裏門の橋を落とし、校庭に障害物を配置して、さらに西門にバリケードを
作る作業は矢口の受け持ちだった。
「ツルハシ流の奥義を見よ!」
矢口が小さな身体に見あわぬ大ツルハシを振るって鉄筋コンクリートを砕く
と、別の三つの声が唱和する。
「私たちだって負けません」
矢口に手を貸す園芸部員、戸田鈴音、木村麻美、里田舞の三人は、矢口に負
けず劣らずの働き者であった。矢口が堀を広くすれば、戸田が堀の底にサッ
カーゴールのネットを張る。木村がバリケードを土嚢で固めれば、里田が一
部を崩れやすく作ってその下に逆杭を穿つ。これに吉澤が加わり、弓弦を引
き、武器を研ぎ、落とし穴、物見やぐら、果ては投石機まで作り始める。吉
澤は負けず嫌いでガムシャラに働くが、とうてい園芸部にはかなわない。
「みんな〜、麦茶ができたよ〜」
石川のかん高い声に五つの顔が振り返る。汗まみれ、泥まみれの五人は争う
ように紙コップを口に運ぶ。
「いや〜、あんたたち、ホントによく働くね〜」
「そうでしょ? 我が学園の誇る園芸部『カントリー』の三人には、これま
でも学校中の営繕全般を請け負っていただいていたのです」
石川は自分が誉められでもしたかのように得意顔であった。
「見てよ、このノボリ旗。オイラとカントリーが作ったんだよ」
「カッケー! でも何が書いてあるんだ?」
「あ、この『文』ってのは学校ですね?」
「正解。で、この六つの○がオイラ達」
「チョット待てよ。一つ足りないじゃないかよぅ」
「キャハハハハ、この△がよっすぃーだよ〜」
「なにっ?」
吉澤はむくれて横を向いた。
「でも矢口さん、せっかく綺麗に作ったのに、こんな所に墨を垂らしちゃい
ましたね」
「あ、その黒いのは石川だよ、キャハハ〜」
「ひっど〜い」
矢口とカントリーの三人は声を立てて笑った。吉澤もつられて笑った。
「ところで石川は今、何やってるの?」
「え? 石川は……生徒会副会長として、全体的な統括というか、まとめ役
というか」
「ヒョー、だってスケジュールとか編成は圭ちゃんがやっちゃったんじゃん。
梨華ちゃん仕事ないんじゃないの?」
「そんな〜。だって現にこうして皆さんに麦茶を入れたり……」
石川を見る矢口の目が三白眼になった。
「了解、分かった。じゃあ石川は施設の管理をやってよ」
「は、はい。でも、いったい何を……?」
「詳しくは園芸部の三人に聞いて。四人揃って管理課だよ。じゃあ、これ」
矢口は大きなツルハシを石川に手渡した。石川は予想外の重さによろけてし
まう。
「じゃあ、あとは石川に任せたよ〜」
ニコやかに走り去る矢口と吉澤。石川の周りには逞しい園芸部の三人が集ま
ってくる。
「そんな〜。私、こんな重い物持てませんよ〜」
* * * * *