4
謁見室に通されて数十分後、泣いていたのか赤い目をしたやぐっつぁんがあたしの前にようやく姿を見せた。
その様子から、相当のショックが窺える。
あたしが、どう声をかけようか逡巡していると気丈にもやぐっつぁんが口を開いた。
「・・・犯人を見たらしいけど、どんなヤツだった?」
あたしを見つめてくる視線は、国交とかじゃなく純粋になっちを傷つけられたことに対する怒りに燃えている。
「パッと見たからよく分かんないんだけど・・・・・・」
「はぁ?」
「次、見たら絶対分かると思うんだ〜」
あたしが言うと、やぐっつぁんは大きなため息をついた。
なんで?
つぎ見たら分かるって言ってるんだから喜んでもいいのに・・・・・・予想外の反応にあたしは戸惑う。
「次って、暗殺者がそう何回も姿見せるわけないじゃん・・・・・・」
「あ・・・・・・」
そういわれればそうだ。
やぐっつぁんは、あたしを呆れた目で見ながら言った。
「ったく、あんた、いったいなにしにきたの?」
「いや〜、やぐっつぁんの力になろうと思って」
照れながら答えるとやぐっつぁんは眉を寄せた。
それから、ポツリと疑問を口にする。
「・・・・・・あのさ、やぐっつぁんってなに?」
「あはっ・・・あはっ・・・」
笑って誤魔化そう。
やぐっつぁんの目がどんどんとまるでヲタを見るような視線になってきている。
あたしは、ヲタとは違う。
「あ、あのね、ぶっちゃけ、あたし、なっちの友達なんだ」
苦し紛れのウソをつく。
なっちの名前がでた途端にやぐっつぁんの顔が強張った。
「んぁ、それで〜やぐっつぁんのこととかよく話に出てたから、会っても初対面とは思えなくてさ〜」
「そ、そうなんだ。ほんとにこんなことになってしまって・・・どう謝罪したらいいのか」
やぐっつぁんは、本当にすまなさそうにうなだれた。
ウソついたのは悪いとは思うけど、ヲタと思われるよりはましだ。
それよりも今は犯人探しだった。
ぜったい、どこかで見たことあるんだよね、あの怪しい人物。
「ねぇ、なんか心当たりとかないの?なっちが狙われるようなこととか」
「・・・・・・心当たり?そんなのこの国となっちの国を戦争させたいからに決まってる」
あ、そういうことか。
確かに・・・・・・あたしは、さきほど城門前で見たナチヲタvsヤグヲタの様子を思い出した。
これでなっちが万一死にでもしたら絶対に戦争は回避できないだろうな。
・・・・・・・・ん?
でも、二つの国が戦争してなんかメリットとかってあるのかな?
あたしはそう思ってやぐっつぁんに訊いた。
途端、やぐっつぁんははっとした様に息を呑んだ。
その顔は、ひどく青ざめて見えた。
「・・・・・・・ん」
やぐっつぁんは、あたしがいることすら忘れているかのように小さくなにかを呟くと部屋を飛び出して行った。
――祐ちゃん?
確かにそう聞こえたような気がした。
5
「おい!どこに行く気だ?」
やぐっつぁんを追って部屋を飛び出したところを、男に呼び止められた。
ずっと部屋の前で見張っていたみたいだ。
「やぐっつぁんは?」
「いい加減にしないか。王はお前と違って暇ではないんだぞ」
男は、厳しい顔つきで言った。
「だから、どこ行ったの?」
「今は、隣国と話し合いの場についている」
「はぁ!?さっき出ていったばっかなのに?」
「そうだ」
男は、あっさりと頷く。
分刻みのスケジュールはざらじゃないのかもしれない。
仕方ない。まさか話し合い中に割って入るなんてできないし。
「ねぇ、祐ちゃんって知ってる?」
「祐ちゃん?」
「中澤裕子」
「皇帝のことか?」
男は、呆れた目であたしを見下ろす。
「皇帝って?」
「この地方でもっとも大きく力のある国だ。わが国とも親睦を深めている・・・・・・それがどうかしたか?」
祐ちゃんが皇帝。
「ねぇ、そこってなっちの国とも仲いいの?」
あたしの問いに男は眉を寄せた。
「・・・・・・なにがいいたいんだ?まさか、帝国がこの事件を諮ったとでも思っているんじゃないだろうな?」
男の言うとおりだったけど、あたしは首を振った。
男の様子からそれは言ってはいけないことだと悟ったからだ。
男は、少し安心したように言葉を続けた。
「ならいいが・・・ヘタなことは口にしないでくれよ。ただでさえ、国中がピリピリしているんだ。早々に立ち去ったほうがいい」
「ちょっとやぐっつぁんに言いたいことがあって」
「まだあるのか?」
「ちょっと・・・・・・ね」
あたしは、言葉を濁した。
その時、廊下の奥に見える大きなドアがひらく。
男がそれに気づきビシッと姿勢を正す。
中からはやぐっつぁんと、鈴音さんが連れ立って出てくる。
そして、最後にもう一人――
あたしは、その姿を見てハッとした。
その人物こそが、なっちを撃った犯人だと気づいたからだ。