翌日の午前中は何の動きもなかった。学生達は損害箇所を補修し、いつ敵
が来てもいいように準備を整えた。
「吉澤さん。これ、どうですか?」
高橋は金モールや金ピカのバッジで派手に飾った赤いコートを得意げに吉澤
に示した。
(ゲゲッ! 何、これ?)
吉澤は仮装行列でもお目にかかれないような奇妙な衣装にたじろいだ。そん
な吉澤に気付かず高橋は嬉々として話し続ける
「宝塚って知ってます? 私、大ファンなんですよ。で、これ自分で作って
みたんです。オスカル様の軍服。自分でも良くできてると思うんですよ。そ
う思いません?」
そう言って高橋はチンドン屋まがいの赤服を身体の前に当ててポーズを取っ
て見せた。
「う……うん、良くできてると思うよ。カ、カッケー……かな?」
「でしょ、でしょ! 気に入ってくれて良かったぁ〜。私、吉澤さんがこれ
を着て戦っている姿を想像しただけでワクワクしちゃいます」
「!」
「吉澤さん、カッコいいじゃないですか。絶対似合いますよ」
高橋が吉澤の身体にオスカル服を重ねようとしたので、吉澤は思わず大げさ
に飛び退ってしまった。
「お気に召しませんでしたか?」
高橋は驚きと悲しみの入り交じった顔で吉澤を見つめた。吉澤は使い慣れな
い頭を最大出力でフル回転させなくてはならなかった。
「い、いや、そうじゃないよ。何て言うか……そう、戦うときは着慣れた服
装でないと感覚が鈍るって言うか、調子が狂うって言うか……」
「そうなんですか……」
身も世もないほど落胆した高橋の表情に、吉澤は逃げ道が次々と断たれてい
くのを感じた。その時、奇跡の救世主が現れた。
「高橋、あんた朝ご飯食べなきゃダメじゃない!」
「は、はい」
「あれ? 何よ、それ」
高橋の健康状態を気にして声をかけた保田が、オスカル・ルックに目を付け
て駆け寄ってきた。
「わっスゴイじゃない、この服。カッコいいわぁ〜。私も着てみた〜い」
保田は目を輝かせている。
「ちょうど良かったよ、圭ちゃんがこの服……」
「この服、演劇部の衣装なんです! なんでこんな所に置きっぱなしにする
かなぁ」
高橋は吉澤の言葉をかき消すような大声で言うと、愛するオスカル様の衣装
を急いで丸めて持ち去ってしまった。保田は小走りで逃げる高橋の背中に向
かって怒鳴った。
「何よ! 見せてくれたってイイじゃないのよ!」
* * * * *