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262第8話 絶望ということ



絶望とは、闘う理由を知らずに、しかもまさに闘わねばならないということだ。


                                   
                                   byカミュ

263第8話 絶望ということ:02/11/12 12:48 ID:1ZqkTNIV



「うわぁー!!すっごいね〜」

新しい街に入っての第一声。
あたしは、口をあけたまま周りを見回す。
そこは、これぞファンタジーの王道といった城下町。
最近、普通の街並み見てきたからかなんとなく新鮮だ。

「ええところやな〜」

街は、異様な活気に満ち溢れている。

「よ、旅人さんたちはパレード見学かい?」

突然、なれなれしくそう声をかけられて振り返ると、銀の甲冑をまとった人のよさそうな男が立っていた。

「パレードって?」
「あんたたち、それも知らないで今日ここにきたのか?」

あたしが尋ね返すと男は心底呆れたような声を出した。
それから、パレードについて熱く語ってくれた。
男の話によると、今日はこの国の開国100周年という記念すべき日らしい。
そして、そのお祝いに隣国の王も招いて盛大な宴をひらくそうだ。
264第8話 絶望ということ:02/11/12 12:51 ID:1ZqkTNIV

「そりゃぁ、めでたいな〜」

みっちゃんが呑気な声を出すと男は肩をすくめて
「まぁな。ただ、俺たち警備兵はあんまりめでたがってもいられないんだけどな」
とぼやいた。

「なんで?」
「隣国の王になにかあったら戦争もんだろ」
「あ〜そっか。でも、仲悪いの?」

あたしの問いに男は「ん〜どうだろうな?」と首をひねる。

「王同士は、幼馴染でかなり仲がいいらしいけどな。ま、国と国の話になるとな・・・・・・」
「ふ〜ん」
「ともかく、パレードを楽しんでくれよ」

警備の時間になったのか男はチラリと時計台の時計に目をやってそう言うとどこかへ走って言った。

「今の人、きっとうちと話したかったんやな」

男の背中を見送りながらみっちゃんがニヤニヤ笑いを浮かべてあごをさする。
自意識過剰だ。っていうか、みっちゃん、一言しか喋ってないじゃん。
きっとあたしに声かけたかっただけだ。
ま、それは言わないでおこう。優しいからね。後藤、いい子だね。
265第8話 絶望ということ:02/11/12 23:14 ID:1ZqkTNIV



「マリマリマリマリマーリッペ!!」
「なっちーは天使!なっちは天使!!」

そんな声がそこかしこからあがっている。
なんか聞いたことある掛け声だな〜。っていうか、あんまり聞きたくないんだけどね・・・・・・
でもそのおかげでこの街にいるのが誰なのかすぐに分かった。
あたしは、掛け声の中心にあるお城のテラス(?)に目を向ける。
そこに予想通りの人物が立っていた。やぐっつぁんとなっち。
二人は、きらびやかな衣装を身にまとって――っていうか、コンサの衣装とそう大差ない――なにやら楽しそうに小突きあっている。
お城にいてあの格好でこの歓声ってことは二人がこの国と隣国の王なわけか。

「いや、すごい人気やなー」
「そうだね〜」

ここのやぐっつぁんもヲタ嫌いなのかな。
あたしがふとそんなことを思っているとやぐっつぁんが用意されたマイクの前に立つ。
その途端、ヲタ・・・もとい、国民たちの歓声が止まった。
266第8話 絶望ということ:02/11/12 23:15 ID:1ZqkTNIV

「えー、みんな今日は来てくれてありがとーっ!!」

やぐっつぁんは、小さく咳払いをするとコンサのMCとあまり変わらないことを言った。
正直、もっと硬い挨拶をすると期待していたあたしには拍子抜けだ。
でも、ヲタ・・・もとい国民のボルテージはその一言でぐんぐんあがっている。
コンサの客席ってこんな感じなのかな。ちょっと怖い。
みっちゃんは、「あの子、ちっちゃくてかわいいなー」などと、少しずれた感想を口にしている。

「今日はね、えっと、この国の100歳のお誕生日ってことで、なんと隣の国からなっち国王もお祝いに来てくれました」

やぐっつぁんがバッと手をなっちに向ける。
それに反応する声。なっちも大人気みたいだ。
隣国からの遠征組みがいるんだろうな、きっと。
なっちがにこやかに手を振りながらやぐっつぁんの隣まで歩いてくる。
やぐっつぁんも嬉しそうに笑っている。幼馴染らしいから当たり前か。
267第8話 絶望ということ:02/11/12 23:17 ID:1ZqkTNIV

「いやー、あの子もかわいいなー」

隣でみっちゃんがまたずれたことを口にした。
あたしは、呆れて視線をチラッとみっちゃんの方に動かした。

「?」

視界の隅にヲタ・・・国民たちに混じってなにやら怪しい動きをしている人物がうつる。
どこかで見たことがあるような気がするけど、遠すぎていまいち分からない。
ただ、妙に引っかかるものを手にしている。奇妙な形状の金属らしきもの。

なんだ?あれ?

あたしは、人ごみを縫ってなんとかその人物に近づこうと試みる。
が、ちょうどなっちのMCが始まって押し寄せるヲタ・・・国民の群れに見失ってしまう。

その時だった。

鋭くなにかを引き裂くような音。

さきほどまでの歓声とは違った異様な奇声。

あたしは、驚いて振り返る。
一番に目に飛び込んできたのは、真っ青な顔をして立ち尽くすやぐっつぁんと
その体にもたれかかっている血にまみれたなっちの姿だった。