度こそホントの足音や」
「いいかげんにするべ。次の戦いに備え……」
言いかけた安倍も朝霞の街路に耳を澄ました。
「確かに聞こえるべ」
221カコイイ名無し:02/10/07 22:10 ID:olct+YsE
白く煙る靄の中に黒い影が浮かび、程なくそれが人の像を結ぶ。
「ごっちん!」
駆け寄る加護にライフルを一丁押しつけて、後藤は安倍の前に立つ。
「二人斬った」
いささか憔悴した表情で報告すると、陣屋の奥に入って横になった。加護は
後藤の後をつけて行き、仮眠を取ろうとする後藤をじっと見つめる。
「何? 疲れているんだから用があるなら早く言って」
後藤に急かされて、加護は興奮で鼻を膨らめながら言う。
222カコイイ名無し:02/10/07 22:11 ID:olct+YsE
「ご、ごっちんは素晴らしい人や。ウ、ウチは前からそれだけ言いとうて……」
加護に真顔で言われて後藤は少し照れくさかった。
「分かったから、ちょっと休ませてよ」
と言って後藤が横を向いて寝ると、加護は恐縮して陣屋を後にした。
(加護ちゃんにはもっと別に見習って欲しい人がいるんだよ)
後藤は加護の自分に対する評価が過大であることに、かえって居心地の悪い
思いをした。

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