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やぐっつぁんは、途中で立ち止まって鈴音さんと言葉を交わしている。
「ねぇ・・・」
あたしは、男に小声で声をかける。
「なんだ?」
「一番奥にいる人って何者?」
あたしが尋ねると男が視線を動かしてその姿を確認する。
「調停人の稲葉さんだ」
「調停人?」
「戦争が起こりそうになるのを回避させる話し合いの進行役を頼んでいる。それがどうかしたか?」
怪訝そうに男が尋ねてくる。
一瞬、言おうかどうしようか考え結局、男には言わないことにした。
とりあえず、やぐっつぁんに言おう。
ふとやぐっつぁんたちのいるところを見る。ちょうど、話が終わったようだ。
男は、護衛として鈴音とあっちゃんのあとに連れ立って城門へと歩いていった。
その間、ひどく悲しそうな顔でやぐっつぁんは二人の背中を見送っていた。
あたしは、やぐっつぁんの元へと駆け寄る。
「やぐっつぁん」
「え?あぁ、あんたか・・・・・」
あたしが声をかけるとやぐっつぁんは悲しそうなまま微笑んだ。
「ちょっといい?」
あたしは、返事も聞かずにやぐっつぁんの腕を引っ張ってさきほどやぐっつぁんたちが使っていた大きな部屋に入る。
「なに?」
「犯人が分かったの」
あたしは言いながらやぐっつぁんの反応を窺う。
「犯人?・・・・・・そう」
やぐっつぁんの反応は薄い。
少しだけ拍子抜けした。
さっきまであんなに犯人のこと知りたがっていたはずなのに・・・・・・
「あ、ゴメンね。思い出してくれたのに・・・・・・」
あたしががっかりしていることに気づいたのか、やぐっつぁんは取り繕うようにそう付け加えた。
見ていて無理しているのがすぐに分かる。
「なんかあったの?」
「なんかさー、戦争になっちゃいそうなんだよね」
「え?」
「キャハハ、まいったまいった」
やぐっつぁんは、頭に手をやりながら今にも泣き出しそうな顔で笑った。
かける言葉が見つからない。
――トントン
静まり返った部屋にノックの音がしてあたしたちは我に返る。
「なつみ王の意識が戻ったそうです」
――果たして、それはいい報告だったのか、悪い報告だったのか
だけど、そう報告を聞くやいなややぐっつぁんははじかれたように部屋を飛び出していった。
あたしも置いていかれないようにそのあとを追いかけていた。