加護が敵の尖兵の到来を告げると学園中に緊張が走った。詰め所にいた安
倍と保田は対策に追われる。
「おそらく敵の偵察部隊だべ。にわかに攻め入ってくるはずはないから、普
段通りにすれば大丈夫だべさ」
「敵を油断させるため、私たちの存在は隠した方がいいわね」
「西門方向に敵影やよ〜」
「早いべ。各員警戒配置、訓練通りやりまっしょ」
伝令が飛び、当直兵がそれぞれの部署で息を潜める。
はたして、西門にヘッドライトが三つ灯り、三台のバイクに乗る三人の男
が姿を見せた。男達はバリケードの張られた西門を不審そうに眺めて、何や
ら囁きあっている。
「ヒョー、お前ら、ようやっとおいでなすったな。だけど私達がいるからに
は好きにはさせないってんだ! 何人でもまとめて来やがれ」
「あのバカ!」
後先考えず敵を挑発する吉澤を、保田が捕まえて物影に引っ張り込む。
「何しやがんでい」
「私たちの存在が敵に知られちゃうじゃないの!」
「もう遅いみたいね」
遅れて到着した後藤の指摘通り、偵察に来た三人は慌ててバイクに飛び乗り
走り去って行った。
「ウチ、あいつらが通る道へ先回りする方法知っとるで」
「案内して」
「おぅ、私も連れてってくれよ」
加護は後藤と吉澤を連れ、曲がりくねった裏路地を通って河川敷に急いだ。
土手の草むらに伏せてバイクの通過を待つ。その時、吉澤は柄にもなく殊勝
なことを口にした。
「ごめんよ。私、調子に乗っちゃって」
「ここで敵を倒して失敗した分を取り返すことだね」
冷静に返す後藤は、幾分口調を和らげて続けた。
「それに私、キライじゃないよ。よし子のそう言うバカなとこ」
「え? そう? いや〜まいったな〜。誉められているのかな〜」
(アホや、こいつ)
照れる吉澤を冷たい目で見ながら加護は思った。
先ず音が聞こえ、次いで灯りが三つ見えた。
「私とよっすぃーで行く。加護はここに残って万一取り逃がしたら捕まえて」
言うが早いか後藤は飛び出し、吉澤も遅れず後を追う。
ヘッドライトの先に人影が立ちふさがる。男達の乗る三台のバイクは一旦
停止して様子を窺うが、人影の正体を知るやアクセルを吹かして猛然と迫っ
てきた。
「よし子は右を!」
後藤は左と中央のバイクの間に立ち、すれ違いざまに抜刀二閃する。吉澤は
右の一台に飛びかかり、運転者ごと土手の下に転がり落ちた。後藤の脇を抜
けた内の一台は吉澤と逆の土手の糊面を下りながら三回転して炎上した。そ
して最後の一台が加護に迫る。加護は震える手で抜き身を突き出すが、恐怖
で思わず目を閉じてしまう。ままよ!
その時、バイクは横倒しになり、火花を散らして回転しながら加護の脇を
通り過ぎていった。後藤に肩を叩かれ、ようやく我に返る加護。強ばった指
を一本一本剣の柄から剥いでもらわなくてはならなかった。
一方、土手の下の吉澤は未だに賊の頭を張っていた。こちらも後藤に止め
られるまで治まらなかった。
* * * * *