「次行くぞ!」
飯田の声に各部隊は急ぎ元の配置に戻る。
次の攻め手は勢いに任せ、二台続けて入ってしまう。突っ込んでくる三台
目を後藤が斬り伏せ後続を断ち切る。後藤は入っていった二台を振り返り慄
然とする。一台はまっすぐ校庭を横切っていくが、もう一台は東へ大きく迂
回していった。紺野が守る方面だ。
「悪い、ここを頼む」
後藤は誰にともなく言い放ち、持ち場を離れて一目散に駆けだした。
いくら後藤の脚力が人並み外れていると言ってもバイクに追いつくはずが
ない。後藤は手近な車の屋根に飛び乗ると、侵入したバイクの行方を追った。
案の定バイクは紺野の部隊の正面に出た。紺野は部隊を横一線に展開したま
ま何もできずにいる。部隊の誰も、武器さえ構えていない。
「何やってんだ、あいつ!」
後藤は車の屋根から屋根へ飛び移り、なんとかバイクを食い止めようと現場
へ急ぐ。その間にもバイクの男は凶刃を閃かせて紺野の部隊へ突進する。
「南無三!」
後藤は歯を軋ませ、予想される惨劇を覚悟した。
“ちゅど〜〜〜ん!”
大音響と爆風で後藤は車から転がり落ちる。慌てて這い上がって見渡すと、
バイクが通りかかった付近には黒く大きな穴が空いている。
「紺野!」
後藤が広場を横切って駆け寄ると、ススで顔を真っ黒に染めた紺野が白い歯
を覗かせて笑う。
「磁気地雷を作ってみたのですが……火薬が多すぎたようです」
言う内に紺野の口から一筋の白煙が上がった。
続く第三陣は、侵入しざまに高橋の槍で全身六カ所を突かれ、校庭の半ば
まで辿り着く前に息絶えていた。退却する敵の背後に小川が食らいつき引き
ずり落とす。勢いづいた正門部隊は追撃するが、銃声を聞いて慌て退く。
応じて返す敵の出鼻に飯田の合図でココナッツ・ボンバーが炸裂する。も
んどり打って転倒する数台のバイク目がけてメロン弓箭隊が矢の雨を降らせ
る。予想を上回る学園側の戦力に、盗賊どもは撤退を余儀なくされる。
* * * * *
その夜、正門から延びる街路の向こうを眺めながら保田が呟く。
「もう、この手には引っかかってくれないわね。静かなもんよ」
「だけど、敵はこの闇に息を潜めてるはずだべ。いま証拠を見せるべ。加護
ちゃん、家庭科室からマネキンを持ってきて」
安倍に言われて加護は駆けだす。ようやく家庭科室を見つけマネキンを担ぎ
出すと、教室の前に辻がいた。
「どうしたんや、のの。自分の教室におらなアカンやないか」
加護が声を掛けるが辻は何も言わなかった。だが、その眼差しは戦いに赴く
加護の身を案じて震えていた。行くなと口に出してはダメだと辻も知ってい
る。口をギュッと結んで耐えていた。いつになく強い意志を発する辻の面持
ちに加護はたじろいだ。加護は辻の視線から目を逸らし、逃げるようにその
場を後にした。
「あいぼ……」
辻は思わず口に出しかけてやめた。ここで声を掛けたら加護を困らせてしま
う。辻は見えなくなるまで加護の背中を見送った。加護は一度も振り返らな
かった。
加護は校舎から出るとき、またも後藤と鉢合わせになった。後藤は何も言
わず、ただ深い理解を湛えた瞳で加護を見つめた。半ベソをかいているとこ
ろを見られたが、加護は恥ずかしいとも思わなかった。
安倍は加護の持ってきたマネキンに服を着せ、校門の脇からそっと捧げ出
すよう指示した。待つこと二秒半、二度の銃声と共に加護の手に強い衝撃が
走る。加護が持つマネキンは狙い撃ちされ、胸と頭に大きな穴が空いていた。
加護はライフルの威力を実感して震えた。
「かなり腕のいいスナイパーね」
「やっかいなライフルだべ」
安倍と保田が額を寄せ合うと、横合いから石川が進み出る。
「私が取ってきます。絶対、絶対、取ってきます」
決然とした面持ちではあったが、その身体は傍目にも分かるほどに震えてい
た。
「あんた死ぬ気だ。私が行く」
誰の返事も待たずに後藤が暗闇に飛び出した。その背にも死の覚悟があるこ
とを誰もが認めた。
* * * * *