12
「みっちゃん!!」
あたしは、男の存在を忘れて彼女に抱きつく。
みっちゃんは、「い、痛いんやからタックルせんといてーな」と悲鳴を上げた。
うん、生きてる。あたしは、安心してみっちゃんから離れる。
みっちゃんは、ぶつぶつ文句を言いながら男のほうに視線を向けた。
男は、ペコリと申し訳なさそうに頭を下げた。
「詳しい話は向こうで聞かせてもらったから怒ってへんけどな・・・・・・」
みっちゃんは、静かな声で言う。
「やけど、こんなんこれからずっと続けていけると思うとるん?」
「・・・・・・」
「辻ちゃんは、人間や。いずれは絶対にバレるやろうし・・・そのときはどうするん?」
みっちゃんって意外と考えてるんだな。と、あたしは感心して二人の様子を見守っていた。
男は、目線を床に動かして呟いた。
「希美には・・・もうそんなに時間はないんですよ」
「どういう意味や?」
みっちゃんの眉が寄せられる。あたしも同じ思いだった。
「冷凍睡眠からくる障害がここにきて出始めているんです。だから・・・・・・我々の役目も」
「そんな!あんなに元気なのに!?」
あたしは、声をあげた。
「ごっちん・・・」
みっちゃんが諌めるようにあたしの肩を押さえた。
あたしは、みっちゃんの顔を見る。
「だって・・・辻は元気じゃん。これからだって生きていける。障害なんてどこにも・・・」
「亜依が気づいたんです」
男が言った。あたしは、振り向く。
「私も気づきませんでした。亜依は、希美が目覚めてからずっと彼女の傍にいたから一番敏感だったんでしょう。
この壮大なままごと遊びも亜依が考え出したんです。もちろん、反対なんて誰もしませんでしたよ。
甘やかしだといわれようが・・・我々は、主である希美が最後まで楽しく過ごせるようにと考えるのです」
淡々とした言葉に深い悲しみが見え隠れする。
本当にロボットなんだろうか・・・・・・
そう思えるほど、その表現は人間よりも人間らしく見えた。
13
あたしたちは、街の雑踏を抜ける。まったく普通の街並み。
だけど――この人たちはロボットなんだ。
ここにいる人間はただ一人。
辻だけ・・・・・・
その一人のために存在している街。
その一人のために存在しているプログラム。
でも、誰が彼らのことをロボットだなんて思うんだろう?
少なくともあたしはそう思えない。
だって、あたしには辻と加護は本当の親友のように見えたし、
街の人たちの優しさや辻への思いはプログラムされたものとかじゃないように思えたんだ。
人間とロボットなんてそんなに違いはないのかもしれない。
「ごっちん」
「んぁ?」
みっちゃんに呼ばれてあたしは我に返る。
みっちゃんは、しゃぁないな〜と言うような表情であたしを見ていた。
「どこ行ってんの?こっちやで」
「あ、うん」
慌ててみっちゃんの方へ行こうとした瞬間前を横切る人とぶつかってしりもちをついてしまった。
「いたっ」
「あ、すみません、大丈夫ですか?」
ぶつかった人が手を差し伸べてあたしを起こしてくれた。
あたしは、その人にお礼を言って呆れ顔のみっちゃんの元へ急いだ。
きっとこの先も彼らは彼らが言う壮大なままごと遊びを続けていくんだろう。
辻の命が尽きるその時まで・・・・・・
街の人たちはどこまでも優しくて純粋だから――
Fine