小説「七人の娘。」

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147カコイイ名無し
 学園の裏に共同墓地がある。先の襲撃で失われた生徒達がその地下に永眠
している。そこに新しい土饅頭ができた。
「あ、ああ、ああぁぁぁぁ……」
石川は矢口の墓を掻き抱いて嗚咽を漏らした。涙に濡れた顔は泥まみれにな
った。
148カコイイ名無し:02/09/26 22:36 ID:omk1RXc1
 学園中の誰もが泣いていた。しかし、安倍達には悲しむ心もあればこそ、
泣くゆとりなどなかった。
「ピンチのときに役立つって圭ちゃん言ってたよね」
安倍は傍らで俯く保田に言った。安倍にしても保田にしても、数々の戦場で
多くの戦友を失ってきた。しかし、だからと言って永遠の離別に慣れること
は決してなかった。ただ、実務に没頭することで悲しみを力に変える技術を
学んでいるだけだ。
「新垣の報告によると敵は近郷の仲間に檄を飛ばしているそうよ。万一呼応
する軍があれば二、三日の内に戦力を増強する公算が大きいわ」
「これからがピンチだべ」
149カコイイ名無し:02/09/26 22:38 ID:omk1RXc1
 一方、にわかに悲しみを乗り越えられない不器用な者もいた。吉澤は地に
伏す石川を蹴飛ばして、泣くな泣くなと怒鳴りつけた。石川の泣き顔を見て
いると、自分も涙がこみ上げてくるのだ。ついに感極まった吉澤は駆けだし
て、校舎の中に走り込んでいった。後藤などは彼女の不器用さが羨ましくさ
えあった。
150カコイイ名無し:02/09/26 22:38 ID:omk1RXc1
「おーい、見ろー!」
吉澤は矢口の作ったノボリ旗を背負って、矢口が作った物見やぐらに駆け上
った。やぐらの屋根に這い上がり、旗竿を突き刺した。
「見ろー!!」
吉澤の叫びは石川に向けられたものか、悲しむ自分に向けられたのか、それ
とも天に届けと叫ばれたものなのか。旗は風をいっぱいにはらみ、在りし日
の矢口を思わせる元気さではためいた。ひるがえるノボリを誰もが真摯な思
いで見上げた。

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