6
夜になって、いつのまにかみっちゃんは静かな寝息を立てて眠ってしまった。
あたしは、ついていた蝋燭の火を吹き消す。
あっという間に闇が空間を包み込む。
頬杖をついたまま窓から外を眺める。
誰もいない町。光のない町。
静寂。
自分はただ一人取り残されているような気がした。
あたしは、寂しいんだろうか?
ふとそんな疑問がわいた。
どうしてそんなことを思ったのか、それを考えるよりも先にあたしの耳にキィッと言うドアの開く音が聞こえた。
ハッとして窓に目を向けると後藤さんの姿が闇に浮かび上がった。
こんな時間にどこに行くつもりだろう?
あたしは、みっちゃんを起こさないようにそっと部屋を抜け出して彼女のあとを追った。
後藤さんは、慣れた足取りで町を歩く。
あたしは、少し離れて歩きながらもそれについていく。
不意に一つの廃ビルの前で後藤さんが立ち止まった。
表情は陰になっていて分からない。
後藤さんは、廃ビルを見上げて少し中に入るのを躊躇うかのような素振りを見せ、意を決したように階段を駆け上っていった。
なんで走るわけ!?
――あたしは、心でそう叫びながら慌てて後藤さんの上っていった階段に向かった。
一段一段のぼっていく。
きつい。あたしは、膝に手をついて息を整える。
「なにしてんの?」
頭上で声がした。
「んぁ?後藤さんを追っかけて・・・・って、後藤さんっ!?」
びくりとあたしは顔を上げ息を詰めた。
後藤さんが、あたしを睨みつけるようにして立っていた。
7
「・・・・・・・・・あんたってホントうざいね」
先を歩く後藤さんは、そう呟くと黙々と階段を上っていく。
「・・・あっそ」
あたしも小さく呟いてそれに続いた。
どうやら屋上に向かっているようだ。走らなくていいからさっきよりは幾分かましだ。
廃ビルの屋上にあがると突風が吹いてきてあたしたちの髪を掻き乱した。
後藤さんは、手すりに乗りかかるようにして地上を見下ろしている。
あたしは、その隣に座り込んだ。
後藤さんは、チラリとあたしを気にするような視線を投げかけたがすぐにそれを戻す。
しばしの沈黙。
「――ホントに知らないの?」
ややあって後藤さんがふっと呟いた。
「・・・なにを?」
「この町がどうしてこうなったかってことに決まってるじゃん」
後藤さんの顔にバカにするような皮肉っぽい笑顔が浮かんだ。
あたしは、こんな顔しないぞ・・・多分。
「知らないに決まってるじゃん、今日来たばっかなのに」
「あっそ・・・」
「後藤さんは、なんでこの町に来たの?」
あたしは、問いかけた。
すると、後藤さんはあたしから目を逸らし再び地上を見下ろしながら奇妙な調子で
「故郷に帰ってきてなにが悪い?」と笑った。
――故郷?
――ここが?
あたしは、驚いて彼女を見上げた。
その横顔に浮かんでいる笑顔はどこかさびしそうで、空気のように透き通っていた。