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「まず、あなたがたに多大なご迷惑をおかけしたことをお詫びしなければなりません」
男は、やけにバカ丁寧にそう前置きすると、ゆっくりと言葉を選ぶように続けた。
「あなたのご心配しておられるお方の安否なんですが
今はまだ麻酔銃の影響で眠っておられますがもう数十分もすれば目覚めてこちらのほうに来られると思います」
「え!?」
麻酔銃?
みっちゃんは、生きてるの?
よかった・・・・・・
ホッとしたせいか自然とあたしの双眸から涙が零れ落ちた。
男は、そんなあたしをどこか羨ましそうに見ている。
あたしは、気恥ずかしくなってサッと目元を拭う。
「あ、あの・・・それでなんでそんなことしたの?」
誤魔化すように問いかける。
気のせいかもしれないが男の顔にどこか寂しげな翳りが浮かんだ。
「全ては希美のためです」
「希美?辻のためってこと?・・・・・・どういうこと?」
あいつは、天下の大泥棒なんでしょ?
それなのに、辻のために・・・・・・言葉の意味が読み取れない。
「希美は、この街の最後の人間です」
「は?なに言ってんのか分かんないんだけど・・・・・・最後の人間って・・・」
あたしは、鋭く男を見た。男はうなづく。
「遥か昔、この街はなんらかの理由で滅亡しました。
しかし、僅かながら生き残った人間たちはこの街が無事に復興することを信じて永き眠りについたんです。
我々はその間彼らを見守り街を復興させることを目的としてつくられたロボットです。
長き時間を費やして我々は街の復興のために働いてきました。
そして、ついに街が元のような姿に戻ったとき我々は彼らの眠る場所へ向かったのです
・・・・・・しかし、眠りについた彼らはそのまま目覚めることはなかったのです」
男は、そこで一息ついた。
その仕草は、まるっきり人間のものである。
「我々は、守るようプログラムされた主を失い途方にくれました・・・・・・
その時、たった一つだけ忘れ去られていたシェルターが見つけられたのです。
そこに、希美は眠っていた。希美は15年前に眠りから覚めた唯一の人間。
だから、我々は希美のために存在するのです」
男の話はにわかには信じられるものではなかった。
あまりにも突飛過ぎて、あたしは首を振った。
「信じられないけど・・・・・・それと辻が犯罪犯すのとなんの関係があるの?」
「希美は、自分のことを本当に天才的な怪盗だと思い込んでいる。
だから、彼女が望むならそれを現実のものにしてあげなければいけない。
彼女がそれで楽しいなら我々は満足なのです」
男は、さも当たり前のように答えた。
「そんなのただの甘やかしじゃん」
「そうでしょうか?」
男が問い返したとき、ガチャッとドアが開いてみっちゃんが姿を現した。