7
なっちが寝ている部屋の前――
あたしは、少しだけひらいたドアの隙間から見える二人の重苦しい雰囲気に中に入ることもできずにいた。
二人の声が耳に小さく届く。
「なっちが・・・生きててよかった」
「・・・・・・・・・・・・よくない」
「・・・・・・」
なっちは、黙ったままやぐっつぁんを見つめている。
やぐっつぁんも、同じようになっちを見つめている。
見つめあう二人はなんともいえない不思議な表情で――ほとんど悲しげと言いかえれるほど優しく,愛しさに胸がはちきれそうな――あたしを、ひどくやるせなく、うずくような切ない気持ちにさせた。
もうこの二人がこうして会うことはないのかもしれない。
そう感じた。
二人が戦う理由なんてない。
でも、それが国単位としてなら話は別なんだろう。
あたしには、この国となっちの国
そしておそらくは全ての黒幕である祐ちゃんの国――それぞれがもつ事情なんて分からないし、
どうして、二つの国をわざわざ戦わせようとするのかなんて分からないけど・・・・・・
ただ、この二人を今、取り巻いている絶望は確かで
――もうなにをしても無駄だということだけは分かった。
あたしは、そのままお城の門をくぐった。
8
お城から出たあたしの目にはいまだに暴動を起こしている国民同士の姿が映った。
なんとかその渦を抜けてみっちゃんの待っている出向ゲートにたどり着く。
みっちゃんは、ゲート近くに備え付けられているベンチに座っていた。
あたしの姿を見て立ち上がる。
「ゴメンね、待たせちゃって」
「いや、ええんやけど。なんや、大変なことになっとるらしいで」
「知ってる」
みっちゃんの口から戦争という言葉が出ないように牽制する。
みっちゃんは少し妙な顔をして、それから「なら、もう他の街に行くで」とあたしの肩を優しく叩いた。
その瞬間、あたしの瞳から涙が零れ落ちた。
「ご、ごっちん!?どないしたん?」
みっちゃんの慌てた声が聞こえる。
だけど、あたしはこみあげてくる涙を止められなかった。
ずっと一緒にいられるわけじゃない旅人だから――
あたしにはあの二人の深い絶望を分かち合うなんてきっとできない。
だからこそ、あたしは悲しくてたまらなかった。
もしも、願いが叶うのなら――今度は、誰もが幸せな世界を。
もしも、願いが叶うのなら絶望のない世界を。
そう思わずにはいられない。
あたしは、歩きながらずっと泣き続けた。
みっちゃんは、そんなあたしの隣で慰めるように寄り添ってくれた。
背後で人々の狂気に満ちた歓声が遠く響いた。
Fine