小説「七人の娘。」

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1カコイイ名無し
【 は じ め に 】
 黒澤明の名作「七人の侍」のパロディ小説です。小説というよりも、登場
人物を娘。に、舞台を現代風に置き換えただけで、映画の文字起こしと言っ
ても良いかもしれません。オリジナリティは低いです。
 どんなに頑張っても映画には遠く及びませんので、作品を汚すことにもな
るでしょうがご容赦ください。
 ストーリーは殆ど原作通りなので、ネタバレの書き込みはなさらないよう
ご協力ください。また、先読みもご遠慮ください。
 舞台は現代風ですが、かなり現実と異なる部分もあり、一種のファンタジー
かもしれません。現実的にありえないこと、不可解なことも多いと思いますが、
それはそれでご愛嬌と言う事で勘弁してください。
 はじめての小説なので至らない点も多々あると思いますが、お許し下さい。
 sage進行でお願いします。
2カコイイ名無し:02/09/07 06:18 ID:19rcO2Oe
 淀んでいた人の流れがにわかに指向性を帯び、決壊する堤の様にも似て街
の一角を目指して流れ込んでいく。その人の波を掻き分けて前に出た石川梨
華は、街中で修道女の衣装に着替える女性を不思議な思いで見つめた。傍ら
の男に事情を尋ねると、どうやらアパートの一室に暴漢が立てこもり、子ど
もを人質に取っているようだ。これを知った一人の女性が通りすがりの修道
女に声をかけ、その装束を拝借しているらしい。だが、その意図するところ
は男にも分からないと言う。
 ならばと言うことで、石川はしばしその場に留まり、事の成り行きを見守
ることにした。
3大江:02/09/07 06:18 ID:ePtqqorH
カコイイ名無しさんがんがって
4カコイイ名無し:02/09/07 06:20 ID:19rcO2Oe
 人質になった子どもの母親が泣き叫び、近所衆が四人がかりで取り押さえ
る。野次馬が次から次にわき出て、口々に勝手な意見を並び立てる。そうこ
うする内に、修道女の装束に着替えた女性のもとに子どもが駆け寄り、頼ま
れていたのであろうコンビニのおにぎりを二つ差しだした。女性は使いを果
たした子どもの頭を撫でると、男が立てこもるアパートを振り仰いだ。意を
決した面持ちで戸口に近寄ると、その容貌から想像されるとおりの優しい声
で話しかけた。
5カコイイ名無し:02/09/07 06:20 ID:19rcO2Oe
「お〜い、お前さん。ちょっといいべか?」
石川の位置からではアパートの中の様子は窺えないが、声をかけられた男は
狼狽した様子で、何やら訳の分からぬ事を口走る。女性はそれを懸命になだ
め続けた。
「心配すんな。私はシスターのなっちだよ。お前さんを捕まえる気なんかな
いよ。でも、お前さんも、一緒にいる子どもも、どっちもお腹が減ったべ。
さあ、おにぎり持ってきたから二人して食べなよ」
6カコイイ名無し:02/09/07 06:22 ID:19rcO2Oe
なっちと名乗った女性は、しばらく手に持ったおにぎりをかざし、やがて戸
口の中に放り投げた。女性はしばらく部屋の中の様子を微笑みながら眺めて
いたが、石川が瞬きをした瞬間にその表情が一変した。菩薩の笑みが夜叉に
化け、その外見からは想像できない素早さで室内に飛び込んだ。アパートか
らは揉み合うような音が聞こえ、母親の絶叫が天を刺す。一拍後、アパート
の中から薄汚れた男がよろけながら出てきた。その手には血の滴る抜き身が
握られている。母親が再び叫ぶ。男は千鳥足で歩み出る。どよめきと共に人
垣が割れると、その隙間に男がどうと倒れる。見ると男は背中に深手を負っ
ており、すでに虫の息だ。近所の若い衆が取り囲んで男を仕留める。
7カコイイ名無し:02/09/07 06:24 ID:19rcO2Oe
 石川がアパートに目を移すと、戸口から修道女姿の女性が出て、小脇に抱
えた子どもを母親に返すところだった。周囲の騒ぎを余所に、女性は衣装を
脱いで元の持ち主に返し、名も告げずに飄然と立ち去る。石川は急いで後を
追うが、さりとて声をかけるだけの勇気はない。
8カコイイ名無し:02/09/07 06:27 ID:19rcO2Oe
 町外れに差し掛かり、いよいよ石川がなけなしの勇気を振り絞って踏み出
したとき、背後から一陣の風が石川を抜き去り、女性の傍らに寄り添う少女
の影を成した。先ほどの事件現場で見た顔だ。
「ちょっと待って〜な。ウチは亜依、加護亜依や。あなたはメッチャ腕の立
つ人やと見たで。ぜひ、お名前を聞かせて欲しいんやけど」
「ん? 私はなっ……いや、安倍なつみって者だけど」
それを聞いた加護は素早く地に伏して言を継いだ。
「お願いや、安倍さん。ウチを弟子にして欲しいんや。この通り」
安倍は呆れた様子でこめかみを掻いた。
9カコイイ名無し:02/09/07 06:29 ID:19rcO2Oe
「ちょっとぉ、困るべさ。なっちは弟子なんかとる身分ではないんだよ。さ
あ、頭をあげて。人が見てるよ」
「いや、引かんで。弟子にしてくれるまで、この頭、すり切れるとも上げん
つもりや」
「んっもう。だったら勝手にすればいいさ」
加護が地面に頭を付けたまま上目遣いに見ると、すでに安倍はスタスタと歩
みを進めていた。
10カコイイ名無し:02/09/07 06:30 ID:19rcO2Oe
「ちょっ……」
加護が声をかけようとすると、今度は別の人物が駆け寄って安倍に声をかけ
る。長物をこれ見よがしに肩に掛けたその姿も、先の事件現場で見かけたも
のだ。その人物は安倍の周りを何度も回り、矯めつ眇めつ眺めてから口を開
いた。
11カコイイ名無し:02/09/07 06:33 ID:19rcO2Oe
「よーよー、あんた。さっきは見させてもらったよ。カッケー、ほんとカッ
ケーよ、あんた。ハッハ!」
「なんだべ?」
「ヒョー! 『なんだべ』とはご挨拶。そちらこそ『なんだべ』だ!」
「変な人だねぇ。浪人かい?」
「浪人か!? 浪人かだと? ハッ! おととい来やがれってか」
妙な人物は何が不満か、腹を立てて駆けて行った。その背中に向けて追い払
うように手を振る加護は、すでに安倍の弟子を気取っている。
「どうやら今日は厄日だべ」
そう呟いた安倍の後ろから、さらに新たな声がかかる。
「あの……すみません」
今まで声をかけるタイミングを逸していた石川が、泣きそうな顔でそこにい
た。

*   *   *   *   *
12カコイイ名無し:02/09/07 06:36 ID:19rcO2Oe
 石川に招かれるままに、近くのホテルの一室に通された安倍は、勧められ
たソファーに腰掛けて石川の話を待った。隣では、何度追い払ってもついて
きてしまう加護が、さも当然そうにジュースを啜っている。
「で、話ってのはなんだべ」
「ああ、よくぞ聞いてくれました。それが安倍さん、大変なんです。石川の
通っている私立ハロモニ学園は、それはそれは静かでのんびりとした学校だ
ったんです。悪い生徒なんて一人もいない、とても品行方正な学舎だったん
です」
すでに自分の世界に入っている石川を見て、安倍は長話を聞かされる覚悟を
決めた。石川は続ける。
13カコイイ名無し:02/09/07 06:37 ID:19rcO2Oe
「ところがある日、ガラの悪い盗賊どもが学園に押し寄せてきたんです。そ
の数およそ四〇人。オートバイで校庭に乗り込んできたりして、大声で騒ぎ
立てるんです。私たち、もう何が何だか分からなくって。その時、生徒会長
の福田さんが飛び出して行って、その連中を注意したの。福田さんはとても
正義感が強くて、勇敢な人だったわ。でも、そうしたら……そうしたら……」
石川は辛い過去を思い出し、顔を両手に埋めてむせび泣いた。安倍は石川を
泣くに任せ、思案げに眉根を寄せてしばし待った。加護もどうして良いか分
からずに、安倍の有様に従った。やがて、ようやく人心地ついたのか、石川
はしゃくり上げながら取り出したハンカチで涙を拭った。その仕草も少し芝
居がかっていた。
14カコイイ名無し:02/09/07 06:38 ID:19rcO2Oe
「で、なっちにどうしてほしいんだべ?」
安倍に問いかけられ、石川の弁舌に拍車がかかった。
「生徒会長亡き今、私たちは外部の人の力を借りて学園を守るべきだと石川
は主張したのです。こう見えても石川は生徒会副会長なのです。で、その意
見には強く反対する人達もいたんです。だって、素性の分からない外部の人
を招き入れて、その人が学園を襲うガラの悪い連中より安全だって保証もな
いじゃないですか。石川だけではみんなを納得させることができなくって、
で中澤のオババに指示を仰いだのです。中澤オババはいちばん年寄りの女子
高生で、何でも知っているんです。その中澤オババが『やるべし』って言っ
て、言い出しっぺの石川が頼りになりそうな人を捜しに街に出てきたのです。
 そうは言っても石川にもアテはなく、誰が頼りになる人か、誰が心篤い方
かなど見定める眼もありません。そうして何日も街を彷徨っていたところ、
夢にまで見たあなたに出会えたのです」
さあ、石川もいよいよ絶好調だ。
15カコイイ名無し:02/09/07 06:42 ID:19rcO2Oe
「神聖な乙女の園が、薄汚く脂ぎった毒牙に冒されようとしています。あな
たこそ心ある御仁、可憐な野バラをウジ虫どもから守る正義のナイト様とお
見受けいたしました。ぜひ、ぜひ、私たちに力を貸して、ハロモニ学園を救
ってください」
石川は自分の長口上に完全に酔いしれ、右手を天にかざし、右足を椅子に乗
せて余韻に浸った。
16カコイイ名無し:02/09/07 06:45 ID:19rcO2Oe
「悪いけど断るべ」
「へ?」
感動の大演説に水を差す回答を得て、石川は頓狂な声を上げた。それをなだ
めるように安倍が続ける。
「なっちも悪いヤツは嫌いだよ。でも、なっちはこれまで負け戦ばかり。そ
れに四〇人相手になっち一人じゃどうにもならないべさ。五人、いや七人は
必要だべ。見知らぬ学生を助けるために命を危険に晒す酔狂な人が、あと六
人も集まるとは思えないべ」
剣もほろろな安倍の口振りに石川は肩を落とした。その時、ストローで氷を
弄んでいた加護が口を挟む。
17カコイイ名無し:02/09/07 06:47 ID:19rcO2Oe
「けど、あと五人なら集まりそうなんやろ?」
その瞬間の石川の喜ぶ顔を見て、安倍は断るに断り切れなくなってしまった。
「まったく、とんでもない弟子を持ったもんだべ」
「ん? 今、弟子や言うた? ってことはウチの弟子入り決定ってことや
ね!」
安倍は慌てて口を押さえ、石川と加護は手を取りあって小躍りしながら喜ん
だ。
(だけど、これは大仕事だべ)

*   *   *   *   *
18カコイイ名無し:02/09/07 06:49 ID:19rcO2Oe

今朝はここまでです。
大江さん、早速のご声援、ありがとうございます。
19名無し募集中。。。:02/09/07 07:03 ID:8043yxs0
非常に楽しみです、マジで。
20かおりん祭り ◆KAORinK6 :02/09/07 07:20 ID:7bTLBULY
      ∋oノハo∈ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  Ξ/ ̄ ̄  ^▽^)< 新スレおめでとうございまーす♪
  Ξ\  ∵∵  つ  \
     ̄ ̄ ̄ ̄ ̄      ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         バビューン



21名無し募集中。。。:02/09/07 07:51 ID:z3wZU1F5
もしかして昨夜のBSを見ました?
がんがってください。
22AYAYA ◆AYAYA/l6 :02/09/07 10:09 ID:9eHCcNuT
おもしろそうですね
石川の長セリフがおもしろい
23名無し募集中。。。 :02/09/07 13:27 ID:Nvcl6HWB
いい!楽しみ。

先読み禁止なら、過ぎた話はいいということで、豆知識。
なっちがやっつけた立てこもり犯は、実は初代水戸黄門様。
「天国と地獄」でもチョイ役で出て驚いたよ。
24カコイイ名無し:02/09/07 17:55 ID:19rcO2Oe
 安倍たちは早速街に繰り出して仲間を求めた。公園のベンチに座って、行
き交う人の物腰を観察する安倍は、木の棒を持たせた加護を脇に控えさせる。
これはと思う人物が通りかかると石川に声をかけさせ近くに招く。その時、
加護に不意を打たせ、これを切り抜けた人物がいたらはじめて事の次第を話
す。安倍の見立てた人物だけあって加護に打たれる者こそ少ないが、加護の
無礼に腹を立てて去る者、石川の依頼に恐れを成して後込みする者ばかりで、
仲間集めは難航した。
25カコイイ名無し:02/09/07 17:56 ID:19rcO2Oe
 そのような駆け引きも何人目だろうか。三日目の昼過ぎ、安倍の前を人の
良さげな女が通り行く。安倍は石川に指示してその女を招かせる。脇では加
護が油断ならぬ表情で打ちかかる隙を伺う。あと一歩で加護の間合いという
所で女は歩みを止め、鋭い眼光で加護を射抜いた。加護は完全に気圧され、
思わず数歩退いた。女は安倍に視線を移し、破顔して言う。
「何の冗談よ」
26カコイイ名無し:02/09/07 17:57 ID:19rcO2Oe
安倍は膝を叩いて立ちあがると、向き合った女に深々と頭を下げた。
「大変失礼したべ。私は安倍なつみという者で、実は故あって手練れの者を
数人求めております。ひとつ話だけでも聞いては貰えないべか?」
「こんな所でそんな格好しないでよ。私は保田圭。何やら事情がお有りの様
子ね。そのお話とやらを伺うわ」
二人はそのままベンチに座って話をした。安倍は石川から聞いたことを包み
隠さず話し、最後にこう結んだ。
「お金とも名誉とも縁がない話なんで、断られても仕方がないべ」
27カコイイ名無し:02/09/07 17:58 ID:19rcO2Oe
保田は立ち上がり、辺りを二、三回行き来して思案したが、やがて決心が定
まりにこやかに返答する。
「お受けするわ。私は安倍さんの人柄に付いて行くことにするわよ」
安倍と保田は互いの手を取り、結束の証とした。保田にしてやられた形の加
護はヘソを曲げたように明後日の空を見ながらも、内心では全く別のことを
考えていた。
(あと四人か。ま、順当な滑り出しやな)
28カコイイ名無し:02/09/07 17:59 ID:19rcO2Oe
*   *   *   *   *
29カコイイ名無し:02/09/07 18:07 ID:19rcO2Oe

最後の一行入れ忘れちゃった。カコワルイ
>>19-23
応援してくれてありがとうございます。
実は一応最後まで書きあがってます。
>>21 昨日のBSは見ていませんが、録画しました。
本当は1週間ぐらい早くスタートできたのですが、
これを読んでからBS見た人が怒るとまずいので、
放送後に開始しました。
>>22 石川は少々道化的なキャラになってしまいました。
って、他のみんなも道化になっちゃうんですけど・・・。
>>23 アパート立てこもり男がそんな立派な方なら
もう少しカッコよく書いてあげれば良かったかな。
30名無し募集中。。。 :02/09/07 21:42 ID:Nvcl6HWB
カコイイ名無しさん、どんどんメンバが集まってきていますね。今後を期待しています!
個人的にはあんまり原作にこだわらなくてもいいと思っています。

済んだところの話で、ちょっと。なっち達が観察していた通行人の中に
仲代達也ががいたんですね。ただ、通りすぎるだけのこの撮影にNG連発のため
ほとんど1日を費やしたそうな。それもあって>>24のこのシーンに、ミチャーン
が通行人役で出ているところを脳内妄想してしまった。んで、「なんで私は
こんな端役なのよ〜(涙)」なんて言っていたりしてね。

ミチャーン元気を出せ!仲代達也だって、この後見事主役になったんだから!
なんちゃって。

31カコイイ名無し:02/09/08 06:11 ID:YZcv/RP6
 翌日から、安倍と保田は二手に分かれて仲間を捜しに出た。その日の昼下
がり、ホテルのフロントに泣きつく石川の姿があった。
「困りますよ、お客さん」
「ごめんなさい、ごめんなさい。お金は必ず用意しますから、少しだけ待っ
て下さい」
「そうは言いましても、お財布を無くされたのではお支払いの目処が立たな
いでしょう?」
フロント係にそう言われ、石川は返答に窮した。
「もう、梨華のバカバカ」
と自分の頭を何度も殴った所で解決にはならない。
32カコイイ名無し:02/09/08 06:12 ID:YZcv/RP6
 その時、傍らから札束が無言で差し出された。
「加護さん!」
加護は照れくさそうに視線を逸らした。
「あ、ありがとうございます、ありがとうございます」
石川は何度も頭を下げた。
「二〇万や。師匠に見つからない内に上手に処理してや」
「は、はい!」
33カコイイ名無し:02/09/08 06:12 ID:YZcv/RP6
石川は喜んで宿代を精算し、何日か分を前払いした。支払い後、石川がやや
遠慮気味に加護に問いかける。
「あの……一八万円でしたっけ?」
加護は何喰わぬ顔で答えた。
「ああ、最初の分の利子を引かせてもらったんや。トイチって言えば高いと
思うかもしれへんけど、背に腹は代えられへんやろ。知らん仲やないんやし、
一〇日ごとに利子分だけでも返してくれればええから。いざとなったら家族
だっておるんやろ」
「……あ、そうですか。それはどうも……」
34カコイイ名無し:02/09/08 06:13 ID:YZcv/RP6
石川が新たな涙を浮かべながら曖昧な返事をしていると、安倍が長身の女を
伴って戻って来た。
「いやあ、久しぶりだべ。こんな所でカオリに会えるなんて、なっち幸運だ
べ」
「カオリの方こそ驚きだよ。なっちは相変わらずだねえ」
安倍は生き別れになっていた戦友、飯田圭織と街でばったり出くわしたのだ。
互いに相手は死んだものと思っていたので再会の喜びも一塩であった。二人
は暫しかつての武勇伝や、別離後の動向などを話し合った。離れたところか
らこちらを窺う石川と加護に気付き、安倍は本題を切り出した。
「また、危険でワリに合わない仕事があるんだけど、一緒にどうだべか?」
「いいよ」
飯田は全く躊躇無く、話の詳細も聞かずに即答した。
「なっちの戦場はいつだってカオリの戦場でもあるんだよ」
彼女の無邪気なまでの信頼に、安倍の胸は痛んだ。

*   *   *   *   *
35カコイイ名無し:02/09/08 06:22 ID:YZcv/RP6

BS録画失敗してた・・・
>>30 後半は原作無視もいい所なので心配無用、
と言うか別の意味で心配でしょうか。
そんな訳で後半はまだ手の入る余裕があります。
チビチビ更新しながら皆さんのリクエストにも
可能な限り応じられたらいいなぁと思います。
36名無し募集中。。。:02/09/08 18:00 ID:Nx0ES4CV
読みやすいし、お話がカコ(・∀・)イイ!
続き楽しみにしてます。
カコイイ名無しさんがんがってください。

37カコイイ名無し:02/09/08 22:02 ID:YZcv/RP6
 遅い昼食に寄った定食屋で、隣に座った労働者風の二人組の会話が保田の
興味を引いた。
「まったく変なチビだなあ。文無しだからって、昼飯二人前で俺たち二人分
の仕事をするなんて」
「ああ。しかし、あんな身体でよく働くよ」
「そうだな、今日はトクしたぜ」
保田は男たちに近づいて詳しく尋ねるが要を得ない。そこで男たちが働く現
場を聞き出し、直接そちらへ向かった。
38カコイイ名無し:02/09/08 22:02 ID:YZcv/RP6
 教えられた道路工事の現場には、一人黙々と働く小柄な女がいた。身長は
一五〇センチにも満たないであろうが、ツルハシを振るう姿はなかなかサマ
になっており、リズムを乱すこともなく、速いペースで安定して掘り進んで
いく。保田が感心して見ていると、その女は振り返ることもなく保田に声を
かけた。
39カコイイ名無し:02/09/08 22:04 ID:YZcv/RP6
「穴掘り見るの初めて?」
「いえ、腰の入った良いツルハシさばきだと思って感心していたのよ」
「人の頭を叩く要領だよ。コンコンっとね」
小柄な女は手を休めることもなく話を続けた。保田は苦笑しながら尋ねる。
「人の頭はたくさん叩いてきたの?」
「叩き出したらキリがないからね」
「もっと面白い仕事があるんだけど、どう? 三〇人ばかり叩いてみない?」
女はようやく手を休め、ツルハシに寄りかかって保田を見上げると、高らか
に笑いながら言った。
「キャハハハハ。面白いって、この矢口真里を満足させられる仕事なの?」

*   *   *   *   *
40カコイイ名無し:02/09/08 22:18 ID:YZcv/RP6
>>36 読んでいただいてありがとうございます。
話の基本はカコイイです。なにせ七人の侍ですからね。
読みやすさについては試行錯誤中です。1回の
書き込みで何行ぐらい書いたら良いかなぁ。
あと、どこで書き込みを区切るかも悩みます。
既に失敗したと思うところもありますし……。
ミスも多いかもしれませんが、今後も応援
してください。
41カコイイ名無し:02/09/09 06:19 ID:Sl+QmLbw
 安倍が加護を連れ立って街を行くと、とある神社の境内に人垣ができてい
る。見ると二人の女が木の枝を刀代わりに対峙している。一方は細身で茶髪
の仏頂面、他方は背はやや低いがガッチリとした体躯だった。両者幾度か構
えを変えながら暫し睨み合うが、背の低い方がついに気合いと共に打ち込ん
だ。互いの得物が相手の肩を打ち、両者一歩ずつ飛び退る。背の低い方が構
えを解いて言う。
「残念、相打ちか」
すると細身が仏頂面のまま答える。
「ん? 私の勝ちでしょ。真剣ならあんた死んでたから」
42カコイイ名無し:02/09/09 06:20 ID:Sl+QmLbw
群衆の前でそうまで言われた背の低い方は引っ込みが付かず、大声を上げな
がら腰の真剣を抜き放って構える。細身の方も物憂げにこれに従う。
「無益だべ……」
見守っていた安倍が呟く。
「勝負はもう見えているのに」
43カコイイ名無し:02/09/09 06:21 ID:Sl+QmLbw
両者は再び睨み合い、先ほどと同じように背の低い方が斬りかかった。今度
の斬撃は先に倍するスピードで、風を切る音が耳に痛い程だ。加護が目を見
張ると、細身の方は紙一重でこれを後ろに避け、退きざまに相手の肩口を薙
いだ。身を翻して血しぶきを避ける。その切っ先の速さに、剣には一滴の血
も付いていない。
44カコイイ名無し:02/09/09 06:22 ID:Sl+QmLbw
「すごい腕前だべ。でも、残念ながらあんな冷血漢じゃあ、多分なっち達の
頼みなんか聞いてくれないべ」
そう一人ごちた安倍が脇を見ると、加護が青ざめた表情で震えていた。
(加護ちゃんは思った以上に若いんだべ)

*   *   *   *   *
45カコイイ名無し:02/09/09 19:18 ID:Sl+QmLbw
 ホテルに向かう安倍と加護を保田が出迎えた。
「どうだった?」
保田の問いに安倍が片目をつぶって答える。
「強い人がいたんだよ。腕は上々……今、人ひとり斬るのを見てきたべ」
保田の口が「ほう」と言う風に開き、加護の顔がこわばった。
「だけど釣り逃したべ」
「逃がした魚は大きいって言うわね」
「一応、ホテルは教えてきたけど、ちょっと望み薄だべ」
安倍はことさら残念と思っていないように言った。
「で、圭ちゃんの方はどうだった?」
「私は一匹釣ったわよ。腕はまあ、中の下かしら」
怪訝そうな顔をする安倍に笑いかけながら保田が続ける。
「でも、愉快な娘よ。みんながピンチになった時きっと役に立つわ」
「へ〜、それはいいべ。あ、そう言えばなっちも一人捕まえたっけ」
46カコイイ名無し:02/09/09 19:18 ID:Sl+QmLbw
三人がホテルのロビーに入っていくと飯田がやって来た。
「なっち、疲れたっしょ。冷たいコーラあるよ」
「サンキュー、カオリ」
安倍は飯田の放った缶コーラを受け取ると、吹き出す泡を口で押さえながら
飲んだ。
「圭ちゃん、彼女が飯田圭織。なっちの昔からの知り合いで、とても頼りに
なるべ」
そう紹介されて飯田は長躯に似合わず照れたように会釈した。
 ロビーの奥から小さな人影が出てきて飯田の隣に立った。
「オイラ矢口真里。ツルハシ流免許皆伝だよ」
「え! ツルハシ流って何? カオリ初めて聞いた」
トボケた矢口と生真面目な飯田の視線が上下で絡み合う。安倍と保田は好対
照の二人を見て笑った。矢口もつられてけたたましく笑うが、ただ一人、飯
田だけが状況を把握できずに戸惑っていた。

*   *   *   *   *
47カコイイ名無し:02/09/10 06:42 ID:umhiBHTY
「これであと三人だべ」
「え〜、あと二人じゃないの〜?」
「いや、子どもを連れて行くわけにはいかないべ」
安倍の発言を聞いて、少し離れていたところに座っていた加護が猛然と詰め
寄った。憤りに尖らせた口から言葉が発せられる前に、安倍が掌を突き出し
て制した。
「まあ待つべ。加護ちゃんの言いたいことはよく分かるよぉ。なっちにだっ
て加護ちゃんと同じ歳の時はあったんだべ。戦って、強くなって、いつか天
下取ってやろうなんて考えて。で、いつの間にかお姐さんになってるんだべ」
その時、戸口に現れた人物に気付いたのは矢口だけだった。相手も矢口に気
付き、鋭利な視線を投げかける。その冷厳な眼差しに矢口は思わず眼を逸ら
し、安倍の話に再び注意を戻した。
48カコイイ名無し:02/09/10 06:43 ID:umhiBHTY
「加護ちゃん、明日、奈良にお帰り。この数日は良い修行になったと思うべ」
加護はやるせない思いでいきり立ち、口元まで出かかった恨み言を飲み込ん
で駆け出した。一同は致し方ないと腕組みして床を見る。これを見た石川が
安倍に懇願する。
「加護さんにもご同行いただけないでしょうか? ぜひ、ぜひ加護さんも!」
石川の決死の進言には借金の返済について家族に迷惑がかかる恐怖の裏付け
があったのだが、事情を知らぬ安倍達は石川の真剣な表情に心を打たれた。
「子どもの方がよく働くわよ」
「オイラより大きいんだし、大人あつかいしてあげればいいじゃない。キャ
ハハ」
安倍が懸念していたのは、他の仲間が加護に足を引っ張られることを快く思
わぬであろうことだった。だが、仲間達はすでに加護を認めており、安倍は
自らの杞憂をやや恥じた。加護の同行を決めた安倍は石川を走らせて加護を
呼びにやった。
49カコイイ名無し:02/09/10 06:44 ID:umhiBHTY
「じゃあ、あと二人ね」
「どうやらあと一人みたいだよ〜」
矢口が戸口を顎で示す。安倍が先に街で見た、茶髪細身の仏頂面がそこにあ
った。
「あ、さっきの人だ。手伝ってもらえるだべか?」
「後藤真希です。よろしく」
入ってきたときは殺伐とした雰囲気を醸し出していた後藤であったが、加護
を巡るやりとりを図らずも目にし、幾分態度を軟化させていた。
「で、出立はいつ?」
「できれば明日にも出かけるべ」
安倍の言葉に一同が顔を見あわせる。
「え? だって人数足りてないじゃん」
「そうは言っても時間が惜しいべさ」

*   *   *   *   *
50カコイイ名無し:02/09/10 23:46 ID:umhiBHTY
「いや〜、強い女もいるもんだ。三人相手に大立ち回り。殴られても噛みつ
いてくる山犬のような女だよ」
ホテルのロビーに酔った男の声が響く。
「ねぇ、その人ってどこにいるのよ〜」
矢口が尋ねると、酔った男は質問者を探してグルグル回り、ようやく目線を
下げて答えた。
「ん? ああ、そいつなら今こっちへ向かっているさ。祝勝会をやるって」
それを聞いて一同の顔が輝いた。
「先生、いつものヤツやりましょか?」
加護はそう言うと返事を待たずに棍棒を構えた。先の酔漢が加護を止めよう
とするが、矢口が「面白いからやらせときなよ。そんなに強いならイイじゃ
ん」と追い払う。やがてロビーに大声のホラ歌が響き、はたして件の女がや
って来た。
51カコイイ名無し:02/09/10 23:48 ID:umhiBHTY
「えいや!」
加護が気合いと共に棍棒を振り下ろすと、入ってきた女の旋毛をしたたか打
った。女は頭を押さえてしゃがみ込み呻いた。
「テテテテッ、だ、誰だよ」
頭を打たれた女は半ば昏倒しかけながら辺りを見回す。加護が口に手を当て
て狼狽しているのを見て「お前かぁ」と殴りかかろうとするが、脳しんとう
で足もとがおぼつかない。逃げた加護を追う内に安倍の足元に倒れこんだ女
は、安倍を見上げて言った。
「そ、その顔……忘れようったって忘れられないぜ。お前、コンニャロ、こ
の間はよくも『浪人かい?』……なぁーんて抜かしやがったな!」
安倍はその顔を見て、ようやく例のアパート立てこもり事件の日に出会った
妙な女であることに気付いた。
「この不合格通知を目ん玉ひん剥いてよ〜く見やがれ」
そう言うと、女は安倍の目の前に紙片を突きつけた。
52カコイイ名無し:02/09/10 23:49 ID:umhiBHTY
「へ〜、これがあんたの不合格通知だべか」
矢口や保田が安倍の周りに来たが、通知を見ると含み笑いしながら自分の席
に戻る。
「おうとも」
「吉澤……ひとみさんだべか?」
「そうよ、立派な浪人よ!」
吉澤を名乗る女は胸を反らした。
「へ〜感心したべ。とても今年小学校を受検した歳には見えないべ」
「えっ!?」
偽吉澤を除いた一同が爆笑する。
「だって、これ私立小学校の不合格通知だべ?」
「な、何だって?」
「どこで盗んできたか知らないけど、もう少ししっかり確認しなよ〜、ひと
みチャン」
矢口がここぞとばかりにからかう。
「ク〜ッ」
偽吉澤は恥ずかしさと加護にやられた頭の痛さでひっくり返った。一同はひ
としきり大笑いして、明日の出立の準備に部屋に戻った。

*   *   *   *   *
53カコイイ名無し:02/09/10 23:53 ID:umhiBHTY
+++++
  さて、七人の娘。が揃いました。
  おや? あの人達は出ないのかな、と思っている方、
  安心してください。13人全員に出番が用意されてます。
  それ故、この先は原作から脱線してしまうのですが……。
+++++
54 ◆KOSINeo. :02/09/11 00:38 ID:p0tob9ed
>カコイイ名無しさん
小説総合スレッドで紹介&更新情報掲載しても良いですか?
http://tv2.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1027284701/
私は原作を見ていないのですが、楽しみにしています。
55カコイイ名無し:02/09/11 18:41 ID:qSbbICBF
+++++
  ◆KOSINeo. さん、お手間ですがよろしくお願いします。
  原作見ているとパロった所が分かるかもしれませんが、
  あまり上手じゃないので見ていなくても大丈夫です。
  貴スレを色々参考にさせていただいておりますので、
  今後も頑張ってください。

  あ、前回更新分で加護に安倍を「先生」と呼ばせて
  しまいました。原作も先生なのですが、学園モノで
  紛らわしいのと、関西弁との相性で今後は「師匠」と
  呼ばせます。できるだけ。
  
+++++
56カコイイ名無し:02/09/11 18:43 ID:qSbbICBF
「お〜い、私も連れて行ってくれよ〜」
自称吉澤ひとみが痛む頭を振って起きてみると、安倍達はすでに出立寸前で
あった。急ぎ支度を整えた頃にはすでに一行は出かけた後だ。駆け足でよう
やく追いついたものの、矢口や加護に邪険にあしらわれ、安倍や飯田等には
無視されて、吉澤は一行に加えて貰えない。
 やがて、とうとう諦めたのか、吉澤の姿が見えなくなった。
「キャハハ。いればうるさいけど、いないと寂しいもんだね〜」
矢口が思わず漏らすと、先回りしていた吉澤が得意満面に飛び出して、矢口
に抱きついた。
「な、な、そうだろ。私だっていた方がいいんだよ。役に立つぜぇ」
「わか……分かったから少し離れてよ〜」
小さな矢口は大柄な吉澤に完全に包み込まれ、なんとか抜け出そうと必死に
もがいでいる。迫り来る吉澤の唇を、両腕を一杯に張って凌いだ。そのやり
とりを見て一行は暫し笑った。
57カコイイ名無し:02/09/11 18:44 ID:qSbbICBF
 やがて道中もはかどり、石川の通うハロモニ学園が見えてきた。学校は予
想以上の荒れようで、校舎の窓ガラスはことごとく割られ、校庭も雑草に覆
われていた。
「みんな〜、帰ってきたよ〜! 味方をたくさん連れてきたよ〜!」
喜びに満ちた石川のキンキン声が校舎にこだまする。
……。
「ちょっと、誰もおらへんやないの?」
「何でぇ何でぇ、助けが欲しいって言うからわざわざ来てやったってのに
よ! 出迎えもなしかよぉ」
「キャハハ、誰もよっすぃーの助けなんて頼んでないよ〜」
「変だべな。お〜い、何か恥ずかしがってる〜?」
呼ぶうちに、校舎の玄関から二人の生徒が出てきた。一人は毅然としている
が、もう一人は少しオドオドしている。二人は安倍達から一〇メートルほど
の所で止まりこちらを窺っている。
58カコイイ名無し:02/09/11 18:45 ID:qSbbICBF
「高橋さん、これは一体どういうこと?」
石川がヒステリックに詰問するとオドオドした方が早口の福井訛りで話し始
めた。
「あのぉのぉ、いしかぁ先輩。せぇ徒達は浪人の人らが怖いと言って教室に
閉じこもってしもたぁんやざ」
「そんな〜。この人達は怖くなんかないわ。石川が保証する」
「ほやけどぉ……」
戸惑う高橋を見かねて安倍が声をかける。
「高橋さんとやら。私たちは必要以上に生徒さん達には近づかないべ。でも、
四〇人の荒くれ者を追い払うには私たちだけじゃあとても手が回らないんだ
よ。だから、みんなにも手伝って貰いたいんだべさ」
「だから、はじめから浪人どもの助けなんて必要ないって言ったんだ!」
高橋の隣で今まで黙っていた方が叫んだ。
59カコイイ名無し:02/09/11 18:48 ID:qSbbICBF
「小川さん、何言ってるの!」
「だってそうだろ! どうせ私たちの学校は私たちが守らなきゃならないん
だよ。よそ者なんてアテになるもんか!」
「なんやて!」
飛び出しそうになる加護の肩を掴まえ、保田が笑顔で答えた。
「頼もしいこと言ってくれるじゃない。あなたの言うとおり、学校はあなた
達が守るのよ。私たちはその方法を教えるだけ」
一同の目が小川に向けられるが、小川の方は怖めず臆せず睨み続ける。
「とにかく、部屋は用意してあるんやざ、のでの、そちらの方にどうぞどう
ぞ」
高橋の案内に従って校舎に通される一行。小川の前を通るとき、飯田が剣を
閃かせ小川の鼻先に突きつける。思わず一歩さがった小川に飯田が言った。
「退かぬ気概を教えてあげる」
剣を収め立ち去る飯田の背中を、小川は歯がみしながら見送った。

*   *   *   *   *
60カコイイ名無し:02/09/12 17:59 ID:15kxSqUR
+++++
  小説総合スレッドで早速紹介していただきました。
  カッコいいのでそのまま引用しちゃいます。

   小説「七人の娘。」
   http://tv2.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1031347043/
   (登場人物:娘。他  作者:カコイイ名無し)
   ガラの悪い盗賊の横暴に苦しむ私立ハロモニ学園を守るために
   集められた七人の娘。達が学園生と共に盗賊を迎え撃つ。

  そうなんですよ。ズバリその通りの内容です。
  まだ完結してないの小説の紹介文を書くのは難しそうですが、
  さすがに手馴れたものですねえ。

  今日は11時ごろにでも更新する予定です。
+++++
61カコイイ名無し:02/09/12 22:52 ID:15kxSqUR
 通された部屋は教室に寝床と僅かな調度を設えただけの簡素なものだった。
埃っぽい空気が漂い、部屋の天井はクモの巣だらけだ。破れたガラス窓は段
ボールで補強され、蛍光灯も何本かチカチカしている。
「予想してたんと随分違った趣向やなぁ」
「ま、女子校ったってこんなモンでしょ〜」
「しかし、本当に私たち、邪魔者かもしれないわね。小川って子の言葉は、
ある意味、学園の総意かもしれないと思うわ」
「命懸けで戦っても感謝もされない。戦は不毛が常とは言え、ここまでひど
い戦も無いな」
みな口々に不平を鳴らす。このような状態では全員を引き止めるのは困難だ
と安倍も思った。仲間の命を危険に晒す価値があるのかも疑問だった。一同
の憤りが頂点に達したとき、これまで安倍同様に沈黙を守っていたもう一人
の人物が口を開く。
62カコイイ名無し:02/09/12 22:52 ID:15kxSqUR
「おいおい、お前ら。一体どうしちまったんだ、あん? カッケー素振りで
自分から進んでこの学校を守りに来たんじゃないのかよ。女学生の迎えが無
くてヘソを曲げて帰る気か? お前ら、女学生は仏様だとか思っていたのか。
颯爽と現れればキャーキャー騒いで寄ってきて、こちらを召し上がれ、あち
らをどうぞってか?
 いいか、女学生ったって綺麗ばかりじゃないんだよ。他人の善意など踏み
にじって、利用できるモノは骨の髄まで利用し尽くす海千山千の化け物だ。
そう、お前やお前、お前ら全員と同じ……まったく同じ人間なんだ! 畜
生!」
63カコイイ名無し:02/09/12 22:54 ID:15kxSqUR
言い募る内に吉澤の目に涙が浮かんできた。上を向いて落涙を堪えるが、つ
いに教室から駆けだしてしまう。後を追おうとする保田を止め、安倍は自ら
迎えに出るため立ちあがった。部屋を出がけに安倍は一同に言い残す。
「みんなでもう一度考えてみるべ」
安倍が去った後、ある者は床を、またある者は天井を見つめ、それぞれ思索
に耽った。
「まったく、オイラ達がよっすぃーに説教されるとは思ってもみなかった
よ〜」
矢口がおどけてみせたが言葉を返す者もなく、再び教室に沈黙が降りた。
64カコイイ名無し:02/09/12 22:55 ID:15kxSqUR
 吉澤を追って階段を駆け上がる安倍。遥か頭上に吉澤の足音が響く。
「お〜い、待ってくれよぉ。よっすぃー、あんた……浪人じゃないべ」
吉澤の足音が止まる。
「あんた……現役の女子高生だべ」
暫し沈黙の後、再び吉澤の足音が駆けだす。遠のく足音に安倍が語りかける。
「私たち、守るから……この学校、最後まで守るからね」

*   *   *   *   *
65カコイイ名無し:02/09/13 23:03 ID:gH9PNbHu
 一人で教室に戻った安倍を、心配そうな一〇の目が出迎える。
「大丈夫だべ。よっすぃーには誰にも負けない浪人魂があるだべさ」
一同が物問いたげに見るのを無視して、安倍は大きな紙を床に広げた。学校
の周辺図だ。
「さて、どう手を打つべ」
一同は表情を改め、地図を囲んで円座になった。
「外塀を利用して校庭まで含めた広い範囲で防ぐべ。校庭向こうの正門に二
人、西門に一人、裏門は橋を落として侵入を防ぎ、ここにも一人予備部隊を
兼ねて配置するべ」
「それじゃ〜裏の職員駐車場は守れないじゃんかよ〜」
「あそこは塀に囲まれていないから守りきれないべさ。職員の車は校庭にラ
ンダムに配置して侵入した敵バイクの足を殺す」
「わかった、オイラが裏門を受け持つ。職員の説得もしておくわ」
66カコイイ名無し:02/09/13 23:04 ID:gH9PNbHu
「じゃあ、そっちを矢口にお願いして、正門はカオリを主将、加護ちゃんを
副将に付ける。隘路沿いの西門はバリケードを張ってよっすぃー任せるべ」
吉澤の名前が出た所で一同は視線を交えたが、特に異を唱える者はいなかっ
た。
「で、圭ちゃんとごっちんは遊撃隊として適宜必要に応じて動いてちょうだ
い。基本的には圭ちゃんが正面玄関前、ごっちんは体育館周辺に布陣して。
本陣は校舎付近に置いてなっちが詰めるべ」
「師匠、正門にもバリケードを張った方がええんやないか?」
「一カ所入口を作れば敵はそこに集中するべ。加護ちゃんはカオリの指示に
従って、巾着の口を開けたり閉じたりするんだよ。できるなら校舎内への侵
入は許さずに、決戦の場は校庭に置きたい。戦場のイニシアチブを握る最も
大事な役だから頼むよ」
大役と聞かされて、加護の顔がゆるむ。
「任しときぃ」
67カコイイ名無し:02/09/13 23:06 ID:gH9PNbHu
「各部署に配置する学生はどうしたもんだべか……」
「そうねぇ、高等部の生徒は体調不良の者を除いて全動員しましょう。中等
部からは志願兵を募って、その中から選抜するの。漏れた者には非戦闘員の
警護をさせればいいわ。
 クラスごとに分けられた集団を一個小隊とし、二個小隊をもって一個中隊
としたらどうかしら。各中隊を私たちがそれぞれ指揮するのよ。
 ただし、特異な技能を持った者は、それを活かせる部署に配属すべきね。
一般の部隊の他に、斥候隊、連絡部隊、補給部隊、衛生兵、弓箭兵……それ
から工兵部隊もいるわね」
「へぇ、圭ちゃんすごいね。部隊の編成については任せてイイかな?」
「今日中に志願を募るわ。編成は今夜考えて明朝周知ね。あいぼんに手伝っ
て貰うわ」
「ウチが?」
「これも修行よ──オリエンテーションと基礎訓練をして、午後一番に各部
隊を担当者に引き渡すわ」
68カコイイ名無し:02/09/13 23:06 ID:gH9PNbHu
「じゃあ、それまでオイラ達は武器になりそうな物を作っておくね。それか
ら、校庭にはバイクに不利になるように障害物をたくさん設置するよ」
「糧秣はどうかしら」
「さっきウチが調べたら、残り二、三日分ってところやわ」
「カオリ、日持ちがする食料をできるかぎり調達してきて」
「了解。あいぼんにも一緒に行ってもらうわ」
「え〜っ! そっちも行くんかい」
「そうよ。これも……」
「修行や言うんやろ。分かったわ。ど〜なっても知らんで」
「ゴトーは変わった才能がある人を選抜する」
「ちょっと待って! それもウチに手伝え言うんやないやろな」
「いいよ。ゴトー一人で」
「ほっ」
「アテにしてないから」
「!」

*   *   *   *   *
6930:02/09/14 12:03 ID:sJ0UxHkO
七人ついに揃う!いよいよですね。

原作を知っている者としては>>39にはニヤリとさせられました。
情景が目に浮かぶ。

そんで、やはりあの役は後藤しかいないね。剣の達人、クール。カコイイ!
そんでそんで、よっすぃ〜はいいね〜、原作通りの「カコイイけど3枚目」だね。
実は「七人の侍」のハリウッド版である「荒野の七人」では、よっすぃ〜役の3枚目
的エピソードをあいぼん役が演じていたりして、しっくりこなかった(例えば、道中
ついてきていたのがいなくなったと思ったら、先回りしていたというシーン)
んだけど、恐らく「カコイイけど3枚目」を演じれる役者がいなかったことが原因
だと思う。そう考えるとよっすぃ〜のはまり具合は恐ろしい!

>>35
それを聞いて一安心です。そうでなければ、最初にXXXするのが
私の一押しの○○になってしまうから...。
でもあのシーンは終盤でもないから、やっぱり○○が最初にXXXするの?

また、違った観点でドキドキしながら続きを待ちます。
70名無し募集中。。。:02/09/14 21:47 ID:VyDUTjsu
快調に進行中ですね。
区切りも丁度読みやすいと思いますよ。
ゴトーさんはいい味出てますね。
出先でも必ず読んでます。楽しみです。

こうなると原作、先に見るべきか見ないべきか悩む………。
71カコイイ名無し:02/09/14 23:31 ID:u5llboig
+++++
みなさん、応援ありがとうございます。

>>69 39のシーンはどうしようか悩みました。いまどき薪割り
なんて不自然だし…って考え、フォームが似ている穴掘り工事を
やらせてみましたが、いい加減なこのひらめきが後に意外な
影響を見せます。
後藤、吉澤ともにいい役者です(変な言い方ですが)。作者も
思ってもみなかったような活躍を見せますよ。

>>70 できるだけ毎日少しずつ更新したいと思います。
原作を先に見たほうが原作は楽しめます。でも作者としては、
先にこちらを読んで欲しいなぁ。やっぱり並べて比べられちゃうと
見劣りするので・・・照れちゃうので。
+++++
72カコイイ名無し:02/09/14 23:33 ID:u5llboig
 その日の午後、飯田と加護は石川と高橋を道案内として引き連れて食料の
買い出しにワゴン車で出かけた。米と缶詰、レトルト食品、インスタント食
品、ミネラル水、トイレットペーパー等を買い込み、積めるだけワゴンに積
んで残りは配達して貰う手配をした。また、可能な内は毎日生鮮品を配達さ
せるよう交渉した。帰路の途中で飯田は車を止め、加護を降ろした。
「あいぼんは偵察も兼ねて、ここから東を回って帰りなさい。賊の尖兵の気
配がないかよく注意するのよ」
「アイアイサー」
加護は息苦しい飯田の助手席から飛び出して、小走りに路地裏へ入った。
73カコイイ名無し:02/09/14 23:34 ID:u5llboig
 入り組んだ細い道を縫うように進みながら、加護は妙な気配は無いかと辺
りを探った。しかし、緊張もはじめの内だけで、堤防道路に出る頃には散歩
気分になっていた。川から吹く涼しい風を受け、鼻歌交じりに歩いていくと、
河川敷一面に真っ白なコスモスが群生する場所に出た。
「何や、ここ!」
加護は駆けだして花畑に飛び込んだ。真ん中ででんぐり返って大の字に寝こ
ろび、手足をバタつかせて花びらの吹雪を舞わせる。目を閉じ、夢見心地で
花の香りを胸一杯に吸い込んだとき、突然頭に冷水をかけられた。
74カコイイ名無し:02/09/14 23:35 ID:u5llboig
「誰や!」
飛び起きた加護は腰の刀に手をやる。見ると、自分と同じような背格好の少
女が、水の滴るホースを手にして立っていた。少女は加護の威勢に一瞬たじ
ろぐが、口をギュッと結んで相手を睨んだ。
「何や、お前」
「辻希美れす」
「いや、そう言うことやのうて、何やて人の頭に水なんかかけよったんや」
「ここはお花の家なのれす。ここで暴れたらお花が可哀想なのれす」
辻は加護が寝ていた辺りに屈み、折れた茎を両手で支えた。
「そ、それもそうやな。すまなかったわ」
辻の変に神妙ぶった顔を見て、加護は珍しく素直に謝った。辻は八重歯を覗
かせて笑った。加護もつられて笑った。
75カコイイ名無し:02/09/14 23:35 ID:u5llboig
「ところで辻」
「ののと呼んでいいのれす」
「そうか。じゃあのの、それってハロモニ学園の制服やろ。学園の生徒がな
んで今時分こんな所におるんや?」
「お花のゴハンの時間なのれす」
「そりゃ、そうかもしれへんけど……何か調子狂うなぁ」
加護の当惑を意に介さず、辻は持っていたホースで花に水をやりはじめた。
「しゃあない。終わるまで待って、送っていくか」
真っ白な花畑に虹を渡す辻を、加護は言いしれぬ思いと共に見守った。折り
からの黄昏によるものか、二人の顔は真っ赤に染まっていた。
76カコイイ名無し:02/09/14 23:36 ID:u5llboig
 その晩、保田と共に部隊編成表を作る予定の加護だったが、机の前に座っ
た途端、スースーと寝息を立て始めた。
「背伸びしてるけど、やっぱり子どもね」
保田はそう言って、加護の肩にそっと毛布を掛けた。加護はニコニコしなが
ら何やら寝言を言ったようだが、保田には聞き取れなかった。

*   *   *   *   *
77カコイイ名無し:02/09/15 21:27 ID:WO5lPdwv
 翌日から学生達を集めた教練が始まった。吉澤は昨日のことなど忘れたよ
うに陽気で、他の者も敢えてその件には触れなかった。
 生徒達を朝八時に校庭に集合させ、保田が部隊編成と作戦方針について簡
単な説明をする。その後、戦闘要員は保田、飯田、吉澤の三人によって、行
進や体操を反復練習し、号令によって的確に動く基礎を身につけた。
 同時に、矢口と加護は非戦闘員を連れて校舎に入り、余裕教室の床板を剥
いで長柄の木刀を削り出させた。安倍は高橋に案内させて、校舎内、校庭、
体育館などを見て回るが、高橋の訛りのきつい早口の説明では思うように理
解できず、結局一つ一つを自分で確認することになった。
78カコイイ名無し:02/09/15 21:29 ID:WO5lPdwv
 後藤は自らが選抜した精鋭部隊の基礎訓練にあたる。
「優秀なスポーツ選手を集めただけあって、この部隊ははじめから動きがい
いね」
笛の合図で様々な陣形をとる新兵を、後藤は満足げに眺めた。
「そうでしょ。ハロモニ学園ってお嬢さん校のイメージがあるけど、スポー
ツも盛んなんですよ」
傍らで笛を吹く石川が得意顔で言った。
(ま、中にはなんでここに紛れ込んだのか分からないヤツもいるようだが)
後藤が不快げに見る先には、笛の指示に必ず一拍遅れ、右を向かせれば左を
向き、屈ませれば伏せるような、何とも要領の悪い生徒がいた。
「それに比べて、真ん中の紺野君はさすがだよ。空手でも陸上でも優勝して
いるそうじゃないか。精鋭部隊のリーダーに抜擢して正解だな」
79カコイイ名無し:02/09/15 21:30 ID:WO5lPdwv
「あの……真ん中は西田さんですが」
「え、そうなの? じゃあ紺野君は?」
「あそこで、えっと……独特の動きをしている人です」
石川が指さしたのは、先ほど後藤が苦々しい思いで見た、要領の悪い生徒だ
った。
「あ、そう」
(マズい、マズいなぁ。せっかくの精鋭部隊もリーダーがあれでは活用でき
ないぞ。とは言え、今から一方的にリーダー変更って訳にもいかないしなぁ
……。データだけで選んだのは失敗だったか)
「どうかしました? 後藤さん」
石川が妙にニコニコ顔で言った。
「いや、別に(こいつ、分かってて言ってやがるな)。あ、打ち合わせがある
から、後で紺野君を私の所によこしてくれ」
「ハイ!(プププッ)」
80カコイイ名無し:02/09/15 21:31 ID:WO5lPdwv
 休憩中、石川に呼ばれた紺野が、緊張した面持ちで後藤の元を訪れた。
「こ、紺野あさ美と申します。お、おお、お呼びでしょうか」
「あぁ紺野君。まあ、楽にしてよ」
「は、はい」
「ところでさあ、今回、君に精鋭部隊のリーダーをお願いしたんだけど、ど
う? できそうなの?」
「は、はい。完璧です!」
「そ、そう(ホントかよ)。でも、無理そうならそう言ってよ。リーダーって
いうのはみんなの命を預かる、とても責任の重い仕事だから」
「完璧です! チョトツモウシン頑張ります」
「ああ、頼むよ(気付いてくれ〜)。しかし、ホントにホントに、自分に向い
ていないと思ったら言ってよ。いつでもイイからさぁ」
「あ、ありがとうございます。完璧です!」
81カコイイ名無し:02/09/15 21:32 ID:WO5lPdwv
「(ガックリ)……じゃあ、もう帰っていいよ。部隊のみんなと親睦を深めて、
いろいろサポートしてもらいなよ」
「は、はい。あり、ありり、あり、ありあとうございまし、ますた」
紺野は来たときと同様、緊張した面持ちで帰って行った。
「あーあ、手と足を同時に出して歩いてるよ。私のミスだし、この部隊は最
後まで私が面倒見るしかないな」
後藤が独り言を漏らすと、脇から「プッ」と言う声がした。そちらに目をや
ると、木陰に隠れて笑いをかみ殺す石川と目があった。

*   *   *   *   *
82カコイイ名無し:02/09/16 00:25 ID:OG33d4+J
+++++

  危険そうなので寝る前に自己保全

+++++
83カコイイ名無し:02/09/16 23:04 ID:OG33d4+J
 午後に入り、各部隊が引き渡されると、それぞれの所属部署に応じたミー
ティングが行われた。二日目以降は保田の組んだ訓練メニューに従う予定だ
が、初日は自分の役割をしっかり覚えさせる必要があったのだ。
 正門を守護する飯田隊、加護隊は、二個中隊合同でミーティングが行われ
た。最初に飯田が演説をぶつが、なんとも要を得ない話で一同戸惑いを禁じ
得ない。一生懸命何かを伝えようとするのだが、ピント外れであったり、例
えが非一般的すぎたりで、話せば話すほど本題から離れていった。
「そんなくだらない話はいいから、さっさと稽古つけてくれよ!」
集団の中から大声が上がった。前段はみな頷くところだが、後段については
顔を青くして首を横に振った。
84カコイイ名無し:02/09/16 23:05 ID:OG33d4+J
「誰や!」
加護の誰何に応じて一団の中から一人歩み出る者がいた。
「小川!」
「飯田さんよぉ、あんた昨日は不意打ちしたくせに、随分立派な講釈垂れる
じゃねえか」
「ああ、本物の刀を見てお漏らししちゃった子ね」
「なんだと、このヤロー!」
飯田の挑発に乗って小川が掴みかかる。飯田は軽く体をかわすと、脇を抜け
る小川の足を引っかけた。小川は頭から派手に転んだが、回転しながらすぐ
に立ちあがった。
「お望み通り、稽古をつけてあげるわ。加護、木刀!」
飯田に命じられ、加護は午前中切り出したばかりの長柄の木刀を二人に投げ
た。
「さあ、構えなさい」
「なんだ、こんな物。あたしは素手で十分だ」
「構えるのよ!!」
予想外の大声で命じられ、小川は渋々木刀を手にした。
85カコイイ名無し:02/09/16 23:06 ID:OG33d4+J
「まず、こう構えて」
「うるさいわ!」
飯田が構え終わらない内に小川が遮二無二突っかかった。ブンブン振り回さ
れる木刀を、飯田は最小限の動きでかわす。小川の動きも鋭利で素早いが、
何度木刀を振っても飯田にはかすりもしない。次第に小川の息も上がる。
「あ〜っ! 面倒くさい!」
業を煮やした小川は木刀を投げ捨て、足を大きく開いて低く構えた。次の瞬
間、パチンコ玉のような勢いで飛び出して飯田に迫る。その右手が飯田の首
に掛かる寸前、飯田は木刀の柄で小川の眉間をしたたかに打った。反り返っ
て崩れ落ちる小川。見守る誰もが息を飲んだ。
「精進しなさい!」
86カコイイ名無し:02/09/16 23:07 ID:OG33d4+J
踵を返して立ち去ろうとする飯田のズボンの裾に、小川の手が絡んだ。
「お……おい、もうバテたのかよ……」
「なっ!」
飯田は眉間にしわを寄せ、足を引いて乱暴に小川の手を振り払った。
「全員、グランド二〇周だ。加護! この馬鹿を片付けろ」
飯田は憤然と校舎の方に立ち去った。
「逃げるのか! このヤロー」
威勢良く叫ぶ小川だが、身体の方はピクリとも動かせなかった。
「なんや、飯田さんも大人気ないわ。こんなに酷く打つこともないやん」
加護は足元に転がるボロ雑巾のような小川を眺めて言った。
87カコイイ名無し:02/09/16 23:08 ID:OG33d4+J
 校舎の暗がりに入った途端、飯田は右脇腹を押さえて膝をついた。シャツ
の裾をめくってみると、赤い手形が青く変色し始めている。
「ちょっとヒヤッとしたべ」
物影から声をかけられ、飯田は身をすくめる。一番見られたくない人物に見
られた。
「見てたの? なっちも人が悪いね」
「右手で首を狙うと見せて、左手で脇腹を突いてきたべさ。あんな技、なっ
ちも見たことないよ」
「思わず本気で打っちゃった」
「それでもまだ喋る元気が残っていたべ?」
「うん。面白いヤツなんだけど……手を焼きそうだよ」
飯田は曖昧に肩をすくめた。

*   *   *   *   *
88カコイイ名無し:02/09/17 23:03 ID:oVIfwqmH
「イヤ〜、今日はさすがのオイラも参ったよ」
初日の夜、教練を終えて詰め所に戻った矢口の口から最初に漏れた言葉がそ
れだった。そしてそれは、そこに集まる全員の気持ちだった。
「私たち、単純に考えていたわね。だけど、女学生を戦士にするって並大抵
じゃないわよ」
「あ〜、分かります。なかなか思い通りに動いてくれないんですよね」
「もーっ! 弓道部とアーチェリー部はなんであんなに仲が悪いのよ!」
「アーチェリー部のレギュラー三人は弓道部の柴田さんを妬んでるようです
よ。柴チャン美人だから」
89カコイイ名無し:02/09/17 23:04 ID:oVIfwqmH
「あの高橋っていう子、一年生で生徒会書記ってだけあってしっかりしてる
べ。だけども訛りがきつくって、何言ってるんだかさっぱり分からないべさ」
「そうそう、何年東京にいるんだ!って思いますよね」
「カーッ、あそこのスーパー、なんでベーグル置いてないんだよ〜」
「あそこは品揃えが悪いですよ。ホントは隣町に行けば大きな量販店がある
んですけどね」
「……」
「交信中ですか。小川さんはいい子ですよ」
「んぁ〜」
「あ、悩んでますね。紺野さんでしょ? あの人、ボーッとしているようで
結構頑固ですよ」
「って、お前誰だよ!」
90カコイイ名無し:02/09/17 23:04 ID:oVIfwqmH
先ほどから当然のようにこの部屋にいて、人の話に相づちを打っている少女
を矢口が見咎めた。誰も彼女には見覚えがないのだが、矢口に指摘されるま
で彼女の存在に疑問を持つ者はいなかった。
「あ、私は新垣里沙です」
「新垣里沙です、じゃね〜よ。何であんたここにいるワケ?」
「いえ、別に。ただ、皆さんの大ファンで、何か役に立てたらと思いまして」
「どうしてみんな、この子に気付かなかったのさ〜」
「あ、どうしてだろ。そういう矢口だってしばらく気付かなかったじゃん」
「だから腹が立ってるの!」
91カコイイ名無し:02/09/17 23:05 ID:oVIfwqmH
「まあまあ、みなさん。私のことでケンカしないでください」
「ケンカじゃね〜し、自分で言うなよ! 早く自分の部屋へ帰れ」
そう言うと、矢口は新垣の襟首を掴んで詰め所から叩き出した。憤然として
部屋に戻ると、自分の寝台に腰を下ろし、鼻息荒くまくし立てる。
「まったく、なんであんな子がオイラ達の中にいるのさ〜」
「まあ、本人に悪気があるわけじゃないんだし、第一怒ると身体に毒ですよ」
ギョッとして横を見ると、追い出したはずの新垣がニッコリ笑っていた。矢
口は拳を固く握りしめた。

*   *   *   *   *
92カコイイ名無し:02/09/17 23:13 ID:oVIfwqmH
+++++

  さてさて、ついに13人揃い踏みです。
  原作で言う村人役の5期メンバーですが、
  先輩メンバーを食う活躍ができるでしょうか。
  さらに( ´D`)は何か役に立つのか?
  乞うご期待!

+++++
93名無し募集中。。。:02/09/17 23:43 ID:7Yu0V5KU
飯田さんの演説シーンは思わず必死に説明する飯田さんの姿を思い浮かべてしまいました。
そして曲者揃いの5期メン。新垣、何もの??。
続きに期待、期待です。

七人の侍はこちらが完結してから観ることにしました。
カコイイ名無しさんがんばってください。
94名無し募集中。。。:02/09/18 20:21 ID:ejO7xg9Q
川゜〜゜)|| <今回のメンバー改変でも、また、生き残ってしまったな...。

( ● ´ ー ` ● )<本当の勝者は誰だべさ?
95カコイイ名無し:02/09/18 22:59 ID:3pTqBnV9
+++++

  初めての圧縮も何とか乗り切ったようで一安心。

  >>93 5期メンバーは原作に無いのでかなり自由
  って言うか無茶してます。原作を後で見るのは
  作者としては嬉しいのですが人としては微妙〜です。
  名作を新鮮な気持ちで見る機会を逸してしまうので。
  そのお気持ちに反しないよう頑張ります。

  >>94 そう言う時事ネタに絡められればいいのですが、
  原作付きの辛いところです。って、力量の問題か…。

+++++
96カコイイ名無し:02/09/18 23:01 ID:3pTqBnV9
 翌日から本格的な訓練が始まった。保田が組んだカリキュラムは、安倍の
予想を遙かに上回る精緻な仕上がりを見せた。教える側の個性も考慮した上
で、時間割に従って教練が行われた。
 最も頻繁に行われた戦闘訓練は後藤を主任とし、吉澤と加護を補佐に付け
たが、折々に講師を交代して様々な戦い方を身につけさせた。生徒達は後藤
や飯田の洗練された戦闘技術に感心はするものの、そのような技がにわかに
身に付くはずもなく、結局は吉澤の無頼流がもてはやされた。
 戦術訓練では飯田が主になって部隊単位での移動や集団戦闘を学ばせた。
行進や駆け足を延々と繰り返す飯田の授業は生徒達から敬遠されがちだが、
飯田は損な役目を淡々とこなした。保田が補助に付いて次第に複雑な命令を
覚え込ませた。
97カコイイ名無し:02/09/18 23:02 ID:3pTqBnV9
 矢口は様々な工夫を凝らして学校を要塞化する一方で、弓箭兵、工兵、衛
生兵、補給部隊などの特殊兵科の面倒を見た。多方面で卓越したスキルを持
つ矢口はどんな事柄についてもある程度のレベルで教えることができた。
 安倍は各班のリーダーを集めて戦略的な講義を行い、全体構想における各
部隊の役割を個別指導した。それとは別に訓練の進行状況を取りまとめ、遅
れた部分を補った。
98カコイイ名無し:02/09/18 23:03 ID:3pTqBnV9
 それらの訓練に加えて、部隊とその統率者間の親睦を深めるような時間も
とられた。安倍や保田、矢口、また意外にも吉澤などは人好きのする性格で、
和気藹々と語り合う時間を容易に得られた。飯田、後藤は人付き合いが下手
で学生達も少し距離を置いてはいるが、その卓越した強さ故、篤い信頼を得
ていた。加護は当初、部下に舐められないように虚勢を張っていたが、やが
て自分自身その役柄に疲れ、同じ目線の同志として仲間意識を培った。
 保田の類い希なる管理能力により、学園の戦闘準備は着々と進んでいった。

*   *   *   *   *
99カコイイ名無し:02/09/19 22:19 ID:oPy1RK2d
 学園に寝泊まりするようになって数日、生徒の中には体調の不良を訴える
者も多くなってきた。
「愛ちゃん大丈夫? 顔色悪いよ」
生徒会副会長の石川梨華は、同じく書記を務める高橋愛の具合が良くないこ
とに気付いていた。気丈に頑張る高橋を前にその事を切り出しかねていたの
だが、ついに高橋の足元がおぼつかなくなるに至り、強がりのレベルを越え
ていると石川は判断した。
「無理しないで少し休んでなよ」
「大丈夫やよ〜」
高橋は机を支えに立ちあがり、生徒達に配るプリントの束を持ち上げようと
した。その拍子、高橋は紙吹雪をまき散らして派手に倒れた。
「キャーッ!!」
石川の劇的な悲鳴が学園中に響き、近くにいた保田が真っ先に駆けつけた。
石川は両手を胸の前で組み合わせて、テレビのヒロインのように悲鳴をあげ
続けていた。彼女が左膝を折り曲げ飛び跳ねているのを見て保田は苦笑した。
100カコイイ名無し:02/09/19 22:20 ID:oPy1RK2d
 診察を終えた養護教諭の石井リカは眼鏡を外して目頭を押さえた。
「先生、愛ちゃんは大丈夫なんですか? 必要なら私の血を使ってくださ
い!」
鼻息荒く袖をまくり上げる石川を見て、石井は吹き出しそうになるのを堪え
た。
「どうやら栄養失調ね」
「え〜、そんなの変です。必要な分の食事はちゃんと支給されているはずで
す」
「石川が高橋の分まで食べちゃったんじゃないの?」
保田がからかうと、石川は首を激しく振って否定した。
「石川は小鳥のように小食なんですよ。……でも、そう言えば」
「何か思い当たる節があるの?」
「高橋さんってみんなと一緒に食事をするのが苦手だって、いつも一人で食
べているんです。でも、食べているとこ見たこと無いから、ひょっとしたら……」
「う、うーん」
「目を覚ましたわ」
101カコイイ名無し:02/09/19 22:21 ID:oPy1RK2d
「高橋さん、具合はどう?」
「ああ、ごめんなさい。大丈夫やよ」
「あんた、なんで食事を摂らないのよ」
「あの〜、の〜」
高橋はしばらく掛け布団のシーツを揉んで悩んでいたが、やがて顔を上げて
言った。
「私ってば捨て犬とか見ると放っておけなくってぇ、みんなに内緒でのぉ、
体育館の地下で犬っ子さ飼っとるんやよ」
石川は高橋のけなげさに打たれ、その両手を自分の手で包み込んだ。
「それで自分の食事を犬にあげていたのね。何でもっと早く言ってくれない
の。犬の餌ぐらい、私たちでなんとかするのに」
「あなたは高等部一学年のまとめ役なのよ。体調の管理も大切な仕事なの」
保田の方はやや呆れ気味に説教するが、その目には優しい光が宿っていた。
「ワンちゃんに餌さあげなきゃ……」
ベッドから起きあがろうとする高橋を石川が止めた。
「大丈夫、餌ならちゃんと私があげるから、愛ちゃんはもう少し休みなさい」
「はい、すみません」
高橋は呟き、程なく静かな寝息をたて始めた。
102カコイイ名無し:02/09/19 22:22 ID:oPy1RK2d
 石川は犬の餌を入れた皿を片手に体育館の地下へ入っていった。保田も興
味に駆られてついて行く。体育館の地下は舞台の脇の小さな入口をくぐった
先で、保田はもとより石川ですらそんな場所があるとは知らなかった。
「さぁ、ワンちゃん、ごはんですよ〜」
石川は壁に電灯のスイッチを探しながら暗がりに向けて声をかけた。だが何
か様子が変だ。妙な胸騒ぎを覚え、保田は刀の柄に手を伸ばす。石川は素早
く壁をまさぐり、指先に金属の冷たい感触を認める。
「あった!」
スイッチを入れると蛍光灯がブーンという音と共に瞬きながら灯る。
「ヒッ!」
照らし出された光景を見て、石川は思わずみっともない悲鳴をあげてしまっ
た。そこには獰猛そうな大型犬が何十匹と放し飼いにされ、口から涎を滴ら
せながら貪婪な眼差しで保田と石川を睥睨していた。
「ぜ、全部拾ってきたのかしら……」
「これをワンちゃんと呼ぶのは抵抗があるわね」

*   *   *   *   *
103カコイイ名無し:02/09/20 22:37 ID:LV2AI8cM
 裏門の橋を落とし、校庭に障害物を配置して、さらに西門にバリケードを
作る作業は矢口の受け持ちだった。
「ツルハシ流の奥義を見よ!」
矢口が小さな身体に見あわぬ大ツルハシを振るって鉄筋コンクリートを砕く
と、別の三つの声が唱和する。
「私たちだって負けません」
矢口に手を貸す園芸部員、戸田鈴音、木村麻美、里田舞の三人は、矢口に負
けず劣らずの働き者であった。矢口が堀を広くすれば、戸田が堀の底にサッ
カーゴールのネットを張る。木村がバリケードを土嚢で固めれば、里田が一
部を崩れやすく作ってその下に逆杭を穿つ。これに吉澤が加わり、弓弦を引
き、武器を研ぎ、落とし穴、物見やぐら、果ては投石機まで作り始める。吉
澤は負けず嫌いでガムシャラに働くが、とうてい園芸部にはかなわない。
104カコイイ名無し:02/09/20 22:39 ID:LV2AI8cM
「みんな〜、麦茶ができたよ〜」
石川のかん高い声に五つの顔が振り返る。汗まみれ、泥まみれの五人は争う
ように紙コップを口に運ぶ。
「いや〜、あんたたち、ホントによく働くね〜」
「そうでしょ? 我が学園の誇る園芸部『カントリー』の三人には、これま
でも学校中の営繕全般を請け負っていただいていたのです」
石川は自分が誉められでもしたかのように得意顔であった。
105カコイイ名無し:02/09/20 22:39 ID:LV2AI8cM
「見てよ、このノボリ旗。オイラとカントリーが作ったんだよ」
「カッケー! でも何が書いてあるんだ?」
「あ、この『文』ってのは学校ですね?」
「正解。で、この六つの○がオイラ達」
「チョット待てよ。一つ足りないじゃないかよぅ」
「キャハハハハ、この△がよっすぃーだよ〜」
「なにっ?」
吉澤はむくれて横を向いた。
「でも矢口さん、せっかく綺麗に作ったのに、こんな所に墨を垂らしちゃい
ましたね」
「あ、その黒いのは石川だよ、キャハハ〜」
「ひっど〜い」
矢口とカントリーの三人は声を立てて笑った。吉澤もつられて笑った。
106カコイイ名無し:02/09/20 22:41 ID:LV2AI8cM
「ところで石川は今、何やってるの?」
「え? 石川は……生徒会副会長として、全体的な統括というか、まとめ役
というか」
「ヒョー、だってスケジュールとか編成は圭ちゃんがやっちゃったんじゃん。
梨華ちゃん仕事ないんじゃないの?」
「そんな〜。だって現にこうして皆さんに麦茶を入れたり……」
石川を見る矢口の目が三白眼になった。
「了解、分かった。じゃあ石川は施設の管理をやってよ」
「は、はい。でも、いったい何を……?」
「詳しくは園芸部の三人に聞いて。四人揃って管理課だよ。じゃあ、これ」
矢口は大きなツルハシを石川に手渡した。石川は予想外の重さによろけてし
まう。
「じゃあ、あとは石川に任せたよ〜」
ニコやかに走り去る矢口と吉澤。石川の周りには逞しい園芸部の三人が集ま
ってくる。
「そんな〜。私、こんな重い物持てませんよ〜」

*   *   *   *   *
107名無し保全中。。。:02/09/21 00:55 ID:ITM0nwsZ
管理課も登場。うまい。
108カコイイ名無し:02/09/21 22:46 ID:1FwQVM/e
 誰に言われたわけでもなく、加護は朝夕哨戒に出かけるのが日課となった。
他の場所を早足で回って来ると、いつもの河川敷に急いだ。加護の予想通り、
今日もまた辻が花に水をまいていた。
「まったく、言っても聞かへんからなぁ」
加護は苦笑いしながら土手を下って行った。それに気付いた辻は手を振って
呼んだ。
「あいぼ〜ん」
「のの、また勝手に外出したんやな。危ないやんか」
「大丈夫れす。あいぼんが側にいてくれるのれす」
109カコイイ名無し:02/09/21 22:47 ID:1FwQVM/e
辻の無邪気な笑顔に加護の心は痛んだ。ここ数日で二人の仲は急速に深まっ
ていたが、学生とあまり親しくなるのは好ましくない。それは加護にも分か
っている。それでも他の誰よりも学生に近い年齢の加護にとって、同じ年代
の友人を持つ誘惑は何とも耐えがたかった。加護の心でせめぎ合う二つの感
情が複雑な渦を成して、彼女を苦悩の中に引きずり込んでいく。
「どうしたんれすか? 元気ないのれす」
加護の葛藤を知ってか知らずか、辻は加護の顔を覗き込んで静かに微笑む。
昨今味わった試しのない温もりに触れ、加護は我知らず辻の肩をひしと抱き
しめる。少しびっくりした辻だが、加護の身体にそっと手を回して支える。
「あいぼんは甘えんぼさんなのれす」
110カコイイ名無し:02/09/21 22:49 ID:1FwQVM/e
互いの心臓が共鳴して次第に激しいリズムを刻み始める。加護の身体が一瞬
震え、そのまま辻を草むらに押し倒す。何が起こったのか分からない辻は仰
天して激しくもがく。
「シッ! 静かにするんや」
「なんれすか、どうしたのれすか」
加護は黙ったまま辻の頭を低く押さえつける。その時、どこからか低い轟き
が辻の耳にも届き、次第に大きくなるのが分かった。
 堤防道路を三台のバイクが通り過ぎる。件の盗賊集団に間違いない。
「もう来おったか……」
「あいぼん、怖いのれす」
111カコイイ名無し:02/09/21 22:50 ID:1FwQVM/e
辻に指摘され、自分が厳めしい顔をしていたことに気付いた加護は、できる
限り優しい顔を取り繕って言った。
「のの、しばらくここに隠れてから川沿いに帰るんや。ウチはもう行くわ」
「あいぼん……」
「心配あれへん。それからな、しばらく水まきはウチがやるわ」
「ののも来るのれす」
「ダメや。大丈夫、ののの花畑をウチが枯らす訳ないやろ」
「ののとあいぼんの花畑なのれす」
「そやったな……じゃあ、ウチ行くわ」
112カコイイ名無し:02/09/21 22:50 ID:1FwQVM/e
加護は低い姿勢で走り出した。途中何度も何度も辻を振り返る。そのたびに、
辻は捨てられた子犬のような視線を加護に投げかけてくる。引き返したい衝
動を振り切り、加護は学園めがけてひた走った。最初の角を曲がったとき、
誰かにぶつかりそうになって息を飲む。
「ごっちん!」
後藤の仏頂面を見上げ、加護は体面を失った。
「見てたんか、みんな」
後藤は無表情で何も言わなかったが、答えは加護にも分かっていた。加護は
逃げるようにその場を後にした。

*   *   *   *   *
113カコイイ名無し:02/09/21 22:59 ID:1FwQVM/e
+++++

  ついに敵が現れ、物語は急速に進展……するのかなぁ。

  >>107 カントリーは登場させようと決めていましたが、
  管理課が出るのは予定外でした。蛇足気味の気もしましたが
  石川のでしゃばりが得点に結びついたかな。

+++++
114名無し募集中。。。 :02/09/22 08:23 ID:gH8S8j/w
いよいよ敵とのバトル開始か?
115カコイイ名無し:02/09/22 22:35 ID:LXeLUS2k
 加護が敵の尖兵の到来を告げると学園中に緊張が走った。詰め所にいた安
倍と保田は対策に追われる。
「おそらく敵の偵察部隊だべ。にわかに攻め入ってくるはずはないから、普
段通りにすれば大丈夫だべさ」
「敵を油断させるため、私たちの存在は隠した方がいいわね」
「西門方向に敵影やよ〜」
「早いべ。各員警戒配置、訓練通りやりまっしょ」
伝令が飛び、当直兵がそれぞれの部署で息を潜める。
116カコイイ名無し:02/09/22 22:36 ID:LXeLUS2k
 はたして、西門にヘッドライトが三つ灯り、三台のバイクに乗る三人の男
が姿を見せた。男達はバリケードの張られた西門を不審そうに眺めて、何や
ら囁きあっている。
「ヒョー、お前ら、ようやっとおいでなすったな。だけど私達がいるからに
は好きにはさせないってんだ! 何人でもまとめて来やがれ」
117カコイイ名無し:02/09/22 22:37 ID:LXeLUS2k
「あのバカ!」
後先考えず敵を挑発する吉澤を、保田が捕まえて物影に引っ張り込む。
「何しやがんでい」
「私たちの存在が敵に知られちゃうじゃないの!」
「もう遅いみたいね」
遅れて到着した後藤の指摘通り、偵察に来た三人は慌ててバイクに飛び乗り
走り去って行った。
118カコイイ名無し:02/09/22 22:38 ID:LXeLUS2k
「ウチ、あいつらが通る道へ先回りする方法知っとるで」
「案内して」
「おぅ、私も連れてってくれよ」
加護は後藤と吉澤を連れ、曲がりくねった裏路地を通って河川敷に急いだ。
土手の草むらに伏せてバイクの通過を待つ。その時、吉澤は柄にもなく殊勝
なことを口にした。
119カコイイ名無し:02/09/22 22:39 ID:LXeLUS2k
「ごめんよ。私、調子に乗っちゃって」
「ここで敵を倒して失敗した分を取り返すことだね」
冷静に返す後藤は、幾分口調を和らげて続けた。
「それに私、キライじゃないよ。よし子のそう言うバカなとこ」
「え? そう? いや〜まいったな〜。誉められているのかな〜」
(アホや、こいつ)
照れる吉澤を冷たい目で見ながら加護は思った。
120カコイイ名無し:02/09/22 22:40 ID:LXeLUS2k
 先ず音が聞こえ、次いで灯りが三つ見えた。
「私とよっすぃーで行く。加護はここに残って万一取り逃がしたら捕まえて」
言うが早いか後藤は飛び出し、吉澤も遅れず後を追う。
 ヘッドライトの先に人影が立ちふさがる。男達の乗る三台のバイクは一旦
停止して様子を窺うが、人影の正体を知るやアクセルを吹かして猛然と迫っ
てきた。
121カコイイ名無し:02/09/22 22:41 ID:LXeLUS2k
「よし子は右を!」
後藤は左と中央のバイクの間に立ち、すれ違いざまに抜刀二閃する。吉澤は
右の一台に飛びかかり、運転者ごと土手の下に転がり落ちた。後藤の脇を抜
けた内の一台は吉澤と逆の土手の糊面を下りながら三回転して炎上した。そ
して最後の一台が加護に迫る。加護は震える手で抜き身を突き出すが、恐怖
で思わず目を閉じてしまう。ままよ!
122カコイイ名無し:02/09/22 22:43 ID:LXeLUS2k
 その時、バイクは横倒しになり、火花を散らして回転しながら加護の脇を
通り過ぎていった。後藤に肩を叩かれ、ようやく我に返る加護。強ばった指
を一本一本剣の柄から剥いでもらわなくてはならなかった。
 一方、土手の下の吉澤は未だに賊の頭を張っていた。こちらも後藤に止め
られるまで治まらなかった。

*   *   *   *   *
123名無し募集中。。。 :02/09/23 07:10 ID:drvf6NNX
ついにバトル開始!
よっすぃ〜たら血の気が多いんだから〜。「相手の出方を見る」ってのも
あるんだよ。

そうそう、黒澤監督って自分が監督した「一番美しく」という映画に主演した
美人女優とケコンしたんだよね。うまくやりやがって〜。映画監督が女優と
ケコンするのって、プロデューサーと歌手がケコンするのと似ているんじゃない?
そんで嫁さんの名前がなんと「矢口」なんだよね。芸名だけど。
124カコイイ名無し:02/09/23 22:20 ID:1klk6TXh
+++++

  >>123 吉澤が暴走するのはシナリオ通りでしたが、後藤の前で
  神妙になるのは作者にとっても予想外でした。
  黒澤監督が矢口さんと結婚したって? じゃあ私も・・・

  (〜^◇^)<ィヤ〜ダよ、そんなの〜

+++++
125カコイイ名無し:02/09/23 22:21 ID:1klk6TXh
「一人捕まえるのは二人斬るのと同じくらい価値があるべ。ごっちんもよっ
すぃーもよくやってくれたよ。加護ちゃんもよくあんな道知ってたね。感心
したべ」
安倍に誉められ吉澤などは単純に喜んでいるが、加護の方は自分の不甲斐な
さに気落ちした。また、後藤の口から辻のことが漏れないか気がかりでもあ
ったが、何故か後藤はその件について言及しなかった。
126カコイイ名無し:02/09/23 22:22 ID:1klk6TXh
「キャハハ、捕まえたヤツが口を割ったよ〜。アジトが埠頭にあるってさ〜」
「斥候が戻らないとなれば、敵さんもこっちが準備しているって気付くでし
ょうね」
「よーよー、こっちが先手を打てばいいんじゃんか」
「危険すぎるよ。カオリは反対」
「アジトを攻め切れれば御の字、忍び込んで情報を得られるだけでも価値が
あるべ」
「道案内を石川に頼んで、オイラが行くよ」
急に名を出された石川が仰天する。
「え、石川が行くんですか? 無理無理、無理です。埠頭の辺りは特に危険
なんですよ」
「まあ、石川さんは生徒会副会長といってもお飾りのようなモノですからね」
「何ですって〜!」
「新垣! またお前、どこから入ってきたんだよ〜」
矢口がまた新垣を掴まえて追い出しにかかる。
127カコイイ名無し:02/09/23 22:22 ID:1klk6TXh
「待って。どこにでも当たり前のような顔で入りこむのは一種の才能だべさ。
偵察任務は新垣に頼むべ」
「ちょっと、オイラこいつと一緒に行くの?」
「私も行きます! 私だってちゃんと役に立つんだから」
石川が手を挙げた。
「私も行く」
「ウチも」
後藤が、次いで加護が前に出る。
「待つべ。加護ちゃんは残れ」
「そんな……」
「ヒュー、残念だったな。じゃ、私で決まりだ」
安倍に止められた加護は意気早る吉澤を恨めしそうに見上げた。
128カコイイ名無し:02/09/23 22:23 ID:1klk6TXh
「大変やよ〜。捕虜が、捕虜が!」
高橋が血相を変えて飛び込んできた。一同は捕虜が収監されている教室に急
いだ。教室前には生徒達が群をなしている。捕虜の警護を任じられた生徒会
の役員が必死で制止するが、多勢に無勢であった。
「待て待て! いったいどうしたって言うんだ」
吉澤が人垣を掻き分けて前に出る。
「私たちはこいつらにひどい目にあっているんだ」
「やられた分をやりかえして何が悪い」
生徒達は口々に憤りを撒き散らした。
129カコイイ名無し:02/09/23 22:24 ID:1klk6TXh
「みんな、抑えるべ。この人とは正直に話したら許してやるって約束したん
だ。だから、許してあげなきゃならないんだよ」
安倍がなだめに出るが生徒達は治まらない。安倍達と生徒達が揉み合う中、
生徒達の中から一人の年老いた女子高生が出てきた。
「中澤のオババ」
生徒達の中から声が漏れる。オババは野盗に苦しめられ続け、心身共に絞り
尽くされた女学生の成れの果てである。彼女は震える手に小さなナイフを持
って、捕虜のいる教室にヨタヨタと入っていった。やせ衰えた彼女の目に宿
る暗い炎を覗き込み、安倍ですら彼女を止めることはできなかった。

*   *   *   *   *
130名無し募集中。。。:02/09/23 23:19 ID:lRryyW0M
裕ちゃん……。
131名無し募集中。。。:02/09/24 01:50 ID:U/OjYzlb
何故だろう・・・シリアスなシーンと分かっているのに、制服を着た中澤と想像
するだけで、笑いそうになってしまうのは・・・
132カコイイ名無し:02/09/24 23:19 ID:6QnzNyxq
+++++

  >>130 >>131 言いたいことは分かります。でも…

  他にいなかったんですよ〜。( `.∀´)に2役ってのは無茶だしさ〜

+++++
133カコイイ名無し:02/09/24 23:20 ID:6QnzNyxq
 その晩、吉澤が運転する自動車が、矢口、後藤、石川、新垣を乗せて出発
した。
「よっすぃーの運転なんて大丈夫かよ〜」
矢口の心配をよそに、吉澤の運転は非常に安定しており、目的の埠頭まで何
の問題もなく到着できた。
「私、ちょっと出かけてきますね。もし騒動が起こるようなら抜け出します
から、私のこと気にしないで攻めて下さい。帰りは自分で帰ります」
「おい、ちょっと……」
新垣は矢口の制止も聞かずに闇の中に消えていった。
134カコイイ名無し:02/09/24 23:22 ID:6QnzNyxq
「まったく、掴み所のないヤツだなあ」
「ま、本人がああ言ってるんだから気にせず攻めよっか」
「おー、ごっちん、完全に攻める気でいるね。カッケー」
「ここで一人でも討てば後々楽になる」
「キャハハ、この三人が揃って攻めない訳ないじゃん」
「私は……?」
「梨華ちゃんはここにいてよ。万一こっちに敵が逃げてきたときのために私
の脇差し預けておくよ」
「よっすぃー……」
「それじゃあ円陣を組もう」
矢口を中心に四人が集まる。
「頑張っていきま〜っ」『しょい!』
声を合わせ、心が合わさる。決意の眼差しが交叉して信頼の絆で結ばれる。
135カコイイ名無し:02/09/24 23:24 ID:6QnzNyxq
 三人は見張りの立つ倉庫を迂回して裏に回り込む。吉澤が脇に下げたズタ
袋から何やら取り出して並べる。
「火炎瓶じゃないか。どうしたんだ?」
「ヘッヘ。ごっちん所の紺野って言ったっけ? あいつが出がけに渡してく
れたんだよ」
「紺野が?」
「あいつの真似だけはできないよ。リーダーになったその日から毎晩遅くま
で兵法書とか戦史とか、図書館にある分厚い本を片っ端から読んでる。あい
つはスゴイよ。ごっちんは見る眼があるね」
「そ、そう?」
後藤は曖昧に答えながら、紺野の努力から目を逸らしていた自分を恥じた。
136カコイイ名無し:02/09/24 23:26 ID:6QnzNyxq
 吉澤が倉庫の壁の高い位置にある明かり取りから正確に火炎瓶を投げ入れ
る。それを合図に矢口と後藤が入口に迫り、寝ぼけ眼の見張りを倒す。後藤
が倉庫の扉をこじ開け、矢口が火炎瓶を続けざまに投げ入れる。倉庫の中で
混乱の声が上がる。押っ取り刀で飛び出す野盗どもを、後藤の剣と矢口のツ
ルハシが叩き伏せる。そこに吉澤も加わり、辺りは酸鼻極まる血戦の巷とな
った。
137カコイイ名無し:02/09/24 23:27 ID:6QnzNyxq
 車に残った石川が見守る中、倉庫に火の手が上がった。夜空を舐めるチロ
チロとした赤い舌を見るうちに、石川の鼓動が早まっていく。やがて、炎を
背にした人影が現れる。
「矢口さん? 後藤さん? よっすぃー?」
だが、それは、難を逃れた賊の一人だった。凶悪なその目が炎を受けて赤い
光を放つ。
「キャーッ!!」
石川は吉澤から預かった脇差しを構え、悲鳴と共に突きかかる。はたして切
っ先は賊の腹を破り、炎と同じ赤い血が石川を染める。
138カコイイ名無し:02/09/25 22:08 ID:FBZShvy6
 敵が統制を取り戻し始めていると知り、矢口は退却を命じる。血の気が治
まらぬ吉澤の耳を引っ張り、すでに退却し始めた後藤の後を追う。車にたど
りついた矢口は、当惑している様子の後藤を問いただす。
「どうしたの、後藤」
「石川が……石川がいない」
「え? ちょっと、どこいったの」
「ヒョー、あそこにいるの、梨華ちゃんじゃない?」
139カコイイ名無し:02/09/25 22:09 ID:FBZShvy6
吉澤の示す方向を見ると、炎を背に激しく剣を振るう影があった。混乱した
敵を挑発して死に物狂いで立ち向かっていく。
「あいつ、何やってんだよ〜」
矢口が走り寄り石川を後ろから掴まえる。返り血でドロドロの身体は滑りや
すかった。
「このド糞野郎ども! 豚臭ぇ尻なますに刻んでやるから出て来やがれ!」
石川は普段の上品さからは想像もできないほど荒れていた。小さな矢口が引
っ張って引っ張りきれるものではない。矢口と石川が行きつ戻りつしている
間に貴重な数秒が失われた。
140カコイイ名無し:02/09/25 22:10 ID:FBZShvy6
“パンッ!”
乾いた音が響き、石川の背中から矢口がずり落ちた。火薬の匂いが立ちこめ
る。後藤と吉澤が駆け寄る。足元に転がる矢口を見て、石川が呆然と立ちつ
くす。吉澤が矢口を抱え、後藤が石川を引きずって車に戻る。ドアが閉まる
と同時にホイールを軋ませて車が飛び出す。
141カコイイ名無し:02/09/25 22:11 ID:FBZShvy6
 車内は暫し沈黙に覆われていた。ハンドルを握る吉澤は前を凝視し、後部
座席の後藤は抱えた矢口の傷を見ながら、後ろの追っ手を気にかけていた。
石川はただ黙って、自分の膝の上の握り拳を見つめて震えていた。
「どうしたって言うんだよ! 梨華ちゃん!」
運転する吉澤が突然大声で問うと、助手席の石川は萎縮した。後部座席から
聞こえる矢口の呻き声が次第に弱くなっている。
「黙ってちゃ分かんないよ! 現に矢口さんが撃たれているんだ。何とか言
えよ!」
吉澤のいつにない怒りに、石川がようやくその重い口を開いた。
142カコイイ名無し:02/09/25 22:11 ID:FBZShvy6
「私……燃える炎を見ていたら何が何だか分からなくなってしまって……」
荒くなる呼吸を何とか鎮めようと努力しながら石川は続けた。
「火が……火がみんなを焼いたんです。福田会長も、石黒さんも、市井さん
も、みんな火を点けられて生きながらに焼かれたんです、私たちの見ている
前で!」
石川は顔を手で覆って泣きだした。吉澤が見ると、石川の右腕に血が滲んで
いる。
143カコイイ名無し:02/09/25 22:13 ID:FBZShvy6
「梨華ちゃん、怪我してるじゃん」
石川は吉澤に掴まれた腕を反射的に引っ込めた。その勢いで袖の裂け目が広
がる。
「梨華ちゃん、それは……」
石川は素早く隠したが、吉澤は見逃さなかった。裂け目から覗いた石川の腕
には惨たらしい火傷の痕が刻まれていた。石川もまた炎の洗礼を受けた一人
だったのだ。吉澤はそれ以上彼女を責められなかった。
144カコイイ名無し:02/09/25 22:14 ID:FBZShvy6
 後藤に支えられながら、矢口はうわ言のように呟き続ける。
「石川、怪我は軽いの? よかった。ところで、裏門の橋、もう少しで落ち
るんだけどさ、カントリーに任せて大丈夫かな……」
「他人の心配はいいよ。今は喋らない方がいい」
「に、新垣のヤツ……大丈夫かなぁ……オイラ、最後まで信じてあげられな
かったよ」
少し寂しそうな顔をして、矢口はゆっくりと目を閉じた。
「ヤグッつぁん! ヤグッ……!!」
後藤の悲痛な呼び声も今は虚しかった。

*   *   *   *   *
145名無し募集中。。。:02/09/26 08:18 ID:cDX0DdrC
ヤグぅ〜〜(T△T)
146諸君!!:02/09/26 21:06 ID:FpewZ823
      r ‐、
      | ○ |         r‐‐、
     _,;ト - イ、      ∧l☆│∧
    (⌒`    ⌒ヽ   /,、,,ト.-イ/,、 l   ハンパな夢の一カケラがフイに誰かを傷つけていく!  
    |ヽ  ~~⌒γ⌒) r'⌒ `!´ `⌒)    臆病な僕たちは目を閉じて離れた!
   │ ヽー―'^ー-' ( ⌒γ⌒~~ /|    君に言いそびれた言葉がポケットの中でまだ残っている!
   │  〉    |│  |`ー^ー― r' |    指先に触れては感じる!懐かしい痛みを!!
   │ /───| |  |/ |  l  ト、 |
   |  irー-、 ー ,} |    /     i
   | /   `X´ ヽ    /   入  |
147カコイイ名無し:02/09/26 22:35 ID:omk1RXc1
 学園の裏に共同墓地がある。先の襲撃で失われた生徒達がその地下に永眠
している。そこに新しい土饅頭ができた。
「あ、ああ、ああぁぁぁぁ……」
石川は矢口の墓を掻き抱いて嗚咽を漏らした。涙に濡れた顔は泥まみれにな
った。
148カコイイ名無し:02/09/26 22:36 ID:omk1RXc1
 学園中の誰もが泣いていた。しかし、安倍達には悲しむ心もあればこそ、
泣くゆとりなどなかった。
「ピンチのときに役立つって圭ちゃん言ってたよね」
安倍は傍らで俯く保田に言った。安倍にしても保田にしても、数々の戦場で
多くの戦友を失ってきた。しかし、だからと言って永遠の離別に慣れること
は決してなかった。ただ、実務に没頭することで悲しみを力に変える技術を
学んでいるだけだ。
「新垣の報告によると敵は近郷の仲間に檄を飛ばしているそうよ。万一呼応
する軍があれば二、三日の内に戦力を増強する公算が大きいわ」
「これからがピンチだべ」
149カコイイ名無し:02/09/26 22:38 ID:omk1RXc1
 一方、にわかに悲しみを乗り越えられない不器用な者もいた。吉澤は地に
伏す石川を蹴飛ばして、泣くな泣くなと怒鳴りつけた。石川の泣き顔を見て
いると、自分も涙がこみ上げてくるのだ。ついに感極まった吉澤は駆けだし
て、校舎の中に走り込んでいった。後藤などは彼女の不器用さが羨ましくさ
えあった。
150カコイイ名無し:02/09/26 22:38 ID:omk1RXc1
「おーい、見ろー!」
吉澤は矢口の作ったノボリ旗を背負って、矢口が作った物見やぐらに駆け上
った。やぐらの屋根に這い上がり、旗竿を突き刺した。
「見ろー!!」
吉澤の叫びは石川に向けられたものか、悲しむ自分に向けられたのか、それ
とも天に届けと叫ばれたものなのか。旗は風をいっぱいにはらみ、在りし日
の矢口を思わせる元気さではためいた。ひるがえるノボリを誰もが真摯な思
いで見上げた。

*   *   *   *   *
151カコイイ名無し:02/09/26 22:47 ID:omk1RXc1
+++++

  >>145 矢口はねぇ、怪我しても生かすつもりだったんだよ。
  でも、あの死にっぷりがよくってさ、生かせなくなっちゃって。
  上手すぎて墓穴を掘るってのはヤグらしいって言えるかなぁ。
  124で振られた腹いせじゃないよ。

  >>146 う〜む、ブラックホールとペンタゴンが
  ケジラミストリーとは…取り乱した表現かな?

+++++
152名無し募集中。。。:02/09/27 00:42 ID:1YNQtDVz
取り乱してageちゃいましたすんません。
ANNS聞きながら読んでたらまた悲しくなってきた……。
仇は取ってくれよ!
153:02/09/27 01:39 ID:P8/Zzbzs
誰にでもレスするなんて、カコイイね。
バトロワ好きもからんで、石川の場面は、妙に印象深い。
矢口のサヨナラも、現実のユニット編成のこともあって寂しさを誘うね。
154名無し募集中。。。:02/09/27 06:34 ID:lbKMd7I2
カン娘。に入り立ての頃のあさみって、加東大介に似てね?
155カコイイ名無し:02/09/27 22:35 ID:wlKUfZJj
 やぐらの上の吉澤が右手を目の上にかざす。目を細めて遠くを見ると、学
園に続く大通りの果てに漆黒のバイクが一台、二台と現れ、やがてそれが一
〇台、二〇台と膨れあがった。
「来た! 来た来た、来やがった! ヒョッホー!」
 吉澤の声を聞き、安倍が矢継ぎ早に指示を出す。
「正門を閉ざせ! 吉澤は矢口に代わって裏門へ行き橋を落とせ! 圭ちゃ
んが西門をフォローして!」
156カコイイ名無し:02/09/27 22:36 ID:wlKUfZJj
 墓地にいた全員が一斉に駆けだす。ただ一人、石川だけが矢口の墓の前を
離れられないでいた。石川は自責の念に押し潰され自暴自棄になっていたの
だ。炎の記憶も新たに、自分に関わって死んでいった幾多の魂を思って泣き
続けた。
“ドンッ!”
何かが矢口の墓に突き立てられた。石川はハッとして顔をあげた。
「これ、矢口さんのツルハシです。昨日の現場に落ちていました」
新垣だった。
「矢口さんが石川さんに託したツルハシです」
それだけ言うと、新垣は校舎の方に去って行った。
157カコイイ名無し:02/09/27 22:50 ID:wlKUfZJj
(……じゃあ、あとは石川に任せたよ〜……)
石川の胸に、あの日の矢口の言葉がよみがえる。石川は顔を上げ一度力強く
頷いてからツルハシの柄に手をかけた。石川の肩には余る重みかもしれない。
だがそれは矢口のこれまで負ってきた重みであり、石川が託された責任の重
みなのだ。手向けられた花束からタンポポの一輪をそっと拾い上げ、石川は
風雲渦巻く学園に戻って行った。

*   *   *   *   *
158カコイイ名無し:02/09/27 23:02 ID:wlKUfZJj
+++++

  >>152 取り乱す気持ちも分かります。私もこのときは
  慌てましたよ。だって矢口がステージアウトしたら誰が
  ツッコミするんですか。案の定、これ以降は脱線しっぱ
  なしです。

  >>153 バトロワって、羊の小説のかな? ひょっとして
  類似した描写がありましたか? 原作のこのくだりは
  もっと激しくて重いのですが、それをコンバートする
  ことがどうしてもできませんでした。心残りのシーン
  ですが、印象に残ってくれたのなら失敗でもないかな。

  >>154 う〜む、言われてみれば…。とは言え、今更
  キャストを変えるわけにもいかず、ってファンに叩か
  れるよ!

+++++
159名無し募集中。。。:02/09/28 01:38 ID:aWoMbeHs
>157
出来過ぎみたいだけど、
ANNSの録音聞いてたら今ちょうどタンポポが……・゚・(ノд`)・゚・
160名無し募集中。。。:02/09/28 22:48 ID:KCwt779Q
+++++

  >>159 「やじろべえ」苦戦してるって聞くし、
  まさに風雲渦巻く状況ですねぇ。でも、石川は
  成長のチャンスですよ。矢口の心意気を忘れるな。

+++++
161カコイイ名無し:02/09/28 22:50 ID:KCwt779Q
+++++

  名無しで書いて、しかも上げちゃった。
  動揺してるのかなあ。

+++++
162カコイイ名無し:02/09/28 22:51 ID:KCwt779Q
 攻め手が校門の前に集まる。固く閉ざされた門扉、突き出た逆杭、その向
こうで身構える決死の形相の生徒達を見て、盗賊どもは学園の決意を察する。
バイクのエンジンを吹かしていたリーダーらしき人物が手を振って何やら指
示を出す。賊の一団は二手に分かれて塀を巡る。飯田は加護を連絡に走らせ
る。
163カコイイ名無し:02/09/28 22:51 ID:KCwt779Q
「敵は二手に分かれて西門と裏門に向かったで。西に一五台、裏には二五台
や」
運動場の校舎寄りに設えられた指令台に陣取った安倍に加護が報告する。
「ライフルは?」
「三丁」
「じゃあ、圭ちゃんとよっすぃーにも知らせて。ライフルのことも忘れない
で」
「ラジャー」
加護は西門に向かって自転車をこぎ出した。
164カコイイ名無し:02/09/28 22:53 ID:KCwt779Q
 加護の報告を受けてから程なく、西門に敵影があった。狭い西門は木材で
できたバリケードで完全に塞がれ、その前に堀を作って水を張ってあった。
賊の一人がバイクを降りて、堀に木の棒を突き立てて水深を測る。
「弓箭兵!」
保田の合図で弓道部とアーチェリー部の精鋭四人が前に出る。毎年全国大会
上位を誇るアーチェリー部では村田めぐみ、齋藤瞳、大谷雅恵の三人が今年
も好成績を収めている。一方、柴田あゆみは卓越した才能で、これまで大会
と縁がなかった弓道部を一躍全国レベルに押し上げた。新進の弓道部に話題
をさらわれ、アーチェリー部は愉快ではいられなかった。そのような訳で柴
田と村田ら三人との間には確執があった。しかし、合同での訓練を通して四
人は次第にうち解けていった。保田が間に入ってとことん話し合わせた結果
わだかまりが消え、互いに認め合いライバル視することで力を増していった。
165カコイイ名無し:02/09/28 22:54 ID:KCwt779Q
「射て!」
保田が手を振って合図すると四本の矢が同時に空を切り、四本とも標的の胸
に刺さった。水深を測っていた男は物も言わず倒れた。
「やった!」
村田、齋藤、大谷、そして柴田さえも一緒になって喜んだ。
「あんたたち、やったじゃない。最初の手柄よ」
保田が誉めると齋藤が得意げに鼻を鳴らした。
「現代によみがえるロビン・フットってところですか?」
「え〜、でもリンゴを射落とす自信はないですよ。まあ、メロンぐらいなら
何とか」
柴田の意見に他の三人も笑いながら頷く。保田はがっかりした顔で一言。
「あんたたち、根本的に間違ってるわよ」

*   *   *   *   *
166名無し募集中。。。 :02/09/29 13:40 ID:9aHfZsma
>>69で書いた心配が現実になっちゃったよ〜、やぐっちゃ〜ん。うぇ〜ん。
>>150は脳内で「侍のテーマ(トランペットバージョン)」が鳴り響いたよ。
>>154あさみちゃんにちょっと失礼では?と思いつつ否定はできないかな?
そういや加東大介の息子さんと黒澤監督の長女和子さん(「夢」などで衣装担当)は
ケコンしているんだよね。ちなみにソフィアとケコンした黒澤優は林寛子(女優)と監督長男
の久雄氏(「夢」などでプロデューサーを担当)との間に生まれたんだよね。
167カコイイ名無し:02/09/29 22:28 ID:CCIfTZrU
+++++

  >>166 そうなんです。この大きな流れは作者にも
  止められませんでした。まさに無念としか言いようが
  ありません。トランペット、私も脳内で聴きながら
  書きましたよ。
  しかし、内部の人間関係に詳しいですねぇ。ひょっとして
  関係者?

+++++
168カコイイ名無し:02/09/29 22:29 ID:CCIfTZrU
 裏門の橋を落とす作業は難航していた。園芸部の三人が中心になっている
が、矢口を失って作業効率は悪化した。吉澤が生徒に混じって奮闘する所に
加護が敵の襲来を告げた。
「何しとるん。早よ橋落としてえな」
「見りゃ分かるだろ。今やってるって」
そんなやりとりの間に、早くもどこからかバイクの音が聞こえ始める。
「こりゃ、あかん」
加護は危険を報せるべく安倍の元に急いだ。
169カコイイ名無し:02/09/29 22:30 ID:CCIfTZrU
「くっそ〜、こうなったら迎え撃って……」
吉澤が言いかけたとき、橋の下から激しく打ち付ける音がする。慌てて堀へ
降りた吉澤は、橋の下に潜り込んで無茶苦茶にツルハシを振るう石川を見た。
「梨華ちゃん……」
石川は吉澤の呼びかけに応じることなく無言で橋を崩し続ける。吉澤は堀の
向こうに渡って彼方に目を凝らす。
「来たーーーー!」
黒煙を撒き散らすオートバイ軍団が迫る。その威容を見て吉澤は自陣に駆け
戻る。橋の上でひと飛びすると、みごと橋は崩れ、吉澤は下にいた石川と共
に瓦礫に埋まった。二人は同時に瓦礫の中から頭を出し、ハイタッチで成功
を喜びあった。
170カコイイ名無し:02/09/29 22:31 ID:CCIfTZrU
「あ、ウサギ小屋!」
園芸部の木村が声を上げた。職員駐車場の隣に彼女たちの作ったウサギ小屋
があった。近日中に引っ越す予定であったが、予想外に早く攻撃を受けたた
めそのままだった。
「おい、やめろ! 無茶だ」
制止する吉澤を振りきって戸田も里田も駆けだした。
「ウサギ小屋を移すの、矢口さんとの約束なんです」
矢口の名を出されて躊躇した一瞬が運命を分けた。賊のオートバイが堀を隔
てて整然と並び始める。指揮をとるべき吉澤は自陣を離れられなくなった。
171カコイイ名無し:02/09/29 22:32 ID:CCIfTZrU
 ならば、せめて敵の目を自分に引きつけようと、堀の向こうでこちらを窺
う野盗の群を吉澤が挑発する。銃声に驚いて跳び上がると、たった今吉澤が
立っていた場所の地面がえぐれている。それにも懲りずに吉澤は挑発を続け
る。銃を手にした男が再び構えるのを見て、吉澤は急ぎ引き返す。
「無茶はよせ!」
急を聞いて駆けつけた安倍が吉澤をたしなめる。賊は右往左往していたが、
ついに攻め手を失って引き上げた。
「ざまぁ見ろってんだ!」
吉澤が飛び出して敵の背に罵声を浴びせる。
172カコイイ名無し:02/09/29 22:32 ID:CCIfTZrU
「あ、ウサギ小屋が!」
誰かの叫びに振り返ると、ウサギ小屋から煙が立ちのぼっている。
「やりやがったな!」
吉澤は引き止める安倍を無視して堀へ下り、飛沫を上げながら水辺沿いにウ
サギ小屋を目指した。安倍も懸命に後を追う。ようやく安倍が追いついたと
き、吉澤は堀の中央で呆然と立ちつくしていた。視線を追うとウサギ小屋は
紅蓮の炎に包まれている。
173カコイイ名無し:02/09/29 22:33 ID:CCIfTZrU
「おーい、誰かいないか!」
吉澤の呼びかけに応じ、小屋の裏手から里田が出てきた。手には何か抱えて
いる。
「里田! 戸田は? 木村は?」
里田は吉澤の問いに答えることなく、おぼつかない足取りでゆっくり近づき、
手に持った何かを吉澤に託して倒れかかる。安倍が駆け寄り里田の身体を抱
き支えるが、背中に回した手に生暖かい感触を覚え慄然とする。見れば安倍
の手は鮮血に染まっているではないか。
 安倍は吉澤の手の中を覗き込んだ。里田が最期に託したそれは、震える小
さなウサギの赤ん坊だった。
174カコイイ名無し:02/09/29 22:34 ID:CCIfTZrU
「よくぞ……」
安倍は今際に瀕した里田にこの上ない賞賛と敬意を送った。里田の亡骸を肩
に負い、吉澤に撤退の声をかける。しかし吉澤は応じない。
「どうした、よっすぃー。行くべ」
「……こいつは私だ」
吉澤は生死の境を彷徨うウサギの赤ん坊を捧げ持ち、血の香漂う浅瀬に膝を
屈した。
「戦に家も家族も焼かれ、行くアテも帰るアテもない。灰の中から引きずり
出された死に損ないの赤ん坊、私も……私もこんなんだったんだー!!」
吉澤は手の中の小さな命に頬を寄せて慟哭した。天衣無縫に思われた吉澤だ
が、その心中には複雑な渓流が巡っている。安倍は改めてそれを感じ、かけ
る言葉もなく吉澤の背中を見つめた。その背中はいやに小さく感じられた。

*   *   *   *   *
175カコイイ名無し:02/09/30 22:23 ID:QFNKEIot
 闇が迫り、やがて夜の帳が下りた。学園は予想される夜襲に備えた。安倍
は、敵の夜襲が一点集中するものか、分散して襲ってくるものか読みかねて
いた。安倍自身の足で要所を回って様子を探るが、今ひとつ決断の決め手が
無い。裏門を小部隊で陽動攻撃し、手薄になった正門に戦力を集中するのが
セオリーだ。だが、それを逆手にとって最初から裏門に集中する目もある。
あるいはゲリラ戦的分散攻撃でこちらの士気を挫くつもりかもしれないし、
今夜はやり過ごしてこちらのスタミナ切れを狙うこともありうる。いずれに
しても、敵のリーダーの力量が分からないのでどんな愚策も奇策となり得た。
176カコイイ名無し:02/09/30 22:24 ID:QFNKEIot
 腕組みをして巡回する安倍が通りかかると、本来指揮官がいるべき指令台
になぜか新垣が陣取っている。あぐらをかいた脚の上にノートパソコンを置
き、少し舌を出しながらキーボードを弾き続ける。裏門から戻ってきた安倍
が不審に思って声をかける。
「新垣、何やってるの? あんた非戦闘員なんだから教室にいなくちゃダメ
だべさ」
安倍の言葉を無視して新垣は言った。
「敵はすでに四方に分散して学園を取り囲んでいますよ。門がない所からも
攻め入ってくる雰囲気ですね」
177カコイイ名無し:02/09/30 22:24 ID:QFNKEIot
「え? なんでそんなことが分かるんだべ?」
「ほら、見てください」
新垣に示されモニターを覗き込むと、そこには学園近辺の地図が示されてお
り、明滅する赤い点が学園を囲むように配されている。
「何だべ?」
「アメリカの軍事衛星に入り込ませてもらったんです」
「そんなこと、できるんだべか?」
「ええ。当たり前のような顔で入り込むのが私の特技ですから」
新垣は以前安倍に評されたときの言葉を返した。安倍は暫し思案し、新垣の
言葉を信じて守護部隊を分散配置する決意をした。
 立ち去ろうとする安倍の背中に新垣が声をかける。
「安倍さん、一回だけ魔法が使えます。必要になったら言ってください」
安倍は新垣の言う意味が分からず、首をひねりながら校庭中央に向かった。
178カコイイ名無し:02/09/30 22:25 ID:QFNKEIot
 各部隊は侵入に対して柔軟に対応できるように配置された。正門を含む南
に飯田と加護、西門と西の壁を保田、裏門沿いの北に吉澤、門の無い東の後
藤は必要に応じてどこにでも救援に向かえる配置だ。
 塀を乗り越えての侵入に対抗するよう、塀の上には有刺鉄線を張り、塀の
下には逆杭を打ってある。そうは言っても完璧な防御など望めるはずもない。
最終的には学生による詰めが必要だ。
 安倍は物見やぐらに登り四方を見据えた。静かだ。だが、この闇の静寂に
死の刃が息を潜めていることを安倍は知っていた。迫り来る戦乱の兆しに、
安倍の顔から微笑みが消えた。

*   *   *   *   *
179名無し募集中。。。:02/10/01 19:22 ID:hBzZq+5G
新垣がカコイイ!!
180名無し募集中。。。:02/10/01 21:49 ID:Hu7GXK1m
>>179
同じく ゾクゾクする。
181カコイイ名無し:02/10/01 23:14 ID:4Zn7IHfL
+++++

  >>179 >>180 2chではとかく不遇で、私自身も
  よく分からない新垣ですが、逆に正体不明さが功を
  奏して諜報活動や情報戦で出てきました。今後も
  トリックスター的な活躍を見せるかも。

+++++
182カコイイ名無し:02/10/01 23:15 ID:4Zn7IHfL
 飯田は加護に戦況と作戦を聞かせる。それは、加護に語ってどうと言うで
はなく、むしろ自分自身で反芻して状況を頭に叩き込もうとしているようだ。
攻め手の到来を待つ時間はなんとも長く感じられ、持ち場で息を潜める学生
たちはこの上なく緊張している。飯田はうかつにも敵が迫ることを聞こえよ
がしに語ってしまった自分を呪った。戦い慣れた者ならいざ知らず、初陣の
学生には重い話だった。
183カコイイ名無し:02/10/01 23:16 ID:4Zn7IHfL
 小さくなって震えている学生の集団から一人出てきた。またも小川麻琴だ
った。
「みんな、いったん出なよ」
飯田の意見も聞かず、小川は勝手に命令した。加護が止めるのを無視して小
川は陣中に潜む味方を整列させる。
「よ〜し、行くぞ! 一! 二! 三!」
『ダーーー!』
みんなが声を揃えて叫び、不安が消し飛んだ。小川は「どうだ」と言いたそ
うな顔で飯田を見やる。飯田は鼻で笑ってあしらう。
184カコイイ名無し:02/10/01 23:17 ID:4Zn7IHfL
 ここ数日の訓練で小川は格闘戦のスペシャリストとなった。飯田がその才
能に目をつけて厳しくしごきまくったからだ。他の生徒ができないことでも
小川には当たり前のように要求した。ほかの生徒の訓練が終わった後も小川
を一人残して鍛えた。激しく叱咤し、口汚く罵倒した。褒めたことなど一度
もなかった。気の強さに反して小川は涙もろかった。飯田に叱られて人前で
もはばからずに泣いた。だが泣いた小川は強かった。加護などは小学生のケ
ンカだと笑ったが、強くなるスイッチを持つヤツは実力以上の働きができる
ことを飯田は知っていた。しかし、それが命を危険に晒すスイッチであるこ
とも理解していた。
185カコイイ名無し:02/10/01 23:17 ID:4Zn7IHfL
 飯田の評価はともかく、小川の機転で部隊の士気が上がったのは確かだ。
掛け声を聞いた他の部隊からも鬨の声が上がる。
 保田も正門の部隊に倣って、陣屋に息を潜める自分の部隊を整列させて鬨
の声を上げさせた。面倒見の良い保田は復調した高橋を自分の部隊に編入さ
せて訓練した。高橋は槍さばきが卓越しており、槍隊の隊長に任命された。
当初は穂先が見えなくなるほどの連続突きや、柄を縦横に用いた棒術まがい
の戦法などを披露して保田を感心させた。だが、そのポテンシャルに比して
高橋の技術は伸び悩んでいた。もともと合唱部員であり、運動とは縁遠い高
橋である。保田は高橋が疲れの溜まりやすい体質なのだと思い労った。
186カコイイ名無し:02/10/01 23:18 ID:4Zn7IHfL
「いよいよ来るわ。頼むわよ、高橋」
保田は傍らで緊張して立つ高橋を励ました。
「保田さん、ちょこっと預かっておくんねの。準備があるんやよー」
高橋は自分の槍を保田に預けると、手足に巻いたバンドを解き始める。外れ
たバンドは音を立てて地面に転がる。何かと思い拾いあげようとする保田だ
が、あまりの重さに踏鞴を踏む。
「何よ、これ。メチャメチャ重いわよ! こんなオモリで鍛えてたの?」
「そうなんです。鉛を取ったら随分楽になりました」
高橋は前動作なく軽く跳躍し、保田に預けた三mの槍の穂先にチョンと触れ
た。

*   *   *   *   *
187カコイイ名無し:02/10/02 22:15 ID:+BqQKRq7
 紺野の携帯がブルった。新垣からの連絡だ。
「後藤さん、来ます」
紺野が押し殺した声で報告すると、後藤はペンライトを振って部隊に合図を
出した。
「後藤さん、これを付けてください」
「何?」
「メガネです」
(そりゃ見れば分かるけどさぁ)
後藤は疑問を飲み込んで、紺野に渡されたメガネをかけた。
188カコイイ名無し:02/10/02 22:15 ID:+BqQKRq7
 塀の上に物音があり、何者かが侵入してきたことが分かった。だが、後藤
は合図を出さない。非常に長く感じられる数秒が流れ、タイミングを見計ら
った後藤が立ちあがる。
「今だ!」
後藤の合図を聞き、槍を手にした生徒達が蜂起する。紺野が何かを天に放つ。
銀の尾を引いて夜空に刺さったそれは、閃光を撒き散らし辺りを昼のように
明るく照らす。後藤は自分のメガネが機械音を発して過剰な光を遮断したこ
とに気付いた。
「照明弾を作ってみました」
紺野が発射筒を右手に掲げながら言う。
 光に目を射られた敵兵は視力を失い右往左往している。遮光メガネで網膜
を守った後藤の部隊は逃げ惑う敵にトドメを刺すだけでよかった。
189カコイイ名無し:02/10/02 22:16 ID:+BqQKRq7
 一方、裏門を守護する吉澤は敵の到来を待ちきれなかった。もともと待つ
ことが嫌いな吉澤である。陣屋から躍り出て、闇に向かって奇声をあげる。
はたして堀に潜んでいた敵兵が脅しに屈して燻り出された。待ってましたと
ばかりに盲滅法太刀を振るう吉澤の前に敵兵が次々となぎ倒される。野生の
勘で戦う吉澤は暗闇など物ともしない。
190カコイイ名無し:02/10/02 22:17 ID:+BqQKRq7
 三人ばかり斬って敵の攻勢も一段落した頃だろうか、誰かが肩を叩いて陣
屋を示した。何かと思い陣屋を覗くと、石川が侵入してきた敵をツルハシで
仕留めたはいいが、敵の断末魔の形相に臆したものか、腰を抜かして動けな
いでいた。吉澤は微笑みながら、
「ヒョー、梨華ちゃん、よくやったよ。カッケー」
と肘で小突いて石川を正気付かせた。
191カコイイ名無し:02/10/02 22:18 ID:+BqQKRq7
 正門を攻めた敵は飯田の鬼神のごとき活躍に撤退を余儀なくされた。加護
も初の戦果を上げたが、斬り慣れぬものを斬って悄然としていた。
「投石機!」
飯田の合図で台車に乗せられた装置が運び出される。矢口が残した投石機だ。
操作員は留学生のミカとアヤカの二名である。
192カコイイ名無し:02/10/02 22:18 ID:+BqQKRq7
 投石機の最大の問題はクランクの重さにある。一度発射したら巻き上げる
のに三分以上かかるのが普通だ。戦場で三分を失うことは敗北を意味する。
可能なら一撃必中が望まれるこのポジションに敢えて外国人を配した理由は、
一つには集団訓練における言語の壁から留学生を離脱させるためだ。しかし、
もっと重要なのは二人の息がピッタリであるということだった。母国語で話
し合える二人は、片時も離れることのない親友と言えた。
193カコイイ名無し:02/10/02 22:20 ID:+BqQKRq7
 ミカが照準を合わせ、アヤカがトリガーを引いた。麻糸で巻かれた弾が上
空に打ち出され、敵の頭上に燐光を発する液体を撒き散らす。液を浴びた敵
兵は酸に焼かれて苦悶する。間髪入れずに飯田の部下が蠢く燐光を目がけて
矢を射かける。
「なんや、この弾は!」
初見の加護が驚きの声を上げた。
「コレハ紺野サンガ作ッタ新兵器、発光硫酸弾デ〜ス」
ミカが得意げに見せたそれは、麻糸でグルグル巻きになったドッジボールの
ようなものだった。
「へ〜、まるで椰子の実みたいやなぁ」
「Oh! Good! コレカラハ『ココナッツ・ボンバー』ト呼ビマショウ」
194カコイイ名無し:02/10/02 22:20 ID:+BqQKRq7
 その夜の攻勢は一段落ついた。
「ダメ押しに来た敵は這々の体で引き上げだべ。緒戦は我が軍の勝利だべさ」
安倍の勝利宣言にわき上がる一同。安倍は掛け声をあげて士気をさらに鼓舞
する。
「明日は手はず通りでいくべ。じゃ、頑張っていきま〜っ」『しょい!』

*   *   *   *   *
195カコイイ名無し:02/10/03 22:26 ID:sNQZGu4m
 翌日の午前中は何の動きもなかった。学生達は損害箇所を補修し、いつ敵
が来てもいいように準備を整えた。
「吉澤さん。これ、どうですか?」
高橋は金モールや金ピカのバッジで派手に飾った赤いコートを得意げに吉澤
に示した。
(ゲゲッ! 何、これ?)
吉澤は仮装行列でもお目にかかれないような奇妙な衣装にたじろいだ。そん
な吉澤に気付かず高橋は嬉々として話し続ける
196カコイイ名無し:02/10/03 22:27 ID:sNQZGu4m
「宝塚って知ってます? 私、大ファンなんですよ。で、これ自分で作って
みたんです。オスカル様の軍服。自分でも良くできてると思うんですよ。そ
う思いません?」
そう言って高橋はチンドン屋まがいの赤服を身体の前に当ててポーズを取っ
て見せた。
「う……うん、良くできてると思うよ。カ、カッケー……かな?」
197カコイイ名無し:02/10/03 22:28 ID:sNQZGu4m
「でしょ、でしょ! 気に入ってくれて良かったぁ〜。私、吉澤さんがこれ
を着て戦っている姿を想像しただけでワクワクしちゃいます」
「!」
「吉澤さん、カッコいいじゃないですか。絶対似合いますよ」
高橋が吉澤の身体にオスカル服を重ねようとしたので、吉澤は思わず大げさ
に飛び退ってしまった。
198カコイイ名無し:02/10/03 22:28 ID:sNQZGu4m
「お気に召しませんでしたか?」
高橋は驚きと悲しみの入り交じった顔で吉澤を見つめた。吉澤は使い慣れな
い頭を最大出力でフル回転させなくてはならなかった。
「い、いや、そうじゃないよ。何て言うか……そう、戦うときは着慣れた服
装でないと感覚が鈍るって言うか、調子が狂うって言うか……」
「そうなんですか……」
身も世もないほど落胆した高橋の表情に、吉澤は逃げ道が次々と断たれてい
くのを感じた。その時、奇跡の救世主が現れた。
199カコイイ名無し:02/10/03 22:30 ID:sNQZGu4m
「高橋、あんた朝ご飯食べなきゃダメじゃない!」
「は、はい」
「あれ? 何よ、それ」
高橋の健康状態を気にして声をかけた保田が、オスカル・ルックに目を付け
て駆け寄ってきた。
「わっスゴイじゃない、この服。カッコいいわぁ〜。私も着てみた〜い」
保田は目を輝かせている。
200カコイイ名無し:02/10/03 22:30 ID:sNQZGu4m
「ちょうど良かったよ、圭ちゃんがこの服……」
「この服、演劇部の衣装なんです! なんでこんな所に置きっぱなしにする
かなぁ」
高橋は吉澤の言葉をかき消すような大声で言うと、愛するオスカル様の衣装
を急いで丸めて持ち去ってしまった。保田は小走りで逃げる高橋の背中に向
かって怒鳴った。
「何よ! 見せてくれたってイイじゃないのよ!」

*   *   *   *   *
201カコイイ名無し:02/10/04 22:12 ID:QVPqaLvp
 昼過ぎ、新垣のパソコンがアラームを発し、敵の到来が告げられる。一同
は配置について息を殺す。
「敵が来たらまず一台通す。一台通ったらピシャリ槍襖を閉じてそれ以上絶
対入れるな。入った敵は校庭で各個撃破する」
飯田が大声で作戦を確認する。
 新垣の情報で敵が正門に一点集中攻撃をかけることを知った安倍は、正門
前に飯田、保田、後藤を配置し、侵入してきた敵を自分と加護、吉澤で仕留
める手はずとした。
202カコイイ名無し:02/10/04 22:12 ID:QVPqaLvp
 後藤は少々困った立場に立たされていた。自ら率いる精鋭部隊の他に、指
揮官を失った矢口の部隊も預かったからだ。安倍としては、精鋭部隊は手が
掛からないはずなので、主に矢口の部隊の面倒を見ればいいと判断したのだ
が、しかし実情は異なっていた。
「精鋭を陣中に残し、ごっちんは正門に集合や。敵を少しずつ引き入れて各
個撃破やで」
 本営の決定では是非もない。が、精鋭部隊の指揮を完全に紺野に託すのは
心許なかった。
203カコイイ名無し:02/10/04 22:14 ID:QVPqaLvp
「紺野、この一帯をお前に任せる。だけど必要に応じて臨機応変に対応して」
「はい! 完璧です」
「必ず味方が来るから、それまでは逃げ回っていればいい。敵を一人倒すよ
り、部隊を一人でも守る方が大事だよ」
「了解しました! 完ぺ……」
敬礼の真似をしようとして指先で自分の目を突いてしまう紺野を見て、後藤
の不安はいや増すばかりであった。
(ホントに大丈夫かなあ……。ホントに、ホントに生き延びてよ)
204カコイイ名無し:02/10/04 22:15 ID:QVPqaLvp
「第一波、来ます!」
新垣の報告を聞き安倍が下知を下す。
「みんな行くぞ、そらぁ!」
街路の向こうからエンジン音が轟き、盗賊どものバイクが群をなして現れる。
奇声を上げて迫り来る荒くれを一人やり過ごし、後続には詰め寄る暇を与え
ず立ちふさがる。バイクの一団はエンジンを吹かして威嚇するが、飯田、保
田、後藤、さらに高橋に小川を加えたメンバーが鬼気迫る形相で追い返しに
かかる。たまらず野盗は一旦引く。
205カコイイ名無し:02/10/04 22:17 ID:QVPqaLvp
 校庭に入り込んだバイクはランダムに配された車両を縫いながら校舎を目
指す。横合いから鬨の声があがり、丸太を抱えた三人がバイクの行く手を阻
む。ハロモニ学園の爆弾三勇士、平家みちよ、稲葉貴子、前田有紀の三人だ。
 丸太に乗り上げたバイクはつんのめるように転倒し、搭乗者はぬかるみに
投げ出される。転げ落ちた賊は吉澤の部隊に追い回され、這うように逃げ惑
うが、何十人もの女子高生に槍でつつかれ遂に落命する。
206カコイイ名無し:02/10/04 22:18 ID:QVPqaLvp
「私達の学校は私達の手で守るわよ!」
「おーっ!」
前田の檄にみんなが呼応する。
「学園生活を取り戻すで〜!」
「おーっ!」
稲葉の声にみんなが同調する。
「卒業までがんばるぞ!」
「……」
平家の叫びは虚しくこだまする。

*   *   *   *   *
207名無し募集中。。。:02/10/04 23:12 ID:j4Tc3ZIA
……ヘケさん……(涙
208カコイイ名無し:02/10/05 22:12 ID:DA921QV5
+++++

  >>207 ま、ゲスト出演というわけで。
  ところで平家さんはいつまでなのかな?
  運動会は出るようだけど。
  間に合ってよかった・・・かな?

+++++
209カコイイ名無し:02/10/05 22:13 ID:DA921QV5
「次行くぞ!」
飯田の声に各部隊は急ぎ元の配置に戻る。
 次の攻め手は勢いに任せ、二台続けて入ってしまう。突っ込んでくる三台
目を後藤が斬り伏せ後続を断ち切る。後藤は入っていった二台を振り返り慄
然とする。一台はまっすぐ校庭を横切っていくが、もう一台は東へ大きく迂
回していった。紺野が守る方面だ。
「悪い、ここを頼む」
後藤は誰にともなく言い放ち、持ち場を離れて一目散に駆けだした。
210カコイイ名無し:02/10/05 22:13 ID:DA921QV5
 いくら後藤の脚力が人並み外れていると言ってもバイクに追いつくはずが
ない。後藤は手近な車の屋根に飛び乗ると、侵入したバイクの行方を追った。
案の定バイクは紺野の部隊の正面に出た。紺野は部隊を横一線に展開したま
ま何もできずにいる。部隊の誰も、武器さえ構えていない。
「何やってんだ、あいつ!」
後藤は車の屋根から屋根へ飛び移り、なんとかバイクを食い止めようと現場
へ急ぐ。その間にもバイクの男は凶刃を閃かせて紺野の部隊へ突進する。
「南無三!」
後藤は歯を軋ませ、予想される惨劇を覚悟した。
211カコイイ名無し:02/10/05 22:15 ID:DA921QV5
“ちゅど〜〜〜ん!”
大音響と爆風で後藤は車から転がり落ちる。慌てて這い上がって見渡すと、
バイクが通りかかった付近には黒く大きな穴が空いている。
「紺野!」
後藤が広場を横切って駆け寄ると、ススで顔を真っ黒に染めた紺野が白い歯
を覗かせて笑う。
「磁気地雷を作ってみたのですが……火薬が多すぎたようです」
言う内に紺野の口から一筋の白煙が上がった。
212カコイイ名無し:02/10/05 22:15 ID:DA921QV5
 続く第三陣は、侵入しざまに高橋の槍で全身六カ所を突かれ、校庭の半ば
まで辿り着く前に息絶えていた。退却する敵の背後に小川が食らいつき引き
ずり落とす。勢いづいた正門部隊は追撃するが、銃声を聞いて慌て退く。
 応じて返す敵の出鼻に飯田の合図でココナッツ・ボンバーが炸裂する。も
んどり打って転倒する数台のバイク目がけてメロン弓箭隊が矢の雨を降らせ
る。予想を上回る学園側の戦力に、盗賊どもは撤退を余儀なくされる。

*   *   *   *   *
213カコイイ名無し:02/10/06 22:02 ID:lhHn6CDm
 その夜、正門から延びる街路の向こうを眺めながら保田が呟く。
「もう、この手には引っかかってくれないわね。静かなもんよ」
「だけど、敵はこの闇に息を潜めてるはずだべ。いま証拠を見せるべ。加護
ちゃん、家庭科室からマネキンを持ってきて」
安倍に言われて加護は駆けだす。ようやく家庭科室を見つけマネキンを担ぎ
出すと、教室の前に辻がいた。
214カコイイ名無し:02/10/06 22:03 ID:lhHn6CDm
「どうしたんや、のの。自分の教室におらなアカンやないか」
加護が声を掛けるが辻は何も言わなかった。だが、その眼差しは戦いに赴く
加護の身を案じて震えていた。行くなと口に出してはダメだと辻も知ってい
る。口をギュッと結んで耐えていた。いつになく強い意志を発する辻の面持
ちに加護はたじろいだ。加護は辻の視線から目を逸らし、逃げるようにその
場を後にした。
215カコイイ名無し:02/10/06 22:04 ID:lhHn6CDm
「あいぼ……」
辻は思わず口に出しかけてやめた。ここで声を掛けたら加護を困らせてしま
う。辻は見えなくなるまで加護の背中を見送った。加護は一度も振り返らな
かった。
 加護は校舎から出るとき、またも後藤と鉢合わせになった。後藤は何も言
わず、ただ深い理解を湛えた瞳で加護を見つめた。半ベソをかいているとこ
ろを見られたが、加護は恥ずかしいとも思わなかった。
216カコイイ名無し:02/10/06 22:05 ID:lhHn6CDm
 安倍は加護の持ってきたマネキンに服を着せ、校門の脇からそっと捧げ出
すよう指示した。待つこと二秒半、二度の銃声と共に加護の手に強い衝撃が
走る。加護が持つマネキンは狙い撃ちされ、胸と頭に大きな穴が空いていた。
加護はライフルの威力を実感して震えた。
「かなり腕のいいスナイパーね」
「やっかいなライフルだべ」
217カコイイ名無し:02/10/06 22:06 ID:lhHn6CDm
安倍と保田が額を寄せ合うと、横合いから石川が進み出る。
「私が取ってきます。絶対、絶対、取ってきます」
決然とした面持ちではあったが、その身体は傍目にも分かるほどに震えてい
た。
「あんた死ぬ気だ。私が行く」
誰の返事も待たずに後藤が暗闇に飛び出した。その背にも死の覚悟があるこ
とを誰もが認めた。

*   *   *   *   *
218名無し募集中。。。:02/10/07 01:40 ID:omGTiDYz
ごっちん……
死なないでくれ……
219カコイイ名無し:02/10/07 22:08 ID:olct+YsE
+++++

  >>218 最大の障害であるライフルを奪うため、
  そして、思いつめた石川の暴走を止めるために
  一人敵地に乗り込む後藤。その運命や如何に!

+++++
220カコイイ名無し:02/10/07 22:10 ID:olct+YsE
 深夜になっても後藤は帰ってこなかった。加護は心配で、腕組みをして何
度も行ったり来たりした。安倍が座って体力を温存するように言っても、
一〇分も待たずに再び立ち上がってはウロウロしだす始末だ。空耳に驚いて
駆け寄り、小さな物音に喜んで周囲に声を掛ける。それは明け方まで続き、
ついに安倍が叱りつける。
「加護ちゃん、もう諦めるべ」
「師匠、確かに聞こえたんや。今度こそホントの足音や」
「いいかげんにするべ。次の戦いに備え……」
言いかけた安倍も朝霞の街路に耳を澄ました。
「確かに聞こえるべ」
221カコイイ名無し:02/10/07 22:10 ID:olct+YsE
白く煙る靄の中に黒い影が浮かび、程なくそれが人の像を結ぶ。
「ごっちん!」
駆け寄る加護にライフルを一丁押しつけて、後藤は安倍の前に立つ。
「二人斬った」
いささか憔悴した表情で報告すると、陣屋の奥に入って横になった。加護は
後藤の後をつけて行き、仮眠を取ろうとする後藤をじっと見つめる。
「何? 疲れているんだから用があるなら早く言って」
後藤に急かされて、加護は興奮で鼻を膨らめながら言う。
222カコイイ名無し:02/10/07 22:11 ID:olct+YsE
「ご、ごっちんは素晴らしい人や。ウ、ウチは前からそれだけ言いとうて……」
加護に真顔で言われて後藤は少し照れくさかった。
「分かったから、ちょっと休ませてよ」
と言って後藤が横を向いて寝ると、加護は恐縮して陣屋を後にした。
(加護ちゃんにはもっと別に見習って欲しい人がいるんだよ)
後藤は加護の自分に対する評価が過大であることに、かえって居心地の悪い
思いをした。

*   *   *   *   *
223名無しじゃけん。。。:02/10/07 22:35 ID:5Moft83t
加護が「師匠」と呼んでいると、どうしても勘違いしてしまふ。
あと、この話の主人公は安倍?どうも影が薄いが…
224カコイイ名無し:02/10/08 22:52 ID:dugwql0K
+++++

  >>223 確かにね〜。考えて見れば学園モノって言っても
  教師なんて石井しか出てないんだから原作通り先生でも
  よかったかもね。
  主人公については、まあ安倍なんだろうけど、いわゆる
  群像劇なので出番は極力均等にしたいと思って。安倍は
  前半頑張ったから後半は弱いかもねぇ。それだけ周りの
  キャラが出てきたんだよ。

+++++
225カコイイ名無し:02/10/08 22:52 ID:dugwql0K
 翌朝はのどかな鳥の声に始まった。安倍達の最初の仕事は、生徒達の緊張
をほぐすことだった。
 飯田は一人ひとりの手を握って士気を鼓舞した。手荒く握り返してきた小
川には、手が痺れるほどの力で応じた。一〇〇の言葉より心が通じた。
226カコイイ名無し:02/10/08 22:53 ID:dugwql0K
 保田は部下のそれぞれに声をかけた。食が細い者には精のつく食事を勧め
た。寝不足の者には熱いコーヒーを入れた。高橋には塗り薬を手渡した。
「あんた、これ塗っときなさい」
「これは?」
「ガマの油よ。練習のしすぎで槍を握る手がマメだらけでしょ」
高橋は慌てて両手を後ろに回した。
227カコイイ名無し:02/10/08 22:54 ID:dugwql0K
「隠したってダメよ。そんな手じゃあ本番で役に立たないわ。ガマの油はよ
く効くわよ〜」
ガマのような顔を真似る保田を見て高橋は吹き出した。
「ありがとうございます」
保田の心遣いに感謝し、高橋は深々と頭を下げた。
228カコイイ名無し:02/10/08 22:55 ID:dugwql0K
 加護は吉澤のもとに赴いた。吉澤は陣屋の屋根に寝そべって腹を掻いてい
た。自らの緊張をほぐすためか、加護は無意味な話をまくし立てた。やがて
話は後藤の武勇に及んだ。
「しかし、ごっちんはすごいでぇ。散歩にでも行くように飄然と出かけて、
敵のライフルを奪ってきおった。あんな凄腕、見たことないで。ありゃホン
モンのサムライや」
吉澤は面倒くさそうに耳をほじりながら応じた。
229カコイイ名無し:02/10/08 22:57 ID:dugwql0K
「うるせー、うるせー。私は眠いんだからあっちへ行ってろよ」
吉澤に邪険に扱われた加護は、言いたいことを言い終えたこともあって素直
にその場を後にした。加護の気配が去ったと見るや、吉澤はやにわに立ち上
がり、せわしなく身支度を始めた。陣屋の壁を叩いて石川を呼び出す。
「梨華ちゃん、ここは任せるよ」
「えっ! えっ!? 困りますぅ」
「もう裏門は大丈夫。敵なんか来ないよ〜」
そう言って吉澤はどこへともなく駆けだした。
230名無しさん:02/10/08 23:27 ID:uJlCiavU
>ガマのような顔を真似る保田を見て

…真似しなくても(ry
ワラタ
231カコイイ名無し:02/10/09 22:20 ID:eVe2OLmB
+++++

  >>230 基本的に事務屋の保田は安倍以上に影が薄いと
  思うんだけど、たまに出番が来てもおどけてばかり。
  緊張しがちな高橋を気遣ったんだろうけどね〜。

+++++
232カコイイ名無し:02/10/09 22:23 ID:eVe2OLmB
 吉澤は街路を抜け、学園正門へ向かう大通りに並行して走る裏路地を通っ
て駅方面に向かった。大通りと交わる角に陣取る狙撃手に後ろから近づく。
「様子はどうだ、兄弟」
吉澤に声をかけられ、狙撃手は学園側を睨みながら答える。
「ああ、女子校のくせに骨ぇ折らせるぜ」
「生意気な学生だよなぁ」
軽口を叩きながら吉澤はライフルに手をかける。狙撃手は振り向きもせずに
暫しライフルを吉澤に預けて遊ばせるが、程なく手を出して返却を要求する。
吉澤は素直に応じる。
233カコイイ名無し:02/10/09 22:24 ID:eVe2OLmB
「まったく、いつまでこんな戦を続けるんだろうなぁ」
そう言った狙撃手は眼の隅に不吉な光を捉える。
「ほんとだよね」
狙撃手が振り返ると、見たこともない女が抜き身を突きつけて笑っているで
はないか。
「わーっ!」
234カコイイ名無し:02/10/09 22:25 ID:eVe2OLmB
男は悲鳴をあげて街路に飛び出した。吉澤は後を追ってその背中を斬りつけ、
投げ出されたライフルを拾って嬉しそうに眺めた。だが、大通りの向こうか
ら、悲鳴を聞きつけた敵のバイク隊が迫っていた。慌てて逃げだす吉澤。そ
れを追う四台のバイク。吉澤はやり過ごそうと路地に逃げ込みジグザグに進
むが、追跡者は執拗に吉澤に迫った。

*   *   *   *   *
235カコイイ名無し:02/10/10 22:03 ID:FaDgZAOb
 大通りに人の気配があり、正門を守る飯田と加護は腰の物に手をやって身
構えた。二人が固唾をのんで見守る中、先の路地から吉澤が通りに飛び出し
た。次いで二台のバイクが追ってきた。吉澤は振り向きざまにライフルを放
つ。弾は大きくそれたものの、バイクの乗り手が一瞬ひるんだ隙に吉澤は正
門から校庭へ転がり込んだ。騒ぎを聞きつけた安倍が吉澤に問いただす。吉
澤は得意顔でライフルを安倍に渡すが、安倍は手ひどく吉澤を叱りつける。
「おバカ! 抜け駆けの功名は手柄にならないべ。軍隊ってのはそう言うと
ころだよ!」
236カコイイ名無し:02/10/10 22:03 ID:FaDgZAOb
何より吉澤の身を案じて出た言葉だが、吉澤はむくれて口を利かない。遅れ
て来た後藤が吉澤の肩を叩いて励ました。
「どんまい、よし子」
だが、後藤と張り合おうとして無茶をやった吉澤である。当の後藤に励まさ
れてむしろ消沈してしまった。
(私ってば、何やってんだろ……)
 喧噪が聞こえ、一同に緊張が走る。
「裏門だべ!」
237カコイイ名無し:02/10/10 22:04 ID:FaDgZAOb
 裏門を固めるバリケードに火矢が打ち込まれた。賊は堀にワンボックスカ
ーを突っ込ませて橋の代わりにした。バイクの一隊がバリケードの燃え具合
を見ながら侵入の機会を窺う。石川が消火に駆け回るがバリケードは焼け落
ちる寸前だ。その時、ひときわ大きな炎が石川を包む。
238カコイイ名無し:02/10/10 22:05 ID:FaDgZAOb
「ババァ、何どきだぁ!! くたばれ腐れ外道!」
炎に包まれて石川の理性がトンだ。崩れかけるバリケードの上から堀に落ち
た車の屋根に飛び降りて、先頭の乗り手のヘルメットをツルハシで砕いた。
着地してふらつく勢いで、ハンマー投げのようにツルハシを振り回す石川の
前に更に二人が倒れる。敵は石川のガムシャラな攻撃に一歩退くが、その足
元がおぼつかない様を見て一斉に組みかかるよう身構える。
239カコイイ名無し:02/10/10 22:06 ID:FaDgZAOb
 真っ先に駆けつけたのは一番近くを守っている紺野だった。紺野は高台か
ら戦況を見ると、直接戦場に向かわずに堀の東端から裏門に近づいた。途中
何やら作業をすると、堀から這い出して戦場に目を凝らす。状況が切迫して
いることを知り、慌てて懐から小さなスイッチを取り出した。
「ポチッとな」
240カコイイ名無し:02/10/10 22:07 ID:FaDgZAOb
 石川に飛びかかろうとした盗賊の一団は小さな爆発音に顔を見あわせる。
音のした方向を見ると、逆巻く濁流が堀に沿って襲いかかって来るではない
か。紺野が仕掛けた発破がプールの壁を突き破り、堀に洪水を起こしたのだ。
激しい水流にワンボックスカーは横倒しになり、石川と盗賊の一団はまとめ
て水に投げ出された。波に飲まれそうな石川に、吉澤の長物の柄が差し出さ
れる。引っ張り上げられ、泥水を吐き出す石川の背中をさすりながら、吉澤
は何度も何度も詫びた。
「梨華ちゃん、ごめん、ごめんよ……」
石川は答えようと顔を上げるが、少し微笑んだだけで再び吐き気を催し這い
つくばった。安倍、加護も大事に至らなかったことに安堵する。その時、乾
いた音が二度響いた。
「圭ちゃんの守る方だ!」

*   *   *   *   *
241名無し募集中。。。:02/10/10 23:11 ID:ahke/0n8
お圭さんは無事かッ?!
242カコイイ名無し:02/10/11 22:25 ID:cX0Ispv2
 保田の守りは堅かった。遠方から矢を射かけ、かいくぐって近づいた敵は
バリケードごしに槍で突いた。討ち洩らしは保田が自ら仕留めた。自軍に損
害を出さないのが保田の信条だった。その堂々たる指揮ぶりが逆に保田の死
期を早めた。敵は保田をリーダーと見るや、狙撃手に命じて狙い撃ちにした。
即死だった。保田が倒れた瞬間、柴田は射手を見つけて逆に射殺した。狙撃
手が倒れるまでに更に三本の矢が刺さった。
243カコイイ名無し:02/10/11 22:25 ID:cX0Ispv2
 敵は保田を討ち取った勢いに乗じて西門に迫った。丸太を引き出してバリ
ケードの破壊にかかる。高橋が飛び出し、手にした槍でまず一人突き、更に
縦横無尽に槍を振るって二人を手負いにした。
 敵の中から一人の男が進み出た。その目に宿るただならぬ殺気に高橋は恐
怖した。人を斬ることを楽しむタイプの男だった。高橋は槍を低く構え、慎
重に呼吸を整えた。額からつたう汗が地に落ちて小さな音を立てる。その刹
那、男は必殺の一撃を放つ。高橋は腰から真っ二つに斬られる所であったが、
バレエで培った驚異的な柔軟性で身体を逸らし、間一髪でこれをかわした。
砂塵渦巻く中、二人は再び対峙した。
244カコイイ名無し:02/10/11 22:27 ID:cX0Ispv2
 高橋は槍を旋回させると、穂先を下に向け、柄を背中に回して右手一本で
構えた。通常の戦法ではこの男には通じない。技量は圧倒的に相手が上だっ
た。ただ、敵をいたぶって楽しむ性癖がある。付け入るとすればその傲慢さ
だ。高橋は賭けに出た。穂先を低くして突進する。相手は不敵に笑うが、高
橋はその顔に向けてガマの油を投げつける。視界を失った男はハヤブサのよ
うなスピードで横に薙ぐ。手応えを感じ薄目を開けるが、そこに高橋の姿は
なく、ただ両断された槍があるばかりだ。気配を感じ天を仰いだ時はもう遅
かった。槍を使って棒高跳びの要領で天空高く舞い上がった高橋は、トンボ
を切って稲妻さながらに迫り、敵の眉間に短刀を突き入れた。男はある種の
喜びを感じながら息絶えた。
 手練れの男が倒れたことで盗賊の群は怖じ気づいた。高橋がゆっくりと立
ち上がり、血まみれの顔で笑うと、野盗どもは悲鳴をあげて逃げていった。
245カコイイ名無し:02/10/11 22:28 ID:cX0Ispv2
 安倍が到着したとき、保田の亡骸が戸板に乗せられ運び出されるところだ
った。
「圭ちゃん! 圭ちゃん!!」
安倍は息絶えた保田にすがって不覚にもすすり泣いた。自分の傍らで剣を取
るなら飯田がいるが、自分の代わりに剣を取るのは保田しかいないと思って
いた。その保田に先立たれ、安倍の心に暗雲が垂れ込めた。
 慚愧に耐えぬ吉澤は地に突っ伏して震えた。自分の愚かさが悲しかった。

*   *   *   *   *
246カコイイ名無し:02/10/11 22:36 ID:cX0Ispv2
+++++

  >>241 残念な結果となってしまいました。

+++++
247名無し募集中。。。:02/10/12 08:27 ID:03YwrIn4
これも剣に生きるものの定めか……。
黙々と指揮に徹して黙って逝くところがお圭さんらしい。
泣けてきた……。
248カコイイ名無し:02/10/12 22:33 ID:/djeIUXl
+++++

  >>247 あ、分かってくれる人がいて安心しました。
  ドラマチックに演出して死ぬのもカッコいいのですが、
  戦時にあって歴戦の勇士があっけなく死ぬってのも
  リアルな感じでイイかな〜と思いまして。質実剛健な
  保田ならではの、華は無くとも実のある最期だと思う。

+++++
249カコイイ名無し:02/10/12 22:34 ID:/djeIUXl
 それを最後に敵の攻勢がやんだ。安倍は戦況に生じたこの奇妙な間を訝し
く思う。用心のため各部隊を所定の配置につけたとき、とんでもない情報が
安倍の元に飛び込んできた。
「師匠、大変や。新垣からの連絡で、駅前ロータリーに敵の増援部隊が集結
中やて。その数、およそ……ひゃ、一二〇!」
250カコイイ名無し:02/10/12 22:34 ID:/djeIUXl
加護の報告を受けて安倍は指令台に陣取る新垣のもとに急いだ。新垣はパソ
コンを前に頬杖をついて眉間に皺を寄せていた。安倍がモニターを覗き込む
と、確かに駅前ロータリー周辺が真っ赤に光っている。
「これは間違いないデータだべか?」
「間違いありません。FLAME、W−indsをはじめ、関東一円の盗賊
が集ってしまったようです」
安倍は膝を屈して地面を見つめた。
「これまでだべ……」
251カコイイ名無し:02/10/12 22:36 ID:/djeIUXl
砂を掴んで茫然自失する安倍に新垣が声を掛ける。
「魔法の時間ですか?」
安倍は以前新垣が言ったことを思い出し、指令台の上を仰ぎ見た。
「何か対策があるんだべか?」
「ええ、一応」
「なんでもいいべ。できることがあったら何でもやって欲しいべ」
「はい!」
指示を受けた新垣はものすごい勢いでキーボードを叩きはじめた。額にうっ
すらと汗が浮かぶ。ときどき舌打ちしたりガッツポーズをしたり、安倍には
さっぱり分からないが、やがて派手に勢いをつけてEnterキーを弾いた。
「完了しました!」
新垣は満面の笑みで言った。
252カコイイ名無し:02/10/12 22:36 ID:/djeIUXl
 吉澤は空に向かって鼻を鳴らした。
「クンクン。なぁ、なんか空気変わったんじゃない?」
問われた石川も吉澤に倣って空気を嗅ぐが、小首を傾げて答える。
「別に何も……」
253カコイイ名無し:02/10/12 22:38 ID:/djeIUXl
 正門前では加護が飯田の頭を指さして腹を抱える。
「ハハハ、飯田さん髪の毛立っとるやん」
「何だ、あいぼんだって……」
254カコイイ名無し:02/10/12 22:39 ID:/djeIUXl
 東広場では南の空を呆然と眺める紺野を後藤が見咎めた。
「紺野、何見てんの?」
「後藤さん……来ます!!」
「んぁ?」
後藤もつられて空を見上げる。
255カコイイ名無し:02/10/12 22:40 ID:/djeIUXl
 駅上空の雲が大慌てで逃げ出し、空に丸い大きな穴があいた。天空を貫い
て、巨大な光の槍が地に刺さる。数瞬遅れて轟音と突風が巻き起こる。
「な、なんだべ」
つむじ風に煽られながら安倍が尋ねる。駅方向の空が赤黒く染まり、一帯が
焦土と化したことを物語る。
「軌道レーザーです」
新垣はそう言ってノートパソコンを閉じた。
「もう衛星にアクセスできません。私の出番は終わりです」
新垣はパソコンを脇に抱えて、少し寂しげに微笑んでから自分の教室に戻っ
ていった。
「あ、ありがとう……」
安倍は言い忘れた礼を新垣の背中に投げかけた。多分、新垣には聞こえてい
なかった。

*   *   *   *   *
256!宣伝!:02/10/13 12:17 ID:5Mn+wFyK
「七人の侍」DVD
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00006ITSR/qid=1034478771/sr=1-10/ref=sr_1_2_10/249-7955417-7858703
僕はこれではなく、BOXの方を買います。


圭ちゃんも逝ってしまったか。
そして、いよいよ敵も味方も総力戦か?
257カコイイ名無し:02/10/13 22:33 ID:8tlGp7m+
+++++

  >>256 お! 私も買おうかしら。先日のBC録画失敗してるし。
  でも、恥ずかしいからほとぼりが冷めた頃見ないと。
  さて、物語はまさに決戦直前。シッチャカメッチャカな乱戦を
  どこまで書ききれるか心配です。

+++++
258カコイイ名無し:02/10/13 22:34 ID:8tlGp7m+
「増援部隊は殆ど残っていないべ。でも、明日には残存部隊を再編して死に
物狂いの総攻撃をかけてくるべさ。決戦は明日だべ」
作戦会議に集まった面々は一様に表情を厳しくした。
「決戦に備えて、みんな交代で休みを取った方がいいね。生徒達はずいぶん
疲れているみたいだし」
飯田が実務的判断力を見せる。
「じゃあ、そのように指示するべ」
「悪いけど石川は休憩前に生徒達の点呼を頼む」
「はい」
快い返事と共に石川は校舎の方へ駆けだした。同時に、作戦会議の面々も自
分達の部署に散って行った。
259カコイイ名無し:02/10/13 22:35 ID:8tlGp7m+
 紺野を休みにやった後、後藤は紺野の部下の西田と木下を呼び止めた。精
鋭部隊でも一二を争う優秀な学生であった。
「ちょっと聞きたいんだけど、二人は紺野のことどう思ってるの?」
「と言いますと?」
後藤の真意を捉えかねて西田が聞き返す。
「だってほら、紺野って何て言うか、あまりパッとしないじゃない」
「う〜ん、はじめは戸惑いましたけど、慣れたって言うか。あさ美ちゃんっ
て一生懸命じゃないですかぁ。だからこっちも何とかしてあげなきゃって思
うんですよ」
「そうそう、本とか読んでいっぱい勉強しているみたいだし。後藤さんに教
わった剣の構え方だって、一人で夜中まで練習しているんですよ。あまり上
手じゃないけど、そういうの見せられちゃうと、ねぇ」
西田と木下は顔を見あって頷いた。
「あ、そう。いや、だったらいいんだ。ありがとう」
後藤は二人を退がらせた。部隊の中に紺野に対する不満がないと聞き、後藤
は少し安心した。そして、周囲のフォローがあることを前提に作戦計画を見
直しながら散策しはじめた。
260カコイイ名無し:02/10/13 22:36 ID:8tlGp7m+
 正門付近に歩いていくと、前方の暗がりから声をかける者がいた。小川麻
琴だった。
「後藤さん」
「ん、何?」
小川と直接話したことはなかったが、その風評を聞いていた後藤はやや身構
えた。
「後藤さんがどんな理由であさ美ちゃんをリーダーにしたか知りませんが、
あまり無理なことはさせないでくださいね」
厳しい表情と裏腹に、意外にもしおらしいことを言ってくる小川に、後藤は
内心ホッとした。
「わかってる」
そっけなく言って立ち去る後藤を小川はずっと睨み続けた。最後に後藤の背
中に一言浴びせる。
「何かあったら承知しないぞ!」
後藤は肩をすくめて西門に向かった。
261カコイイ名無し:02/10/13 22:37 ID:8tlGp7m+
西門には高橋が歩哨に立っていた。
「異常はない?」
闇に目を凝らしていた高橋は背後から声をかけられて五〇cmも跳び上がっ
た。
「い、異常ありません」
しどろもどろに報告する高橋に後藤は微笑みかけた。
「あのぉ、後藤さん」
立ち去ろうとする後藤に、高橋が話しかける。
「何?」
「後藤さんの所のあさ美ちゃんなんですけど……」
(またか)
「あさ美ちゃんって、マイペースで少し要領が悪い所があるんです。だから……」
「ああ、わかった、わかった」
後藤は手を振っておざなりに答えた。恐縮しながら任務に戻る高橋を見て、
後藤は少し突っ慳貪な言い方だったかなと反省した。
「それにしても……」
(ホント、不思議な子だなぁ)
後藤はそう思いながら月を見上げた。紺野の顔のような、まん丸の月だった。

*   *   *   *   *
262名無し募集中。。。 :02/10/13 22:53 ID:lbl1oVVn
西田、木下も登場ですか!西田推しだった自分はちょいと嬉しい。

★★★ 黒澤 明 〜 Part-2 ★★★
http://cocoa.2ch.net/test/read.cgi/cinema/1030753064/l50
ちなみに、このスレはROMってます。
263名無し募集中。。。:02/10/14 21:31 ID:fYTdQ28E
後藤が紺野に対して微妙な信頼感を持ち始めてるのが何か嬉しい。
決戦は金曜日………にはならんか(w
264名無し募集中。。。:02/10/14 22:54 ID:9/30UuD4
+++++

  >>262 西田、木下もゲストで呼んじゃいました。6期募集の
  噂もありますが、再チャレンジなんてないかなぁ。
  黒澤スレ、今見るのは怖いよ。連載が終わったら反省しながら
  拝見します。
  >>263 後藤と紺野の絡みはミュージカルに対するオマージュ。
  スーパールーキーとしてセンセーショナルに登場した後藤と、
  赤点、落第生として補欠合格した紺野を並び立たせて、しかも
  どちらも一歩も引かないってのには感動したんだよ。

+++++
265カコイイ名無し:02/10/14 22:57 ID:9/30UuD4
 一方、その月明かりの下、加護が校庭を見回っていると物影から辻が姿を
見せた。
「どうしたんや、のの。おしっこか?」
加護の問いかけを無視して、辻は加護の手を掴みグイグイと引っ張った。意
外なほど強い辻の力に、加護は引きずられるように連れて行かれた。辻は黙
ったまま加護を連れて学校を抜け出した。はじめは抵抗した加護だったが、
いつしか手を繋いで散歩でもしているような気分になっていた。そして二人
はそのまま河川敷の花畑までやって来た。一面のコスモスが月の光を浴びて
輝いていた。辻は屈んで花を摘みはじめた。
266カコイイ名無し:02/10/14 22:59 ID:9/30UuD4
「のの?」
「明日になったらお花も死んでしまうのれす。だから、今のうちに摘んであ
げるのれす」
「何バカなこと言っとるんや! 誰も死なん。花も、ののも、ウチも。誰も
死なんのや」
加護は辻の腕を引っ張って立ち上がらせると、肩を掴んで無理矢理自分の方
に向き直らせた。辻は泣いていた。
 辻は加護を振り切って駆けだした。しかし、一〇メートルほど走った辻は
不意に倒れ、そのまま動かなくなった。
267カコイイ名無し:02/10/14 23:00 ID:9/30UuD4
「のの!! どうしたんや!」
加護が慌てて駆け寄り抱き起こすと、辻は加護の腕の中でニコっと笑った。
「わーい、ひっかかったのれす」
「コラッ! ウチをからかったんか!」
二人はまるで二匹の子犬のように、たがいにもつれ合いながら花畑を走り回
った。加護は辻のために花冠を編んだ。形は少し歪んでいたが、花冠は辻に
よく似合った。辻は自分の姿を月光にきらめく川面に映し、少し照れたよう
に笑った。
268カコイイ名無し:02/10/14 23:01 ID:9/30UuD4
 その頃、石川は血相を変えて学園中を走り回っていた。中等部三年の辻希
美が行方不明になったのだ。生徒の面倒を一手に引き受けた石川である。戦
いではたいして役には立てないが、その代わりマネージメントは万全であり
たいと常に心を砕いている。にも拘わらず、最も大切な生徒の安全確保が疎
かになっていたとあっては安倍達に会わせる顔がない。石川は激しい焦燥を
感じ、瞳にこみ上げる熱いものを堪えることができなかった。
269カコイイ名無し:02/10/14 23:02 ID:9/30UuD4
 ひょっこり辻が現れた。石川の心配をよそに薄ら笑いを浮かべている。傍
らに立つ加護を見て石川は全てを察した。
「どこに行っていたのよ!」
石川は辻の返事を待たずに、その頬を激しく打った。加護の作った花冠が地
面に散った。悲鳴をあげて逃げだす辻を追いかけて、石川は何度も何度も辻
を叩いた。心配した分の怒りもあった。だが、加護に対する怒りもあった。
学生と浪人が友だちになるなんてあってはならないことだ。それを分かって
いながら辻をたぶらかした加護が許せなかった。その怒りを加護にぶつける
ことができない石川は、代わりに辻を打つしかなかったのだ。
270カコイイ名無し:02/10/14 23:03 ID:9/30UuD4
 騒ぎを聞きつけて飯田が、そして安倍と後藤が駆けつけた。遅れて吉澤が
眠い眼を擦りながらやってきた。近くの教室の生徒達も集まってきた。飯田
が石川を止めに入る。
「一体どうしたっていうの! 何があったの」
石川は半狂乱になって喚く。
「辻が……辻が、浪人と遊び歩いたのよ。友だち気取りで!」
「え? 浪人と友だちって……誰!?」
石川は歯がみして俯いた。固く握られた拳が打ち震えている。一同は当惑し
て辺りを見回した。加護が騒ぎをよそに背を向けて立っているのを見て、よ
うやく誰もが合点がいった。
271カコイイ名無し:02/10/14 23:03 ID:9/30UuD4
「まあ、そんなに怒らないでよ。人間、明日をも知れぬ命となれば、一人よ
り二人と考えても不思議はないっしょ。こんなことは戦場ではいくらでも起
こるよ」
飯田が懸命になだめにかかるが、石川は横を向いて聞き入れようとしない。
「じゃあ、親御さんには何て説明すればいいんですか。浪人の方と友だちで
すって言えば喜んでもらえるんですか?」
この数日間、寝起きを共にして気心が知れてきたとは言え、所詮は学生と浪
人である。石川を苦悩させ続ける冷たい現実を目の前に突きつけられ、安倍
達は返答に窮した。
272カコイイ名無し:02/10/14 23:04 ID:9/30UuD4
「死んじまったらどうせ親には合わす顔が無いだろ! それと比べたらどれ
だけマシか考えろ!」
雑踏の中から大声を上げたのは小川だった。なるほど、小川の意見はもっと
もだ。だが、それをにわかに受け入れることは石川にはできなかった。石川
は無言でその場を走り去った。
「何でぇ、人騒がせだな」
とぼけた口調で吉澤が言ったが、雰囲気は和まなかった。

*   *   *   *   *
273:02/10/15 00:02 ID:DHtyjY7s
石川に、アホかボケナスといいたくなりました・・・。
274カコイイ名無し:02/10/15 23:25 ID:2pbN01KZ
+++++

  >>273 あー、それは私の筆が拙いせいです。この話の世界って
  現役より浪人の方が格上みたいで、現実のそれとはニュアンスが
  違います。責任感の強い石川は、生徒の安全を守るために長らく
  強いストレスに晒されています。それに、外部の力を借りるのに
  反対する人も多く、今回の事件で反対派のもの笑いの種になるで
  しょう。さらに矢口に対する罪の意識や、裏門で死に掛けたこと
  など、精神的にかなり消耗していたんです。これを表現しきれな
  かった私が悪いので、あまり石川を責めないでやってください。

+++++
275カコイイ名無し:02/10/15 23:27 ID:2pbN01KZ
 決戦の朝は観測史上例を見ないほどの大雨であった。安倍は味方を集めて
作戦を確認する。
「残る敵は全て校庭に引き入れるべ。正門部隊は敵が通り過ぎるのを待って
追撃、指令台付近で待ち伏せた本体とで挟み撃ちにするべさ。この一撃が勝
負だべ」
276カコイイ名無し:02/10/15 23:28 ID:2pbN01KZ
作戦は理解したものの、決戦に挑む一同の顔はおしなべて固い。小川ですら
笑おうとしたその顔が引きつっている。安倍は砕けた口調で味方の緊張を解
す。
「さあ、いよいよ本番だべ、みんな元気出して。特に加護は頑張らなくっち
ゃダメだべ。何せ大事なオトモダチがいるんだからさ」
一同が破顔する。禁断の友情とは言え所詮は人ごとである。一夜明ければ笑
い話だ。ただし当の加護だけは体裁が悪く、後頭部を掻いて苦笑するしかな
い。
「まったく、イヤやなぁ」
277カコイイ名無し:02/10/15 23:29 ID:2pbN01KZ
 吉澤は降りしきる雨の中を駆けだして、武器庫から引きずり出した一〇本
余りの刀を指令台の脇に突き刺していった。
「よっすぃー、どうした」
飯田に問われ、吉澤はまくし立てた。
「一本の刀じゃ五人と斬れやしない!」
それは自分が二、三〇人も斬ってやろうという気概が言わせた科白であった。
飯田は決戦に挑む吉澤の心意気を良しとし、自らも覚悟を新たに部署へ急い
だ。
278カコイイ名無し:02/10/15 23:29 ID:2pbN01KZ
 風向きが変わり、空気が変わった。吹き付ける風雨に向かって吉澤が吠え
る。
「さあ、どっからでも来やがれ!」
吉澤が招いたわけでもなかろうが、正門に怒号が起こり、決戦の火蓋が切っ
て落とされたことを告げる。安倍は愛用の弓を取り出し弓弦を張った。飯田
と加護は顔を見あわせ頷きあった。後藤は鯉口を弛め、高橋は槍をしごき、
小川は指を鳴らし、紺野は謎の装置の電源を入れた。それぞれに戦闘準備を
完了する。
279カコイイ名無し:02/10/15 23:30 ID:2pbN01KZ
 その先に待ち受けていたのは混沌とした乱戦であった。狂乱した盗賊団が
校庭になだれ込み、指令台前で安倍の率いる部隊と対峙する。後背から駆け
つける飯田・加護隊に尻を煽られ盗賊の群は四分五裂する。安倍の狙い通り
敵を分散させた。各個撃破に一縷の望みを託すのみだ。
280カコイイ名無し:02/10/15 23:31 ID:2pbN01KZ
 安倍は弓を引き絞り、攻め入る敵に狙いをつける。弓弦が唸るたびに豪雨
を縫って白羽が飛び、一人、また一人と地に落ちた。
 傍らの吉澤は泥まみれになりながら刀を振るい続ける。行き違ったバイク
を後ろから追いかけて、その背に太刀を浴びせる。自刃も辞さないケンカ殺
法に敵も味方も恐れをなした。

*   *   *   *   *
281カコイイ名無し:02/10/16 22:48 ID:e5XTlXmo
 放送室から屋上まで長いケーブルが引かれた。屋上に実況席を設えて第一
声が発せられる。
「あーあー、チェックチェック。はい、こんにちは〜。新垣里沙です」
校庭に浪々と響き渡る放送を聞き、敵味方共に動きが止まる。
「何やってんの、新垣!」
安倍の言葉が聞こえたかのように、新垣は続く言葉で意図を明らかにする。
「皆さんに敵の位置をお教えします。よ〜く聞いてくださいね」
282カコイイ名無し:02/10/16 22:49 ID:e5XTlXmo
新垣は早速敵の動きを屋上から実況しだした。なるほど新垣の情報は正確で
役に立った。新垣の情報を元に安倍が指示を出し、飯田、後藤、加護、さら
に石川と高橋が部隊を機動させる。新垣は盗賊の侵攻状況を伝えると同時に、
ニセ情報で敵を巧みに撹乱した。手薄な所に伏兵がいるように見せかけたり、
逆に味方が待ち構える只中に敵を誘い込んだりした。ノリのいいBGMをか
け、軽い冗談を交えて楽しげに実況する新垣。
「まったく、気楽なもんだよなぁ」
吉澤が恨めしそうに屋上を見上げる。
283カコイイ名無し:02/10/16 22:50 ID:e5XTlXmo
 しかし、屋上は屋上で戦場だった。新垣の実況が戦況に影響大と察知した
敵は、屋上めがけて銃弾を立て続けに撃ち込む。何発かは至近弾であったが
新垣は恐怖を感じさせない口調で実況を続けた。たいした度胸だった。だが、
狙撃手の狙いすました銃弾がついに新垣を捉える。凶弾が新垣の額を撃ち抜
く寸前、右から差し出された鉄板がこれを弾いた。
284カコイイ名無し:02/10/16 22:50 ID:e5XTlXmo
「里沙ハ私タチガ守リマース」
留学生のミカとアヤカだった。混戦となっては投石器は使えない。彼女たち
は戦乱の中に自らの居場所を求めてここに辿り着いたのだ。二人は屋上入口
の鉄扉を引き剥がし、新垣を守るための盾となった。抱えた鉄の扉に銃弾が
当たり金属音を立てる。二人の意気に笑顔で応え、新垣は再び実況に戻った。

*   *   *   *   *
285名無し募集中。。。 :02/10/17 21:01 ID:SXPymBv0
 アマゾンでの自分への「おすすめ商品」に「ピンチランナー」が....
それ自体は、娘。の商品を買っているから別に不思議ではないが、
その紹介文全文が以下の通り。

「黒沢明の『七人の侍』をもじった「やるべし!」という合いことばのもとに、高校の弱小陸
上部には心に傷を負ったメンバーが集まってくる。聾唖者の母親とうまくいかなかったり、
家庭内暴力を受けていたり、部活で孤立していたり…。彼女たちは駅伝大会を目指して
猛練習を開始した。
モーニング娘。は「ひたちなか全国少女駅伝」に実際に参加。決して本格的な走りでは
ないが、彼女たちの本物の汗と涙がそのままこの熱血青春映画のメッセージとなっている。
この作品を最後に市井沙耶香が脱退したが、逆に加護、辻、石川、吉沢の4人は完成後
に参加が決定し、急きょ彼女たちの登場場面を撮り足したという。ほかに平家みちよ、
T&Cボンバー、ココナッツ娘、メロン記念日など、つんくファミリーが出演し、華やかさを
加えている。(堤 昌司) 」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00005HN4Q/ref=pd_ir_d/249-7955417-7858703

いきなり、冒頭から「黒澤(原文は沢だけど)」の文字。この堤さんもフリークだろうなぁ。
この「やるべし」以外にも両映画の共通点は指摘されているからね。まあ、「ピンチランナー」の製作者も主人公が7人という時点で、ピンと来なかったわけはないので、そういう共通点が
あるのは当たり前だろうな。
286カコイイ名無し:02/10/17 22:44 ID:mWuuhIlf
+++++

  >>285 そうそう、ピンチランナーも七人の侍を感じさせますね。
  酷評したり、斜に構えて見る人も多いけど、私は素直に感動しま
  した。惜しむらくは、ラストの4期メンゲストシーン。吉澤辺り
  でも、経験者として「お手並み拝見」的に入部希望したらな〜。
  劇場でも見たけど、先日DVD買っちゃったよ。まだ見てないけど。

+++++
287カコイイ名無し:02/10/17 22:46 ID:mWuuhIlf
 戦場は混乱し、学園側の殆どの部隊が瓦解した。その中で飯田は部隊をよ
く持ちこたえさせた。飯田の的確な指揮ぶりが部下を引きつけて離さなかっ
た。多くの者は、この部隊にいれば安全だと感じ、飯田の後を追って言われ
たとおりに戦った。だが、三人目を倒して気がつくと小川の姿がなかった。
「加護! 小川はどこだ!?」
「あれ、おれへん。どこ行ったんやろ。捜してくるわ」
駆けだす加護の背中を見送りながら、飯田は小川が死に急ぎはしないかと心
配した。
288カコイイ名無し:02/10/17 22:47 ID:mWuuhIlf
 その頃、部隊からはぐれた小川は自分の身長の倍はあろうかという男と相
対することになった。男が拳を振るうと竜巻のような突風が起こった。自分
の頭ほどもある拳を間一髪かわした小川は、後ろにあった車が自分の身代わ
りに殴られて五メートルも吹き飛ばされるのを見て口笛を吹く。
「ヒュー、面白れぇ!」
小川は両手を打って低く構えた。
289カコイイ名無し:02/10/17 22:47 ID:mWuuhIlf
 男が第二撃を放つ瞬間、小川は相手の懐に飛び込んだ。スライディングで
相手の股の間を素早く抜け、後転しながら逆立ちすると、そのまま腕の力で
跳び上がって相手の背後からその首に両足を絡める。強引に頭を反らされ呻
く大男の爪が小川の白い脚に食い込む。小川が身体を激しくツイストすると、
鈍い音を立てて男の首があらぬ方向に曲がる。崩れ落ちる大男から離脱した
小川はズボンに付いた泥を払いながら言った。
「ハッ! 見かけ倒しかよ」

*   *   *   *   *
290名無し募集中。。。 :02/10/18 22:24 ID:vYRWcdcW
小川強い!
291カコイイ名無し:02/10/18 22:34 ID:FtONjjdn
+++++

  >>290 実際のイメージと最もかけ離れているのが、この小川では
  ないでしょうか。ファンは違和感があるでしょうが最初期に見せた
  鋭利な雰囲気で登場させました。学園内に反骨精神を持つ人物が欲
  しかったのと、なにより私自身、小川にはもっとハングリーでいて
  ほしいと思っているからです。まぁヘタレの小川も良いけどね。

+++++
292カコイイ名無し:02/10/18 22:38 ID:FtONjjdn
 剣豪肌の後藤は部隊の指揮には向かなかった。足手まといになる部下を校
舎に逃がし、後藤は一人で一〇人からの敵を相手にした。気合いを孕んで青
光りする名刀薔薇一文字。豪雨を弾いて霧を生み、ひとたび薙げば紅い嵐が
渦を成した。敵は瞬く間に一〇人が八人、八人が五人と数を減らす。かつて
聞き及んだ事とてない魔剣の冴えを目の当たりにし、敵は恐怖に駆られる。
 小川を捜しに来た加護は、血煙に舞う後藤の華麗な剣さばきに見とれた。
勇んで傍らに駆け寄り剣を構える。
「助太刀するでぇ」
後藤が少々迷惑そうな顔をしたのに加護は気付かない振りをした。
293カコイイ名無し:02/10/18 22:39 ID:FtONjjdn
 紺野は後藤の指示に従い一旦は校舎に入ったが、心配になって様子を見に
出てきた。案の定、裏手から校舎に侵入しようとする一団がいる。紺野は手
製の連射ボーガンを両手に持って敵のただ中に突進した。太く短い矢を受け
て敵は次々と倒れていくが、あと一人というところで矢が尽きた。残った男
は肩に刺さった矢を引き抜き、矢尻についた自分の血を舐めながらゆっくり
紺野に近づいてきた。紺野が身構えると、男は笑いながら言った。
294カコイイ名無し:02/10/18 22:40 ID:FtONjjdn
「お嬢ちゃん、おイタしちゃだめじゃ……」
言い終わらぬうちに男の横っ面に紺野の鋭い回し蹴りが炸裂する。紺野が空
手のチャンピオンだと知っていればもう少し用心したかもしれない。だが、
結果は同じだ。口をパクパクさせて倒れる男を見下ろしながら紺野が言う。
「最後の武器も完璧です!」

*   *   *   *   *
295名無し募集中。。。 :02/10/19 07:23 ID:ivIH0k3U
コンコンつおい!
296名無し募集中。。。:02/10/19 09:03 ID:ESbnHmGO
薔薇一文字!!、、、後藤が振るうとまさに妖刀と呼ぶに相応しい妖しい雰囲気がw。
297名無し募集中。。。 :02/10/19 15:48 ID:H20aKUsD
      ,.--'"  ``¬ー--、
    /      _,.- ''_二ゝヽ
    j    _,-'_´-''_ニ -一ーヽ、_
  r''´   /_,r',.-''"   _,. 一'ヾ'"ヽ
  !   ///   _,-'"   ヾミミ、ノ
 /;; ,-' ///   ,.r';ミシ''"   _,,,!..._
 |V / l//   _,-ミシ" __..... -、ニ7 ''" 'l, 'l,
 ヽ |_V___,.='_,,,,===イ ''"'" d ヽー ' V
  ヽr'i-ヽ`: : :     |  ̄ ノ  ヾー"l                        _
    ',ヾ:: , i      `ー‐'ヘ-ヽ..-ヽ. |                 __,..--一''" ̄`''ノ  カット!
--、_ハヽ__ヽ       /  __   _. |             __,..ィ"  - '_,, -'" ̄
ヽ、 Y `\  l        '"   ̄ノ /       _.... -‐''"        `-、
 \ ヽ   `'、     ヽ,,   ̄ ̄  ノ`ヽ,,,,_,.. -''"/           _   ヽ.
-- = \,.....--ヽ、  __ ,.ヽ_  _,. /_,;-'"/       |             `ヽ  ,)
シ_ _ ヽ___   \____r-、  ̄_,vノ'"/ :|      l          `ー、_ノ ̄
 /     `ヽ--'' /l   ̄ ̄ ,. -' _ |      ヽ、 ,r'''''ー一'''''''ー--’
〈_ - /  // / l| / |   _,.-'" =   ヽ     _,..-"
298カコイイ名無し:02/10/19 22:23 ID:2v58bpB/
+++++

  >>295 紺野の空手は札幌大会金メダルでしたっけ? 先日の
  FUNで今田が「この13人いつでもヤレる」って言ってたけど
  卒業した後藤はともかく、自分自身も含まれてるのかねぇ。

  >>296 薔薇一文字は私もお気に入りのネーミング。文麿さまの
  イメージだけど、実は当初は百合一文字の案もあったのですよ。
  妖しすぎて却下でしたが。

  >>297 監督、OKですか?

+++++
299カコイイ名無し:02/10/19 22:28 ID:2v58bpB/
【 外 伝 1 】
 戦とはままならぬもので、多くの生徒が訓練で培った技術の半分も発揮で
きなかった一方で、実戦に際してはじめて頭角を現す者もいる。
 高等部一年の松浦亜弥は、当初矢口の部隊に配属されたが、程なく指導者
を失い十分な訓練を受けられなかった。代理で指揮をとる後藤も何やら気が
かりなことがあるらしく、旧矢口隊は事実上解散していた。そこで松浦は独
力でこの戦に参加する決意をする。
300カコイイ名無し:02/10/19 22:29 ID:2v58bpB/
 松浦が用意した武器は飛距離二〇メートルの圧搾空気水鉄砲だ。裏門脇に
陣取った松浦は、電動ポンプを堀に放り込み、水を吸い上げながら敵を狙撃
した。豪雨を貫くジェット水流を受けて、野盗のバイクは面白いように転倒
した。
 松浦に気付いた一台のバイクが正面から突っ込んできた。カウルに身を伏
せてジェット水流を防ぐ。
301カコイイ名無し:02/10/19 22:30 ID:2v58bpB/
「あ、いくよ!」
気合いと共に松浦は予備の水鉄砲を発射した。ハデハデなピンクの液体が迫
る野盗の視界を塞いだ。敵は目標を見失い、そのまま裏門から飛び出して堀
に落下した。松浦は勝ち誇った声で敵を嗤った。
「イェ〜イ、めっちゃ堀でい!」
落ちた男は松浦の声を聞き、悔しそうに呻いた。
「ダジャレかよ……」

*   *   *   *   *
302名無し募集中。。。:02/10/20 02:22 ID:eJr4chqc
面白いよ!
303:02/10/20 13:40 ID:j1I2unOX
ハロモニ。でミニマム矢口が、ツルハシ持ってましたね。
泣けました。
304名無し募集中。。。:02/10/20 14:23 ID:OQFP9ptw
>>303
。・゚・(ノД`)・゚・。
305カコイイ名無し:02/10/20 22:23 ID:VC2UOY4+
+++++

  >>302 ありがとうございます。外伝部分は後から勢いで
  書いたのですが、読み返してみると語尾がイマイチでした。
  しかし、それを直すほど冷静なら、こんなバカなこと書か
  なかったかも。

  >>303-304 テレビの出来事をネタにした部分はありますが、
  ネタにした事がテレビになるなんて、偶然とは言えビックリ
  です。一生懸命バカをやる矢口、それすら悲しい……。

+++++
306カコイイ名無し:02/10/20 22:26 ID:VC2UOY4+
【 外 伝 2 】
 藤本美貴も決戦の場で才能を遺憾なく発揮した一人である。彼女は欠席し
ていたため部隊に配属されなかった高等部三年生だ。女子高生SMクィーン
という隠された素顔を持つ彼女の武器、それは三m余りの長鞭である。貧し
い家計を助けるためのバイトとしてSM嬢になった彼女だが、いつしか鞭を
こよなく愛するようになり、今ではその技術を磨くことに血道を上げていた。
307カコイイ名無し:02/10/20 22:27 ID:VC2UOY4+
 鞭の使い手も達人となると、人がくわえたタバコの火を落とすほどの精度
を誇り、振るう鞭の先端が音速を超えるという。藤本もそのレベルに達して
はいたが、さりとて客を音速の鞭で打つわけにもいかず、技術の向上に伴っ
てフラストレーションは増していった。ようやくその技を発揮する機会を得
て、藤本は完全に浮かれモードだった。安倍達の指示を無視して密かに自分
の教室を抜け出すと、嵐の校庭に仁王立ちになる。目の前を好き勝手に走り
回るバイクの一つに狙いを定めた。
308カコイイ名無し:02/10/20 22:28 ID:VC2UOY4+
ビシッ!
唸る鞭が敵を打つ。
「うっ!」
男がバイクから転がり落ちる。
ビシッ!
落ちた男を更に打つ。
「くっ!」
ビシッ!
「あん!」
いつしかそこは、打つ藤本と打たれる男の、二人だけのワンダーランドにな
っていた。藤本は我が意を得たとばかりに、ひそかに開発した技を繰り出す。
スナップを効かせてうねるように繰り出した鞭は、男の首に蛇のようなしな
やかさで絡みつく。藤本が手首を捻ると男の顔が見る見る青くなった。そっ
と巻きつけて、ギュッと首絞めて、男は言い知れぬ歓喜に包まれて昇天する。

*   *   *   *   *
309名無し募集中。。。:02/10/21 00:47 ID:4dEAfRu1
藤本編、上手いね。普通に笑った
310名無し募集中。。。 :02/10/21 18:02 ID:Ean9bU8d
>>298
武道を志すものにとって、最大の敵は「己」ですから(w
311カコイイ名無し:02/10/21 22:35 ID:nk46gX0a
+++++

  >>309 ありがとうございます。実は藤本についてもあまり
  知らなかったので、藤本系のスレで勉強しました。藤本の
  ファンがほぼ例外なくマゾだったのでサービスしました。

  >>310 あ、うまいこと言いますね。

+++++
312カコイイ名無し:02/10/21 22:36 ID:nk46gX0a
 高橋はこれまでに二人を倒したが、率いる部隊は散開し、用意した槍も三
本とも挫けてしまった。そこで一旦退こうと思案した矢先、脇から飛び出し
た三台のバイクに行く手を塞がれた。高橋はぬかるんで滑りやすい校庭を校
舎と逆方向へ走りだした。バイクの男達は下卑た笑い声を上げながらこの狩
りを楽しんだ。高橋は廃車の脇を抜けながらも次第に逃げ場を失っていった。
313カコイイ名無し:02/10/21 22:37 ID:nk46gX0a
「さぁ、どうした。もう逃げないのかい?」
遂に男達は高橋を追い詰めた。三人の男が高橋を囲み、どう料理しようか舌
なめずりをする。その時、先頭の男に黒い影が襲いかかった。さらに別の男
には白い影が覆い被さる。
「アレグロ! アダジオ!」
黒い猛犬アレグロと白い巨犬アダジオは、高橋に拾われてきた捨て犬であっ
た。彼らは主人の危機を救うべく体育館を抜け出して来たのだ。さらに何十
匹もの犬が男達に襲いかかる。狩る者と狩られる者の立場は完全に逆転して
いた。

*   *   *   *   *
314カコイイ名無し:02/10/22 23:07 ID:FyDE7rzr
 血眼になってツルハシを振るい続ける石川の背後に敵の影が忍びよる。気
付いたときにはもはや手遅れだった。石川は固く目を閉じて死の瞬間を待っ
た。だが、敵は短い呻き声を漏らして石川に覆い被さってきた。男の下から
這い出してみると、その背中には矢が刺さっていた。部室棟の屋上からメロ
ン弓箭隊最後の生き残り、大谷が矢を放って石川を救ったのが分かった。
「ありがと〜」
石川が手を振るが、大谷は返事もせずにそのまま屋根から滑り落ちた。彼女
もすでに致命傷を負っていたのだ。

*   *   *   *   *
315カコイイ名無し:02/10/22 23:08 ID:FyDE7rzr
 吉澤は四本目の剣の柄に手をかけた。引き抜きざまに反転して背後に迫る
敵を斬った。勢い余って剣が折れる。それを投げ捨て、五本目を後ろ手に探
して引き抜く。
「ヒョー、ノッてきた、ノッてきた!」
吉澤は迫るバイクに正面から飛び込んだ。相手は驚いて急ハンドルを切り、
泥で滑って転倒する。吉澤はスピンしながら迫るバイクをジャンプでかわし、
着地と同時に乗り手を刺す。
「次!」
意気揚々と立ち上がる吉澤は周囲を見回して新しい標的を求めた。

*   *   *   *   *
316名無し募集中。。。:02/10/22 23:20 ID:E5hyYLU9
?今日はどうしたの?
317名無し募集中。。。 :02/10/23 17:25 ID:U0tEZMVR
hozenn
318カコイイ名無し:02/10/23 22:23 ID:zQSiZisO
+++++

  >>316 短すぎた? 今日の分と合わせて書けばよかったかな。
  初めての掲示板小説なのでお許しください。

  >>317 ありがとうございます。

+++++
319カコイイ名無し:02/10/23 22:25 ID:zQSiZisO
 辻はバケツを持って右往左往していた。
「火事なのれす、火事なのれす」
賊が放った火矢がカーテンを燃え上がらせた。トイレに行こうとしてこれを
発見した辻は、動転して人を呼ぶことにも気付かず、バケツを持って水道と
火災現場を往復した。しかし、小さな身体で大きなバケツを運ぶ辻が火事の
現場に着く頃には、バケツの水は半分ぐらいに減っていた。
「わ〜ん、ダメなのれす〜。水が足りないのれす〜」
辻が泣き声をあげた。
 煙に気付いて教室に飛び込んだ養護教諭の石井は、カーテンに向かってパ
ンツを降ろす辻を見つけ、呆れた声で言った。
「辻ちゃん、多分届かないと思うよ」

*   *   *   *   *
320カコイイ名無し:02/10/23 22:26 ID:zQSiZisO
 新垣の声が賊の再結集を告げる。敵に立ち直る機会を与えてはならじと、
高橋は犬部隊を率いて指定ポイントに急行する。きらめく銀槍を手に狼犬を
引き連れて疾駆するその姿は、戦士の魂をヴァルハラへ導くワルキューレさ
ながらであった。
 前方に飯田の部隊を発見し、高橋は合流するべく歩みを早める。だが、ど
うしたことか、飯田隊の進軍速度は思った以上に速く、犬の脚をもってして
も追いつけなかった。高橋は飯田の部隊運営能力に舌を巻いた。
 当の飯田の方ではいささか状況が違っていた。部隊は飯田の常人離れした
速度に必死で食らいついているのだが、飯田自身は部隊の指揮どころではな
い状況だった。
「犬! 犬! 犬〜!!」
怖い物など無いような飯田だが、犬だけは苦手であった。

*   *   *   *   *
321名無しの歩き方@お腹いっぱい。 :02/10/24 19:41 ID:XcP1oPMz
>>319
ポッ。辻ちゃんったら。
322カコイイ名無し:02/10/24 22:27 ID:Jvjj0IIs
+++++

  >>321 この辻は少々バカっぽ過ぎたかなと反省したのですが、
  今日のハロキで掛け算九九ができない事が露見しましたね。
  事実は小説より奇なりです。
  しかし、どこの名無しを持ってきたの?

+++++
323カコイイ名無し:02/10/24 22:44 ID:Jvjj0IIs
 六人の敵に囲まれた小川は間合いを測りながら作戦を練った。敵が動く前
に先手を打つ。リーダーと思しき男に超低空から急接近し、伸び上がりなが
ら顎をめがけて両手を突き出す。男の両足が地を離れた瞬間には次の敵を目
指して駆けだす。コマのように回転しながら接近し、足を絡めて転倒させる
と素早く背後に回り込んで喉を絞める。頚動脈を圧迫して二秒で落とすが、
その二秒の間に別の男が背後に迫った。男は小川の髪を掴んで引っ張り上げ
た。
324カコイイ名無し:02/10/24 22:45 ID:Jvjj0IIs
「ずいぶん舐めたマネしてくれるじゃねぇか、お嬢ちゃん」
男は小川の喉元に切っ先を突きつける。小川は肩越しに男を睨み上げると最
後の虚勢を張った。
「舐められてイキリ立ったかい? 坊や」
挑発された男が小川の喉を切り裂こうとした刹那、右方向から疾風が走り、
男は地に落ちる前に意識を失った。
「麻琴っちゃん、大丈夫?」
325カコイイ名無し:02/10/24 22:46 ID:Jvjj0IIs
「あさ美ちゃん!」
紺野の電光の蹴りが小川を救った。紺野は小川の背後に入り、背中合わせに
なって取り囲む賊に挑んだ。合図もなしに両者一斉に飛びだす。二人の格闘
家は共闘することで数倍の力を発揮した。
 紺野と小川が敵に包囲されていることに気付いた後藤は血相を変えて助け
に走った。その後藤の見ている目の前で、二人は襲いかかる野盗全員をもの
の数秒でノックアウトする。後藤は唖然とした表情でこれを眺めると共に、
紺野に対する自分の評価がいかに不当であったかを痛感する。
 最後の敵を屠った小川が親指を立ててウインクすると、紺野は小川に飛び
ついて強く抱きしめた。突然のことに小川はドギマギした。
「ちょっと、あさ美ちゃん。照れるよ……」
紺野はそのままくずおれた。
326カコイイ名無し:02/10/24 22:46 ID:Jvjj0IIs
「あさ美ちゃん? あさ美ちゃん!」
紺野の背中に黒い短剣が刺さっていた。紺野は自ら楯となって小川を守った
のだ。後藤が一足飛びに跳んで暗殺者を斬る。それは小川が最初に倒したは
ずの男であった。小川は状況が理解できずにただ立ちつくしていた。駆け寄
った後藤が傷口を見て無情にも首を横に振る。紺野は末期の息で語りかける。
「ご、後藤さん……」
「喋るな! 紺野」
「か、完璧でした?」
「ああ、完璧だ。紺野あさ美は完璧だよ!」
紺野は微笑みの中に息絶えた。小川は豪雨に打たれてなお明らかに落涙し、
絶叫しながら戦場に舞い戻った。あまりの荒れように後藤も止めることはで
きなかったし、また止めようとも思わなかった。
327カコイイ名無し:02/10/24 22:48 ID:Jvjj0IIs
 小川の最期を見た者はいない。乱戦の中、何人かが獣人と見まがう小川の
暴れぶりを見ているだけだ。翌日になって満身創痍の亡骸が発見された。そ
の頬に残る紅涙の痕は、奇しくも飯田が予見したように、涙が彼女の命を奪
ったことを物語っていた。飯田は霊安室に横たわる物言わぬ小川の頬を拭い
ながら、その耳元にそっと囁いたという。「ねえ、笑って……」と。
 小川の死に様を知る者は一人もいないが、一つだけ容易に想像できること
がある。小川麻琴は自らの闘魂に殉じた。

*   *   *   *   *
328名無し募集中。。。:02/10/24 23:00 ID:Xr/61H+l
こんまこ・・・・゚・(ノД`)・゚・
329名無し募集中。。。:02/10/24 23:11 ID:jCu17xRF
。・゚・(ノД`)・゚・。 葬式スレどこ?
330カコイイ名無し:02/10/25 22:13 ID:IyxprL8H
 幾多の悲劇を生んだ混戦にもようやく終わりが見え始める。飯田の部隊は
三分の一を失いながらも善戦していた。加護は分散した部隊を何度も再結集
させながら、戦果こそ乏しいものの敵を追い立てる役割を果たした。高橋は
犬部隊を率いて戦場を駆け巡っている。後藤は感情を無くした戦闘マシーン
のように淡々と仕事をこなした。吉澤は疲れなど微塵も見せずに獰猛さを遺
憾なく発揮した。石川は負傷者の救助に奔走した。喉を潰した新垣が声にな
らない声援をただ繰り返す。安倍は大局が決したことを悟りながら、最も危
険な時間帯に神経をとがらせる。
331カコイイ名無し:02/10/25 22:14 ID:IyxprL8H
 いまだに校庭内を走り回る二台のバイクを後藤が続けざまに斬り捨てる。
その洗練された剣技に加護が歓声を送ったとき、銃声と共に後藤の身体が三
メートルも宙を泳いだ。後藤は胸に深紅のバラを散らしながら刀を杖に立ち
上がり、射手の潜む校舎の窓を睨みつけた。しかしそこで力つき、頭から水
たまりに倒れ込んだ。駆け寄った加護が抱えて起こそうとするが、すでにそ
の魂魄は後藤の身を去っていた。
332カコイイ名無し:02/10/25 22:15 ID:IyxprL8H
「ひゃあぁぁぁ!」
加護は火のついた赤ん坊のような泣き声をあげて狙撃手に駆け寄ろうとする。
しかし動転するあまり泥に脚を取られて進めない。その加護の肩を誰かが掴
み、泥の中に引き倒す。素早く脇を抜けて校舎に飛び込むその影の主は吉澤
だった。
 いつの間にか校舎に侵入していた賊を見据え、吉澤は後藤の仇とばかりに
歩み寄る。相手は吉澤目がけて手にしたライフルを放つ。吉澤は腹に銃弾を
受けて倒れるが、不敵に笑って立ち上がると、そのまま敵に突っ込んでいく。
更に一発が発射されるが吉澤は倒れない。敵は不死身の化け物に捕らえられ
た恐怖に腰を抜かす。廊下まで這い出た敵を脇差しで貫き、吉澤はそのまま
自らも倒れた。壮絶な最期であった。
333カコイイ名無し:02/10/25 22:16 ID:IyxprL8H
 ここに至り、盗賊は完全に統制を失って散り散りに逃げはじめる。加護は
半狂乱になって敵を追い求めるが、もはや斬るべき相手は残っていない。安
倍に両手を押さえられ、ようやく刀を降ろす加護。天を仰いで子どものよう
に泣き叫ぶ彼女を笑う者はいなかった。叩き付けるような雨に打たれ、誰も
が冷たい涙を流した。
 物見やぐらに矢口の作ったノボリ旗が翻る。激しい嵐を受けながら、旗は
凱歌を奏でるように力強くはためく。けれど風を切るその音は死神の口笛の
ようにもの悲しく響き渡るのだった。

*   *   *   *   *
334カコイイ名無し:02/10/25 22:16 ID:IyxprL8H
 前日の豪雨を忘れたかのように、明くる日は雲一つない青空だった。生徒
達が力を合わせて戦死者の埋葬を終え、壊れた校舎を直し、校庭を平らにな
らす。戦いを終えたその顔には晴れやかな光が宿っていた。
 ツルハシを肩に担いだ石川が加護に歩み寄る。
「あの、お借りしたお金ですけど……」
石川が言いにくそうに切り出すと、加護は笑って手を振った。
「もう、ええわ。少し余分に貰いすぎたくらいや」
335カコイイ名無し:02/10/25 22:17 ID:IyxprL8H
 昨日までの悪夢が嘘のようだ。学園は急速に正常化し、すでに一部の授業
が始まっている。華やかな学園生活を仰ぎ見て安倍と飯田は揃って溜息をつ
く。
「また負け戦だったべ」
「え?」
安倍の意外な言葉に飯田が思わず聞き返す。
「勝ったのは生徒のみんなだべ。私たちじゃない」
「確かにね」
飯田も合点がいき頷いた。
336カコイイ名無し:02/10/25 22:18 ID:IyxprL8H
 学園の墓地には数多くの真新しい墓ができた。安倍、飯田、加護は戦死し
た仲間を偲んで手を合わせた。
「あいぼ〜ん」
遠くから辻に呼びかけられて加護が手を挙げる。そのとき体育教師の笛が鳴
り、辻の名が呼ばれた。辻は加護に応じることなく授業に戻った。
「のの……」
「さ、行くべさ、加護ちゃん」
安倍は加護の肩を抱いて向き直らせた。加護は安倍達に連れられ、何度も何
度も振り返りながら学園を去っていった。

*   *   *   *   *
337カコイイ名無し ◆BOCKOo2hac :02/10/25 22:19 ID:IyxprL8H
 風薫る川辺の道を並んで歩く三浪人。未練が加護に花畑を見下ろさせた。
「!」
加護の異変に気付いた安倍が心配して声をかける。
「加護ちゃん? どうしたんだべ」
加護は答えることなく目頭を押さえた。コスモスは辻のメッセージの形に刈
り込まれていた。
“ありがとお あいぼん”
「……アホやなぁ、のの。『ありがと‘う’』やろ」
加護は安倍の胸に顔を埋めて泣いた。暖かい涙だった。
338カコイイ名無し ◆BOCKOo2hac :02/10/25 22:20 ID:IyxprL8H
     ,;.;'"'';,.;,;.;'"″″'';,.;.;
   ;;'"';;,.,.                   .;''';,.;..;"'';,.;.;、 ,;, ;..'"``"`"';,.;,,,; ' 
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    ";、  ,; '  `;,                              ,; ' 
        ;.;、;'
      :    ;;;
                    糸冬

              ノノヽヽヽ _,,,,    〃ノハヽ 
      (ノ~\\  ,(^〜^0)''"  / || | |ヽ^◇^ノノ人ヽ ノノノ从ヘ
      (,,`.∀´) O)'i'ヾ〃i'ヽ   ||| ゜〜゜)||y(●´ー`) |(´Д` )|
       ハ y i)   レ'リ=ツ=⊂シ   ハ y@ノハ@]y「ト,  (⌒ハd)
      〈)1 ,__|\   l , リハ\   (⌒) (‘д‘ ),i リハ  ノ:::リ |ヽ
     ノハルノノリシノノ;:, ムノ :ハルノ;ノリシノノ ム y/ヽノリシルノリルノリノリシ
       . .:..:::,:ノノ::.;ルノノリルノリル;ルノノルノリノリシルノリルノリ;;:.,ノ;.;, . .
339名無しの歩き方@お腹いっぱい。 :02/10/25 23:03 ID:9DNw6Ku/
あ〜ん、映画通りとはいえ、やっぱり最後に「バカ姫」ことよしごまが逝ってしまったか。
「後藤の仇を吉澤が果たす」というのは、この配役にした作者さんのホームランだね!
もっと誉めると、映画ではその解釈に物議をかもした負け戦うんぬんのくだり、
こっちの小説の方がすんなり受け入れられたね。そりゃ〜こんなに何人もメンバーが
死んだら(それも最後にバタバタと続けて)とても「勝ち戦」とは言えないだろ〜ってところ
だね。

何の因果か今日10/25はくしくも「黒澤明 : THE MASTERWORKS 1 DVD BOXSET」
の発売日です。当然の如く「七人の侍」も入っています。
amazonよ早く送ってきてくれ〜。

>>338


ちなみに「地理お国自慢」板からの帰りです。
340名無し募集中。。。:02/10/25 23:05 ID:60jO8/nv
結局1番役に立っていなかったのは安倍さんですか。
さすが女王様(w
他のメンバーは頑張ったよ、面白かった。
341名無し募集中。。。:02/10/25 23:59 ID:wbwKSYfn
遂に完結か…。毎日更新があって、しかも濃い内容で楽しめました。
 明日から続きをワクワクしながらブラウザを立ち上げることがなくなると思うと、
  ちょっと寂しいです(w  お疲れ様でした。

    外伝があったら読みたいナ…などと言ってみるテスト
342名無し募集中。。。 :02/10/26 13:55 ID:p51ongRQ
完結おめでとうございま〜す。
343カコイイ名無し:02/10/26 22:30 ID:n8ND48Bf
 皆さん、ご声援ありがとうございました。おかげで荒らしにあうことも
なく、無事に完結することができました。私の悪い癖で、後から読み返し
て色々直したい部分も見つかるのですが、とりあえず最後まで書けて良か
ったです。
 読んでいただいた皆さんにお願いがあるのですが、今後のためにも、直
したほうがいいと思う部分や、意図するところが不明な部分などを挙げて
いただければと思います。まあ、言いだせばキリがないでしょうが、特に
目に余るところをね。できる限り回答(言い訳)しますので。

>>339 劇中では接点の少ない後藤と吉澤ですが、最後に絆が見られました。
この二人がこの役だったので、堤防で斥候を待ち伏せるシーンや、吉澤が後
藤の向こうを張ってライフルを取りに行くシーンも自然に書けました。
 メンバーを余計に死なせすぎたかな。実は、ラストは生き残ったメンバー
七人で何かするって想定していたので、紺マコに犠牲になってもらいました。
結局、そのシーンは没だったのですが。
 DVD-BOXは惹かれるなあ。でも、いま七人の侍見たら恥ずかしくって悶え
るだろうなぁ。ラストのAAは見覚えあるショットでしょ? AA依頼スレで作
ってもらいました。
344カコイイ名無し:02/10/26 22:30 ID:n8ND48Bf
>>340 そうだねぇ。安倍はもっと活躍させても良かったかもね。映画だと
安倍の役の人が画面のどこかに写っているから何もしていなくても存在感
を感じるんだけど、小説だとそうもいかないものね。ただ、安倍が大立ち
回りをする姿って想像しにくいなぁ。弓を使うのもメロンに取られたし。
新垣みたいな特殊な位置で活躍する方法もあったかもね。

>>341 そんなに楽しみにしてもらっていたなんて光栄です。リアルな話や
娘。同士の恋愛みたいな主流の作品群のマネはできないない私ですが、この
ような異端を喜んでもらえたのなら作者冥利に尽きます。これも、偉大な原
作あらばこそです。このようなパロディ小説を批判する向きもあるでしょう
が、オリジナル作家と比肩できぬことを承知で書かせていただきました。そ
れを掲載に踏み切らせたのは、やはり原作の感動を伝えたい思いなのです。
 外伝はあるかもしれません。6期メンバーのインパクト次第かな。

>>342 ありがとうございます。繰り返しになりますが、皆さんのご協力の
おかげで無事に完結できました。正直申し上げて、私は娘。小説の存在を知
ってから日も浅く、あまり多くの作品を読んでいません。実際、連載開始後
に飼育の存在を知った始末で、掲載の勝手も分からずに見切り発車してしま
いました。飼育より危険な(?)羊板で何事もなく最後まで気持ちよく掲載
できたことを幸せに思います。
345名シーン:02/10/27 09:20 ID:pgAh7Oa4
やい!やい!
やい! お前たち
一体百姓を何だと思ってたんだ 仏様とでも思ってたか
笑わかしちゃいけねえよ 百姓くらい悪擦れした生き物はねえんだぜ
米出せ言っちゃ無ぇ 麦出せ言っちゃ無ぇ 何もかも無ぇってんだ
フッ ところがあるんだ 何だってあるんだ 床板引っぺがして掘ってみな
そこになかったら納屋の隅だ 出てくる出てくる 瓶に入った米・塩・豆・酒!

正直面してぺこぺこ頭を下げて嘘をつく 何でもごまかす
戦でもありゃあすぐ竹槍作って落ち武者狩りだ

よく聞きな 百姓ってのはな けちんぼでずるくて 泣き虫で 意地悪で 間抜けで 人殺しだ
ちきしょう 可笑しくって涙が出らぁ だがな そんなケダモノ作りやがったのはいったい誰だ
おめぇたちだよ 侍だってんだよ 

戦の時には村焼く 田畑踏ん潰す 食い物は取り上げる 人夫にもこき使う 女漁る
手向かいや殺す 一体百姓はどうすりゃいいんだよ 百姓はどうすりゃいいんだよ
畜生・・・畜生
346名無し募集中。。。 :02/10/27 11:34 ID:LXk01UME
>>343 もちろん(ニヤリ
>>338 小さいけど....
http://www.sankei.co.jp/mov/db/98c/krsw_p/s_shichininno.jpeg
347名無し募集中。。。:02/10/27 21:55 ID:ohMRnSi3
なるほどと思ったり、ああそれしかないよなあと思ったり、
原作があっての作品だから、それ以上、
もしくは別のものを望めないはがゆさがありつつも、
楽しみました。ご苦労様でした。オリジナル読んでみたいです。
348名無し募集中。。。:02/10/28 00:21 ID:AArRJq7A
お疲れ様でした、そしてありがとう!
次は、浅間山荘かペルー日本大使公邸をきぼーん。
349名無し募集中。。。 :02/10/28 20:43 ID:rLc2Y6Ix
次はごっちん復活で「十三人の刺客」だね。
http://www.toei-video.co.jp/data/hs/vcatalog_dvd/item/200207/dstd02095.html
350カコイイ名無し:02/10/28 22:07 ID:xCRqkgWa
>>345 そのシーン、上手くコンバートできなかったんだよね。七人の侍
から変換するとき悩んだ2つの問題の内の1つが、「侍と農民」の関係を
「浪人と学生」に置き換えることなんだよ。結局、現実とは別世界のよう
な感じで、訳が分からなくてもそのまま通してごまかしましたが、もっと
スマートにできたかなぁ。

>>346 やっぱり分かっていただけましたか。嬉しいなあ。

>>347 原作物の中でも、大筋ではかなり原作に忠実なつもりで書きまし
た。既存のストーリーにオリジナルエピソードを挿入した感じかな。
 全くのオリジナルというのは資質的に厳しいでしょうが、今度はもう少
し先が読めないモノに挑んでみます。

>>348 ご愛読ありがとうございました。浅間山荘は先日映画で見たけど、
役所さんの一人勝ちで拍子抜けでした。本来、多くの人の力で成しえた事
なので、その気になったら面白くできそうです。あるいはペルーも含めて
シチュエーションだけ借りてこられるかな。ひょっとして犯人側希望?

>>349 あ、その映画知らなかった。そのまま持ち込めそうかな。ただ、今
回の反省を含めて、次回から原作を複数用意することを検討中です。その意
味でも見ておいた方が良さそうですね。
351名無し募集中。。。:02/10/28 23:16 ID:LbahmDgA
いっそのこと忠臣蔵で・・・
餓鬼とT&C、チェキド(ryまで入れれば面子はそろうんじゃないかと・・・
352名無し募集中。。。 :02/10/29 13:57 ID:aNUHEhKV
幕末の話キボン。
353名無し募集中。。。:02/10/29 23:15 ID:JJM05UVg
おくればせながら完結おめでとうございます。
ここのところ来れてませんでしたが、いつも楽しみにしていました。

矢口、保田、紺野、小川、後藤、吉澤……みんな逝ってしまいましたね。
後藤の最後は薔薇の花びらが散る中をスローモーションで倒れる画が浮かぶようでした。
でもお圭さんの最後が個人的には一番印象に残っています。泣きました。
でも飯田残ってほっとしている自分……。「ねえ、笑って……」か……。

不明点ということなんですが、特に気づきませんでした。

やはり読者としては完結していただけるというのが一番嬉しいです。
次作も期待しています。

次作は「荒野の七人」とか。



354名無し募集中。。。:02/10/29 23:59 ID:JJM05UVg
というのは冗談で群像となると幕末いいですね。
パスティーシュなら八犬伝とか。
355名無し募集中。。。 :02/10/30 21:51 ID:uJFOOF63
「七人の侍」DVD不具合あり
http://www.toho-a-park.com/shichinin/index.html

実は持っているんだよね、レアアイテムということでこのまま
持っていようかな?
356カコイイ名無し:02/10/30 22:47 ID:3qEXjoC6
>>351 赤穂浪士も面白そうだけど、該当キャラを探すのに苦労しそうだね。
吉良役候補が多いしなぁ〜。いっそ次々と殺して回るか。

>>352 幕末というと新撰組辺りかな。でも、これって既に書いている人が
いそうな予感。竜馬方面や白虎隊とか考えられるかな。

>>353-354 ご愛読ありがとうございました。やはり、死ぬシーンというの
は悲しいですが、役者としては美味しいところ。矢口は矢口の、後藤は後藤
の、保田は保田の、それぞれ持ち味を出せたかな。飯田はあまり飯田らしく
書けなかったので、ベタだとは思ったけど決まり文句を入れてしまいました。
飯田ってとても両極端な印象があって、今の私の技量では書ききれないよう
です。他の小説読んで勉強してきます。
 荒野の七人もまんざら視野に無いわけではありません。西部劇とか、これ
まで書かれた事が少ないんじゃないかなあ。八犬伝も棄てがたい。う〜ん、
皆さんがいろいろアイデアをくれるので嬉しい悲鳴です。

>>355 ギョッ! 前半32分ってどんなシーンですか? そろそろ侍探しで
しょうか。どんな映像が入っていたかも気になるなぁ。

 ところで皆さんは、七人の娘。のようなパロディをどう思いますか? 私
はあまり深く考えずにパクッてしまいましたが、非常に厳しく考える向きも
あるようで、あるいはその辺り批判されるのかなあ。個人的には、普段見な
いような映画をモー娘。主演で書いてもらうと入りやすくて良いんじゃない
かとすら思っちゃうのですが…。いえ、自分が良いことしたって言うんじゃ
なくって、そういうの読みたいと思うってことですよ。
357名無し募集中。。。 :02/10/31 22:09 ID:ob7RkBFz
>>356
勘兵衛(なっち)「この飯、おろそかに喰わんぞ」 のシーン。ここで言うと>>16>>17あたり。
勘兵衛がご飯が盛られた茶碗を農民の方に差し出すカットなんだけど、これが正しい
シーンの他に、そのちょっと前のシーンにも同じカットが映像のみ入ってしまっている。
そのシーンとはゴロツキが、勘兵衛らに対して農民達がどれだけ必死に侍探しをやっ
ているか一席ぶっているシーンで、その時ゴロツキはこの茶碗を片手に持っており、
問題のカットは、勘兵衛の腕しか映っていず、ゴロツキのセリフが途切れることなく
続いているので、注意して見ないと、この勘兵衛の腕をゴロツキの腕と錯覚して不自然
に見えない。不具合の情報を知らずに見てわかったなら黒澤通か、よっぽど注意力の
優れた人かってとこだろう。



358名無し募集中。。。 :02/11/01 20:45 ID:KpK4lDtJ
忠臣蔵は過去にありましたね。
新撰組もあった気が・・・。
竜馬方面が激しく見たいけど、娘。全員絡ませるのは難しいかな?
359名無し募集中。。。:02/11/01 21:22 ID:udf4dBdd
>356
>ところで皆さんは、七人の娘。のようなパロディをどう思いますか?

七人の娘。を読んで、原作の映画を見てみたくなりました。
360名無し募集中。。。 :02/11/02 22:02 ID:guiIwc/G
>>359
見るべし!
361カコイイ名無し:02/11/04 18:54 ID:raADZDB4
>>357 そんなシーンを見つけ出して指摘できる人もいるんだね。どこの世
界にも凄いマニアがいるものです。

>>358 忠臣蔵もあるのかぁ。新しく書き始める前に、いろいろ調査して重
複しないように注意しないとならないね。

>>359 最も欲しかった言葉です。あとは、見た後に怒られなければ良いの
ですが…。

>>360 賛成!
362名無し募集中。。。 :02/11/04 22:06 ID:+Oy4iRbg
黒澤作品を娯楽映画の視点で見れば、
「七人の侍」--言わずもがな
「用心棒」---「荒野の用心棒」というタイトルで「勝手に」イタリアでリメイクされた。
        主演はクリント・イーストウッド!
「椿三十郎」---「用心棒」の続編。ラストシーンは秀逸。
「隠し砦の三悪人」---スターウォーズのヒントの一つになった作品。
「天国と地獄」---これだけ現代劇。誘拐物。撮影の邪魔になるからといって
           民家の2階を壊させた話は有名。

の5本が秀逸かな?全部モノクロだけど、面白いよ。
「羅生門」やら「生きる」なんかを見るのはこの後でいいんじゃないかな?
363名無し募集中。。。:02/11/06 23:08 ID:Q1cU3+wy
保全
364名無し募集中。。。 :02/11/08 20:48 ID:s2iqIraj
「赤ひげ」が江口主演でドラマ化されるってね。
365名無し募集中。。。 :02/11/10 17:09 ID:x2IxOF+7
>>364
三船の役じゃなくて加山の役をやれよ。
366拾い物:02/11/11 21:02 ID:XlYD6do9
   <⌒`>      <⌒>             _|⌒i__.,
   | | _,.   | |   /⌒\    /⌒/\ _>
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   ̄|  | ̄ ̄  /  \ \/ / ///| | \__  _>
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367 :02/11/11 21:03 ID:ZEKyb1CA
いきなり炉まんこ
http://now.at/meko^Π^
368カコイイ名無し:02/11/14 21:04 ID:Iz/fcV0/
途中で挿入すべき、安倍が出てくるエピソードを考えたんだけど
蛇足になるかな?

>>362 次回作も黒澤作品ってのも魅力なんだけど、これ以上やったら
バチが当たりそう。

>>364 江口かぁ……どんなんだっけ?

>>365 いずれにせよ微妙な感じ……ってか、じゃあ三船は誰?
369カコイイ名無し:02/11/14 21:04 ID:Iz/fcV0/
>>366 お、カッケー! 合成してみた。

     ,;.;'"'';,.;,;.;'"″″'';,.;.;
   ;;'"';;,.,.                   .;''';,.;..;"'';,.;.;、 ,;, ;..'"``"`"';,.;,,,; ' 
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 `   .;'"'';,.;.;、 ,;.;.;;'"″;;:,,,,:;: "`;.;,'"';;,.,.、'"     `';,;..;       .,;'"  
    ";、  ,; '  `;,                              ,; ' 
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       ハ y i)   レ'リ=ツ=⊂シ   ハ y@ノハ@]y「ト,  (⌒ハd)
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     ノハルノノリシノノ;:, ムノ :ハルノ;ノリシノノ ム y/ヽノリシルノリルノリノリシ
       . .:..:::,:ノノ::.;ルノノリルノリル;ルノノルノリノリシルノリルノリ;;:.,ノ;.;, . .

>>367 炉まんこって何だ? 浮かれモードのやつ?
370名無し募集中。。。 :02/11/14 22:16 ID:8bWHR5lq
>>368
 是非とも書いてください。
371名無し募集中。。。 :02/11/17 08:15 ID:T7807tS4
かこいいね
372カコイイ名無し:02/11/18 20:55 ID:BcKOj7Dc
>>370 期待されるほどのものじゃないですが、自分も終盤に安倍の
出番が少なかった事が気になったので書きました。

>>371 ねぇ。「侍」のところを「娘。」に直せたらいいのですが。

 さて、途中で入れる話は>>315で吉澤が獅子奮迅の活躍をしている
場面の続きです。この辺りは短いセンテンスを連続して、目まぐるし
く展開するシーンをスピーディーに描きたかった(映画で場面が次々と
変わるような感じで)のですが、思ったような効果が得られなかった
ようでした。ま、そんな意味も込めて、この部分を書き増します。
>>315も再掲しますが、もう少し前から読んだ方が雰囲気が掴めるかな?
最終決戦中の大混乱シーンのひとつです。
373カコイイ名無し:02/11/18 20:56 ID:BcKOj7Dc
 吉澤は四本目の剣の柄に手をかけた。引き抜きざまに反転して背後に迫る
敵を斬った。勢い余って剣が折れる。それを投げ捨て、五本目を後ろ手に探
して引き抜く。
「ヒョー、ノッてきた、ノッてきた!」
吉澤は迫るバイクに正面から飛び込んだ。相手は驚いて急ハンドルを切り、
泥で滑って転倒する。吉澤はスピンしながら迫るバイクをジャンプでかわし、
着地と同時に乗り手を刺す。
「次!」
意気揚々と立ち上がる吉澤は周囲を見回して新しい標的を求めた。
374カコイイ名無し:02/11/18 20:57 ID:BcKOj7Dc
 吉澤の荒武者ぶりに三下どもは算を乱す。そこへ盗賊のリーダー格の一人
が素早く指示を出した。再編された敵は三人一組となり、順番に切っ先をそ
ろえて吉澤に迫る。そのくせ吉澤が咆吼と共に飛びかかると引き潮のように
後退する。勝手が違う相手に翻弄されるうち、吉澤はいつしか敵のまっただ
中に孤立していた。
 蹴り飛ばした相手の胸が朱に染まる。妙だと思って俯いて見ると、どこを
斬られたものか、吉澤の右脚からおびただしい量の血が噴き出しているでは
ないか。多少の刀傷に臆する吉澤ではないが、不覚にも自分の血に足をとら
れて片膝をついてしまう。敵はここぞとばかりに吉澤めがけて殺到する。
(これまでか!)
375カコイイ名無し:02/11/18 20:59 ID:BcKOj7Dc
覚悟を決めた吉澤が、せめて一人でも道連れにと振りかぶる。その時、攻め
来る敵の一隊が右側から大きく崩れた。乱刃をかいくぐり、両の手にそれぞ
れ大小を携えた安倍が駆けつける。二本の刀が風車のように目まぐるしく旋
回し、竹林に若竹を刈るかの如く敵陣の側面に大穴を穿つ。
「よく凌いだよぉ!」
安倍が激しく斬り結びながら吉澤に呼びかける。確かに吉澤がここで敵を引
きつけていたおかげで安倍は校舎前の敵を容易に一掃できた。誉められた吉
澤は照れ隠しに下唇を突き出して横を向いたが、その実嬉しくなって、妙に
甲高い掛け声を発しては敵を威嚇する。安倍と吉澤が肩を並べて敵に挑めば、
もはや向かってくる者などいなかった。
376カコイイ名無し:02/11/18 21:01 ID:BcKOj7Dc
「おととい来やがれってんだ!」
逃げる敵の背に吉澤がどやしつける。その吉澤の脚が血まみれであることに
安倍が気づいた。
「よっすぃー、その脚……」
「え? ああ、これくらいの血、ひっ縛っておけばすぐ止まるって」
「そうだべか?」
安倍は吉澤が袖口を裂いて脚に巻くのを覗き込んだ。巻かれた布が見る見る
血に染まる。その傷は安倍の看立てでも明らかに深手で、すぐにも治療が必
要だと分かる。だが、安倍の口から出た言葉は別の見解を表していた。
「無理しない程度に頑張るべ」
ここで吉澤を戦線から外すことはできない。安倍は心の中で吉澤に深く詫び
ながら、その肩を叩いて次の修羅場に導いた。

*   *   *   *   *
377カコイイ名無し:02/11/22 22:22 ID:p8n6L4AM
 小説総合スレの更新情報に載ったのね。終わった話のスレも
全部チェックしているのかなあ。頭が下がります。

 ところで、言い訳が必要なようですね。
 追加で書いた理由は、まぁ終盤に安倍の出番がなかったので
出してあげたくなったってのが主なんだけど、もう一つ、吉澤
に安倍の前で良いカッコさせてあげたかったってのもあるのよ。
 吉澤はこれまで気持ちが空回りして、安倍に怒られてばかり
だったよね。独断でライフルを取りに行った所はもとより、カ
ントリーのウサギ小屋事件の時、カントリーを「無茶」と止め
た直後に、安倍に「無茶はよせ」と同じ言葉で叱られてしまっ
たしね。運が悪いと言うか、要領が悪いと言うか、クラスに一
人は必ずいる、何故かいつも先生に怒られている子みたい。
 安倍は吉澤の良い所を知っていて、その評価は他の誰にも劣
らないんだけど、吉澤の方は安倍からお荷物だと思われそうで
いつも不安なんだと思う。本当は決戦直前に吉澤が刀をたくさ
ん用意するシーンで安倍を絡ませたかったし、現に安倍バージ
ョンも書いたんだけど、原作を優先させちゃったんだよね。
 それから、この追加シーンで安倍が善人っぽく書かれていな
いってのも不満の種だとは思うんだけど、安倍には司令官の最
も辛い仕事、部下を死地に追いやることをやらせたかったので
す。もう少し安倍を切なそうに描けたら良かったのですが……。
378名無し募集中。。。 :02/11/22 22:56 ID:jilDqA2I
>>377
いやいや、いい話だと思いましたよ。
379名無し募集中。。。 :02/11/24 20:45 ID:PG052Jjq
「ロードオブザリング」がランクインしているような厨房ランキングなのに
8位に入っている!!!!!!!!!!!!!!!
http://us.imdb.com/top_250_films
380カコイイ名無し:02/11/28 22:08 ID:pTZ0lV9p
>>378
ありがとうございます。まあ、本来なら発表した作文を後から手直しする
のは邪道なんでしょうが、素人だし許してね。ホントはもっとチョコチョ
コ直したい所もあるのですが、言い出したらキリがないからなぁ。どこか
のHPででも保存してくれる人がいたらデータで送っちゃうのですが、そ
んな人気作って訳じゃないからねぇ。

>>379
やはり七人の侍は人気があるね。でも指輪物語も面白いかもよ。例えば、
ミニモニ。4人がホビットでさ、ガンダルフが保田、アラゴルンが後藤、
飯田がガラドリエルで安倍はギムリか? レゴラスは石川か高橋、ボロミ
アも石川の目もあるけど吉澤かなあ。紺野がサルマーン、新垣はゴクリだ
な、悪いけど。小川は…当て職的にエルロンドかな? まさか燃える闘魂
バルログって訳にはいかないし。サウロンはつんく♂だな。 
381カコイイ名無し:02/12/03 19:44 ID:urO5uuh3
う〜ん、読み直して大変な間違いを発見しました。
>>204の安倍のセリフ、「みんな行くぞ、そらぁ!」ですが、正解は
「みんな行くぞ、ほらぁ!」で、しかも石川が言ってるんだよね。
むむぅ〜、ここで言うべき安倍のセリフ募集!
382名無し募集中。。。:02/12/05 13:24 ID:REjr6cDp
383名無し募集中。。。:02/12/07 12:44 ID:2khSjAaJ
384名無し募集中。。。 :02/12/07 13:02 ID:oKb+mZOm
385カコイイ名無し
遅れたけど誕生日おめでとう