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「あの街はな、滅び行く運命にあるんや」
一晩の宿屋の部屋についてからもみっちゃんの囁くような低い声が
ずっとあたしの耳の中で鳴り響いているようだった。
(どういうこと?)
(何年か前にな、この世界でちょっと話題になったニュースなんやけど・・・
細菌兵器の実験が失敗してそこにおった街の人たちがその被害を受けたんやって。
あの街がそうやってうちもあんまり自信がなかったからいわへんかったんやけどな。
なぁ、ごっちん、街を完全に滅ぼすのってどうしたらええか分かる?)
(・・・街の人を全員殺すとか)
あたしは、のろのろと答えた。
(それもあるな)
みっちゃんは微笑んだ。
(やけど、全員殺すなんてなかなか無理やろ。ほんなら、どうするか他になんかある?)
あたしは、首をひねった。
(想像もつかへんよな。やけど、あの街の科学者はその方法を考え出したんや)
(それが、細菌?)
(そう、それも普通の細菌兵器やないで。
失敗せんかったらあの街は世界にとって脅威になっとったやろうな。
もちろん、今のあの街自体にはもう残ってへんから安心してええけど)
(・・・・・・?)
(その細菌は、ある特殊な性質を持っとったんや。まず、はじめに全体の50%は殺す。
次に生き残った人たちは生殖機能を失う。それだけでかなりの打撃や。子供がおらんくなるんやからな)
(でも・・・生き残った人が外に行ったら大丈夫なんじゃないの?)
(そこがこの細菌の一番すごいとこなんやな)
(え?)
(体の中を住処とした菌は、必ずいつか発症してその宿主を殺す。
それは18〜20の間らしいんやけど、そのあと、宿主を失った菌は空中に分解されるんやって。
ほんで、他の宿主を探す。放っておいたらどんどん菌が体に宿っていくんや。
やからな、あの街の人は発症期間とされる年の1年前から・・・・・・
ごっちんがさっき見てた白いビルに幽閉されるんや。他の人の発症を早めんように。外の国に迷惑かけんようにな)
(・・・・・・・・・・・・)
(・・・・・・・・・・・・うちの知ってることはこれだけや。話終わり、な?)
10
私は、ベッドに寝転がってぼんやりと物思いにふけった。
――細菌
――死
――滅び行く街
滅び行くことが避けられないから人々は残された時間を楽しく過ごすことを選んだ。
なにも考えずに楽しく最後の時が来るまで・・・・・・
そして、だからこそ今度の衛星のことが分かってもなにもせずに静かに受け入れることができたのだ。
一斉に滅んでしまえばすべての苦しみから解放されてなにもかもを終わらせることができるから。
あたしは、自分がよっすぃ〜に言ってしまった言葉のさまざまを後悔した。
よっすぃ〜だって生きたいに決まってるのに・・・・・・・・・・・・
だーれもいなくて真っ暗な道を歩くんだ。死んだみたいで楽しいよ
よっすぃ〜は、どんな気持ちで言ったんだろう。
あたしには、分からない。
きっとどれだけ考えても・・・・・・・・・・・・
元の世界に戻ったら彼女のことを考えながら夜の遊園地に忍び込んでみよう。
あたしは、そう心に誓った。
Fine