部屋の中には、ほのかに女の子独特のなんともいえない匂いが残っている。
『ふわっと』した気分になりまたもやまぶたが閉じそうになった。
しかし目の前の河川敷で練習する野球少年の声が大きく、とても眠れそうにはなかった。
『ふぅーっ』
ため息をつくと俺はベランダに出た。
あいぼんがニィニィに引っ張られて目の前の土手を登るのが見えた。
あいぼんもこちらに気がつき、
『いってきまーぁす』と大きく手をふった。
パジャマ姿の俺は、小さく右手を挙げた。
もう眠れそうも無いので、着替えて居間に下りてテレビのスイッチを入れる。
『ふあぁぁぁ』
大きなあくびが出る
『つまんねぇ』
『・・・・。』
まだ少し冷たい空気の流れる川辺。
水面がキラキラと光っている。
河川敷き沿いに土手の上を歩くあいぼんとニィニィ。
すれ違うジョギングをするおばさんに
『おはようございます』
元気よく挨拶するあいぼん。
おばさんもニッコリして『おはよう』とかえす。
自然と鼻歌がでてきた。
小さい頃から、あいぼんは歌が大好きだ。
『フフーン、フーン・・』
『ニィニィ。今日はちょっと遠回りしようか!』
『ワン!』
退屈な時間が2時間ほど過ぎた頃だろうか
いつもよりあいぼんの帰りが遅いので少し心配になってきた
いつもなら河川敷の土手沿いを行き、橋を渡って対岸をぐるっと周ってくるコース。
一時間もすれば帰るはず。
『あいぼん遅いな?』
『まさか事故なんかに遭ってないよな!?』
なんだか急に心配になりだした。
『そうだ携帯!』
『090-@ノハ@-@ノハ@』ピッ!
プップップッ
プルルルルル・プルルルルル
『よしっ!』
プルルルルル・プルルルルル
『ん?何か二階できこえる?』
『ああーーーーーーっ!!!!!!』
あいぼんの携帯は俺のベットの上で鳴っていた。
『今朝、飛び跳ねたときに落としたんだ!』
打つ手の無くなった俺は、両手に携帯を持ってとぼとぼと階段を下りた。
『はぁ、鬱だ』
居間のテーブルに携帯を置くと『へたっ』と座り込んだ。
『何処にいるんだ、あいぼん・・』
シーンと静まり返った家の中。耳をすますと遠くから歌声らしき声が聞こえてきた。
居間から縁側の方を見てみる・・・・
『・・・・・♪ 』
だんだん近づいてくる
『♪ ここにいるぜぇ♪ 』
間違い無い、あいぼんだ!