6
「ところで、さっきはなにを盗んだの?」
食後のゆったりとした空気の中であたしは加護に尋ねた。
すると、加護はなぜか「えっと・・・」と、少し考える仕草を見せた。
「宝石れすよ」
辻が会話に割り込んでくる。
そんなにあたしと加護が喋ってるのが気に喰わないんだろうか?
「そう、宝石です」
加護も辻の言葉をなぞるようにそう言った。
「へぇ〜、すごいね〜」
「お茶の子なのです」
「それゆうなら、お茶の子さいさいや」
突然、みっちゃんのツッコミが聞こえた。
今まですっかり忘れていた。ごめんね。みっちゃん、いい子なのにね。
なにはともあれ、お腹も膨れてみっちゃんの精神もツッコミができるくらいまでに安定したみたいだ。
「みっちゃんもこっちおいでよ」
あたしは、少しはなれたところに座っているみっちゃんを呼ぶ。
だけど、みっちゃんはかたくなにそれを拒否した。
まだ辻・加護を警戒しているんだろうか。
二人の態度からいってそんな必要はないと思う。
みっちゃんを放っておくことにしてあたしは二人に話しかけた。
「じゃぁ、いいけど・・・それで、他にはどんなことしたの?」
「他に・・・ですか?」
またもあたしの問いかけに考え込む加護。
「他はれすねー、銀行にも入ったし、大金持ちの家にも忍び込みましたよ」
逆に辻は、すらすらと答え「ねぇ、アイボン」と加護に同意を求める。
すると、加護は「そうやったな」と笑う。
なんとなくだけど辻と違って加護はあんまりそういう話をしたくないような気がした。
7
夜になって蛍光灯のほの暗い灯りが部屋を照らし出す頃には、
あたしたちはかなり二人と打ち解けることに成功していた。
もちろん、あたしたちっていうのは、みっちゃんとあたしだ。
特にみっちゃんと辻はやけに意気投合している
「それでれすね〜、ののがこうバーンと撃ったんれすよ」
「へぇ〜、すごいな〜。よう捕まらんもんやな」
「まぁ、ののたちは大強盗れすからね。捕まるわけがないのれす」
「かっこええな〜」
さっきまで警戒していたのがまるでウソみたいなみっちゃんの言葉。
人間っておかしいね。
でも、仲がいいってことはいいことだ。
あたしは、親子のようにも見える二人を横目で見ながらさっきから窓のへりに腰掛けている加護に近づいた。
「加護、どうしたの?」
「え?」
突然、声をかけたからか加護ははじかれたように振り返った。
「なんだ、後藤さんか・・・・・・えっと、なにがですか?」
それから自分に声をかけてきたのがあたしだと分かって安心したように微笑む。
「なにがって・・・なんか元気ないからさ〜悩みでもあるの?」
あんまり自分からはそういうことは聞いたりするほうじゃないんだけど、柄にもなく聞いていた。
あたしには、へりに腰掛けている加護の姿が元の世界の加護と重なって見えた。
「別に・・・悩みなんてないですよ」
加護は、窓に視線を戻しながら答える。もうどこの世界にいっても加護は加護だ。
自分で抱え込んでなかなか悩みを打ち明けようとはしてくれなかった・・・
あたしを頼りにしてくれていいのに。
「加護がそう言う時はいっつも悩んでるときじゃん」
「は?」
加護が、聞き返す。
やばい、ついいつもの口癖が・・・・・・ま、いっか。
あたしは、すぐに思いなおして言葉を続ける。
「だからさ〜、悩んでるのバレバレなのに、悩みなんてないですとか言われたらムカつくじゃん」
「ば、バレバレですか?」
なぜか動揺したように吃りながら加護は言った。
「うん」
力強く頷く。
すると、加護は心配そうな眼差しで後ろにいる二人――辻を見た。
そして、言う。
「ののにもバレバレですか?」
「え?」
「だから、うちがなんか隠してるってこと」
妙に切迫した口調。
っていうか、辻になんか隠してるの?
――正直、あたしは加護がなにを隠しているのかのほうが気になった・・・・・・ちなみに加護の悩みと関係がありそうだから気になったってことだから。
「さぁ、辻にはばれてないんじゃない?」
とりあえず、そう答える。
少し強張っていた加護はホッとしたように息をついた。
「なに隠してるの?」
あたしが訊いたときだった。
窓から強い光が部屋全体を照らしだした。