「一人捕まえるのは二人斬るのと同じくらい価値があるべ。ごっちんもよっ
すぃーもよくやってくれたよ。加護ちゃんもよくあんな道知ってたね。感心
したべ」
安倍に誉められ吉澤などは単純に喜んでいるが、加護の方は自分の不甲斐な
さに気落ちした。また、後藤の口から辻のことが漏れないか気がかりでもあ
ったが、何故か後藤はその件について言及しなかった。
「キャハハ、捕まえたヤツが口を割ったよ〜。アジトが埠頭にあるってさ〜」
「斥候が戻らないとなれば、敵さんもこっちが準備しているって気付くでし
ょうね」
「よーよー、こっちが先手を打てばいいんじゃんか」
「危険すぎるよ。カオリは反対」
「アジトを攻め切れれば御の字、忍び込んで情報を得られるだけでも価値が
あるべ」
「道案内を石川に頼んで、オイラが行くよ」
急に名を出された石川が仰天する。
「え、石川が行くんですか? 無理無理、無理です。埠頭の辺りは特に危険
なんですよ」
「まあ、石川さんは生徒会副会長といってもお飾りのようなモノですからね」
「何ですって〜!」
「新垣! またお前、どこから入ってきたんだよ〜」
矢口がまた新垣を掴まえて追い出しにかかる。
「待って。どこにでも当たり前のような顔で入りこむのは一種の才能だべさ。
偵察任務は新垣に頼むべ」
「ちょっと、オイラこいつと一緒に行くの?」
「私も行きます! 私だってちゃんと役に立つんだから」
石川が手を挙げた。
「私も行く」
「ウチも」
後藤が、次いで加護が前に出る。
「待つべ。加護ちゃんは残れ」
「そんな……」
「ヒュー、残念だったな。じゃ、私で決まりだ」
安倍に止められた加護は意気早る吉澤を恨めしそうに見上げた。
「大変やよ〜。捕虜が、捕虜が!」
高橋が血相を変えて飛び込んできた。一同は捕虜が収監されている教室に急
いだ。教室前には生徒達が群をなしている。捕虜の警護を任じられた生徒会
の役員が必死で制止するが、多勢に無勢であった。
「待て待て! いったいどうしたって言うんだ」
吉澤が人垣を掻き分けて前に出る。
「私たちはこいつらにひどい目にあっているんだ」
「やられた分をやりかえして何が悪い」
生徒達は口々に憤りを撒き散らした。
「みんな、抑えるべ。この人とは正直に話したら許してやるって約束したん
だ。だから、許してあげなきゃならないんだよ」
安倍がなだめに出るが生徒達は治まらない。安倍達と生徒達が揉み合う中、
生徒達の中から一人の年老いた女子高生が出てきた。
「中澤のオババ」
生徒達の中から声が漏れる。オババは野盗に苦しめられ続け、心身共に絞り
尽くされた女学生の成れの果てである。彼女は震える手に小さなナイフを持
って、捕虜のいる教室にヨタヨタと入っていった。やせ衰えた彼女の目に宿
る暗い炎を覗き込み、安倍ですら彼女を止めることはできなかった。
* * * * *
裕ちゃん……。
何故だろう・・・シリアスなシーンと分かっているのに、制服を着た中澤と想像
するだけで、笑いそうになってしまうのは・・・
+++++
>>130 >>131 言いたいことは分かります。でも…
他にいなかったんですよ〜。( `.∀´)に2役ってのは無茶だしさ〜
+++++
その晩、吉澤が運転する自動車が、矢口、後藤、石川、新垣を乗せて出発
した。
「よっすぃーの運転なんて大丈夫かよ〜」
矢口の心配をよそに、吉澤の運転は非常に安定しており、目的の埠頭まで何
の問題もなく到着できた。
「私、ちょっと出かけてきますね。もし騒動が起こるようなら抜け出します
から、私のこと気にしないで攻めて下さい。帰りは自分で帰ります」
「おい、ちょっと……」
新垣は矢口の制止も聞かずに闇の中に消えていった。
「まったく、掴み所のないヤツだなあ」
「ま、本人がああ言ってるんだから気にせず攻めよっか」
「おー、ごっちん、完全に攻める気でいるね。カッケー」
「ここで一人でも討てば後々楽になる」
「キャハハ、この三人が揃って攻めない訳ないじゃん」
「私は……?」
「梨華ちゃんはここにいてよ。万一こっちに敵が逃げてきたときのために私
の脇差し預けておくよ」
「よっすぃー……」
「それじゃあ円陣を組もう」
矢口を中心に四人が集まる。
「頑張っていきま〜っ」『しょい!』
声を合わせ、心が合わさる。決意の眼差しが交叉して信頼の絆で結ばれる。
三人は見張りの立つ倉庫を迂回して裏に回り込む。吉澤が脇に下げたズタ
袋から何やら取り出して並べる。
「火炎瓶じゃないか。どうしたんだ?」
「ヘッヘ。ごっちん所の紺野って言ったっけ? あいつが出がけに渡してく
れたんだよ」
「紺野が?」
「あいつの真似だけはできないよ。リーダーになったその日から毎晩遅くま
で兵法書とか戦史とか、図書館にある分厚い本を片っ端から読んでる。あい
つはスゴイよ。ごっちんは見る眼があるね」
「そ、そう?」
後藤は曖昧に答えながら、紺野の努力から目を逸らしていた自分を恥じた。
吉澤が倉庫の壁の高い位置にある明かり取りから正確に火炎瓶を投げ入れ
る。それを合図に矢口と後藤が入口に迫り、寝ぼけ眼の見張りを倒す。後藤
が倉庫の扉をこじ開け、矢口が火炎瓶を続けざまに投げ入れる。倉庫の中で
混乱の声が上がる。押っ取り刀で飛び出す野盗どもを、後藤の剣と矢口のツ
ルハシが叩き伏せる。そこに吉澤も加わり、辺りは酸鼻極まる血戦の巷とな
った。
車に残った石川が見守る中、倉庫に火の手が上がった。夜空を舐めるチロ
チロとした赤い舌を見るうちに、石川の鼓動が早まっていく。やがて、炎を
背にした人影が現れる。
「矢口さん? 後藤さん? よっすぃー?」
だが、それは、難を逃れた賊の一人だった。凶悪なその目が炎を受けて赤い
光を放つ。
「キャーッ!!」
石川は吉澤から預かった脇差しを構え、悲鳴と共に突きかかる。はたして切
っ先は賊の腹を破り、炎と同じ赤い血が石川を染める。