3
丘を降りて廃墟にたどりつく頃にはもうすっかり日も暮れていた。
あたしたちは、街を少し歩いて一番原型をとどめている廃屋に泊まることにした。
家の奥のリビングで体を休める。
「せやけど、なんでこんなんなったんやろうな?」
みっちゃんが、ボロボロの窓ガラスから見える街並みを見ながら独り言のように呟いた。
「旅してたらこういうことってよくあるの?」
あたしが尋ねるとみっちゃんはかすかに笑って首を振った。
「さすがにここまで完璧に街一個が壊れるんはありえへんやろ。
前に来た時から100年たってるとかやったらありえるかもしれんけどな。
うちが前来たのって3年前やで。普通ならありえへんわ」
「ふ〜ん・・・・・・じゃぁ、この街の人たちどうしたんだろうね」
「さあな〜、他の街に移住したんかも知れんな」
「神隠しにあってみんないなくなったのかもよ」
「怖いこと言わんといてよ」
あたしがからかうとみっちゃんは嫌そうに眉を寄せた。
「あたしたちもどこかに連れて行かれたりして・・・・・・」
わざと低い声でみっちゃんをからかう。
ヒサブリにからかった気がする。
みっちゃんは、「ホンマやめてって」と耳をふさいだ。
「あはっ、そんなのあるわけ・・・」
言いかけた瞬間、ガタンという物音が聞こえた。
咄嗟に後ろを振り向く。
なにも変化はない。
気のせいだったのかな?
「ねぇ、みっちゃん、今なんか変な音しなかった?」
「はぁ?もうええ加減にしてや」
耳をふさいでいたから聞こえなかったのか、まだあたしがみっちゃんをからかっていると思ったのか
みっちゃんは不機嫌そうに答える。
「いや、マジでなんか聞こえた気がしたんだって」
「ごっちん、ええ加減にせんと怒るで!」
みっちゃんが、そう声を荒げた。
その時に、再び――それも今度はこの部屋のすぐ近くで――ガタンと音がした。
あたしたちは、顔を見合わせる。
「・・・・・・ご、ご、ごっちん、な、なんか聞こえたで」
「・・・・・・・だ、だから、言ったじゃん」
あたしは、内心の気持ちを抑えてみっちゃんに言う。
みっちゃんの動揺が空気をつたってあたしに届く。
音のした方に視線を動かした。
このドアを隔てた向こうになにかがいるみたいだ。
人食い動物とかだったらどうしよう?
逃げたほうがいいかもしれない。
そこまで考えた時、みっちゃんがいきなり立ち上がって窓に向かった。
「ごっちん、逃げるで」
「んぁ?ちょっと、みっちゃん?」
みっちゃんは、窓をあけようと手をかけている。
が、立て付けが悪いのかなかなかあこうとしない。
「ガラス割ったらいいじゃん」
「ダメや、音が向こうに聞こえるやろ」
みっちゃんの言葉にあたしはドアの方を見る。
物音はもうしない。みっちゃんは、どうにか窓を開けようと四苦八苦している。
その姿を見ているうちに、だんだんと落ち着いてきた
――よく考えたら、ただ風が吹いてなにかがぶつかったのかもしれない。
逃げるよりも確かめるほうが先だった。
あたしは、意を決してドアに向かう
「ご、ごっちん!なにしてるん!?」
みっちゃんの恐怖に満ちた声が響く。
それを無視してドアノブに手をかける。
ごくりと息を飲む。その時、握ったドアノブが手の中で勝手に回った。
「うひゃぁっ!!!」
間抜けな悲鳴をあげてあたしは後ろに飛び上がる。
「うっひょーっ!!!!!!!!!!」
それにつられてみっちゃんはもっと間抜けな悲鳴を上げる。
――と、同時にドアが開いた。
そして、あたしたちは同時に悲鳴を上げた。