小説「七人の娘。」

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108カコイイ名無し
 誰に言われたわけでもなく、加護は朝夕哨戒に出かけるのが日課となった。
他の場所を早足で回って来ると、いつもの河川敷に急いだ。加護の予想通り、
今日もまた辻が花に水をまいていた。
「まったく、言っても聞かへんからなぁ」
加護は苦笑いしながら土手を下って行った。それに気付いた辻は手を振って
呼んだ。
「あいぼ〜ん」
「のの、また勝手に外出したんやな。危ないやんか」
「大丈夫れす。あいぼんが側にいてくれるのれす」
109カコイイ名無し:02/09/21 22:47 ID:1FwQVM/e
辻の無邪気な笑顔に加護の心は痛んだ。ここ数日で二人の仲は急速に深まっ
ていたが、学生とあまり親しくなるのは好ましくない。それは加護にも分か
っている。それでも他の誰よりも学生に近い年齢の加護にとって、同じ年代
の友人を持つ誘惑は何とも耐えがたかった。加護の心でせめぎ合う二つの感
情が複雑な渦を成して、彼女を苦悩の中に引きずり込んでいく。
「どうしたんれすか? 元気ないのれす」
加護の葛藤を知ってか知らずか、辻は加護の顔を覗き込んで静かに微笑む。
昨今味わった試しのない温もりに触れ、加護は我知らず辻の肩をひしと抱き
しめる。少しびっくりした辻だが、加護の身体にそっと手を回して支える。
「あいぼんは甘えんぼさんなのれす」
110カコイイ名無し:02/09/21 22:49 ID:1FwQVM/e
互いの心臓が共鳴して次第に激しいリズムを刻み始める。加護の身体が一瞬
震え、そのまま辻を草むらに押し倒す。何が起こったのか分からない辻は仰
天して激しくもがく。
「シッ! 静かにするんや」
「なんれすか、どうしたのれすか」
加護は黙ったまま辻の頭を低く押さえつける。その時、どこからか低い轟き
が辻の耳にも届き、次第に大きくなるのが分かった。
 堤防道路を三台のバイクが通り過ぎる。件の盗賊集団に間違いない。
「もう来おったか……」
「あいぼん、怖いのれす」
111カコイイ名無し:02/09/21 22:50 ID:1FwQVM/e
辻に指摘され、自分が厳めしい顔をしていたことに気付いた加護は、できる
限り優しい顔を取り繕って言った。
「のの、しばらくここに隠れてから川沿いに帰るんや。ウチはもう行くわ」
「あいぼん……」
「心配あれへん。それからな、しばらく水まきはウチがやるわ」
「ののも来るのれす」
「ダメや。大丈夫、ののの花畑をウチが枯らす訳ないやろ」
「ののとあいぼんの花畑なのれす」
「そやったな……じゃあ、ウチ行くわ」
112カコイイ名無し:02/09/21 22:50 ID:1FwQVM/e
加護は低い姿勢で走り出した。途中何度も何度も辻を振り返る。そのたびに、
辻は捨てられた子犬のような視線を加護に投げかけてくる。引き返したい衝
動を振り切り、加護は学園めがけてひた走った。最初の角を曲がったとき、
誰かにぶつかりそうになって息を飲む。
「ごっちん!」
後藤の仏頂面を見上げ、加護は体面を失った。
「見てたんか、みんな」
後藤は無表情で何も言わなかったが、答えは加護にも分かっていた。加護は
逃げるようにその場を後にした。

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