1 :
1:
ワイヤレスマイク傍受とかヲタにはたまらんな。
おまえらのお勧めは何だ?
2 :
:02/08/20 18:29 ID:3uLeEemu
矢口「エッチってことでしょ?」
3 :
:02/08/20 18:29 ID:fY+TESGX
オマエらの一年分の収入を
つんくは一日で稼ぐ
つんくは勝利者
オマエらは敗北者
オマエらはカネもなく、彼女もいない
童貞のまま
一生パソコンの前に座ってるだけ
4 :
名無し募集中。。。:02/08/20 18:30 ID:rIDg+buW
通報しますた
5 :
1:02/08/20 18:31 ID:wuxaaqs2
>3 久々な言葉
「ヲマエモナー」
5
7 :
名無し募集中。。。:02/08/20 21:06 ID:9j76BfOJ
四ね
8 :
:02/08/20 21:10 ID:auCTYgQ0
ンァンァ .。oO (せんこう花火〜♪・・・キレイダナァ)
ノノハヽ ∩ミ
⊂(´ Д `⊂⌒`つ))ペタンペタン
| ‖‖‖‖‖‖ 新スレおめでとー
、。' ШШШШШШ_________________
´ `(_______________________)
10 :
:02/08/22 01:13 ID:FIbwvH7z
いやぁ今、宝を手に入れたよ。
誰か、レアなのと共有しよーぜ
11 :
名無し募集中。。。 :02/08/22 01:19 ID:x7hC5i/N
早 く 夏 が 終 わ り ま す よ う に
12 :
:02/08/22 01:20 ID:qvA7ddQE
>10
何?
13 :
名無し募集中。。。:02/08/22 01:26 ID:0UCqtW62
企画イ至リれだなこりゃ。
14 :
名無しさんです:02/08/22 01:27 ID:ZfOjk9U2
a
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
宗教は、人間一般の強迫神経症である。 By フロイト
1
目を開けるとそこには見たこともない草原が広がっていた。
一瞬、今度のツアー会場かと思ったけど、こんな草原は日本には存在しないはずだ。
その通り――と、あたしの数少ない地理知識はフル回転でそう答えた。
そこで、じゃぁ、ここはどこなんだろうと地面に腰を落ち着けて考えた。
あたしの知ってる国といえば、よっすぃ〜が好きなソビエトと
ルーシー後藤の出身地アメリカぐらい。
つまり、ここはその二つのうちのどちらかだ。
まぁ、どうでもいい。
時間がきたら誰かが呼びに来るかもしれない。それまで待っていよう。
あたしは、そのまま地面に寝そべって昼寝を始めようとした。
・・・・・・寝れない。
いつもならすぐに
――そう、尊敬するのび太のように0.93秒で眠りにつけるというのに・・・・・・仕方がない。
ひ辻が1匹、ひ辻が2匹・・・・・・・・・・・・・・・・・・ひ辻が510匹。
おっ、後藤だね。
ここまで数えてバカバカしくなって寝るのをあきらめた。
ゆっくりと上半身を起こす。
それにしても、静かだ。なんの物音もしないし誰も呼びに来ない。
だんだん、不安になってきた。こっちから探しに行こう。
あたしは、当てもなく歩きだした。
2
しばらく歩くとみっちゃんがいた。ごみ拾いをしている。
みっちゃん、いい子だね。でも、なんだかその光景は悲しい。
「みっちゃん」
あたしは、みっちゃんに声をかけた。みっちゃんは、驚いてあたしのほうを振り返る。
「ねぇ、みんなはどこに行ったか知らない?」
「みんなって?・・・っちゅーか、誰や、あんた??」
みっちゃんは、キョトンとした顔であたしを見た。誰って、失礼な。
あたしも負けじときょとんとした顔でみっちゃんを見返した。
すると、みっちゃんは「わけ分からん子や」と首をひねりゴミ袋を持って歩き出してしまった。
ここで、置いていかれては後藤の名がすたる。
「ちょっと、みっちゃんってばー置いてかないでよ」
「なんや、離しーや。怪力やな、あんた」
「ねぇ、マジでみんなどこ行ったの?」
「知らんわ!うち、忙しいんやからええ加減にしてや」
みっちゃんが忙しいなんて絶対ウソだろうけどそれは言わないでおこう。
それにしても、ホントに変なみっちゃんだ。
もしかしたら、ドッキリなのかな〜みっちゃん、仕掛け人?
ってことは、ついていったらみんないるかも
「じゃ、みっちゃんについていってもいい?」
「あぁ!?なんでや?だいたい、あんた、ほんまに誰?なんでうちの名前知ってるん?」
お、焦ってる焦ってる。やっぱりドッキリか。
あたしについてきてほしくないんだな。意地でもついていってやる
「まぁ、いいからいいから。テリーに任せて〜」
ドリーだったかな、このセリフ?
「なに、テリーって言うん?変な名前やな」
「違うよ、あたし、ごっちん」
「ごっちん?ますます変な名前や」
「あは、みっちゃんもなかなか演技上手だね。ゴールデン・ラズベリー賞取れるよ」
「よう分からん子やな。勝手にし」
「は〜い」
みっちゃんが、渋りながらも歩き始めたのであたしも後についていった。
3
みっちゃんについて歩いていくうちにチラチラと人の姿が目に入り始めた。
どうやら街についたらしい。すごいセットだ。まるでファンタジーってやつみたい。
「ほぇ〜すごいね」
「せやろ、この絵にはな神がやどっとるんやって」
「は?絵??」
あたしは、セットがすごいという意味で言ったのにみっちゃんは明後日の方向に話をしている。
絵って・・・あたしは、みっちゃんが見ている壁画を見た。
どうということのない・・・・・・って、これカヲリの絵じゃん。
心のスケッチブックでしょ、どう見ても・・・・・・なんで壁画なんかに・・・・・・
っつーか、なんでみんなこの絵にお祈りしてんの?カヲリいつのまに教祖になったわけ??
「ま、せやけど、本物やないんやけどな、この壁画は」
みっちゃんは、まだ壁画を見つめながら悲しげに呟いた。
そりゃ、原画は売らないでしょ。なに、当たり前のこと言ってるんだか。
変なドッキリだな〜
「本物はどんだけお金払っても見られへんのやって・・・・・・」
「あたし、見せてもらったことあるよ」
「え!?・・・・・・って、冗談は顔だけにせぇよ」
顔だけって・・・・・・失礼な。
「ホントだってば〜カヲリの家で見たもん。」
「せやかて、この画家は神の使いで滅多に人前に姿現さんらしいで」
「はぁ!?出まくってるじゃん、TVに」
「TVってなんや?さっきから思うとったんやけどあんた、この国の人間ちゃうよな。旅人さんか?」
ますますファンタジーっぽいドッキリだね〜。
しょうがない、話に乗ってあげるか
「まあね。あてもなくフラフラしてるんだ」
「やっぱりな。ま、うちもそうなんやけどな」
「へ〜、みっちゃんはなにしにこの町に来たの?」
「うちか?うちはなー、この伝説の画家カヲリ・イイダの絵を見にきたんや。
ホンマは国立美術館においてある大きいやつを見たかったんやけどな」
「お金がないんだね」
「・・・・・・まあな」
変なとこだけ現実の設定と一緒にしてるんだな〜。
っていうか、カヲリが伝説の画家役か・・・ぜんぜんドッキリにならないな〜
これがけーちゃんの絵だったらドッキリ大成功だけどさ〜
「ほんで、ごっちんはこれからどうするん?まだうちについてくるんか?」
ん〜、どうしようかな。
「みっちゃんは、これからどうするの?」
「うちは、絵を見て回るけど」
うわっつまんなさそう。
「じゃぁ、あたしは町ぶらぶらするよ」
「そうか、ほなな」
「バイバーイ」
あたしに背を向けて歩き出したみっちゃんの背中は相変わらずくたびれていた。
>>25 おっ小説ですか。適度にマイペースでがんがって下さい。
4
「はい、お嬢さん!この飯田カヲリの伝記持ってるかい?どう、買ってく??」
「あなたは、カヲリ様を信じますか。あの方こそ、この国を救う守護神なのです」
「これ、イイダ・カヲリが昔、書いた絵だよ。レアだよ。どう?」
歩けば歩くほどカヲリカヲリカヲリ・・・・・・うんざりしてきた。
まるで宗教の勧誘みたいだ。
このドッキリ考えた人よっぽど狂信的なカヲリファンなんだろうな。
あたしは、待ち人たちを適当にあしらいながら歩き続けた。
そうこうするうちにあたしは町の外れまで来ていた。
今までの喧騒とうってかわった寂しい雰囲気の漂うその場所には古めかしい廃屋がポツンと建っていた。
「おっ!」
ここなら誰もいるはずがない。やっとゆっくりと休める。
あたしは、廃屋へと足を踏み入れた。
歩くたびにギシギシと木造建築独特のきしみがする。
こういうのが風流というやつだろう。
たいして気にもせずに家の中を歩き回る。なかなかいい感じだ。広い家だけに部屋もたくさんあって見て回るのがだんだん、楽しくなってくる。
こんな広い家、日本じゃありえないよな〜。さすが外国。
「パーマン、パーマン、パーマン、遠くで呼んでる声がする〜」
と、のんきに鼻歌なんか歌っているとどこかから本当に誰かの呼び声が聞こえた・・・ような気がする。
少し怖い。
でも、そんな気持ちを打ち消すように歌いはじめる。
「来てよパーマン、私のところへ〜」
「なに?」
「心ときめくあーいこと・・・・・・」
今度は、気のせいじゃない・・・ような気がする。
気がするじゃなくて気のせいじゃない。
あたしの後ろには百太郎・・・もとい、誰かが立っている。
ヤバイ、ゴーストだよ、絶対。どうしよう、ここは脱兎のごとく逃げるのが一番だよね
・・・・・・ん?待てよ、でも、これって確かドッキリでしょ。
ってことは、後ろにいるのは仕掛け人か。
な〜んだ、怖くないじゃん。
あたしは、思い切って後ろを振り返った。
そして、「キャーッ!!!!!!!!!!!!」と、悲鳴をあげた・・・ような気がする。
いや、悲鳴を上げたのはあたしじゃなく驚かす側の人だったかもしれない。
だって、あたし、悲鳴なんて人前であげないもんね。多分。
でも、腰は抜けた。あと、意識も・・・・・・
5
目を開けるとあたしはタンスにゴンのような匂いがするベッドで寝ていた。
どうやら、さっきのは気のせいだったらしい。気のせい気のせい。
ンアンアンアアアア♪大丈夫、きっと大丈夫♪ってね。
「起きた?」
「起きたよ〜」
「そう、よかった」
・・・・・・・・・・・・って、あたし、今だれと喋ったの?
気がつくと暗がりの中に誰かが立っている。
髪が長い・・・大きな目・・・・・・あ!
「びっくりしちゃったよ、いきなり倒れるから」
「か、か、カヲリ、なんで」
あたしは言いかけた言葉を飲み込んだ。
ドッキリだ。
まだドッキリは続いていた。あたしの戦いはまだ終わらない・・・別に戦ってないけど、
しかも、いい加減、これドッキリじゃないような気がしてきたし。
「カヲリのこと知ってるんだ?・・・ってことは、王国の人?
明日まで待ってくれる約束だったよ?カヲリ、うそは嫌い」
「え?いや、なんのことやらさっぱり?あたし、今日はじめてこの町に来たからよくカヲリのこと知らないんだけど」
やけに刺々しいカヲリの言葉に戸惑いながらそう答えると、
カヲリは「旅人さん?」と不思議そうにあたしを見つめた。
あたしは、うなづく。
すると、カヲリは最近どっかで話題の女神スマイルを浮かべた。
なっちは天使スマイルらしい。あたしは・・・よく知らない。
「そっか〜、ごめんね、驚かせちゃって。カヲリ、最近ちょっと人間不信なの」
「そ、そうなんだ」
「うん、なんかさ、なんかねーいろいろあって」
カヲリは、微笑んでいるけどどこか寂しそうに見える。
「あたしでよかったら聞くけど?」
つい、そう言っていた。
めちゃくちゃ頼りにならないけど、話を聞くことだけは得意・・・のはずだ。
「うーん、どうしようかな・・・旅人さんだからいっか」
カヲリは少し迷ったような表情をしてからそう言った。
6
「で?」
「旅人さんは、カヲリの絵どう思う?」
「・・・えっとねー、普通にうまいと思うけど・・・」
「普通にうまい・・・か」
あれ?カヲリ、なんか嬉しそう。
知らない間にいいこと言ったのかな〜やるじゃん、後藤。
「カヲリ、普通だよね」
「え?」
普通じゃないところも多々あるような・・・宇宙と交信したり例えがけっきょく意味分からなかったり。
でも、今、カヲリが聞いてるのはそういうことじゃないんだろうな〜
多分、カヲリが言いたいのは――あたしが、そう思ったと同時にカヲリが口を開いた。
「カヲリの絵も普通だよね」
ってことだよね・・・まぁ、あれだけ町で大騒ぎになってたらそう思うよな〜
「普通だと思うけど・・・でも、この町の人にはそうじゃないみたいだね。
なんかかなりカヲリとその絵を崇めてるみたいな」
「・・・・・・なんでかな?」
それをあたしに聞くか?分かるわけないじゃん。
「さぁ?」
「・・・やっぱり旅人さんも分かんないか」
「自分でも分かんないの?」
「分かんないよ。なんでこんなことになったのか・・・」
カヲリは首を横に振りながらうなだれる。
カヲリにわかんないことをあたしが分かるわけないよね〜どうしよう。
かといって、このままほっとけないし。
「じゃぁさ、カヲリはどうして絵を描いてるの?」
「ん?」
「ほら、なんかこう国に対して伝えたいことを発信してるんじゃない。波だしていこーみたいな」
確か、心のスケッチブックって言葉にできない思いとかどうたらこうたらって・・・
もう一人のカヲリを知ってもらいたいとかって言ってたし・・・
このカヲリもこの国の人になにかを伝えたいんじゃないかなって思ってそう聞いてみた。
でも、カヲリから返ってきたのはあたしの海よりも深く山よりも高い完璧な予想に反した言葉だった。
「ん〜、別になんにも考えてないよ」
「は?」
「カヲリはただ単に夢を忘れないように書いてたの」
「夢って・・・夜、見る夢?」
「そう。たまに全然知らない子達と一緒に大勢の人たちの前で歌ってる夢を見るんだ、カヲリ。
なんか夢の中のカヲリがすごく楽しそうだからその子達の絵を書いたんだよ」
それって、娘。のことかな。
もしかして、こういうの〜些細な幸せですか・・・じゃなくて、パラ・・・えっと、なんだっけ?
パラパラワールド?だっけ・・・とかいうのなのかな。
で、娘やってるカヲリの波をこのカヲリが受け取って・・・で、それを絵にしてみた。
おっ、なんか後藤、頭いいな、今日。
でも、そんなこと分かったところでカヲリの悩み解決にならないし・・・・・・
そういえば、カヲリの悩みってなんだったっけ?
「あの、カヲリ・・・」
「ん?」
「けっきょく、カヲリの絵が予想以上に反響呼んでなんかイヤなことあったの?」
逆に画家として成功できたってことじゃないのかな?
何も知らないあたしはそう思っていた。
でも、そうじゃないことをあたしは後から思い知らされる。
けっきょく、カヲリは「カヲ今から絵書くから旅人さんはのんびりしていって」と、
あたしに言うとそのままどこかにひきこもってしまった。
どこか寂しげな微笑を浮かべて・・・・・
保全
ho
今618だし、そろそろ1回上げとかないと圧縮されちゃうんじゃない?
39 :
age係:02/09/02 09:15 ID:24WjvKKT
ほな、おれがage
保
7
「ねぇ、旅人さん、今日泊まっていかない?」
陽が暮れ始めた頃、再びどこかから現れたカヲリが言った。
別に断る理由も見つからないしこれからみっちゃん探すのも面倒だったからその言葉に甘えることにした。
カヲリは、よく分からない茶色い食べ物をあたしに作ってくれた。
正直、あまりおいしそうじゃない・・・でも、食べないわけにはいかない。
あたしは、意を決してなぞの物体に箸をつけた。
「んぁ、いただきます」
そのときだった。
バタンと乱暴にドアが開き何者かが家に入ってくる足音がした。
あたしは、驚いてカヲリを見る。
カヲリは、あたしを安心させるように微笑み、それから人差し指を口の前に立てて黙っているようにジェスチャーすると
突然の来訪者にうろたえることなく食卓を離れていった。
「なんなんだろ?」
とりあえず、カヲリが戻ってくるのを待ってみる。
だけど、10分たっても一向に戻ってくる気配はない。それどころかなんの物音もしなくなった。
なにかあったのかもしれない。あたしは、心配になって玄関口に向かう。
いやな予感がした。とてもいやな予感がした。
知らず知らずのうちに早足になっていく。
階段を駆け下りると玄関口が見えた。玄関口には誰もいない。
「カヲリ?カヲリ!?」
あたしの呼びかけにもなんの返事も返ってこない。
いったい、どこに行ってしまったんだろう。争った形跡もない。当たり前だ。
争ったならいくら鈍いあたしだって気づくし・・・・・・
じゃぁ、やっぱりこれがカヲリの壮大なドッキリ?・・・なわけないか。
あたしは、家中を探し回った。
あれだけいいなぁと思った広い家が今となってはムカつくだけだ。
その日、あたしはカヲリを見つけることはできなかった。
ho
8
太陽が朝の訪れをあたしに告げた。不思議とあたしに眠気はなかった。
それよりも、カヲリのことが心配だったからだ。
「カヲリ・・・・・・」
けっきょく、戻ってこなかった。
カヲリは自分の意思で出ていったのかもしれない。
あたしがそう結論付けようとしたそのとき、家のどこかから目覚ましのようなけたたましいベルの音が聞こえてきた。
――カヲリ!?
そう思うが早くあたしは音の聞こえるほうへ走り出していた。
音は、あたしとカヲリが始めて会った居間の大時計から聞こえていた。
カヲリがセットしておいたものみたいだ。
別段、なんの変哲もない大時計のように見える。
けたたましいベルの音はあたしを意味もなく苛立たせる。
ベルを止めるスイッチを探す。が、それらしきものは見当たらない。
「あーっ!うっさいな〜もう!!」
あたしがそう口にした瞬間だった。
ベルの音が止まり大時計がまるで自動ドアのように横にスライドたのだ。
「・・・な、なにこれ?」
大時計の後ろにはかくされたドアがあり奥には部屋があるのが分かる。
カヲリ・・・あたしは、そこにカヲリがいると確信してドアノブに手をかけた。
「カヲリ!?」
ドアを開けるとツンとした塗料の匂いが鼻腔をくすぐる。
どうやらアトリエみたいだ。
「カヲリ、いるの?」
返事はない。ここにもいないみたいだ。
あたしは、がっかりして大きく息を吐いた。それから、再び部屋を見回す。
「ん?」
部屋の奥に布に覆われたキャンバスがあり、その隣にある机には「旅人さんへ」とかかれた置手紙があった。
旅人さんって、あたしのことだよね。
つまり、これは昨日カヲリがあたしにあてて書いた手紙ってこと?
あたしは、手紙の封を切った。
47 :
自己保全:02/09/06 23:33 ID:42Sq/3fJ
です。
9
旅人さんへ
これを旅人さんが見てるってことはもうカヲリはいなくなった後かな?心配してるかな?
してくれてたらカヲリうれしい。
きっと旅人さんとカヲリはどこかで繋がってたはずだから。
じゃないと、はじめて会った人に悩みなんて打ち明けないよ。
カヲリはね、絵を描くことがすごく好きだったの。
それで有名になれるなんて少しも考えてなかったんだ。こんなことになるまではね・・・
ごめんね、カヲリがいなくなる理由は旅人さんには教えて上げられないけど、
旅人さんがカヲリのこと普通だって言ってくれたこと嬉しかったよ。
カヲリ、ずっと誰かにそう言ってほしかったんだ。そうしたら、どれだけ大勢の人に普通じゃないって言われても
カヲリは普通だって胸を張って言えるから。その願いが最後の日に叶ってよかったよ。
これで、カヲリはカヲリのこと普通だと思って旅立てる。
実はね、旅人さんがこの屋敷に来てくれた時、これは運命なのかなって思ってたんだ。
だって、旅人さんに似てる子がカヲリの夢の中に出てくる子たちの中にいたから。
ほんとにそっくりでびっくりしちゃった。
もしかしたら、旅人さんはカヲリの夢の中からでてきたのかなって。
それでね、また絵を描いたの。出来立てほやほやだよ。
これは旅人さんにあげるから大事にしてね。
今度、生まれ変わったらこんな世界に生まれてきたらいいな。
ホントにありがとう、サヨナラ旅人さん。
P.S
そういえば、旅人さんの名前聞くの忘れてた・・・でも、カヲリは旅人さんの名前きっと知ってると思うんだ。
旅人さんがカヲリの名前知ってたようにね。
ねぇ、ごっちん?
違うかな?
あってるはずだよね。
手紙はそこで終わっていた。
最後って・・・・・・どういうこと?
あたしは、キャンバスにかけられた布に手を伸ばす。
手が触れる前にハラリと落ちる布。
そして、そこには――
あたしの瞳からは涙が自然と零れ落ちていた。
それは、あたしの望んだ世界でもあったから――
リーダーはどんな絵描いてたんだ?
なんか淡々としていて気になります。がんばってください。
目を開けるとそこには見たこともない草原が広がっていた。
一瞬、今度のツアー会場かと思ったけど、こんな草原は日本には存在しないはずだ。
その通り――と、あたしの数少ない地理知識はフル回転でそう答えた。
そこで、じゃぁ、ここはどこなんだろうと地面に腰を落ち着けて考えた。
あたしの知ってる国といえば、よっすぃ〜が好きなソビエトと
ルーシー後藤の出身地アメリカぐらい。
つまり、ここはその二つのうちのどちらかだ。
まぁ、どうでもいい。
時間がきたら誰かが呼びに来るかもしれない。それまで待っていよう。
あたしは、そのまま地面に寝そべって昼寝を始めようとした。
10
絵を持って主のいなくなった家を出る。
空は憎らしいまでの明るさであたしを迎える。まぶしさに思わず顔をしかめた。
とりあえず、みっちゃんと別れた町へ向かって足を進める。
「おっ、ごっちんやん」
しばらく歩くと聞きなれた声に呼び止められてあたしは顔を上げる。
みっちゃんが立っていた。
「みっちゃん・・・」
「どないしたん?暗いなぁ」
そういうみっちゃんも暗い顔をしている。
みっちゃんは、暗い影を背負ってるから余計そう見える。いい子なのにね。
「みっちゃんこそどうしたの?黒い影しょって」
「ん?ちょっと朝からあんまり見たないもん見てしまってな・・・」
「なにそれ?」
「ごっちんは知らんでええことや」
みっちゃんは、言葉を濁す。
そこまで言っていわないとは己、平家卑怯なり・・・
「なんで?教えてよ」
あたしが詰め寄るとみっちゃんは肩をすくめてつぶやいた。
「・・・・・・・・・魔女狩りやって・・・」
「魔女・・・狩り?」
「この国はな、そういう国なんやって・・・うちも知らんかったんやけどな」
「・・・そういう国って?」
みっちゃんは、それ以上なにも教えてはくれなかった。
この国で生きるには普通じゃなければいけないという意味なんだろうか?
あたしの胸に得体の知れない小さな棘が刺さったような気がした。
「ねぇ、みっちゃん」
「ん?」
「あたし、普通かな」
「なに、ワケ分からんこと言うてんの」
みっちゃんの呆れた声を聞いてあたしはへらっと笑った。
町は、相も変わらず喧騒に満ち溢れていた、
ただそこから普通にうまいカヲリの絵がすべて消えていたということを除いて。
いったん、上り詰めてしまった英雄は負けないかぎり下りることは許されない。
だけど、気がつかないうちにむりやり上へと連れて行かれたのなら、
下ろされるのもまたムリヤリなのかもしれない。
あたしはカヲリのこと――そして、娘。のことを思った。
fine
眠いのでテストします
一回、ageたほうがよくない?
58 :
age係:02/09/12 10:32 ID:nhsa/tNa
では、一回ageときます。
59 :
名無し募集中。。。:02/09/12 17:44 ID:jn2DyHFh
WimMXつながらない・・・
どうすれば・・・_!?!?!?!
おしえてください〜〜
60 :
名無し募集中。。。:02/09/12 17:47 ID:7rmdB+g/
>>59 3.3にバージョンうpしろ。2.6のサービスは子サーバー以外終了だ。
61 :
:02/09/12 17:48 ID:KTHFLtxT
2.6は死んだ・・・直ちに3.3へ移行せよ。
62 :
746:02/09/12 17:52 ID:v7iE83DH
3.2じゃないの?
63 :
プリンス羊:02/09/12 17:53 ID:PSn4A7Xb
うぃんmx_おk
64 :
名無し募集中。。。:02/09/12 18:05 ID:jn2DyHFh
>61
日本語にできますか?
65 :
名無し募集中。。。:02/09/12 18:09 ID:v7iE83DH
あ、できたできた。
しっかし起動が遅いような・・・
66 :
名無し募集中。。。:02/09/12 18:20 ID:jn2DyHFh
日本語で検索とかできますか?
67 :
age係:02/09/12 22:12 ID:nhsa/tNa
やっぱageないほうがよかったっすね。ごめんなさい。
68 :
保:02/09/12 23:46 ID:1r+gFS9o
( `.∀´)
( つつ
≡≡(_/(__)
( `.∀´)
( つつ
≡≡(_/(__)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
age係りさんドンマイ。作者さん気が向いたら再開してくださいな。
71 :
作者:02/09/14 12:26 ID:Qym5+YjY
age係さん、自分も気にしておりませんしテレテレ交信してるんで助かります
それに、こんなわけわかめな文を読んでくださる方がいるだけで感謝です。
というわけで、今夜あたり再開します。
どうか僕を幸福にしようとしないでください。
それは僕に任せてください。
byアンドレ・レニエ
1
カヲリのいた国をでて3日。
お金のないみっちゃんにたかって3日。
って、別にたかってるわけじゃないか。一緒に旅を初めてってことだよ。
そうそう、言い方に気をつけないと誤解を招く。
ま、ともかく旅を始めてから今頃になってようやく確信を得たんだけど、どうやら、ここは本当に異世界のようだ。
なんでこんなとこに迷い込んだのかは分からないけど、
この世界の人はみんななぜか知っている顔ばかりだったからそんなに不安を抱かずにすんでいる。
だから、あたしはこの世界を少し満喫してからどうにか戻る方法を探すことに決めた。
日も暮れ始めた頃にようやくたどり着いたのは、まるでドームのような形をした閉鎖的な国だった。
外からは外壁以外なにもうかがえない。
あたしが、「これにはなんの意味があるの?」とみっちゃんに聞くと
みっちゃんは「あ、雨よけやろ」と、いかにもうそ臭いことを自信たっぷりに言った。
どうやらあまり知らない国らしい。
知らないことは知らないとはっきり言える大人になりたいなと思った。
入国審査はやけに物々しい雰囲気が漂っていた。
冷たい顔をしたおばさん@なにげに綺麗は、口を開くなり「長期のご滞在?」と、みっちゃんに聞いていた。
みっちゃんは、「どうやろ、すぐに出てくかもしれへんし出てかへんかもな」とあいまいに答える。
あたしたちの旅は、その日の気分次第だからはっきりとは答えられないんだよね。
あたしは、そんなことをみっちゃんを見ながらぼんやりと考えていた。
「ごっちん、行くで」
入国審査が終わったのかゲート先に立ったみっちゃんが振り返ってあたしに言った。
「はーい」
あたしたちは、そろってゲートをくぐった。
2
街は閉鎖されているとは思えないほど活気に満ちた近代的なところだった。
住民たちはにこにこと笑顔を絶やさず幸せそうにみえる。平家さんも気に入ったみたいだ。
なにか口ずさんでいる。よく聞くと作詞加藤紀子!?はたけ作曲のStart!だった。
って、なんでこんなことまで知ってるんだろう、あたし。
聞いたこともないのに・・・・・・・・・・・・いや、聞いたよ、多分。みっちゃん、いい子なのにね。
ともかく、かなり気に入ったみたいだ。今までろくな旅をしてこなかったんだろう。
ここのみっちゃんはあたしの世界のみっちゃんじゃないけど、
どこにいってもみっちゃんはみっちゃんなんだなと思い
あたしは、ちょっとそんなみっちゃんに同情した。
「どうかした?」
「え?ううん、なんにもないよ」
なにげに鋭い。
意外と雨避けのための外壁ってのも当たってたりしてね。んなわけないけど。
「そうや、ごっちんに言うとかなあかんかったんや」
「なに?」
「あんな〜、この街の人にうちらが旅人って言うたらあかんのやって・・・っちゅーか、接触するなみたいな。
ほんで、今日はもう暗いからしゃぁないけど、明日には出て行けって」
「んぁ?なんで」
「さぁ?」
みっちゃんは、首をかしげる。
みっちゃんって絶対騙されても気づかないタイプだな、とあたしは思った。
「あ、でも宿に泊まるときはどうするの?」
「いや、それがな入国手続きん時に宿も一緒に決めてくれたんよ」
怪しい・・・・・・みっちゃんって絶対騙されても気づかないタイプだな。
あたしは、再び同じことを思った。
3
用意された宿泊施設はあたしの不安に反してこれまた近代的なホテルだった。
フロントにはロボットの受付。
みっちゃんは、あのおばさん@なにげに綺麗からもらったであろうカードをロボットの胸にある差込口に通す。
すると、ロボットの口がパカッと開いて中からカギが出てくる。
っすぃ〜ならかっけーとか言いそうだけど、あたしは心の中でしか言わない。
でも、こんな管理体制でいいの、このホテル。
これじゃ、誰かが勝手に入り込んでも分かんないじゃん・・・・・・そんなことないくらい平和なのかな。
どっちにしろ放浪旅人のあたしたちには関係ないか。
なんかカコイイね、放浪旅人って
「ごっちん、なにぼんやりしとるん?」
「え?別に。早く部屋行こッ」
「あ、うん」
あたしは、みっちゃんの腕を引っ張った・・・けど、部屋の場所が分からないので
けっきょくはみっちゃんがあたしと荷物を引っ張ってくれた。
4
「えっと、ここみたいやな」
みっちゃんが、ひとつのドアの前で立ち止まる。
番号を確かめながら鍵を差し込むとガチャリと鈍い音がしてドアが開いた。
「うわー・・・・・・・・・・・・なに、これ?」
フロントの感じからして近代的なつくりの部屋をほんのり期待していたあたしは
部屋の中を見て思わず白い声を出してしまった。
なんの装飾もないただのコンクリートの壁に窓には鉄格子・・・あたしたちは、囚人かっつーの!
「いやー、なかなかええ部屋な、シンプルで」
「・・・・・・」
みっちゃん、センス悪いよ。
シンプルっていうかさ・・・・・・ものは言い様だ。あたしは、旅の疲れを一気に体に感じた。
逆にみっちゃんはいきいきと部屋を見て回っている。
そういえば、平家一族は落ち武者になった後、洞窟とか暗いとこで何とか生き延びてったんだっけ?
あ、別にみっちゃんがそうだとは言わないけど・・・みっちゃん、いい子だね。
あたしは、簡易なベッドに寝転がった。
「おっ、ここなんやろ?」
トイレでしょ。
あたしは、みっちゃんの疑問の声にそちらを見ることもなく心の中でつぶやいた。
「なんや、トイレか」
案の定、そんな声が聞こえてくる。
普通、考えれば分かるじゃん。ホテルの部屋にはトイレとお風呂しかないでしょ。
それ以外にみっちゃんは、なにを期待しているんだろう。
「おっ、ここはなんかな?」
お風呂場でしょ。
あたしは、みっちゃんの疑問の声にそちらを見ることもなく再び心の中でつぶやいて、みっちゃんの次の声を待つ。しかし、なにも聞こえてこない。
「ご、ご、ごっちん」
少し不思議に思ったあたしが、体を起こしかけた時にみっちゃんがあたしを呼んだ。
その声は、やけに上ずっている。
「な〜に?」
「た、た、た、た・・・・・・」
「た?楽しい保田一家?」
「ちゃう、ちゃう、ちゃう」
「この犬チャウチャウちゃうんちゃう?」
みっちゃんがワケが分からないことばかり言うのであたしもなんとなく意味不明なことで返した。
「余裕あるね」
不意にみっちゃんの声じゃない何者かの声がした。
あたしは、驚いて飛び起きた。
そこには―――――
5
「小川!?」
あたしは、思わず言ってしまった。
そう、あたしの視界にうつったのは銃をみっちゃんに向けてあたしを見ている小川の姿だったのだ。
小川は、自分の名前を突然呼ばれて怪訝そうな顔をしている。
「なんであたしの名前を知ってる?」
「え?いや〜なんとなく」
とりあえず、ごまかしておく。
っていうか、なんで小川?
あたし、あんまり絡んでないからよくわかんないな〜。
「・・・・・・ごっちん、たすけて〜な」
みっちゃんが、情けない声で言う。
助けてって言われてもね〜銃持ってる相手にどうしろっていうんだろう?
だから、こんな無用心なホテルに泊まるのは嫌だったんだよね。
ごっちんの第8勘はあたるんだから・・・・・・多分。
さて、どうしよう?これがドラマだったら正義のヒーローがバーンとあらわれるところだろうけど、ドラマじゃないし・・・・・・
そうあたしが思ったとき、バーンと本当に誰かが飛び込んできた。
「って、新垣っ!?」
あたしは、またまた思わず言ってしまった。
だって、なんで新垣?
しかも、なに、その格好・・・?なんつーか、一言で言うと趣味悪い。
やぐっつぁんが、新垣のファッションセンスがどうたらこうたらラジオで言ってたらしいけどホントにやばいね。
あ、でもこっちの新垣は新垣じゃなくて・・・
「まこっちゃん、なにしてるの?」
あたしの動揺を無視して新垣は小川に話しかける。
新垣のクセに生意気だ・・・なんて思わないよ、マジで。
「里紗ちゃんこそなんでここに?」
小川がうろたえた声を出す。
新垣の登場にびっくりして小川の存在忘れかけてたけど、小川もびっくりしてるみたい。
ってことは、別に二人で示し合わせてここに来たわけじゃないのか・・・・・・
あっ、みっちゃんが泣いてる。
ヤバイ、小川よりも忘れてた。ごめんね、みっちゃん。いい子なのにね
83 :
プリンス羊:02/09/17 01:51 ID:xHQlzUOd
ごちむの誕生日まで一週間切っちゃった。
84 :
書いてる人:02/09/17 12:01 ID:Ew7JmSIq
そうなんすよね。
ごっちん誕生日までに終わらせる予定だったのが激しく終わりません
これ、やめたほうがええんかな。
6
「あの〜、お二人さん・・・」
二人に声をかける。
「なに?」
「なんですか?」
二人は、ほぼ同時にあたしの方を見た。
「目的はなんなの?できたら、そこのお姉さんに銃向けるのやめてほしいんだけど」
あたしは、まずみっちゃん救出を最優先事項にした。
こんなんで銃おろすわけないだろうな、と思いながら――が、あたしの、思いとは裏腹に小川は意外にあっさりと銃を下ろす。
「え!?マジで!?」
「なに?」
「いや、ううん。みっちゃん、カモーンナッ!!」
開放されたみっちゃんに梨華ちゃん譲りのカモンナ――じゃなくて、よっすぃ〜にしよう――でみっちゃんを呼ぶ。
みっちゃんは、小川と新垣を警戒しながら素早くとあたしの元に来た。
これであたしの使命は終わった。あとは、みっちゃんに任せよう。
別にめんどくさいわけじゃない。断じて違う。
そんなことを思っているとみっちゃんが「あんたら、ホンマなんなん?ここ、うちらの部屋やで」と、
あたしが思ったとおりのことを言ってくれた。あたしもそれに続く。
「そうそう、悪いけどお金ならないよ。逆にちょうだいみたいな、あは」
「ごっち〜ん・・・」
あたしの言葉にみっちゃんがさらに情けない声を出した。
なに?ホントのことじゃん。
小川は、無反応であたしたちを睨み付けている。
小川のクセに生意気だ・・・なんて思わないよ、マジで。
「私は、まこっちゃん探してたんです」
「へ?」
小川のかわりにいきなり新垣が答えたことに驚いてあたしは間抜けな声を発してしまった。
「そ、そか。まこっちゃん探してたら偶然ここで会えたんか。よ、よかったな」
みっちゃんは、動揺しながらもまともな言葉をつむぐ。
これが大人ってやつですか〜?
「ねぇ、まこっちゃん、もう時間になっちゃうよ」
新垣はやけに真剣に小川に語りかけている。小川は、新垣から視線をそらす。
二人だけのラブラブ世界。
あたしたちは、蚊帳の外って感じだ。まぁ、いいけどさ。
聞いてるだけで状況を把握するのも先輩というものだ。
あたしは、二人の会話をまたーりと見守ることにした。
7
ぴりぴりと緊迫した空気が二人の間を縫っていく。
「早く行かないと、私たち大人になれないよ!」
新垣はなんだか小川を説得するような口調になっている。
大人になれないね、うんうん・・・・・・
ん?どういう意味??
「まこっちゃんも納得したじゃん。どうして逃げるの?」
「・・・・・・それでいいの?」
黙っていた小川がポツリとつぶやいた。
「え?」
「里紗ちゃんは、それでいいわけ?」
小川が顔をあげはっきりと新垣を見つめた。
新垣は、困ったように眉根を寄せる。なんとなく不穏な空気(?)ってやつ?
「あんたたちさ、この町の外から来たんだよね?」
不意に小川があたしたちに視線を動かして言った。
「え、まぁ、そうだけど」
「ごっちん!!」
あたしが、小川の問いに答えるとみっちゃんが咎めるようにあたしを呼んだ。
そういえば、この街の人にあたしたちが旅人だって言ったらダメなんだっけ。忘れてたよ。
っていうか、この期に及んでそんなこと言ってられないじゃん。
ほんとにみっちゃんって・・・いい子だね。
「やっぱり旅人なんだな?」
小川は、念を押すように言う。
「うん」
あたしの答えに小川はうれしそうに笑い、対照的に新垣は恐ろしいものでもみるかのように顔を歪めていた。
と、新垣はいきなり部屋を出て行ってしまう。
「新垣!?」
新垣のとつぜんの行動に慌てて部屋の外まで走って呼び止めたけど新垣は止まらずに廊下を走っていってしまった。
8
「あかんって言うたやろ」
部屋に戻るとみっちゃんが苦々しい顔であたしを叱りつけた。
「・・・でも」
「ごっちん」
みっちゃんの目が心もち鋭く光った。
「旅人には守らなあかん規則があるんや。ついうっかりですまされへんのやで」
「――ごめんなさい」
「・・・・・・まぁ、言ったもんはしゃあないけどな。ただ」
みっちゃんは、目を和らげあたしに小さく微笑みかける。
しかし、その微笑はいくぶんこわばっていた。
「どうしたもんやろな。誰かに報告されたら街をでていくだけじゃすまんかもな〜」
小川に視線をうつしながら呟く。
小川は、みっちゃんの視線をまっすぐに受け止めて言った。
「あたしはそんなことしないよ・・・・・・それよりも、里紗ちゃんの方が危ないんじゃない?」
「そうやろうな」
みっちゃんもさっきの状況からそう思っていたのか
新垣がでていったドアを困ったように見つめ深く嘆息した。
自分の軽率な行動がこんなにみっちゃんを困らせるとは思わなかった。
「小川さ〜、新垣の行きそうな場所分かんないの?」
あたしは、なんとか新垣があたしたちのことを誰かに報告する前に捕まえようと思っていった。
「里紗ちゃんが行きそうな場所・・・・・・」
小川はほのかに眉をよせて考え込み、それから口を開く。
「もし、まだ管理センターに行ってないとしたら・・・一つだけ思い当たるけど」
「どこ?」
「北にある共用エリア」
「じゃ、そこに案内してよ」
小川を促すと彼女はコクリとうなづいた。
「みっちゃんも行こっ」
あたしはみっちゃんに声をかける。
するとみっちゃんは「いや、うちは管理センターの前で見張っとくわ」と言った。
「分かった、それじゃ見つけたら携帯にかけてね」
「へ?」
あたしはみっちゃんの返答を聞かずに小川と一緒に走り出した。
背後で「携帯ってなんやー!?」という叫びが聞こえたような気がする。
っていうか、聞こえた。
ついいつもの癖で言っちゃたけど、携帯なんてなかったんだっけ。
慣れって恐ろしい。
9
私たちは、街中を一気に駆け抜けた。
歩いている市民たちはあたしたちに気も止めず目もくれようとしない。
「ねぇ、外って壁の外ってどんな感じ?」
先を走る小川が不意にあたしに問いかけた。
「え?」
あたしは、聞き返した。
「だから、壁の外!」
小川が心持ち顔をあたしのほう向けもう一度言った。
「壁の外、でたことないの?」
あたしがそう聞くと小川は走る速度を緩めてなんともいえない不思議な表情であたしを見つめた。
それから、小さくため息をつく。
「この国の人は壁の外には出ない。壁の外に出るということは死を意味するから」
「は?」
いきなり飛び出した物騒な言葉に驚き目を丸くした。
しかし、小川の顔は至って真剣だ。冗談を言っているわけではないのだろう。
「・・・殺されるって」
「でも、実際には壁の外に出ようとする人はいない。ここは居心地がいいからね」
小川は、あたしから目をそらし自嘲的に言葉を続ける。
「すべての国民は、健康で秩序を持って行動し幸福でなければいけない。これが国の基本理論」
なんだか法律のような文句だ。
「でも、そんなの不可能でしょ?」
「どうして?」
小川は反問した。
「どうしてそう思う?」
健康なんて人それぞれ個人差ってあるだろうし、幸福なんてあまりに抽象的過ぎる。
確かにこの国の人ってみんな幸福そうには見えるけど・・・・・全員が全員そうであるなんて絶対に無理だ。
あたしは、そう答えた。
「でも、ココはそれを可能にしてるんだよ。大人になるときにね」
また大人という単語が出てきた。さっき新垣もそんなことを言ってたけど・・・・・・
「――大人になるときって?」
あたしの問いかけに小川が薄く笑んだ。
それから「進みながら話そう」といって歩き出した。
10
あたしと小川は動く歩道みたいなの――オートロードというらしい――に乗り込む。
北にある共用エリアというところにいくにはこれが一番近いらしい。
他に誰の利用者もいないことからあまり人気のある場所ではないことがうかがえる。
ウィィンというコンベアの動く音をぼんやりと聞いていると小川がさっきの話の続きをしてくれた。
「この国にはある儀式があるんだ。10歳をすぎればそれを受ける権利が与えられる」
「儀式?」
「そう」
「それが、大人になるときなの?」
あたしが問うと、小川はうなづく。
大人になる儀式――どういうことをするんだろう。
普通に成人式みたいなのだったら笑えるけどもっと深刻そうだ。
だって、それ受けたらみんなhappy(ミニモニの番組じゃない)になれるってことでしょ・・・・・・
いったい、どんな儀式なわけ、それって?
「脳をいじくるんだってさ」
小川があたしの思考をよんだかのように言った。
脳をいじくる?
あたしは、ギョッとして反射的に小川の頭を見る。
小川は「あたしはまだしてないから」と笑った。
「今日、受ける約束をしてたんだ。15歳までに受けないとこの街でうけられる全ての権利を剥奪されることになるから・・・・・・タイムリミットは今日の0時。明日にはわたしは16になるから」
「え?」
「里紗ちゃんも一緒に受けてくれるんだって」
「・・・・・・受けたくないの?」
小川の言葉に見え隠れする儀式への嫌悪を感じていたあたしは尋ねた。
あたしの問いかけに小川は再び薄く笑んだ。
さっきとは違ってその笑みは全てを肯定しているかのようだった。
もしかしたら、小川はそんな儀式受ける必要がないぐらいほんとに大人なのかもしれない。
あたしはぼんやりと思った。
11
「里紗ちゃん、いないの?」
共用エリアにあるボロボロのプレハブ小屋に辿り着くと小川が慣れたようにハシゴを上り呼びかける。
すぐにガタンという物音が上から聞こえた。
新垣は、ここにいるみたいだ。あたしは、小川と顔を見合わせてうなづく。
音のした場所に向かうはしごをのぼっていく。
いつのまにか屋根の上まで来ていた。小さな影が体育すわりをしている。新垣だ。
「外から来た人も一緒なの?」
あたしたちを振り返ることなく新垣がつぶやいた。
「一緒だよ」
短く小川が答える。新垣は、チラリと振り向いた。
無表情でいまなにを考えているのかうかがい知ることが出来ない。
小川が新垣の隣に座る。あたしは、少しはなれたところでそれを見守ることにした。
なんとなく二人の間には入っていけないような気がしたからだ。
そういえば、管理センターで待っているといったみっちゃんは待ちぼうけ待ちぼうけある日せっせと野良稼ぎ・・・・・・みっちゃん、いい子なのにね。
長い長い時間がたった。
あちこちに寂しい青い光が灯りだす。
キレイだな、と見とれているとふっと影がかぶさる。見ると二人が立っていた。
小川は相変わらず全てを肯定するかのように微笑んでいて、
それに反して新垣は今にも泣きだしてしまいそうな自分を抑えているかのような厳しい表情をしていた。
「・・・あ」
「まだ誰にも言ってないって。でも、もう街を出ていったほうが」
「うん、分かった・・・・・・それで・・・」
そんなことよりも、あたしは、チラリと新垣を見る。
新垣はあたしとは目をあわそうとはせずに「わたし、もう行くね」と、脇をすり抜けるようにして小川に声をかけた。
「うん、元気でね」
静かな声で小川が答える。
新垣の小さな背中が震えていた。もうすぐ明日になる。
「・・・・・・一緒に行かないの?」
「あなたを出国ゲートまで送るから」
「は?なにノンキなこと言ってんの!?もうすぐ明日になっちゃうよ!!」
「いいからいいから」
小川は、歩き出す。
「ちょっと、小川――」
あたしは、ぐっとつまった。
泣きそうな新垣、去り際の震えた背中――これが小川の選んだ道なんだ。
でも、どうして?約束をしてたのに・・・・・・あたしたちが来たせい?
12
「あれ?」
出国ゲートに続くオートロードの前で小川が間抜けな声を発した。
それから、少し機械をいじくっていたがなにかを思い出したのか
「・・・・・・あ、そうか」と小さくつぶやいた。
「ごめん、もうこれ使えなくなってた。近いから歩きでいいよね」
あたしの方を振り返ってカードをひらひらさせる。
そのカードはさきほどオートロードに乗ったときに使ったものだった。
多分、街の人はみんなこれで全ての公用機関を使うことが出来るんだろう。
街の人なら――
あたしたちは、歩く。
なにを話せばいいのか分からない。
「気にしなくていいからね」
小川があたしを気にしてか話しかけてきた。
「別にあんたたちがこの街に来たから儀式を放棄しようと思ったわけじゃない。
もともと壁の外には行ってみたかったんだ、ずっと踏み出せなかっただけで・・・・・・きっかけになったことは確かだけど。
まぁ――あんたたちが来ても来なくてもあたしはきっとこうしてたと思うよ」
「・・・・・・大人だね」
素直にそう感じた。小川は、曖昧に笑った。
その顔が、突然こわばる。
何事かと思い小川の視線の先に目を向ける。数人の男たちがゆっくりとあたしたちの元へ歩いてきていた。
小川が残念そうにため息をつく。
「途中までしか送ってあげられないや。でも、もうゲート見えてるから大丈夫だよね?
あんたの連れは里紗ちゃんから話し聞いてもうついてると思うから」
口早に告げる小川に男の中から一番偉そうな人物が近づいてきた。
なにかあたしに聞こえない声で囁く。
小川がうなづきあたしのほうを向いた。
「それじゃ、元気でね・・・・・・あ、そういえばさあんたが私の名前知ってたから聞きそびれてた、あんたの名前」
「ご、後藤・・・真希」
「後藤さん・・・・・・か。バイバイ」
小川は、あたしに手を振ると男たちと一緒にもと来た道を歩き始めた。
「小川っ!!!」
あたしは叫んだ。小川が振り返る。
「た・・・誕生日おめでとうっ!!!」
めでたくないのかもしれないけど・・・・・・
小川は、驚いたように目を丸くして――すぐに笑って手を上げた。
夜風は冷たくあたしの体を嬲っていた。
13
出国ゲートに辿り着くと、がちがちと歯を打ち震わせているみっちゃんがたっていた。
「遅い!!遅すぎや、あほ!」
あたしの顔を見るなりそう怒鳴りつけてくる。
「ごめん」
「へ?あ、いや、ええんやけど・・・・・・」
素直に謝られるとは思っていなかったのかみっちゃんは妙にうろたえながら無駄にジェスチャーを交えて言う。
「あー・・・・・・ほな、行こか」
かける言葉がなかったのかみっちゃんが荷物を持って歩き出す。
あたしもそれにつづいた。
大人になるということはどういうことなんだろう。
それは、いろいろな事象を克服したり我慢したりすることかもしれない。
新垣が周囲の人たちと同じように儀式を受け入れること。
大人になる儀式を受け入れること――それだけでも、大人だといえるのかもしれない。
だけど、小川のように与えられる幸せの裏側にそっと潜んでいる少しの不幸せと苦しみを理解して受け入れること
――それも大人なんだと思う。
いったい、どっちが正しいのかなんてあたしが決めることじゃないし、きっと誰にも答えられない。
でも、あたしは小川のような大人になりたいとそう思った。
Fine
103 :
age係:02/09/21 01:29 ID:Zp90Phrt
今回はageるわけじゃないんですけど。
もしかしたらこれで終わらせるつもりなのかと少し心配になりまして
ごっちんが卒業してもこれ続けてください。楽しみにしてますんで。
同じく。
幸福というものは、一人では決して味わえないものです。
byアルブーゾー
1
ぽたりと額から汗が落ちる。もうそれを拭う気にもならない。
「あっついね〜・・・・・・」
少し嫌味っぽく呟く。あたしの声にみっちゃんの肩がピクッと反応した。
広大な砂漠であたしたちは道に迷っていた。どうして道に迷ったかはあえて聞かないで欲しい。
誰かがガイド費をケチって「こんな砂漠ぐらいガイドなしで歩けるわ!うちは、プロの旅人やで!!」
などと酒の勢いに任せてビッグマウス叩いたからなんて、そんなことあるわけがない。
ともかく、かれこれ3時間。
遭難してそうなんですなんてこと言ってられる状況じゃない。
生か死かそれが問題らしい。
今を生きろってキャッチフレーズのドラマがあったぐらいだし・・・・・・・・・・・・
どうでもいいほど意味が分からないことばかり浮かんでくるのはもうあたしはやばい証拠なのかもしれない。
驚きなのはみっちゃんが以外にまだまだ大丈夫そうなところだ。
これが雑草魂というやつなんだろう。さすがだと感心する。
「ごっちん、大丈夫か?」
「あは・・・・・・」
この状況下であたしが発することを許された言葉は「あは」と「んぁ」この二つ。
それ以上口にするとみっちゃんへの怒りの言葉がドドッと津波のように出てきそうだから。
いや、もちろん遭難したのが誰かがビッグマウス叩いたからだなんて微塵も思ってないけどね。
人間とは、真に命の危険を感じたときに必ずそれを誰かのせいにしたくなるものらしい。
つまりは、きっとそういうことだ。
「もうすぐオアシスに着くからな」
「んぁ」
その言葉は、もう聞き飽きた。
「ホンマやって」
あたしの非難の視線に気づいたのかみっちゃんが取り繕うように言う。
「取り繕う暇があったらさっさとオアシスに連れて行け」
・・・と、心の中で怒鳴ったのはいうまでもない。
そのとき、みっちゃんが「あっ!」と小さな声を上げた。
もしかして、もしかすると、もしかするとき、こんな活用の方法があるなんて日本語って不思議・・・
「なになになになに?オアシス??」
かなりの期待を込める。
しかし、みっちゃんはそんなあたしの期待を鮮やかに裏切ってくれた。
「いや、靴の紐が切れた」
「・・・・・・・・・・・・」
縁起でもない・・・・・そうつぶやいたかどうかは定かではない
――そのまま、あたしの意識は川の流れのように緩やかに消えていった。
題名変えたこと忘れてた。第三話は「幸福ということ」です
鬱だ・・・・・・
りかみ
2
ピチャン。水のはねる音がする。
あー、水だ〜いいね〜。
って、水!?オアシスに辿り着いたの、みっちゃん!!
ガバッと跳ね起きた途端、したたかになにかに頭をぶつけて目から火花が散った。
「っつ――!!!」
「いったーいっ!!」
頭を抱えたあたしの前で同じように頭を抱える甲高い声の色黒少女
――っていうか、梨華ちゃん・・・さすがにもう驚きはシナイヨ(^▽^)
梨華ちゃんの頭とぶつかったのか、石頭だな〜
「おーっ、ごっちん、起きたんか」
ガチャッとドアが開いてみっちゃんが入ってきた。珍しく裕福そうな顔をしている・・・・・・
改めて周りを見回すと無駄に豪華な一室にあたしは寝かされていたらしい。
この部屋って誰かの部屋に似てるな〜梨華ちゃんの趣味っぽくはないけど・・・・・・
「ここどこ?」
「あのあとな・・・ごっちん倒れたやんか。で、ヤバイな思ってたらとある親切なお方が助けてくれたんや」
「とある親切なお方?」
あたしは、まだ恨めしそうに頭を撫でている梨華ちゃんを見た。
「あ、ちゃうちゃう、その子はその人と一緒に暮らしとる石川さんや」
「知ってる」
「え?」
「ううん、なんでもない」
梨華ちゃんと一緒に暮らしている人か・・・・・・いったい、誰だろ?
メンバーで言えば、よっすぃ〜が一番可能性高いかな。
あとは、最近やけに仲がいいやぐっつぁんか・・・・・・考えるより聞いたほうが早い
「ねぇ、そのとある親切な人はどこにいるの?」
「あぁ、その人また仕事に行ってしまってな」
「仕事・・・・・・ふ〜ん、どんな人?」
「そうやな〜」
みっちゃんは、しばし考えるような素振りを見せたがそれは本人の意思に反して途中で中断させられた。
「紹介します、町工場で働いてる保田さん。顔はまぁ怖いけど優しい人。あ〜あ、お昼ごはんなに食べたんだろう?」
という、この一言で・・・・・・
某歌の歌詞二つが微妙に混ざりまくってるんだけど、それよりも、今保田さんって言った?
ってことは、けーちゃん?
「梨華ちゃん、けーちゃんと暮らしてるの!?」
そう口に出してしまった後、梨華ちゃんとみっちゃんの驚いた顔を見てあたしはしまったと思った。
あたしってどうしてこう素直なんだろう・・・・・・
3
「なんであなたが保田さんのことけーちゃんなんて呼ぶんですか〜!」
固まった空気を破ったのは梨華ちゃんだった。
ものすごい剣幕で怒鳴っている。女の嫉妬とは怖いものだ。
どうせこのあとにくるのは、どうして自分たちの名前を知ってるんですか〜?とか
なんでそんなに親しげに呼ぶんですか〜?とかだろうな。梨華ちゃんのボキャブラから言って。
それも絶対にあの甲高い声をさらに1オクターブあげて言ってくるはずだ。
答えようもないな〜、そんな質問。
あたしは、梨華ちゃんとけーちゃんを知っててもこっちの二人はあたしのこと知らないわけだし・・・・・よく考えたらなんで今まで誰もそのことに突っ込まなかったんだろう。
ともかく梨華ちゃんの声を遮断して現実逃避現実逃避。
「あたしだってまだけーちゃんって呼んだことないのに〜、ずる〜い」
って、そっちかいっ!
あたしは、ちょっとずれた梨華ちゃんの嫉妬の矛先にずっこけた。
「呼べばいいじゃん」
「え?」
「呼んだら喜ぶんじゃない?」
あたしが言うと梨華ちゃんは「やだー、はずかしい」と顔を赤らめた。
いったい、なんなんだ。どこにいっても梨華ちゃんは梨華ちゃんだ。
「それで、いつ帰ってくるの、けー・・・保田さんは」
「えーっと、今日は帰ってこないかも」
梨華ちゃんは女の子らしく首を傾けてあっさりとそう答えた。
「なんや忙しい人みたいやで、仕事掛け持ちしとるんやて」
みっちゃんがノンキな口調で言う。
けーちゃん、なんでそんなに仕事掛け持ちしてんの?なぞだ・・・・・・
「ふ〜ん、梨華ちゃんは働いてないの?」
「うん、だって保田さんがお世話してくれるもん」
「は?」
「なんでもしてくれてすっごく優しいの」
梨華ちゃんはやはり女の子らしい可愛い仕草であっさりと答えた。
あたしは、何か言おうとし――梨華ちゃんをじっと見つめ、それが本気で言っていることだと気づいてバカみたいに口をあけた。
「ごっちん、どないしたんや」
みっちゃんの声がはるかかなたで聞こえた。
――けーちゃん、きっと騙されてるよ
けーちゃんに会えたら言おう、あたしは心に固く誓った。
115 :
・:02/09/25 01:02 ID:3SjnkX/+
( ´,_ゝ`)プッ
4
夜になって梨華ちゃんが「あ、夜ご飯つくってあげるね」と居間でくつろぐあたしたちに言い残しいそいそと台所に向かった。
梨華ちゃんの夜ご飯?――嫌な予感がする。
まぁ、食べられないものはつくらないだろうけど・・・・・・
みっちゃんは、旅をしてきた中で夜ご飯までお世話になるのははじめてだそうだ。
ヒサブリの手作り料理をかなり期待しているのかなにかを上機嫌で口ずさんでいる。
よく聞くと、まこと!?作詞、はたけ作曲のFall the rainだった・・・・・・このパターン前回も使ったよね、まいっか。
あたしも期待して待とうかな
――そう思ったときだった、台所のほうからガラガラガシャーンというなにかが大量に落ちる音と甲高い悲鳴が聞こえてきた。
あ〜、やっぱりどこにいっても梨華ちゃんは梨華ちゃんだ。
「あたし、手伝ってくる」
驚いたままのみっちゃんにそう言うと、あたしは、急いで台所に向かった。
台所は・・・やはり想像通りといったものだった。
なにをつくろうとしたのかそんなに鍋は要らないだろと突っ込みたくなるほど鍋が合ったり、3人で食べるならそんなに材料いらないだろと突っ込みたくなるほど食材があったり・・・・・・
「手伝うよ」
なんで人んちに来てまで料理つくらなきゃいけないんだか――
あたしは、思いながら必要のない物をチャッチャッと片付けた。
梨華ちゃんは、手伝いもせずあたしをずっと見ている。
「で、なにつくろっか?」
とりあえず聞いてみる。
「え?ん〜、なにがいいかな?」
・・・・・・なにをつくるか決めずにこれだけ要らないもの用意できるなんてある意味尊敬する。
「じゃぁ、適当につくるね」
「うん、お願い」
梨華ちゃんを台所から追い出してあたしは適当に料理を作る。
たまに見たことのない食材があったけどいためればなんでも食べられるだろう。
――あんなんだからけーちゃんも放っとけないんだろうな・・・・・・
最後の料理を大皿に盛りながらそんなことを思っていると、ガチャッと勝手口が開いた。
「あれ?石川がご飯作ってるの?珍しいわね」
そう言いながら重たそうな荷物を部屋に入れてくる人物。
あたしのことを梨華ちゃんと勘違いしているみたいだ。
「雨降ってきたから作業中止になったのよ」
全ての荷物を運び入れて髪を掻き揚げながら部屋に入ってきた人物はあたしを見ると「あれ?石川じゃなかったの?」と目を丸くした。
けーちゃん、気づくの遅すぎ
――あたしは、すばやくツッコミを入れた。
5
「そっか、あの子か・・・そういえば、こんな顔だったわね」
食卓を囲んでけーちゃんが言う。
今日、助けたか弱い美少女のことを忘れてたなんてなんという不届きものだ。
「おかしいと思ったのよね、石川が料理してるなんてさ。この子、なんにもできないでしょ。この間なんて――」
「保田さんっ!」
なおも続けようとしたけーちゃんを梨華ちゃんがすばやくとめる。
この間、なにがあったの?小さな疑問が浮かんだ。
「いや、でもほんま助かりましたわ」
みっちゃんが改めてけーちゃんにお礼を言っている。みっちゃん、律儀だね。
「保田さんって優しいから、犬でも猫でもコアラでも拾ってくるんですよ」
拾ってくるって、あたしたちはペットかっての!
っていうか、コアラはさすがにそこらへんに捨てられてないと思うけど――でも、なんとなくけーちゃんらしい話だ。
「やけど、石川さんは運がええな。こんないい人と一緒に暮らせて」
みっちゃんがお酒を片手におっさん口調で言う。
それに梨華ちゃんは満面の笑みでうなづいた。となりでけーちゃんは苦笑してたけど
美女と野獣(いい意味で)って感じでお似合いの二人だとあたしも思う。
「幸せそう・・・・・・」
あたしは、一人ごちた。
そんな感じで食卓の時間はにぎやかに、時折、梨華ちゃんのブリザードに凍えながらも楽しく過ぎていった。
「さてと・・・」
食事を終えたけーちゃんが立ち上がる。
「んぁ、どこ行くの?」
「これから、警備のお仕事なの」
まだ働くの?けーちゃん。っていうか、いつ寝るんだろう?
あたしの世界のけーちゃんも寝ないで漢字ドリルとかしてるけど・・・・・・
「それじゃ」
「頑張ってくださいね」
って、梨華ちゃんも当たり前のように送り出してるし。
「ごっつぃーん、もういっぱーいおっぱーい!!」
みっちゃんは、祐ちゃん並に酔ってるし。
あたしは、二人を居間に残して玄関先で靴を履いているけーちゃんの後をついていった。
「あたしもついていっていい?」
後ろ姿に声をかける。けーちゃんが靴をはくのを中断して振り返る。
「ちょっと夜のお散歩したいし〜いいでしょ?」
「あ・・・でも」
「いいじゃんいいじゃん」
まだなにか言いかけるけーちゃんの肘を引っ張ってムリヤリ外に連れだした。
6
砂漠の夜は昼とは違ってすごく寒かった。
けーちゃんの仕事は、砂漠に出没する盗賊が入ってこないように見張り台の上から監視するというものだった。
地面よりも高い場所にいるため、ただでさえ寒いのがもっと寒くなる。
あたしは、ガチガチと震えながら体を抱きしめる。これで少しは暖かく・・・・・・意味ないじゃーん。ぜんぜん寒い。
「だから、寒いわよって言ったじゃない」
けーちゃんが、そんなあたしを呆れたように見ながら言った。
いや、聞いてないし・・・さっきそのことを言いかけてたのか・・・・・・
昼は熱死(ってあるのかな?)夜は凍死、危険な街だ。
砂漠の夜はデインジャー。寒いのにこんなくだらないことを考えられるあたしは意外とすごいのかもしれない。
ごっちん、さいこー・・・・・・ただ単に壊れてきているだけだということに気づいた。
そのとき、ふわっと体がなにかに包まれた。
けーちゃんが、自分の使っていた防寒具をあたしにかけてくれたのだ。
驚いてけーちゃんを見ると「私は、慣れてるから」と、ぶっきらぼうにけーちゃんは言った。
「ありがと」
あたしが言うとけーちゃんは「意外と礼儀がなってるのね」と笑った。
失礼なっ!あたしはいつだって礼儀正しく生きてます・・・・・・たぶん。
少しの沈黙。
でも、それはあたしにとって気まずいものじゃなかった。
「ところでさー」
けーちゃんが口を開く。
「なに?」
「あんたたち、なんで旅なんてしてんの?どこか目的地でもあるわけ?」
そういえば、みっちゃんが旅する理由なんて聞いたことないな。
各地の名物を見るとか言ってるけど実際にそんなの見る前に追い出されてるし・・・・・・
「さぁ?なんでだろ??」
あたしは、素直に答えた。けーちゃんが笑う。
「ちょっとなにそれ?目的もなく旅してんの?」
「だって、あたしはみっちゃんについていってるだけだしね〜他に頼りがないから」
「ふ〜ん。ま、旅は悪いことじゃないしね。言ったかしら?あたしも元々は流れの商人だったのよ」
けーちゃんが、自嘲的な微笑を見せながらポツリと言った。
「どうしてやめちゃったの?」
「ま、いろいろあって定住したほうがよくなったのよね」
けーちゃんはそう言葉を濁した。
ホントは、まだ商人に未練があるんだろう、じゃなかったらそんな風に寂しそうに笑うわけがない。
あまり言いたくなさそうだから追求しないほうがいいのかな
――少しだけそう思ったけど、それはあたしの好奇心が許さなかった・・・らしい。
7
「いろいろってなにがあったの?」
あたしが聞くとけーちゃんは「いろいろはいろいろよ」とやはり言葉を濁す。
「だからー、そのいろいろってなに?」
ムキになって聞き返すとけーちゃんが笑った。なにもおかしくないって。
「あんたって子供みたいね」
依然、笑いながらけーちゃんが言う。どうせあたしはまだ子供だよ。
クールじゃないし最近ちょっとセクシーっぽかいかもしれないけど・・・
セクシーでもないし、子供なんだよ。別にいいじゃん。
「で?」
「しつこいわねー、あんたも」
「そう、しつこいよ」
胸を張って言うとけーちゃんはガクッとずっこけて見張り台から落ちそうになった。
危なっかしい。こんなドジなとこまでけーちゃんはけーちゃんだ。
「他にすることができたのよ」
あたしが呆れていると体勢を直しながらけーちゃんが独り言のようなか細い声でつぶやいた。
「え?」
他にすること?この警備の仕事とか?・・・なわけないか。
じゃぁ――梨華ちゃんだ。
「梨華ちゃんとはどうやって知り合ったの?」
「石川?唐突ね」
どことなく微妙な表情であたしを見るけーちゃん。
あたしはへらッと笑顔を振りまいた。これぞアイドルスマイルってやつだ。
あたしはあんまりしたことがないけど・・・・・・けーちゃんは苦笑を浮かべる。
それから懐かしいものを思い出すような遠い目で暗い砂漠に視線を向けた。
8
「石川はね、あんたと一緒で砂漠に倒れてたのよ」
遠い目をしたままけーちゃんがつぶやく。
「あいつ、奴隷商人から逃げ出したのね。服はボロボロ髪はぼさぼさホント汚かったわよ。かわいそうで、ついね」
「へ〜、一目惚れだったんだ」
「は?」
「違うの?」
「違うわよ。ただ・・・あいつ一人だとなんにもできないから」
「確かに」
まったくもって同意だ。これが加護しく同意というやつだろう。
ちなみに加護しくって言葉は、あたしの世界のけーちゃんが使えって言ってたものだ。
「あいつを助けてもいいことなかったわよ。おかげで商人ギルドは辞めさせられるし、この年で違う仕事覚えるのも大変だったし、なにより石川ってほんとになんにもできないんだもん。まったく、いつになったら恩返ししてくれるのかしら」
おもむろに夜空を見上げる。
けーちゃんは、梨華ちゃんを助けたことを後悔しているんだろうか?
そんなニュアンスが込められていたような気がする。
「・・・・・・梨華ちゃん助けたこと後悔してる?」
「どうして?してないわよ」
星を見上げたままけーちゃんは笑う。
「ホントに?」
なおも問いかけるあたしを不思議に思ったのかけーちゃんは視線をあたしに戻した。
「ホントよ。ただ、考えないことはないけどね」
「え?」
「あのまま商人を続けてたらあたしはもっといろいろな世界に行けたのかなって」
けーちゃんは、あたしに優しく笑いかけた。
「でも、勘違いしないでよ。別に今の暮らしがイヤだってワケじゃないから。これはこれで楽しいわよ」
そう言ってけーちゃんは立ち上がる。
「どこ行くの?」
「帰るのよ」
「え?だって、警備は」
うろたえるあたしにけーちゃんは、さっきまで自身が見ていた空を指差した。
あたしはそれにつられて空を見上げる。
「うわぁ」
そこには都会では見ることのできない、いや、きっと田舎でも見られないほど綺麗な星空が広がっていた。
思わず感嘆の声が漏れる。
「誰が星空鑑賞しろって言ったのよ」
けーちゃんがあたしの頭をペシッと軽く叩く。
あれ?そういう意味じゃないの?
「時間が来たってことを言いたかったのよ。旅人なら星の動きで時間ぐらい分かるようにしときなさい」
けーちゃんは、笑って下に下りていく。
なんだ、そういうことか。
あたしは、もう一度夜空を見上げる。この景色は忘れないでおこう。
9
でも、梨華ちゃんのために全て捨てちゃうなんて分かんないな〜。
だって、まだけーちゃんって商人に未練あるじゃん。
その気持ちを抑えてまで今の生活を守ることに意味なんてあるのかな?あたしは、思った。
テクテクと歩いていくと家が見えてくる。もう夜明けだ。
徹夜しちゃったな〜。眠い眠い眠い眠い。
ん?家に電気ついてる。
まさか、みっちゃん、こんな時間まで飲んでたの!?
ホントに祐ちゃんと変わんないんだから・・・・・・あとでしっかり注意しないと。
そう決意したあたしの耳にけーちゃんの独り言が聞こえた。
「・・・あいつ、寝てていいのに」
「え?」
けーちゃんの横顔は口調とは裏腹にどこか嬉しそうだった。
「ただいまー」
けーちゃんがドアを開けると家の奥から梨華ちゃんが飛び出してきた。
「おかえりなさいっ!!」
「あんた、寝てなさいって言ったでしょ」
嬉しそうな梨華ちゃんに照れ隠しなのかぶっきらぼうに言うけーちゃん。
「だって〜」
梨華ちゃんは口を尖らせる。けーちゃんが、口元をほころばせた。
その優しい表情を見て、あたしは気づいた。
そっか、そういうことなんだ。
けーちゃんは、捨てたんじゃないんだ。梨華ちゃんと出会ってなにかを得ることができたから、だから、今の生活に満足することができるんだ。
――あたしはどうなんだろう。
娘のメンバーと会ってずっと一緒にいたから気づかなかったけど、すごくすごく大切なものを得ていたのかもしれない。
だって、あたし、今までの生活に満足してたもん。それがある限りきっと一人でも大丈夫だと思う。
「保田さ・・・・・・け、圭ちゃん、着替えてきてください。今から、スープ温めてますから〜」
あたしが言っていたことを覚えていたのか顔を真っ赤にしながら、梨華ちゃんはそう言うといそいそと台所に行った。
けーちゃんも照れているのかぽりぽりと頭をかいている。玄関に二人きりになった微妙な空気。
軽く咳払いをして気を取り直すとけーちゃんは着替えのために部屋に向かいかけた。
あたしは、その後ろ姿に声をかける。
「ねぇ、けーちゃん」
けーちゃんが振り返る。
「今、幸せ?」
あたしの問いにけーちゃんはいまさらと言わんばかりの表情で「当たり前でしょ」と言った。
――だから、それでいいんだ。
Fine
今回は明るくてよかった。2話切ないし
涙とともにパンを食べた者でなければ人生の味はわからない。
−ゲーテ
1
「元気でねーチャオー」
「また遊びにきなさいよ」
「ダイバーイ!!」
あたしたちは、けーちゃんと梨華ちゃんに見送られて新たな旅に出る。
けっきょく、1週間ほどお世話になってしまった。
居心地がいいんだよね、かなり。
まぁ、そのぶん家事をさせられたりもしたけど・・・・・・それもいい思い出だ。
歩き出してちょうど1時間がたったころみっちゃんが立ち止まった。
けーちゃんから貰った地図とにらめっこしているその姿に嫌な予感を浮かべずにいられない。
けーちゃん曰く、30分も歩けばらくだを借りることのできるキャラバンがあるらしい。
それなのに、いまだにそんなキャラバンは見つからない・・・・・・
「みっちゃん」
「な、なんや?」
動揺したみっちゃんの声。あたしは、確信を深めた。
「また迷った?」
「・・・・・・・・・・・・ま、まさか〜そんなんあらへんがな、アハハハ」
怪しい間のあと目を泳がせて笑うみっちゃん。
やはり・・・・・・今度からはあたしが地図を持つことにしよう、そう決めた。
もちろん、あたしたちが生きてこの砂漠を抜けることができたらの話。
早くなんとかしないとまた倒れちゃうよ。
あたしはなにか周りにないかみっちゃんにことわってから少しだけ探してみることにした。
2
砂漠の砂はさらさらしていてかなり足に疲労がくる。
けーちゃんたちの家に帰りたい・・・心底思った。
っていうか、けーちゃんにキャラバンまで案内してもらえばよかったな〜。
みっちゃんを信用したあたしがバカだったけど・・・・・・歌でも歌わなきゃやってらんないよ。
そういえば、やってられんってよっすぃーも歌ってたっけ。
今のあたしにぴったり。
「もう暑すぎでやってられん♪んんんんんんんん・・・・・・・・・♪」
「あの〜」
「アイドルからは程遠い♪やってられんやってられん」
「あの〜」
一曲(けっこう省略)歌いきったあたしの背後でどこかで聞いたことのあるナマリがした。
「高橋?」
あたしは、振り返った。
案の定、そこにはいつでもビックリ顔の高橋がやはりビックリした顔で立っていた。
3
「もしよければ私たちの村にきたらいかがですか?」
自己紹介を終えたあと高橋が村に案内してくれると言った。
あたしたちは、もちろんそれについていく。
「近くに村があるんや〜」
と、言いながらみっちゃんが高橋にセクハラしている・・・・・・じゃなくて、スキンシップを図っている。
さっきあたしが高橋を連れて戻ってきたときには死にかけてぐったりしていたというのに、恐るべき回復力だ。
関西人とはそんな人が多いのかもしれない。
「なぁ、ごっちん、この子の町にお世話になろうや」
「へ?あ、うん」
頭の中で関西人と関東人の違いVer.510を作っていたあたしは突然みっちゃんに話をふられて裏返った声で答えた。
チラリと高橋があたしを見て笑う。高橋の癖に生意気な・・・・・・なんて思うわけない。
って、なんかあたしって5期メンに対していつもこんなこと言ってるような・・・・・・ま、気のせいだろう。
それにしても、とあたしは高橋の背中を見る。
細い。
あたしの世界の高橋よりも細い気がする。
見てて痛々しいまでに・・・・・・こんなとこで暮らすとこうなるのかな?
だったら、よっすぃーも・・・・・・・・・いや、今のはなしの方向で。
「もうすぐつきます」
高橋が前を指差した。その先には、小さな集落がある。
「いや、ホンマ助かったな〜」
そう言いながらみっちゃんが笑った。
「いえ、お互い様です」
高橋が素のままの表情で返した。
お互い様?
――一瞬、高橋の言葉が頭に引っかかった。
だけど、それは集落につくとすぐに忘れてしまった。
そのときに気づいていればなんとかしてあげられたんだろうか?
――いや、やはり無理だったろう。
世界にはどうすることもできないことはよくあるから・・・・・・
4
村の人たちは、みんな高橋と同じく痩せていたけど笑顔を絶やさないいい人たちで、
あたしたちにどんな方向音痴でも迷わない地図をくれたりお風呂の用意までしてくれた。
こんな熱烈歓迎は初めてだ。
「ええところやな」
「だね〜」
そんな和やかな雰囲気に気分がよくなる。
あたしたちは、とりあえずここに一晩泊まることに決めた。
「宿はどこにあるんかな?」
みっちゃんが高橋にそう尋ねると彼女は村にある空き家に案内してくれた。
それは、この村に一軒だけある石造りの家。
中に入るとひんやりとしていて太陽の熱で火照った体に気持ちいい。
「でも、ええん?」
満更でもなさそうな表情をしたみっちゃんはたずねる。
「もともと宿屋だったんですよ。お気に召しませんでしたらあたしの家でもいいんですけど、ここのほうがキレイで過ごしやすいですよ」
「へぇ〜」
あたしは、ここに来るまでに会った家を思い浮かべて休むなら快適なほうがいいなと思った。
「みっちゃん、ここにしようよ」
あたしがいうと、同じ気持ちだったんだろう、みっちゃんもうなづく。
「ほな、ここ使わせてもらいますわ」
「どうぞ。あ、今日の夜はお祭りがあるんですよ。よかったら参加してくださいね」
高橋はそう言うとにこりと笑って出て行った。
「お祭りやて」
「楽しそうだね〜」
それから、あたしたちは、夜が来るまで旅の疲れをとることにして簡素なつくりのベッドにもぐりこんだ。
5
「んー」
夜が来るまで旅の疲れをとることにした・・・・・・はずが、眠れない。
あたしは、ベッドの上をゴロゴロと転がっていた。不眠症なのかな、あたし。
「みっちゃん、ねぇ、みっちゃんってば〜」
あたしは、隣で爆睡しているみっちゃんの頬を指でツンツンする。
みっちゃんは「ん・・・」と無駄にセクシーな吐息を漏らしたけど起きる気配はない。
「ヒマだな〜」
外から入ってくる光の具合から夜までにはまだもう少し時間がかかりそうだ。
あたしは、仕方なく眠るのをあきらめベッドからおりた。
ただでここにお世話になってるんだし、祭りの準備とか手伝おうかな?
あたしは、そう思いながら階段を下りて玄関に向かった。
と、そのとき外から誰かの悲鳴とも歓声ともつかない奇妙な声が聞こえた。
あたしは、驚いて外に飛び出した。
外にはなんにもなかった。そう、なんにも・・・・・・変だ。
さっきまで人が行きかっていたのに・・・・・・ゾクリと背筋に冷たいものが走る。
まるで村の人みんながなにかに連れ去られてしまったみたいにシーンとした道。
みんな、どこ行っちゃったわけ?
と、とりあえずみっちゃんを起こそう。
みっちゃんならなにか村の人たちがいなくなってしまった納得いく理由を言ってくれるはずだ。
あたしは、飛ぶようにみっちゃんの寝ている部屋に駆け戻った。
「みっちゃん!みっちゃん、起きて!!」
「ん・・・」
「無駄にセクシーな吐息はもういいってばっ!」
あたしは、みっちゃんを布団から引き剥がす。
「なん、ごっちん・・・・・・?まだ寝かせてやぁ」
みっちゃんは、あたしに背を向けるように寝返りを打つ。
「それどころじゃないんだって!」
こうなったら、花瓶で頭を割るしか・・・・・・じゃなくて、そんなの犯罪だ。
「とうっ!!」
あたしは、みっちゃんの細い体にボディプレスの要領で飛び乗った。
「ぐぁっ!!!」
みっちゃんが、鈍い悲鳴をあげた。
「起きた?」
みっちゃんを覗き込むとみっちゃんは白目をむいて気絶していた・・・・・・ごめんね、みっちゃん、いい子なのにね。
6
「・・・もう、死ぬかと思ったで」
あれから、気絶したみっちゃんに活を入れて蘇生成功させたあたしは、とりあえずどうして起こしたのかを説明した。
すると、あたしの話を聞いていたみっちゃんは
「なんかのたたりで村の人どっかに連れてかれたんちゃうか?」などとバカなことをまじめな顔で言った。
「そんなわけないじゃん」
あたしは、呆れて言った。みっちゃんに頼ったあたしがバカだった。
「・・・・・・たたりはあるんやで」
「たたりから離れてよ」
あたしが突っ込むとみっちゃんは「ま、あれちゃう?祭りの準備でではらっとるんやないか?」とあっけらかんと言った。
「あ・・・」
そっか。さすがみっちゃんだ。
そういうことか。
「ったく、ごっちんは怖がりやな〜」
みっちゃんが笑った。
「だってさー、変な声が聞こえたから」
「変な声?」
「そう、きしょいの」
「ふーん。ま、目も覚めたことやしちょっと人探してみるか」
みっちゃんが小さくあくびをしながら立ち上がった。
7
再び外に出る。
やはり誰もいない。こういうのってゴーストタウンっていうんだよね、知らないけど、多分。
「ホンマ、誰もおらんな」
みっちゃんも心持ち不安そうな顔で辺りを見回す。
と、あたしたちが高橋に連れられて入ってきた村の入り口の方からたくさんの人の声が聞こえた。
「あっちや」
あたしとみっちゃんはその方向に向かって走り出す。
入り口が見えてきた。
村の人たちが大きな荷物を抱えてどこかから帰ってきたようだ。
村中ではらってどこに行っていたんだろう?
それに・・・
あの大きな荷物はなんなんだろう?
「あれ?後藤さん・・・・・・」
あたしたちが、ぼんやり立ち尽くしていると人だかりの中から高橋がでてきた。
「あ、高橋」
「どうしたんですか?なにかお困りのことでも?」
「ん・・・別にただ村の人がいなかったから心配になって・・・・・・」
問いかけてきた高橋にあたしは奇妙な違和感を感じた。
さっきとはなにかが違う。見掛けとかそういう簡単なものじゃなくてなにかまとっているものが違うって言うか。
よくわかんないけど・・・・・・・
「そうですか、ご心配をおかけしてすみません・・・・・・でも、あなたたちは運がいいみたいですね」
「え?」
高橋が口にした奇妙な言葉を不思議に思って尋ねようとした。
そこへ――
「愛ちゃん」
村の男の人が彼女を呼ぶ。
高橋は「それじゃ、あとで」と微笑むとまた人だかりのなかへと戻っていった。高橋は、村の人たちになにかキビキビと指示してさっきの男と連れ立ってどこかへ行ってしまった。
「高橋ちゃんって村のお偉いさんなんかな」
みっちゃんがポツリと呟いた。
そうかもしれない。だけど、さっき感じた違和感のせいか
あたしには、村の人たちは彼女のことをお偉いさんとして敬っているというよりもどこか恐れて萎縮しているかのように見えていた。
8
だんだん、日が暮れてきて村の人たちが本格的な祭りの準備を始めだす。
あたしたちは宿に戻るのも面倒だったのでそれを手伝おうと近くにいた人に声をかけた。
だけど、「あ、いいですよ。お客様はどうぞごゆっくりしていてください」とあっさり断られてしまう。
っていうか、この人どこかで見たことがある。誰だっけ?
「いや、やけどヒマやし。なぁ、ごっちん」
「え?あ、そうそう。なんかないですか、手伝うこと」
あたしとみっちゃんが問うと、その人は困ったように頭をかいた。
――あっ!!
あたしは、思わず声を出しそうになった。
その人物は、童謡の先生、石井ちゃんだった。
そっか、石井ちゃんか。
なんか胸のつかえが取れたみたいにスッキリ。
「・・・じゃ、じゃぁ、あのこの木を折っていただけますか?」
石井ちゃんって丁寧な喋りだな〜。
だから、年寄り老けて見られるんだよ、多分。いや、なんとなくだけど。
「オッケティングー」
「あいよ」
きっとキャンプファイアーにつかうんだな。ボキボキと木を折りながら思う。
みっちゃんはやけに真剣に木を折っている、石井ちゃんも黙々と作業をしている・・・
あたしは・・・だんだん飽きてきた。
こういう作業って絶対喋りながらしたほうが楽しいような気がするんだよね。
「ねぇ、石井ちゃん」
あたしが声をかけると石井ちゃんはうろたえたように返事をした。
「さっき、どこ行ってたの?」
「え?えっと、食料の調達に・・・・・・」
サッと石井ちゃんの顔に明らかな狼狽の色が浮かんだ。
聞いちゃいけなかったのかな〜少し気まずくなってくる。
「ごっちん、超怖がってうち死にかけたんやで」
その空気を打ち破ってみっちゃんが言う。失礼な。それじゃあたしが怖がりみたいじゃん。
「あの悲鳴聞いたら誰だって怖くなるって」
「悲鳴・・・・・・」
「そう、悲鳴がねウキャーとかウキョーとかウッヒョーとか聞こえたわけ」
独り言のように呟いた石井ちゃんの言葉にあたしは応える。
ちなみにウッヒョーは梨華ちゃんだった。
「ごっちん、ウキャーもウキョーもウッヒョーもぜんぜん怖ないやん」
「いや、それがマジ怖かったんだってば・・・だってさー、こうなんか死にそうな声っていうかさ〜」
みっちゃんのツッコミには反論。それがごっちん道というものだ。
そこに石井ちゃんがか細い声で「あの・・・」となにかを言いかけた。
「え?なに、石井ちゃん?」
「あの、この村から早く出て行ったほうがいいです」
石井ちゃんは、真剣なまなざしであたしたちを見詰める。
「ど、どないしたん、石井ちゃん?」
みっちゃんもあたしの真似をしてか石井ちゃんと呼んでいる。
あってるからいいんだけどね。
石井ちゃんは、言うべきかどうか逡巡しているのかなかなか口を開こうとしない。
「石井ちゃん?」
あたしが声をかけるとようやく決意したのかこう口にした。
「高橋さんは、恐ろしい人です。私たちも・・・・・・あなたたちが死にたくないなら今すぐでていったほうがいい」と。
そして、そのなぞの言葉だけを残しあたしたちが折った木々を拾ってどこかへ走り去ってしまった。
あまりに突然の行動と話にあたしたちはしばしポカンとして彼女を止めるのを忘れていた。
9
高橋が恐ろしい?
死にたくないならって・・・・・・・・・・
あたしは、石井ちゃんの言葉を頭の中で反芻していた。
まるで反芻すれば答えが出るとでも言うように。
だけど、無論そんなわけはない。
不意に、パキッと木が折れる音がした。
その音にはっとしてあたしはみっちゃんを見る。
ずっとあたしを見ていたのか目が合う。
「・・・・・・さっきのどういう意味やろ?」
みっちゃんも同じことを考えていたようだ。低い声で呟く。
あたしは、首を振った。分かるわけがない。本人に聞いてみない限り・・・・・・
そうじゃん、本人に聞けばいいんだ。
あったまいいかも、あたしって。
「ねぇ、みっちゃん」
「ん?」
「高橋のとこ行こ」
あたしは、言うが早くみっちゃんの肘をつかんで引っ張っていた。
10
「・・・さぁ、見ませんでした」
「そうですか、どうも」
これで何回目だろう。
村の人たちに高橋の居場所を聞いて回っても、みな一様に知らないと言い張る。
絶対知っているはずだ。でも、それをなんらかの理由で隠している。
ますますあたしの中で高橋に対する不信感がつのっていく。
こんなことならさっき会ったときに別れなきゃよかった、とあたしは後悔していた。
「なぁ、ごっちん、もうええやん。どうせ祭りの席で会えるんやろうし」
「でも・・・あっ!」
言いかけたあたしの視界の奥にさっき高橋を呼んだ男がコソコソと
まるで人目を忍ぶようにどこかに向かっている姿が映っていた。
あの男なら高橋がどこにいるのか知っているかもしれない。
あたしは、そう思い男のあとを追いかけるために走り出した。
「ちょっと、ごっちん!?」
背中越しにみっちゃんが慌てた声で叫んでいた。
11
男とつかずはなれずの適度な距離を保ちながらあとをつける。
こういうのってドラマとかだとあからさまですぐにばれそうだけど意外とバレナイみたいだ。
あたしって探偵になれるかもしれないな――そんなことを思いながら死角に隠れて男の様子を窺う。
男は、村から少し離れたところにある奇妙な洞穴の中に入っていった。
こんな場所が近くにあったのか。
ここなら村人以外が見つけることはまずないだろう。
つまり、裏を返せばここに高橋がいる可能性が高いってことだ。
あたしは、さらに男の後を追った。
洞穴の中は、ロウソクが灯されていて明るい。
音を立てないよう注意をしながら歩く。
「・・・誰?」
誰かの声がした。
男が立ち止まる。あたしも慌てて立ち止まった。
「おれだ」
男がそう答えると奥から「・・・なにか用?」と返ってきた。
「旅人たちが探してる。いったん、村に戻ってきてほしい」
旅人たちって、あたしたちのこと。
ってことは、奥にいるのは高橋だ。
「そう、分かった」
奥からコツコツと足音がして高橋が姿を現す。
その姿にあたしは驚いて声を上げそうになった。
高橋の真っ白な衣服が赤く染まっていたのだ。
あれは・・・血?
男が、背負っていた布製のバッグから着替えを取り出す。
高橋は、手を衣服で拭うと――手も同じように赤く染まっていた――男からそれを受け取る。
それから、にっこりと微笑んでいった。
「あとは、あなたがしておいて」
「え!?」
男が頓狂な声を出す。
「できないの?あなたたちの食料でしょ?」
高橋は冷たく突き刺すように男を見つめる。
男は、蛇に睨まれた蛙のように身をちぢこませその場から動けなくなっている。
それは、あたしも同じだった。
それぐらい、そこにいる高橋は恐ろしく感じられたのだ。
12
――みっちゃんのところに戻ろう。
頭にそれだけが浮かんだ。見つかったらなにをされるか分からない。
あたしは、まだ話している二人を確認してからそっとその場から逃げようと足を一歩踏み出した。
カラン――
あたしの踏み出した足は見事に地面に落ちていた小石を蹴っていた。
洞窟内にその音だけが響く。
あたしらしくないドジだ。みっちゃん並のドジだ。
あたしは、全身が凍りつくのを感じた。すぐに男がとんでくる。
「お前・・・・・・」
男は、あたしの顔を見て眉をひそめた。そのすぐあとに高橋が歩いてくる。
「あ、あは・・・やっほ〜なんつって・・・」
「・・・後藤さん・・・・・・」
高橋は、少し悲しげにあたしを見つめ、男に向かって「あなたは村に帰って・・・」と言った。
「しかし、こいつは?」
男がびっくりしたように高橋に問う。高橋は、無言のまま男をにらみつけた。
男は、その迫力に息を呑んでその場を立ち去った。
「・・・どうして来たんです?」
男が立ち去るのを確認してから高橋が口を開いた。
「あなたたちにはなにも知られないままこの村を立ち去ってもらおうと思っていたのに・・・・・・」
「・・・どういう意味?高橋はさっきなにしてたの?そんな・・・」
あたしは、口ごもった。
高橋が、いまにも泣き出しそうだったからだ。
実際には、その両の目には涙の一滴もうかんではいなかったのだけれど――あたしにはそう見えた
13
風がヒューヒューと吹いてまるで貯蔵庫のように涼しい。
あたしは、もう一度高橋の全身を見た。
さっきは暗くていまいち自信をもてなかったが、どう見てもそれは血にしか見えない。
「・・・料理をしてたんですよ」
高橋があたしの視線に気づいて答える。
「料理・・・・・・こんなところで?」
「ええ・・・・・・ねぇ、後藤さん知ってます?この村って、ホントはすごく貧しいんです。
昔は、これでも栄えていたらしいですけどね・・・あたしが物心つく頃には
もうこのとおり荒れ果ててました」
なにが言いたいんだろう?そんなの今関係ないのに・・・・・・
突然、流暢に語りだした高橋を不思議に思う。
高橋は言葉を続ける。
「・・・あたしは、ずっと満足に食料を得ることができなかった。村の人も同じ。
どこかに商売にでるための乗り物もなくその体力もない。
それでも、まぁ、両親が生きてるうちはなんとか生きていられたんです。
でも、そんな時、村に盗賊がやってきて、残されたわずかな食料も水も奪われ・・・村の人も大勢死に・・・私の両親も・・・・・・」
「・・・高橋?」
「家には、両親の死体、それだけ・・・・・・
幼くてまだなにも分からなかったあたしが、いったい、どうやって生き残ればよかったんです?
人間って食べないと死ぬんですよ」
高橋がどこか不安定な昏い笑みを浮かべた。それから一呼吸ついて言った。
「あたしは、両親を食べました」
「・・・え?」
一瞬、時間が止まった感覚に襲われる。
今、なんていった?
食べた?両親?・・・・・・両親を食べた・・・?
「一人で食べるには多かったので村の人にもわけてあげて・・・
でも、みんな、それが私の両親の肉だと知って吐きました。
ひどいですよね。せっかく、人がおすそわけしてあげたのに・・・・・・」
目の前にいる高橋がなにか違うモノに見えた。
「ちょ、ちょっと・・・高橋、あんた・・・・・・」
「だけど、やっぱり生存本能には誰も勝てなかったみたいで・・・結局、そのあとみんなたいらげたんです。
盗賊に殺された村の人や単に飢えて死んだ人も。ここは、その時から使ってるんです。貯蔵庫にいいでしょ」
狂ってるよ・・・・・・どうしてそこまでして。
あたしは、震える体をどうにか支えていた。
「さっきあなたに運がいいって言ったのは、本当は今日食べる予定だったのはあなたたちだったから」
「・・・ま、マジで?」
それだけを搾り出す。
声になっていたかは定かではない。
「でも、たまたま外で商人たちが盗賊に襲われたみたいでもっとたくさん食糧が入ってきたんです。
だから、あなたたちは助かったんですよ」
「・・・・・・じゃぁ、さ、さっきのって・・・し、死体をとりに行ってた・・・の?」
「ええ」
高橋は、うなづいて目を細めた。
それと同時に、洞穴の外から誰かのくぐもった声が聞こえた――
14
あたしの視界に燃え盛る家々が遠くうつった。
高橋は、それをぼんやりと見ている。
「ホンマ・・・死ぬか・・と思った・・・」
地面にへたりこんでいるさっきのくぐもった声の主・みっちゃんが息も絶え絶えにつぶやいた。
みっちゃんの話によると突然の盗賊の襲来。
人は殺され、建物は破壊された。村の人たちは散り散りに逃げたと言う。
その話も高橋はぼんやりと聞いていた。
「さっき、あの人たちを襲った盗賊か・・・・・・」
洞穴をチラリと見やって高橋は一人ごちた。
「高橋?」
あたしは、心配になって声をかけた。
高橋は、あたしの声に微かに反応する。とても頼りない視線。
そこへ、ガサッという音と共に村の人たちが現れた。
なんとか逃げ延びた人たちだろう。怪我をしている人もいる。
すがるように高橋を見つめている。
その中の一人が高橋を呼んだ。
「愛ちゃん・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
高橋は微かにうなづくと無言でその人たちの元へ向かう。
まさか、盗賊たちに殺された死体を村に運んできたように、
これからまた同じように村人の死体をここに運んでくるつもりなんだろうか。
「ちょっと高橋!いいの!?あんた、仲間まで食べる気!?」
あたしは、叫んだ。
高橋は振り返らない。
村人も視線をあわそうとはしない。
「ねぇってば!なんとか言ってよ!!そんなことまでして生きて正しいと思ってんの!?」
あたしの絶叫ともとれる問いかけに高橋が足を止めた。
ゆっくりと振り返る。
「正しくないですよ」
小さな声。
「え?」
「でも、あたしもみんなも死にたくないんです」
そして、笑った。
その笑顔にあたしはもうなにも言えなかった。
15
あたしたちは、そのまま村を出た。
ひどく後味の悪い別れだ。
どうにかして救ってあげられなかったんだろうか?
あの村の人たちを......
――あたしは、自分の無力さを痛いほど痛感していた。
あたしは、あまりにもたくさんのことを知らなすぎたのかもしれない。
飢えは存在する。
生き延びようともがいている人たちがいる。
そのために、人を殺してしまったとしても・・・・・・のうのうと暮らすあたしたちの誰が責められよう。
きっと誰も責められない
――高橋たちがしたこと・・・・・・これからすることを・・・・・・
だけど――
「ごっちん・・・大丈夫か?」
自分こそ真っ青な顔をしているくせにみっちゃんはあたしを心配している。
こんな人だっている。
どっちが正しいんだろう。
――その答えは、当分、出そうにない。
Fine
たかはすぃー・・・・・
人生において最も絶えがたいことは悪天候が続くことではなく、
雲一つ無い晴天が続くことである。
byヒルティ
1
砂漠を抜けて新しい街についた。
あたしもみっちゃんももうあのことは口に出さない。
それは暗黙の了解となったようだ。
「今日は、野宿やな」
「そうだね、お金もないし」
無意識にそう口にしていた。
「・・・・・・」
ふと気がつくとみっちゃんがへこんでる。
どうしたんだろう?
さっきなんか言ったっけ、あたし?
いまいち思い出せない。
まぁ、いいや。
みっちゃんを放っておいて道行く人に目を向ける。
今回は、知ってる人見つかりそうにないかな。残念だ。
それにしても、普通の町だ。
これといったあげられる特徴もないし、町の人もあたしの世界にいてもおかしくない感じ。
みっちゃんがいなかったらここが異世界だとは思えなくなってくる。
「ごっちん、あそこの広場にするで」
「え?」
みっちゃんが、指差しているその先に目を向ける。
そこには、懐かしさを感じる建物が建っていた。
あれって、学校かな?
それっぽい形だし、だとしたら、みっちゃんの言ってる広場って校庭でしょ。
いいのかな、勝手に寝泊りして警備の人とかいたら怒られそうだ。
「ほら、行くで」
「は〜い」
あたしはそう思いながらもみっちゃんに促されるまま歩き出した。
怒られたら怒られたときだ。そう考えた。
それに、学校がある町なんて初めてだからこの世界の学校とはどんなものなのか興味がある。
ファンタジーな世界だから魔法の授業とかあったりするかもしれない。
かなり興味がある。
お土産に魔法の教科書とか持って帰れないかな〜。
あたしは、なんとなくワクワクしていた。
2
あたしの予想通りそこは学校だった。
みっちゃんは、そこで夜ご飯の準備を始める。
暇になったあたしはうろうろと校庭を歩き回る。一つの教室が目に入った。
窓から背伸びして教室を覗き込む。
教室の一番目に付く場所に時間割表が張ってあった。
あたしは、かなりの期待をもって目を細めて文字を読み取る。
1時間目 数学 2時間目 体育 3時間目 国語 4時間目 道徳 給食 昼休み 5時間目・・・・・・・・・
あたしの期待した魔法の授業なんてなかった。
ここまで元の世界と一緒じゃなくてもいいのに。あたしは、がっくりと肩を落とす。
そこであることに思い立った。
もしかしたら意外といつのまにかあたしは自分の世界に戻っててみっちゃんが今度は彷徨い人になってるのかもしれない。
だって、満月の夜だし・・・・・・
「ごっちん、なにしとんの?」
「うひゃっ!」
「うわっ!」
急に声をかけられてあたしは驚いて飛び上がった。
声をかけたみっちゃんのほうも驚いてバックステップの要領で後ろに飛んでいた。
「な、なんなんやそんなビックリして」
「いや〜、なんとなく」
「変なごっちんや」
呆れたようにみっちゃんが言う。
「それでなんか用だったの?」
「いや、ご飯できたから呼んどるのに反応せんからなんか面白いもんでもあるかと思って」
「あはっ」
「あはっやないって」
あたしたちは、焚き火を囲んで少し遅めの夕食をとる。
といっても、缶詰を温めただけの簡単なものだけど。
「天気がよくてよかったな〜」
みっちゃんが空を見上げて言う。
「そうだね〜」
あたしは、缶詰の中身を取り皿にとりながら適当に相槌を打つ。
「野宿っていうんはなやっぱり浪漫やねん。分かる、ごっちん、この熱い魂の叫びが」
「うん、分かる分かる」
あたしは、みっちゃんの横にある水のはいった布袋から水をつぎながら適当に相槌を打つ。
「ちゃんと聞いてる?」
「うんうん」
「ごっちん!」
あたしが適当に答えているのに気づいたみっちゃんがムッとした声を出す。
みっちゃんってつい苛めたくなるんだよね〜。
「みっちゃん、ごめんごめん。浪漫教えてよ」
「いーや、ごっちんにはもう旅の浪漫を教えへん。絶対に教えへん」
みっちゃんは、やけにムキになっている。腕を組んでプイとそっぽを向いてしまった。
まったく大人気ない。みっちゃんってもっと大人なイメージがあったけどな。
こっちのみっちゃんは違うみたいだ。
「ねぇ、みっちゃんってば〜・・・・・・・ん?」
みっちゃんの機嫌をなおそうと顔を覗き込んだ時、その奥に校庭の中央を横切る人影が見えたような気がした。
あたしは、ついそっちに気を取られて立ち上がった。
「あれなに?」
あたしの口から言葉が漏れる。
それをみっちゃんを騙そうとしていると勝手に勘違いしたのか
「騙されへんで騙されへん」と、みっちゃんは目を瞑った。
あたしはというと、それどころじゃなかった。
今のマジでなんだったんだろう。好奇心がむくむくとわいてくる。
あたしは、みっちゃんを置いてさっきの人影のようなものに向かって走った。
3
校舎の裏側。いわゆる裏庭ってやつ。
暗くて周りが見えにくい。揺らめく影にはっとして振り返る。
木の枝だ。ざわざわいう自然のささやき――
その中に、ガチャンという奇妙な機械音が雑じっていた。
あたしは、その音のするほうへ足を向ける。
月の光で薄ぼんやりとなにかが浮かび上がった。
大きな鳥――
梨華ちゃんがいたらどんな反応するかな?
あたしは、そう思った。
少し近づく。そして、さっきの認識が間違いだったことに気づいた。
鳥じゃない。機械だ。飛行機とは違うけどたぶん飛ぶためのもの。
それを何者かがいじくっている。声をかけようか迷う。
その時――
「ごっちんっ!!ひどいやん、うちを置いてくやなんて」
タイミングよくと言うか悪くと言うかみっちゃんがあたしに泣きついてきた。
ドサッとなにか重たい物を落とす音。
あたしがしまったと思ったときはもう遅かった。
人影は、すばやく機械の上から飛び降りて反対側へと走っていってしまったのだ。
あたしは、走った。
走りには少し自信があったのにどんどん引き離されていく。
結局、校庭に差し掛かったところであたしはその人物を捕まえることを諦めて、みっちゃんのいる裏庭に戻ることになった。
裏庭に戻るとみっちゃんが膝を抱えて座っていた。
「みっちゃん」
「・・・・・・」
どうやらまた置いていかれたことに対していじけているみたいだ。
別にあたしは、悪気があって置いていったわけじゃないんだから謝る必要はない。
内心、さっきの人影をつかまえられなかったことに苛立ちを覚えていたあたしはそう判断した。
みっちゃんを無視してさっきの人影が弄くっていた機械に近づく。
近寄ってみると以外に小さい。人が二人乗れるか乗れないかぐらいだろう。
もし、これが飛ぶ乗り物であるならば・・・・・・。
でも、どうしてこんなものをこんなところで造っているんだろう?
疑問が浮かんだ。
ガチャッ。
機械の周りを回っていると足がなにかを蹴る鈍い音がした。
地面に目を向ける。
そこには、工具セットが散らばっていた。
どうやらこれを蹴ってしまったらしい。なんとなくそれを手に取る。
暗くてよく見えないがなにか文字が書いてある。
あたしは、月の光が当たるようにそれを翳す。
「あ!」
微かに読み取れたその文字にあたしは思わず驚きの声を上げていた。
そこには、名前が書かれていたのだ。
――紺野あさ美、と
173 :
七誌:02/10/11 20:35 ID:4gYa5eEl
ごまっとうか・・・・・・
ごまっとうショックでやめちゃうんですか?
紺野出せや、ゴルァ。いや、マジで
4
「みっちゃん」
まだいじけているみっちゃんに後ろから抱きつく。
「な、なんやシナ作って気持ち悪いな」
みっちゃんがウロタエタ声を出した。
あたしは、すばやくみっちゃんの正面にまわりこむ。
「さっきは、ごめんね〜。後藤、深く反省しました」
ぺこりと頭を下げる。みっちゃんは、疑り深くあたしを見つめている。
人を信用できなくなったらダメだよ、みっちゃん。
あたしのこの純粋なまなざしを信じて。あたしは、みっちゃんを見つめ返した。
「・・・で、なに企んどるん?」
少し間を置いてみっちゃんが口にした。
・・・・・・そんなに信用ないかな〜、あたしって。こんなに正直なのに――
「なんにも企んでないって、マジ反省したんだよ〜」
「・・・ふーん」
「それで、ちょっとお願いがあって」
あたしの言葉にズルッとみっちゃんがずっこけた。
こういうところは、関西人だ。感心する。
それにしても、あたしは今みっちゃんがずっこけるようなことを口にしたんだろうか?
「・・・もうええわ。ほんで、お願いってなに?」
「あのね・・・」
あたしはさっきから考えていたことを口にした。
みっちゃんが「はぁっ!?」と返してくる。
そんなに嫌なのかな?
いいじゃん、当分ここで野宿続けようって言ったぐらいで。
だって、あたし、この世界の紺野が見てみたいもん。
あたしの予想では、絶対にこの工具セットを取りに戻ってくる。
紺野のことだからこれを落としたのに気づくのがいつになるかわかんないけど・・・・・・絶対に取りに来るはずだ。
あたしは、渋るみっちゃんを拝み倒して当分の野宿生活をムリヤリ認めさせた。
断じて、脅したわけじゃない。
まさか、力に頼ったわけじゃない。
まさかまさか・・・・・・マジでね。
ともかく、あたしたちはこの校舎で紺野待ちをすることになった。
レッスン中にはよくあった・・・なんてことは言わないでおこう。
5
それから、3日がたっても紺野が姿を現さないどころかこの学校に来る生徒を見たことがない。
今は夏休みみたいなものなんだろうか。
来るかどうかも分からない紺野を待つあたしはバカかもしれない。
さりげに気は長いほうだけどイライラしてくる。
みっちゃんもそろそろ旅人魂が騒いできたらしくウロウロウロウロと落ち着きなく歩き回って目障りだ・・・・・・間違えた。
みっちゃん、いい子なのにね。
「・・・・・・なぁ、ごっちん」
「もうちょっとだけ、お願い」
みっちゃんの重々しい声にあたしは先まわってそう言った。
みっちゃんのため息。
ややあって「今日までや。明日になったらうちはこの町を一人でも出る」と少し強めの口調で言った。
確かに紺野がもう一度――たかが工具箱を取りに――ここにくるという保障はない。
これが潮時なのかもしれない。
あたしは、うなづいた。
6
パチパチと火がはぜる音だけが夜の沈黙に響く。
結局、昼に紺野は現れなかった。でも、あたしの中で心の整理はついていた。
だから、そんなにがっかりした気分じゃない。
あたしの気持ちはすでにこれからの旅に向けられていた。
「なぁ、ごっちん」
「んぁ?」
「なんでそんなにここにおりたいん?」
「ちょっとね〜忘れ物を渡したくて。ま、もういいけど」
あたしは、自分のバッグに入った工具セットを取り出して紺野を見た機械のところに置く。
今日でお別れだね、この機械とも。完成したところ見てみたかったな。
あたしは、思い出にしようと中に乗り込むためにそれに足をかけた。
「触らないでください!」
鋭い声。
「え?」
「だ、誰や!?」
時間が時間だった。
あたしたちは、驚いて闇をすかし見た。
白い影がふわりと草の間からあらわれる。
「それは、私のです」
その影は、あたしたちを睨みつけながら言った。
7
「紺野――」
驚きのあまり、あたしは一瞬声を出すのを忘れていた。
会うことをもう諦めていたのに――このタイミングで、ここに現われるなんて――完璧ですというあたしの世界の紺野の声が聞こえてきそうだ。
「壊さないでください」
紺野があたしに近寄ってくる。
その迫力にあたしは機械にかけていた足を戻す。別に壊そうとしたわけじゃない。
「誰なん?ごっちん」
みっちゃんが言った。
「これの持ち主」
あたしは、さっき置いた工具セットを手に取ると紺野に突き出す。
「忘れ物だよ」
紺野は、工具セットとあたしとを見比べた。
黙ったままゆっくりと工具セットを受け取る紺野。
「ごっちん、あんたのことわざわざ待ってたんやでー、礼ぐらい言いや」
みっちゃんの声に紺野は不思議そうにあたしを見て小さな声で「・・・わざわざすみません。ありがとうございます」と頭を下げた。
別にお礼を期待していたわけじゃない。
もう今日しかこの町にはいられないんだから紺野といろいろ話してみたかった。
「ねぇ、これって飛行機なの?」
あたしは、ボケッと突っ立ったままの紺野に話しかけた。
「え?」
あたしの問いにキョトンとしている。
ここでは飛行機とは呼ばないのかもしれない。
「だから、これ」
機械を指差す。紺野は、機械を見上げて目を細め首を振った。
「じゃあ、なんなのこれって?」
「えっと・・・あの、一応空を・・・飛ぶための機械なんですけど・・・・・・・あの・・・」
紺野が考え考え言葉をつむぐ。
空飛ぶ機械てやっぱり飛行機じゃん。
「へぇ〜、こんなんが空飛ぶん?」
いつのまにかあたしたちのそばに来ていたみっちゃんが機械を見上げる。
紺野はプルプルと首を振って頭をかいた。
「いえ・・・まだ試作段階で・・・・・・・これも3台目なんです・・・」
「空飛ぶなんて無理やろ、ファンタジーやん」
「は?」
もしかして、この世界ってまだ飛行機がないんだろうか?
空飛ぶのがファンタジーね〜。
あたしにしてみればこの世界のほうがよっぽどファンタジーなんだけど・・・・・・だから、普通っぽいこの町が懐かしかったわけで。変なの。
「でも、自分で飛行機作ろうとするなんて紺野すごいね〜」
あたしがそう言うと紺野はやっぱり照れたように首を振った。
謙遜するのが癖になっているみたいだ。
「で、これはいつ完成しそうなの?」
「・・・そうですね、明日まで学校がお休みなんで明日までには作り上げてみたいんですけど」
明日か。
あたしとみっちゃんがこの町を出るのも明日。
どうやら、この飛行機が飛ぶのは見られないみたいだ。
どっちにしろ実験がうまくいかないと飛ばないんだろうけど・・・・・・少し残念に思う。
「うちらも人が飛ぶとこ見たかったな〜ごっちん」
「え?うん、そうだね」
あたしはみっちゃんの言葉に相槌を打ちながら機械を見上げた。
こんなのよく一人で作り上げたよな〜。
「よしっ!」
「え?」
「明日の朝まであたしが手伝ってあげる。だから、飛ぶとこみせてよ」
あたしの言葉に紺野が目を丸くした。
「ごっちんが手伝ったら壊れるやろ」
みっちゃんがすかさず突っ込む。失礼な。Dr.ごっちんに向かって。
あたしは、みっちゃんを睨みつける。
それから、「三人寄ればまんじゅうがどうたらって言うじゃん。ねぇ、紺野」と、紺野に言った。
振り返ると紺野は困ったように首をかしげていた。
182 :
名無しさん:02/10/15 04:12 ID:KPJR+EGX
たんぽぽ鯖繋がらない
>>182 ポート変わった。download板池。保全ご苦労
8
結局、あたしは紺野が操縦席でモニターみたいなのを弄くるのを外から見ていた。
みっちゃんは、年にはかてへんと大きなあくびをしながら呟くと寝袋にくるまってしまった。
まるであたしたちがいることを忘れているかのように黙々と作業をこなす紺野。
っていうか、マジで忘れられてるのかな?紺野ならありえる。
「ねぇ、紺野」
「・・・・・・」
呼びかけてみるが返事はない・・・やっぱり、忘れてる。
「紺野ちゃんっ!」
「え?あ、はい・・・いたッ」
少し強めに名前を呼ぶと紺野は小動物のようにビクッと反応して天井に頭をぶつけた。
お約束ってやつだ。
「どうしてさ〜、一人で飛行機なんて作ろうと思ったの?」
最初から疑問に思っていたことをたずねてみる。
紺野は、作業する手をいったん止めてから考え出す。
ややあって「不可能だと思われてるから・・・」と答えた。
よく意味が分からない。
あたしが首をかしげると紺野は言葉を続けた。
「ずっと・・・思ってたんです。私なんてなんの取りえもないし・・・・・・・できることっていったら塾の模試で一番とるぐらいで・・・・・・」
「・・・・・・」
いや、それだけで十分だと思うけど・・・・・・これを素で言っちゃうから、まったく。
「でも、そんな自分がイヤで・・・・・・このままでいいのかなって。もっと大きな夢を見つけたいって、そう思ったんです」
「それが、飛行機だったんだ?」
あたしが言うと、紺野は「はい」と力強く首を縦に振った。
「誰もこんなものが飛ぶなんて信じてくれませんけどね」
自嘲的に微笑む。
「大丈夫だよ。レフト兄弟?だって飛んだんだからさ」
あたしは、なにかのたしになればと、どこかで聞いたことのある飛行機職人の話を紺野に聞かせてあげた。
紺野は、あたしの話に熱心煮に耳を傾ける。
それが紺野の飛行機に対する真剣な気持ちをあらわしていた。
勉強ができてなにが物足りないのかあたしにはよく分からないけど――
でも、夢を見るのはいいことだ。
それに向かって行くのだって・・・たとえそれがうまくいかなくてもきっと得るものはあるはずだから――
「絶対、成功する」
あたしは、ひんやりとした機械を指で撫ぜた。
紺野は、嬉しそうに笑って再び機械と格闘をはじめた。
9
朝になった。みっちゃんが荷造りの準備を始めだす。
なにか欠陥でもあったのか紺野はむき出しのままのコードの束と睨めっこしている。
途切れることのない集中力。
「どうなん?」
みっちゃんが小声であたしに問いかける。
「まだ完成しないみたいだね〜」
「そっか」
心なしかみっちゃんの声が残念そうだ。
みっちゃんもこれが空を飛ぶところを見てみたかったんだろう。
でも、あたしにああいった手前、今からこの町をでていくことは変えられないんだな。
素直じゃないな〜、みっちゃんは。
まぁ、手続き上の問題ってのもあるらしいけど。
あたしは詳しく知らないからみっちゃんいい子だけど素直じゃないね説を採用しよう。
「ごっちんは、もう準備はええんか?」
荷物を背負いながらみっちゃんが言う。
あたしは、おざなりに頷きながら紺野のいる空間に顔を突き出す。
「紺野」
あたしの声に今度はすぐに振り向く紺野。
「あのさ〜、あたしたちもうこの町を出発するんだ」
「え?」
紺野が寂しそうに眉を寄せる。
「ごめんね。これ飛ぶとこ見たかったんだけど・・・」
紺野がうつむいて首をプルプル振る。
「でも、楽しみにしてるから、紺野が飛行機つくりあげて有名になるの」
「・・・・・・・」
「・・・・・・それじゃぁ、頑張ってね」
これ以上、話しているとまたみっちゃんを脅しても・・・間違えた。
みっちゃんに頼み込んでこの町に残りたくなるからあたしは紺野に背を向けた。
みっちゃんがいいの?といった顔をしている。
あたしはうなづく。
「ご、後藤さん!」
背後で紺野があたしを呼んだ。
あたしは、驚いて振り返る。
大きな目いっぱいに涙をためた紺野が立っている。
「私の夢・・・信じてくれたの後藤さんが初めてだった。ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げる紺野。
あたしは、照れくさくなって曖昧にうなづいて紺野に手を上げた。
あたしたちは、歩き出す。
もうこの町を訪れることはないだろうけど・・・・・・成功することを祈ってるよ、紺野。
「これ、成功したらごっちん号って名前で発表しますね」
紺野が叫ぶ。
ガクッ。ご、ごっちん号・・・・・・
やっぱりあんまり成功しないでほしいかも・・・・・・なんてね、あはっ
10
出国手続きも済んであたしたちはタラタラと歩く。
「いや〜、久々のシャバの空気やな〜」
みっちゃんが深呼吸をしながら言った。
「みっちゃん・・・」
シャバって――
ホントにいい子なの?疑問に思った一幕でした。
「ところでさ〜、今度は迷わないよね」
「当たり前やん。このみっちゃんに任せてや」
「・・・・・・」
そのみっちゃんに任せて迷ったのは何回だったっけ?
あたしは心の中で呟いた。
でも、まぁ、あたしもそのたびに今度から自分がナビをしようとは思うんだけど、
めんどくさくて結局みっちゃんに任せちゃうから自業自得だ。
「せやけど、残念やったな」
「んぁ?なにが?」
「ほら、紺野ちゃん?のあの機械」
「あぁ、あれけっこうみっちゃんも見たかったでしょ?」
あたしが問うとみっちゃんは「まぁな〜」と素直にうなづいた。
やっぱり、みっちゃん、いい子なのかな?
そのとき、不意に空が曇った。
「な、なんや?」
「んぁ〜?」
にわか雨でも降るのかと思ってあたしたちは空を見上げる。
空は雲ひとつないキレイな青。
みっちゃんが首をかしげる。
上空からブロロロロ・・・という機械の音があたしたちに近づいてきた。
あたしの目に見覚えのあるものが飛び込んできた。
「あ!」
思わず声を上げる。
空が曇ったわけじゃなかったんだ。
そのまま、サーッとあたしたちの上を通り過ぎていく影。
その機体にペンキで『ごっちん号』と書いてあった。紺野は、成功したんだ。
「みっちゃん!!」
あたしは喜びのあまりぽかんと口をあけっぱなしのみっちゃんに飛びついた。
みっちゃんは、あたしを支えきれずにしりもちをついた。
夢は叶う確率のほうがきっと低い。
それは、事実かもしれない。
だけど――あたしは思う。
たとえ、形が変わってしまっても夢を夢として持ち続けている限りはいつか必ず叶うんだって。
Fine
ageんなよ、ボケ
この話しなんかひかれる。。
ほぜむ
保全
眠い人が眠るように、瀕死の人は死を必要としているのです。
抵抗が間違いで無駄だというときが、いずれきますよ。
サルバドール・ダリ
byラスキン
1
あたしたちが旅を初めてこれで記念すべき5カ国目?だっけ。
紺野のいた町もあたしの世界に近かったけど、今度の街はもっと近い。
まるで渋谷を近未来化した感じで一番肌に合う。
逆にみっちゃんは、あんまりあわないみたいだけど。
「ここは一日ででる」
「えーっ!?少しは遊ぼうよ」
「いやや、都会は怖いで。都会なめたらあかん」
「・・・・・・せめて3日はいいじゃん」
「いやったらいややー!」
駄々をこねるみっちゃん。
ほんとにどうしてどしてここのみっちゃんは子供なの〜♪
やばい、梨華ちゃんの歌がでてきちゃったよ。
「もう、みっちゃんって・・・いてっ!」
座り込んでじたばたするクソガキ・・・もといみっちゃんを引っ張ろうとして
あたしは誰かにぶつかってしまった。
「あ、ごめんなさい」
「OH!気にするなよ、ベイベー」
どっかで聞き覚えのあるこのエセ英会話。
あたしは、振り返る。
「よっすぃ〜!!」
あたしが呼ぶとよっすぃ〜は「ハ〜イ」といつも会っている友達みたいに片手をあげてひらひらした。
ってか、初対面だよね、一応。さすがよっすぃ〜だ。
でも、ここのよっすぃ〜って昔のよっすぃ〜みたいでバカなことしてもかっこいい。黒髪だし。
「ごっちん、あんた知り合い多いな〜うち、平家のみっちゃん、よろしくよっすぃ〜」
いつのまにか正気に戻ってるみっちゃん。
絶対、よっすぃ〜見て戻ったな。そうとしか思えない立ち直りっぷりだ。
すかさずよっすぃ〜と握手している。それに動じずニコニコと握手を返すよっすぃ〜。
「OH!へっちゃら平家。よろしくよっすぃ〜で〜す」
ってか、わけわかんないよ、よっすぃ〜。
ともかく、よっすぃ〜と一緒ならみっちゃんもこの街に少しは長くいてくれそうだ。
あたしは、安心した。正直、現実世界が恋しくなってきたところだしね。
こういうところでリフレッシュしないと。
あたしは、この街の現状もなにも知らずにただそんなことを思っていた。
2
「へぇ〜旅してるんだ〜」
自己紹介を終えたあたしたちによっすぃ〜が感心したように言う。
あたしたちは、よっすぃ〜が連れてきてくれたファーストフード店でご飯を食べていた。
普通のハンバーガー。っていうか、タダらしい。マックもビックリだよね。
「でもさ〜、旅ってだるくないっすか?」
よっすぃ〜がみっちゃんに問いかける。
「は?」
みっちゃんが止まった。
みっちゃんにとって旅は命の洗濯?らしい。
それをだるくないっすか?と言われたら止まるのも無理はない・・・のかな?
よく分からない。よっすぃ〜は、お構いなしに続ける。
「だって〜、見た感じお金なさそうだし」
そ、それは禁句だよ・・・あっけらかんと言うよっすぃ〜には悪気はないんだと思う。
でも、みっちゃんのヤワな心にはズビシッと突き刺さったらしくみっちゃんは、再びいじけモードに入ってしまった。
「ごっちんは?なんかごっちんって旅人って感じしないけど」
今度は、あたしに話を振ってくる。
「んぁ〜そうだね」
「でしょ?ごっちんは普通に遊んでたほうがいいって」
「あはっ」
「ってことで、遊びいこ」
よっすぃ〜が立ち上がってあたしの手を引っ張る。
みっちゃんは?よっすぃ〜・・・・・・
あたしが不安に思ったそのとき、「平家さんも行きます?」とよっすぃ〜は言った。
一応、みっちゃんのことは忘れていなかったらしい。よかった。
しかし、みっちゃんは「うちはええよ。ここにおるから」と呆けたまま言った。
まださっきのよっすぃ〜の言葉を気にしていたのか。
みっちゃん、いい子なのにね。
「そうっすか、じゃ、行ってきまーす」
よっすぃ〜は、まったくみっちゃんの様子に気づくことなく手を振った。
3
よっすぃ〜は、都市の真ん中にある巨大テーマパークに連れていってくれた。
ゲームセンターみたいなものを想像していたあたしはその大きさに驚いた。
まるで塔だ。雲まで届きそうなそれをあたしは見上げる。
これって東京タワーよりも大きいのかな。
ポカンとしているとよっすぃ〜があたしを呼んだ。
「さ、入るよ」
チケットを買っている人々の波をすいすいと潜り抜ける。
「入場券は?」
「入場券?そんなのいいって」
よっすぃ〜はそう言ってずんずん進む。
それも入り口とはまったく違うところに。
あたしは、よっすぃ〜にひきづられるままについていった。
「ほら、ここから入れるんだ」
ここって?
よっすぃ〜が指差したのはただの壁。
あたしは首をかしげる。すると、よっすぃ〜はニコッと笑った。
それからおもむろに壁を叩く。
ギィーっと音がしてそこが開いた。
パッと見、壁の色と同色で分からないけどどうやら従業員ようの入り口らしい。
あたしがよっすぃ〜を見るとよっすぃ〜は「ね」と、ウィンクをしてみせた。あたしも頷いた。
この街は、すごく楽しい。
あたしの気分は自然と高揚していた。
4
ぐるぐる回るコーヒーカップ、上下するジェットコースター。
世界が違っていても遊園地だけはいつも同じ鮮やかに人々を魅了する色彩と、
浮き立つようなにぎやかな音楽に満ちているのだろう。
今日は休日なのかな?そう思ってしまうぐらいの人並みだった。
あたしたちは、スペーストラベラーというアトラクションの列に並ぶ。
「あたしさ〜、遊園地なんて久しぶりだよ」
「楽しいでしょ〜」
よっすぃ〜が無邪気に笑い言う。
「でも、ほんとに楽しいのは夜なんだ」
「え?」
「人が帰ってここが閉まってからさっきみたいに忍び込んでさ。そっちのほうが楽しい。夜の遊園地って行ったことある?」
「ないけど・・・」
「だーれもいなくて真っ暗な道を歩くんだ。死んだみたいで楽しいよ」
「・・・それのどこが楽しいの?よっすぃ〜って変」
相手がよっすぃ〜だということもあってあたしは遠慮せずに言った。
すると、よっすぃ〜は「そうかな〜」と首をひねった。
30分ほどしてあたしたちが入る順番になった。
巨大な怪物。きらめくレーザーガンの光線。
耳に残る悲鳴と爆音、あたしたちははしゃぎながら外へ飛び出して屋台でベーグルサンド(ここのよっすぃ〜もベーグル好きみたいだ)とコーヒーで簡単な食事をすることにした。
5
屋台もものすごい人だった。
注文から精算、なにからなにまで機械化されていなかったらものすごいパニックになっていただろう。
なんとか席を確保してあたしたちは食事を始める。
「今日って休みなの?」
いい加減、さっきから思っていたことを聞いてみた。
よっすぃ〜は、ベーグル片手に曖昧な顔をした。
「ていうか、この街もうすぐ終わっちゃうからさ、みんな遊んでるんだよ」
「え?」
この街が終わる?
「だから、働いても無駄ってこと」
「ちょ、ちょっとどういうこと?この街が終わるって?」
「どうもこうもそのままだよ。この街制御してる衛生がもうすぐ落っこちてくるんだって」
あたしの動揺とは裏腹にのんびりとしたよっすぃ〜。
もしかして、からかわれてるのかな?そう思ってよっすぃ〜を見つめる。
キレイな瞳。
ウソをついているようには見えない。
でも・・・・・・
「なんでそんなに落ち着いてるの?遊んでる場合じゃないじゃん」
「そうかな?」
「だって、避難とかしないと死んじゃうんでしょ」
あたしは、ぎこちなく言った。よっすぃ〜が微かに眉を寄せる。
「ごっちんっていろんなこと考えるんだね」
感心したように言う。
そのあとによっすぃ〜が吐いた言葉はあたしを驚かせるには十分だった。
「別に楽しけりゃいいじゃん」
「はぁ!?」
よっすぃ〜は、なにが言いたいんだろう。
楽しけりゃいいって・・・そりゃ、つまんないよりは楽しいほうがいいけど・・・・・・
このままここにいたら死んじゃうんでしょ。
死ぬことよりもどうして遊ぶことしか考えないんだ。わけが分からない。
いや、よっすぃ〜だけじゃない。
この街の人みんながそうなのかもしれない。
なんて街なんだ。
あたしは、信じられない気持ちでよっすぃ〜と流れていく人並みを交互に見やった。
>>◆cCKOSINeoさん
ついにハケーンされちゃいました。
こんな駄作でよろしければお願いします。
6
すべてのアトラクションを制覇してすっかりくたびれてしまった。
人の波は相変わらず多い。
「ねぇ、よっすぃ〜そろそろみっちゃんのところに戻らない?」
あたしは、前を歩くよっすぃ〜にそう申し出る。
別に断られないだろう。そう思っていた。
しかし、意外にもよっすぃ〜は「もう少しいいじゃん」と言って強くあたしの手を引っ張る。
っていうか、なんでこんなに元気なの?
正直、さっきのよっすぃ〜の話を聞いてからあたしは遊ぶ気がなくなっていた。
それでも、付き合ったのはよっすぃ〜が楽しそうだったからなんだけど・・・・・・
さすがにもう付き合いきれない。
あたしは、引っ張られ放題になっていた体を足を踏ん張って止める。
よっすぃ〜が驚いたように振り返った。
「どうしたの?」
「・・・マジで戻りたいんだけど」
自然、声が低くなる。
それによっすぃ〜がとりなすような笑顔を浮かべた。
「なに?急に機嫌悪くなっちゃってもっと楽しく行こうよ」
「なんでそんなに楽しいことが大事なの?」
「え?」
「死んじゃうんだよ。遊んでる場合じゃないじゃん」
あたしは、さっきも口にした言葉を繰り返した。
よっすぃ〜が、困ったように腕を組んで唇を結ぶ。
あたしが楽しんでなかったことが、よっすぃ〜からすれば不本意な結果なんだろうな。
「あのさ〜、ごっちん。街によっていろいろな考え方?とかってあるじゃん。だからさ〜」
よっすぃ〜が口ごもりながら話し始めた。
あたしは、その語尾をくって繋げる。
「だから、死ぬことが分かってても楽しいことだけするのがいいっていうの?」
「・・・ん〜」
「そんなのいつだってできるじゃん。死んじゃったらそれこそなんにもできなくなっちゃうんだよ」
あたしは、これまでの旅で出会ってきた人たちを思い出していた。
生きたいのに生きられなかった人がいた
生きるために辛い思いをする人がいた
――それなのに、ここの人たちは自ら死のうとしている。
それがあたしには許せなかったのだ。
「よっすぃ〜はそれでもいいの?」
「・・・・・・」
ざわざわとにぎやかに過ぎる周りとは正反対の気まずい沈黙。
おもむろによっすぃ〜が立ち上がってあたしを見下ろす。
そして、言った。
「ごっちんってほんとつまんないや」
「え?」
その恐ろしく冷たい口調に度肝を抜かれてよっすぃ〜を見上げる。
口調と同じ冷めた目。
急にどうしちゃったの?
あたしが、突然の態度の急変に言葉を失っていると
よっすぃ〜は、あたしに背を向けて振り向きもせずにどこかへ走ってしまった。
しばらく呆然として、それから僅かに怒りを覚えてあたしは立ち上がった。
「ちょっとよっすぃ〜!!」
後を追おうとするあたしの前をまるで意図しているかのようにぞくぞくと人々が流れていく。
その間にあたしは、よっすぃ〜の姿を完璧に見失ってしまった。
7
あたしは、間違っていることは言ってない。
だから、よっすぃ〜の行動は明らかに理不尽なものだ。
苛立ちを胸に抱えながらみっちゃんの待っている場所へ一人で向かう。
みっちゃんのいる店が見え始めた頃、あたしの視界に奇妙な行列がうつった。
この街は人でごった返しているから行列なんてさほど珍しくはない。
現にここまで歩いている途中にも同じような行列は見ていた。
だから、そのまま通り過ぎようとした。
だけど、あたしにはなぜか今目の前にあるそれがとても奇妙なものにみえて思わず立ち止まってしまった。
窓も何もない真っ白な建物。その建物に並ぶ人々。
これは、なんなんだろう。
じっくり観察してみる。
同時にあたしはそこに並んでいる人々がどうして他の行列と違ってみえるのかが分かった。
行列に並ぶ人々の表情だ。
みな、一様に表情がないのだ。
この街の人を象徴する楽しいだけの感情。それすらも失ってしまっている。
あたしには、人々がまるでロボットのように見えた。
「ごっちん、そこでなにしてるん?」
背後で押し殺した声が聞こえた。
「え?」
あたしは、振り返り、その人物を見て安心した。
「みっちゃん・・・」
みっちゃんが、なぜだか妙に硬い表情であたしを見つめていた。
「どうしたの?」
不思議に思ってたずねるとみっちゃんはそのままの表情で「別にどうもせえへんよ」と言った。
みっちゃんの様子がおかしい。いつもと違う。
「ねぇ、みっちゃん」
「ごっちん、そろそろ次の町に行こうと思うんやけど」
あたしの言葉を遮ってみっちゃんが言う。
「今から出たら夜までに次の町につくしな」
なにをそんなに焦っているんだろう?
そう思ったけど、みっちゃんは、あたしの手を掴んでどんどん出国ゲートに向かう。
その細い腕になんでこんな力があるんだろう。
これが火事場のバカ力ってヤツか・・・・・・
そこまでみっちゃんがこの街にいたくないのならたまにはいうことを聞こう。
いつも聞いてもらってばかりだし・・・あたしは珍しく抵抗せずにみっちゃんに引っ張られるがままにした。
そういえば、今日は、人に引っ張られてばかりだ。
8
出国ゲートが見えてくる。
この街で一番人が少ないであろうそこに一つの人影があった。
「よっすぃ〜・・・」
よっすぃ〜が振り返った。あたしを見てニッコリと微笑む。
さっきの冷たい表情がウソみたいだ。
ゆっくりとあたしの前に歩み寄ってくる。
「もう出て行くの?」
あたしたちのすぐ傍まで来て彼女は言った。あたしは、うなづく。
「そっか〜」
彼女はひどく悲しそうな色を瞳にたたえた。
あまりの態度の豹変にあたしは戸惑ってしまう。
もしかして、さっきのは強がりで本当は滅びてしまうこの街から出たいのかもしれない。
「それじゃ、元気でね」
ポンとあたしの肩を叩いてそのまま立ち去っていく。
「よっすぃ〜!」
その背中を呼び止める。よっすぃ〜が立ち止まった。
「よっすぃ〜も一緒に行こうよっ!」
少しの間のあと、振り返ることなくよっすぃ〜が歩き出す。
なんで?
だって、よっすぃ〜悲しそうな顔してた。
ホントは・・・・・・あたしには、彼女の真意がまったく分からない。
「なんでなの、よっすぃ〜」
呆然とその背中を見つめた。
「無理なんや」
ポツリとみっちゃんが呟いた。
「え?」
「あの子がうちらと一緒に旅することはできんのや」
重々しい口調。
「どうして?」
「・・・・・・」
無言であたしから目を逸らして歩き出すみっちゃん。
どういう意味なんだろう。
あたしは少し考えてからふとあることに思い当たった。
そういえば、みっちゃんは、この街に来てからずっといい顔していない。
どんなに悪条件の場所でもいい子なのにねをあたしに言わせるぐらいのみっちゃんが・・・・・・
あたしを引っ張ってでもこの街を出ようとしている。
そして、今の言葉
みっちゃんはこの街のことを最初から知っていたんじゃないの?
あたしの中でもやもやとくすぶっていたものがはれていく。
みっちゃんは、あたしに何か隠してるんだ。
「みっちゃん、いったいなにを知ってるの?」
今度はそらされることのないようにあたしはみっちゃんの正面に回りこむと
その両肩をしっかりと押さえて彼女の瞳を見据えて訊いた。
みっちゃんの顔にわずかに狼狽の色がうかぶ。
「みっちゃんは、いったいなにを知ってるの?」
あたしは、もう一度言った。
沈黙が流れる。
それから、逃げられないと観念したのかみっちゃんが大きく嘆息して空を仰いだ。
あたしは、肩を押さえつけていた手の力を緩める。
「次の宿屋に向かいながらでええやろ」
みっちゃんが、その場所を片手でさすりながら歩き出した。
あたしたちは並んで出国ゲートをくぐった。
それから、みっちゃんが話してくれたことはあたしに大きな衝撃をうけさせるものだった。
>>◆cCKOSINeoさん
そうっす。
タイトルは Secret fantasyです。
9
「あの街はな、滅び行く運命にあるんや」
一晩の宿屋の部屋についてからもみっちゃんの囁くような低い声が
ずっとあたしの耳の中で鳴り響いているようだった。
(どういうこと?)
(何年か前にな、この世界でちょっと話題になったニュースなんやけど・・・
細菌兵器の実験が失敗してそこにおった街の人たちがその被害を受けたんやって。
あの街がそうやってうちもあんまり自信がなかったからいわへんかったんやけどな。
なぁ、ごっちん、街を完全に滅ぼすのってどうしたらええか分かる?)
(・・・街の人を全員殺すとか)
あたしは、のろのろと答えた。
(それもあるな)
みっちゃんは微笑んだ。
(やけど、全員殺すなんてなかなか無理やろ。ほんなら、どうするか他になんかある?)
あたしは、首をひねった。
(想像もつかへんよな。やけど、あの街の科学者はその方法を考え出したんや)
(それが、細菌?)
(そう、それも普通の細菌兵器やないで。
失敗せんかったらあの街は世界にとって脅威になっとったやろうな。
もちろん、今のあの街自体にはもう残ってへんから安心してええけど)
(・・・・・・?)
(その細菌は、ある特殊な性質を持っとったんや。まず、はじめに全体の50%は殺す。
次に生き残った人たちは生殖機能を失う。それだけでかなりの打撃や。子供がおらんくなるんやからな)
(でも・・・生き残った人が外に行ったら大丈夫なんじゃないの?)
(そこがこの細菌の一番すごいとこなんやな)
(え?)
(体の中を住処とした菌は、必ずいつか発症してその宿主を殺す。
それは18〜20の間らしいんやけど、そのあと、宿主を失った菌は空中に分解されるんやって。
ほんで、他の宿主を探す。放っておいたらどんどん菌が体に宿っていくんや。
やからな、あの街の人は発症期間とされる年の1年前から・・・・・・
ごっちんがさっき見てた白いビルに幽閉されるんや。他の人の発症を早めんように。外の国に迷惑かけんようにな)
(・・・・・・・・・・・・)
(・・・・・・・・・・・・うちの知ってることはこれだけや。話終わり、な?)
10
私は、ベッドに寝転がってぼんやりと物思いにふけった。
――細菌
――死
――滅び行く街
滅び行くことが避けられないから人々は残された時間を楽しく過ごすことを選んだ。
なにも考えずに楽しく最後の時が来るまで・・・・・・
そして、だからこそ今度の衛星のことが分かってもなにもせずに静かに受け入れることができたのだ。
一斉に滅んでしまえばすべての苦しみから解放されてなにもかもを終わらせることができるから。
あたしは、自分がよっすぃ〜に言ってしまった言葉のさまざまを後悔した。
よっすぃ〜だって生きたいに決まってるのに・・・・・・・・・・・・
だーれもいなくて真っ暗な道を歩くんだ。死んだみたいで楽しいよ
よっすぃ〜は、どんな気持ちで言ったんだろう。
あたしには、分からない。
きっとどれだけ考えても・・・・・・・・・・・・
元の世界に戻ったら彼女のことを考えながら夜の遊園地に忍び込んでみよう。
あたしは、そう心に誓った。
Fine
正直とか親切とか、そんな普通の道徳を堅固に守る人間こそ、
真の偉大な人間というべきである。
byアナトール・フランス
1
「犯人に告ぐ!抵抗をやめてでてこい!!」
外から拡声器でひび割れた声がする。
窓の隙間から見ると大勢の機動隊とパトカー。
あたしは、額ににじんでくる汗を拭きながら後ろに立ってなにやらコソコソと話している二人に視線を動かした。
「ちょっと・・・マジやばいって」
なんでこんなことに巻き込まれてしまったんだろう?
いまさらながら思う。
みっちゃんなんて生きる屍状態になってしまった。
つまり、放心してるってこと。
あたしもみっちゃんみたいにどこかに現実逃避したいよ・・・まったく。
「ねぇ、どうすんの?」
もう一度、二人に尋ねる。
「後藤さん、心配しすぎですって」
少女が答える。
「そうですよ、このぶりうんの教科書に逮捕なんて言葉はないのれす」
それをいうなら辞書じゃないのかな?
なんて突っ込みはおいといて、どう考えてもこの状況――ふるいプレハブ小屋を取り囲む制服の集団――から
誰一人捕まらずに逃げられる方法なんてないような気がするんだけど・・・・・・
二人は余裕綽々と言った感じにさっきまであたしが見下ろしていた窓から外の様子を眺めている。
その後ろ姿を見てあたしはもう一度さっきと同じことを思った。
――なんでこんなことに巻き込まれてしまったんだろう?
2
事の発端は、新しい街に入ってすぐのことだった。
あたしたちは、なんのあてもなくまったくノンキに街並みを歩いてたんだ。
「今日は、ここに泊まる?」
「んぁ〜」
なんてすごく気だるい会話をしながら・・・別にケンカしてるわけでもなく
単なる旅疲れってやつなんだけど。いい子なみっちゃんまでだらだらしてた。
「ねぇ、それでここに泊まるの?」
「どうするかな。今の時間やったら次の街も行けそうやしな」
「んぁ〜まだ明るいしね」
あたしたちは、さっきからずっと同じ会話をしながら歩いていた。
この街は、あたしてきにはたいしてなんの印象もうけなかった。まぁ、現代的な感じ。
こう現代的な街が続くとこれといった感動も薄れるらしい。
だから、みっちゃんが次に行きたいんだったら行ってもいいし休みたいんだったら休んでもいい。
珍しくそう思っていた。
みっちゃんは、困ったように「どうするかな〜?」と空を見上げた。
その瞬間、「うわっ!?」とみっちゃんが悲鳴を上げて横に飛んだ。
横にってことは!?
「んぁっ!?」
もちろん、横を歩いていたあたしにクリティカル・ヒット!!
あたしはみっちゃんのタックルで地面にしりもちをついた。
「いった〜・・・なに、みっちゃん?」
「ご、ごめん、ごっちん。あんな、空から空からこう人が降って来て・・・」
「はぁ?」
みっちゃんは、パニックに陥っているのか意味が分からない。
っていうか、意味は分かるんだけど空から人なんて降ってくるわけがないからね。
あたしの声にみっちゃんは手をバタバタさせて、それから思い当たったように空を指差した。
つられてその先を見る。
「は!?」
ありえない人影にあたしの口から思わず声が漏れた。
空からは、まるでスパイダーマンのようにビルの壁をピョンピョンと縄を伝って降りてくる子供が二人。
ありえない・・・・・・あたしは、自分の目を疑った。
だけど、子供たちがもう地面に到着するのも間近で――その二人の顔を見てあたしはさらに目を疑った。
見覚えのある二人組み。
それも一人はなぜか血のついたナイフを持って――
3
着地した瞬間、二人のうちの一人と目があってしまった。
「まずいところ見られたな〜」
少女――加護があたしに近づいてくる。
「あいぼん、まつのれす」
辻が止める。
っていうか、どこにいってもこの二人ってののとありぼんなわけ?
ここで辻さん加護さんとか呼んでたら面白かったのにな。
「なんや、のの?」
「人質にするのれす!」
人質!?
っていうか、なんで?
考えて思い当たることがあった。
そういえば、なんで辻って血がついたナイフなんて持ってるわけ?
あたしは、恐る恐る辻を見る。見間違いじゃない。
確かにそれは辻の手の中に・・・さらにいうと服にも血がついてる。
で、このビルって宝石店のビル?
そんなのあるのか分かんないけど・・・・・・きらびやかなウィンドウから察すると高級そうなお店だ。
これから推測すればこの二人って――
「もしかして、強盗?」
「もしかしてれすと?」
あたしの言葉にキッと睨みつけてくる辻。
辻のくせに・・・・・・いや、いいんだけどね
「ごっちん、あかんって。うちらは陽気な通りすがりや。逃げよ」
みっちゃんがこそこそと耳打ちする。
陽気な通りすがりって意味わかんないんだけど。
まぁ、確かに逃げたほうがいいか。
そう思って二人に背を向けた瞬間、バッと暗くもないのにスポットライトを浴びせられた。
スポットライトじゃないのかな?警察がよく使うあのライト。
ともかく、まぶしくて思わず目を細めてしまう。その中でこんな声がした。
「逃げるで!のの」
「オッケーれす!アイボンは人質連れていってください!!」
「は!?」
気がついたら加護に腕を掴まれていた。みっちゃんも同じように。
そして、そのまま店の脇にある細い路地に連れて行かれる。
「いややー!!助けてーな!!」
みっちゃんが叫ぶ。
別に心配しなくても警察がいるから大丈夫だって、みっちゃん。
あたしがそう思ったその時、辻の声が聞こえた。
「こっちには人質がいるのれすよ〜撃ったら殺しますよ」
言っていることと口調がまったく噛み合ってないけど・・・・・・マジで!?
「ほら、ちゃっちゃと歩いて。悪いようにはせえへんから」
加護が、あたしを押しながらどんどん歩いていく。
みっちゃんは、すでに抵抗すらしていない。
――あたしたち、これからどうなるんだろう?
4
カンカンと足音が響く。
じめっとした地下道をあたしたちは小走りで駆け抜けていた。
辻と加護は、どうやらあたしたちを殺す気はないみたいだ。
ただ、後ろから抵抗されないように用心深く銃を向けてるけどね・・・・・・・・・・・・
チラッと後ろに顔を向けながら加護に話しかける。
「あのさ〜」
「私語はしないでください」
加護は、真面目ぶった顔で言う。似合いはしねぇぜ!
「ねぇ、辻・加護、ちょっと止まっていい?」
「な、なんでうちらの名前・・・」
「ののたちも有名になったもんれす」
あたしの問いかけに驚く加護とノンキな辻。
対照的な二人にあたしは笑いそうになる。でも、ここは笑う場面じゃない。
みっちゃんは、頼りにならないし。ここはいっちょあたしが話し進めないとね。ま、いつものことだけどさ。
「あんたたちなにしたの?」
あたしは、二人を振り返る。
すると、加護を押しのけるようにして辻がチッチッと顔の前で指を振る。
「ののたちにそんな口聞いていいと思うんれすか?」
「うん」
あっさりうなづくと辻は傷ついたような目であたしを見て、それから、加護に逃げるように抱きついた。
「・・・・・・アイボン」
「はいはい。んなことで泣くな、のの」
加護は、辻の肩をポンポン叩いて慰めながらあたしのほうを見る。
「・・・うちらはな、泣く子も黙る強盗なんやで」
「へぇ〜あんたたちがね〜」
イメージ的には、悪の道に入った小学生って感じだけど。
「そんなことより、あんたらこそなにもんや?うちらのこと知らんやなんてこの街の人間ちゃうやろ」
加護が、疑り深いまなざしをあたしに向ける。
辻は、状況が飲み込めないのかほぇっと加護を見ている。
「まぁね。なに?あんたたちってこの街の人間なら誰でも知ってるほど有名なわけ?」
あたしは、首をかしげながら問う。
「あったりまえれす!!ののたちは、天下の大泥棒れすよ!!」
いきなり辻が身を乗り出してきた。
加護は、それをなぜか温かな目で見ている。あたしたちの世界ではあんまり見られない光景だな。
どっちかっていうと二人で暴走するか、暴走するののをうらやましそうに加護が見つめる・・・とかだし。
こんな母性的な加護を見るなんて正直変な気分だ。
「ご、ごっちん」
不意に後ろから肩を叩かれる。
ようやく現実逃避から復活してきたらしいみっちゃんがまだ不安そうに辻と加護を見ながら立っていた。
「どうしたの?」
「うちら、殺されるんちゃう?」
ぼそっと耳打ちされる。
あたしは、みっちゃんから目の前に立っている辻・加護に視線を動かした。
普通に考えて殺されるわけはないと思うけど・・・・・・
でも、あたしの世界とは勝手が違うし強盗だし、微妙だな〜。
あたしは、首をかしげた。
途端にみっちゃんがまた現実逃避モードに陥ろうとする。
「殺しませんよ」
「へ?」
「大切な人質れすからね」
辻が、わざと悪ぶったようにニヤリと笑った。
5
辻、みっちゃん、あたし、加護の順番で地下から地上に出るハシゴを昇る。
「気をつけてくださいね」
あたしが昇る順番になったときに加護が声をかけた。
人質にそんな言葉かけなくてもいいのに――あたしは、頷きながら地上へと向かう。
上へ上がるとそこには太陽の光はなくて人工的な蛍光灯の光があたりを照らしていた。
どうやら屋内に通じていたらしい。
辻は、どこか緊張したようにあたしたちに銃を向けている。
本当に天下の大泥棒なのかな?
それにしては、あんまり慣れてないみたいだけど・・・・・・あたしがそんなことを思っていると少し遅れて加護が昇ってきた。
「アイボン」
「どわっ!」
辻が加護に抱きつく。加護は、驚きながらも慣れたようにそれを支える。
どうもここの辻って変だ。
確かに辻は甘えん坊だけど加護には甘えないし・・・・・・まぁ、別人なんだから当たり前か。
あたしが知ってるみっちゃんはこんなにすぐに現実逃避するキャラじゃないしね。
「ねぇ、加護。ここ、どこなの?」
あたしは、あたりを見回しながら尋ねた。
「ここは、うちらの隠れ家ですよ」
「気安く声をかけるんじゃねーれす」
加護にまとわりついたまま辻があたしを睨む。
その言い方にむかついてあたしはわざといやみったらしく言った。
「はいはい。申し訳ありませんでしたね」
「ののをバカにすると怒りますよ!!」
辻は頬を赤くしてあたしに叫ぶ。かなり面白い。
「もうええやん、のの。それより、ご飯にしような」
加護がいさめるように辻に声をかけると辻はすぐに笑顔に変わる。
ここでも食欲旺盛なのは変わらないらしい。
あたしがその変わり身の早さに呆れてみていると加護と目が合った。
加護は「あ、あんたたちの分もちゃんと用意しますよ」といって笑った。
別にご飯が欲しいから見てたわけじゃないんだけどね。まぁ、いっか。
あたしとみっちゃんは少し遅めの昼食を取った。
6
「ところで、さっきはなにを盗んだの?」
食後のゆったりとした空気の中であたしは加護に尋ねた。
すると、加護はなぜか「えっと・・・」と、少し考える仕草を見せた。
「宝石れすよ」
辻が会話に割り込んでくる。
そんなにあたしと加護が喋ってるのが気に喰わないんだろうか?
「そう、宝石です」
加護も辻の言葉をなぞるようにそう言った。
「へぇ〜、すごいね〜」
「お茶の子なのです」
「それゆうなら、お茶の子さいさいや」
突然、みっちゃんのツッコミが聞こえた。
今まですっかり忘れていた。ごめんね。みっちゃん、いい子なのにね。
なにはともあれ、お腹も膨れてみっちゃんの精神もツッコミができるくらいまでに安定したみたいだ。
「みっちゃんもこっちおいでよ」
あたしは、少しはなれたところに座っているみっちゃんを呼ぶ。
だけど、みっちゃんはかたくなにそれを拒否した。
まだ辻・加護を警戒しているんだろうか。
二人の態度からいってそんな必要はないと思う。
みっちゃんを放っておくことにしてあたしは二人に話しかけた。
「じゃぁ、いいけど・・・それで、他にはどんなことしたの?」
「他に・・・ですか?」
またもあたしの問いかけに考え込む加護。
「他はれすねー、銀行にも入ったし、大金持ちの家にも忍び込みましたよ」
逆に辻は、すらすらと答え「ねぇ、アイボン」と加護に同意を求める。
すると、加護は「そうやったな」と笑う。
なんとなくだけど辻と違って加護はあんまりそういう話をしたくないような気がした。
7
夜になって蛍光灯のほの暗い灯りが部屋を照らし出す頃には、
あたしたちはかなり二人と打ち解けることに成功していた。
もちろん、あたしたちっていうのは、みっちゃんとあたしだ。
特にみっちゃんと辻はやけに意気投合している
「それでれすね〜、ののがこうバーンと撃ったんれすよ」
「へぇ〜、すごいな〜。よう捕まらんもんやな」
「まぁ、ののたちは大強盗れすからね。捕まるわけがないのれす」
「かっこええな〜」
さっきまで警戒していたのがまるでウソみたいなみっちゃんの言葉。
人間っておかしいね。
でも、仲がいいってことはいいことだ。
あたしは、親子のようにも見える二人を横目で見ながらさっきから窓のへりに腰掛けている加護に近づいた。
「加護、どうしたの?」
「え?」
突然、声をかけたからか加護ははじかれたように振り返った。
「なんだ、後藤さんか・・・・・・えっと、なにがですか?」
それから自分に声をかけてきたのがあたしだと分かって安心したように微笑む。
「なにがって・・・なんか元気ないからさ〜悩みでもあるの?」
あんまり自分からはそういうことは聞いたりするほうじゃないんだけど、柄にもなく聞いていた。
あたしには、へりに腰掛けている加護の姿が元の世界の加護と重なって見えた。
「別に・・・悩みなんてないですよ」
加護は、窓に視線を戻しながら答える。もうどこの世界にいっても加護は加護だ。
自分で抱え込んでなかなか悩みを打ち明けようとはしてくれなかった・・・
あたしを頼りにしてくれていいのに。
「加護がそう言う時はいっつも悩んでるときじゃん」
「は?」
加護が、聞き返す。
やばい、ついいつもの口癖が・・・・・・ま、いっか。
あたしは、すぐに思いなおして言葉を続ける。
「だからさ〜、悩んでるのバレバレなのに、悩みなんてないですとか言われたらムカつくじゃん」
「ば、バレバレですか?」
なぜか動揺したように吃りながら加護は言った。
「うん」
力強く頷く。
すると、加護は心配そうな眼差しで後ろにいる二人――辻を見た。
そして、言う。
「ののにもバレバレですか?」
「え?」
「だから、うちがなんか隠してるってこと」
妙に切迫した口調。
っていうか、辻になんか隠してるの?
――正直、あたしは加護がなにを隠しているのかのほうが気になった・・・・・・ちなみに加護の悩みと関係がありそうだから気になったってことだから。
「さぁ、辻にはばれてないんじゃない?」
とりあえず、そう答える。
少し強張っていた加護はホッとしたように息をついた。
「なに隠してるの?」
あたしが訊いたときだった。
窓から強い光が部屋全体を照らしだした。
8
「犯人に告ぐ!抵抗をやめてでてこい!!!」
外から拡声器でひび割れた声がする。
ようやく目が光に慣れてきてあたしはチラッと窓から外を見た。
外には、制服姿の機動隊とパトカーのサイレンの光が回っている。
少しおおげさすぎじゃないか?
「ちょっと・・・マジやばいって」
あたしの口からそんな言葉が自然漏れていた。
と、加護がすばやく視界を遮るようにカーテンを引く。再び暗くなる部屋。
「アイボン」
辻は、いつのまにかあたしたちの傍に来ていた。
加護は、辻のほうに顔を向けるとなにやら二人でひそひそと話し始めた。
「ねぇ、どうすんの?」
まだなにやら話している二人に尋ねる。
「後藤さん、心配しすぎですよ」
加護が答える。
「そうですよ、このぶりうんの教科書に逮捕なんて言葉はないのれす」
それをいうなら辞書でしょ?
なんて突っ込みはおいといて、どう考えてもこの状況――ふるいプレハブ小屋を取り囲む制服の集団――から
誰一人捕まらずに逃げられる方法なんてないような気がするんだけど・・・・・・
二人は余裕綽々と言った感じにさっきまであたしが見下ろしていたカーテンの隙間から外の様子を眺めている。
なにか策でもあるんだろうか?
「じ、自首したほうがよくないか?」
みっちゃんが二人に向かって言う。
二人は、みっちゃんのほうを振り向くとニッコリと笑って「そうですね」と答えた。
9
「ちょっとマジに自首するの?」
階段を下りながらあたしは前を歩く加護に小声で訪ねた。
加護は、聞こえていないのか答えない。
「・・・平家さん」
ドアの前で辻がみっちゃんを呼んだ。
「なんや?」
「これ、ののだと思って大切にしてください」
そう言って、みっちゃんになにかを差し出す。
暗くてそれがなんなのかよく分からないがみっちゃんは「おおきにな・・・」と素直に受け取った。
「それじゃ、行こうアイボン」
辻が振り返る。加護は頷く。
「加護・・・・・」
あたしが呼ぶと加護は足を止めた。顔だけをこちらに向ける。
「後藤さん、平家さん、ごめんなさい」
「え?ちょっと、どういう意味?」
「加護ちゃん!?」
あたしたちが、加護の言葉に驚いてたずね返すよりも先に二人は外に飛び出していった。
ごめんなさいって・・・・・・まさか二人とも死ぬ気!?
天下の強盗だと自負していたぐらいだから、捕まるなら死を選ぶのかもしれない。
不意に思い付いてあたしは二人の後を追いかけて外に飛び出した。みっちゃんも同じように考えたのか外へと飛び出す。
「加護!!辻!!」
その瞬間、あたしの目に飛び込んだのは警官に保護されながらあたしたちを指差している二人の姿とそれに答えるように銃を構える警官の姿だった。
――ッキュン
聞きなれない音がした。
そして、「・・・あぅっ!!」という鈍い悲鳴。
ドサリとみっちゃんが崩れ落ちた。
あたしは、驚いて目を見開く。あたしたちの元に駆け寄ってくる警官隊。
なんで?なんで、みっちゃんが撃たれるの!?
信じられない思いだけが心をしめて動けずに立ち尽くしているうちに
あたしは警官隊に押さえ込まれていた。そのままパトカーへと引きづられていく。
どんどん倒れているみっちゃんから離されていく。
みっちゃんはピクリとも動かない。
「ちょっっと!!みっちゃん!!!みっちゃんってば――っ!!」
あたしは、泣き叫んで抵抗した。
だけど、男の力に敵うわけがない。無理やりパトカーの中へと押し込まれる。
パトカーが動き出す。あたしは、後ろの窓を叩いた。
騒然としている現場。
最後に視界にうつったのは警官の隣で辛そうに顔を歪めてあたしを見ている加護の姿だった
10
カチカチと時計の音がうざい。
あたしは、ある一室に閉じ込められていた。
くらくらと脳がしびれるような感覚。
瞳を閉じてもみっちゃんの倒れる姿はしっかりと瞼に焼きついて消えてくれない。
はきたい様な、めまいがするような気持ちだった。
どのくらいの時間がたったのか、恐ろしく長かったのか、それともバカみたいに短かったのかもしれない
――その時間のあとで、ふいにドアがひらく。
反射的に顔を上げる。見たことのない男が立っていた。
あたしを安心させるような温かい微笑みを向ける。
あたしは、男をキッとにらみつける。
どうせこの男はみっちゃんを撃ったやつらの仲間だ。
泣きそうになるのをこらえて唇を噛み締める。
「気分は、いかがですか?」
「・・・いいわけないでしょ。人殺し!」
あたしが吐き捨てると男は困ったような顔をした。
「・・・・・・なにか勘違いをなされているようですが、あの子からなにも聞いてないのですか?」
「・・・あの子?」
――あの子とは誰のことだ?
あたしは、眉を寄せる。そして、一人だけ思い当たった。
「加護のこと?」
男は、頷く。
「加護がなんなの?なにを・・・・・・だいたい、なんであたしたちが捕まるの?」
混乱して自分がなにを言っているのかが分からなくなってくる。
今回のことは、全部加護が仕組んでいたの?
不意に男があたしの肩に触れた。
はっとして見上げると男は「これから説明します。どうかお座りください」と静かな口調で言う。あたしは、その穏やかな瞳に気圧されて素直に席についた。
あたしが席に着いたのを確認すると男は小さく頷き話し始めた。
11
「まず、あなたがたに多大なご迷惑をおかけしたことをお詫びしなければなりません」
男は、やけにバカ丁寧にそう前置きすると、ゆっくりと言葉を選ぶように続けた。
「あなたのご心配しておられるお方の安否なんですが
今はまだ麻酔銃の影響で眠っておられますがもう数十分もすれば目覚めてこちらのほうに来られると思います」
「え!?」
麻酔銃?
みっちゃんは、生きてるの?
よかった・・・・・・
ホッとしたせいか自然とあたしの双眸から涙が零れ落ちた。
男は、そんなあたしをどこか羨ましそうに見ている。
あたしは、気恥ずかしくなってサッと目元を拭う。
「あ、あの・・・それでなんでそんなことしたの?」
誤魔化すように問いかける。
気のせいかもしれないが男の顔にどこか寂しげな翳りが浮かんだ。
「全ては希美のためです」
「希美?辻のためってこと?・・・・・・どういうこと?」
あいつは、天下の大泥棒なんでしょ?
それなのに、辻のために・・・・・・言葉の意味が読み取れない。
「希美は、この街の最後の人間です」
「は?なに言ってんのか分かんないんだけど・・・・・・最後の人間って・・・」
あたしは、鋭く男を見た。男はうなづく。
「遥か昔、この街はなんらかの理由で滅亡しました。
しかし、僅かながら生き残った人間たちはこの街が無事に復興することを信じて永き眠りについたんです。
我々はその間彼らを見守り街を復興させることを目的としてつくられたロボットです。
長き時間を費やして我々は街の復興のために働いてきました。
そして、ついに街が元のような姿に戻ったとき我々は彼らの眠る場所へ向かったのです
・・・・・・しかし、眠りについた彼らはそのまま目覚めることはなかったのです」
男は、そこで一息ついた。
その仕草は、まるっきり人間のものである。
「我々は、守るようプログラムされた主を失い途方にくれました・・・・・・
その時、たった一つだけ忘れ去られていたシェルターが見つけられたのです。
そこに、希美は眠っていた。希美は15年前に眠りから覚めた唯一の人間。
だから、我々は希美のために存在するのです」
男の話はにわかには信じられるものではなかった。
あまりにも突飛過ぎて、あたしは首を振った。
「信じられないけど・・・・・・それと辻が犯罪犯すのとなんの関係があるの?」
「希美は、自分のことを本当に天才的な怪盗だと思い込んでいる。
だから、彼女が望むならそれを現実のものにしてあげなければいけない。
彼女がそれで楽しいなら我々は満足なのです」
男は、さも当たり前のように答えた。
「そんなのただの甘やかしじゃん」
「そうでしょうか?」
男が問い返したとき、ガチャッとドアが開いてみっちゃんが姿を現した。
12
「みっちゃん!!」
あたしは、男の存在を忘れて彼女に抱きつく。
みっちゃんは、「い、痛いんやからタックルせんといてーな」と悲鳴を上げた。
うん、生きてる。あたしは、安心してみっちゃんから離れる。
みっちゃんは、ぶつぶつ文句を言いながら男のほうに視線を向けた。
男は、ペコリと申し訳なさそうに頭を下げた。
「詳しい話は向こうで聞かせてもらったから怒ってへんけどな・・・・・・」
みっちゃんは、静かな声で言う。
「やけど、こんなんこれからずっと続けていけると思うとるん?」
「・・・・・・」
「辻ちゃんは、人間や。いずれは絶対にバレるやろうし・・・そのときはどうするん?」
みっちゃんって意外と考えてるんだな。と、あたしは感心して二人の様子を見守っていた。
男は、目線を床に動かして呟いた。
「希美には・・・もうそんなに時間はないんですよ」
「どういう意味や?」
みっちゃんの眉が寄せられる。あたしも同じ思いだった。
「冷凍睡眠からくる障害がここにきて出始めているんです。だから・・・・・・我々の役目も」
「そんな!あんなに元気なのに!?」
あたしは、声をあげた。
「ごっちん・・・」
みっちゃんが諌めるようにあたしの肩を押さえた。
あたしは、みっちゃんの顔を見る。
「だって・・・辻は元気じゃん。これからだって生きていける。障害なんてどこにも・・・」
「亜依が気づいたんです」
男が言った。あたしは、振り向く。
「私も気づきませんでした。亜依は、希美が目覚めてからずっと彼女の傍にいたから一番敏感だったんでしょう。
この壮大なままごと遊びも亜依が考え出したんです。もちろん、反対なんて誰もしませんでしたよ。
甘やかしだといわれようが・・・我々は、主である希美が最後まで楽しく過ごせるようにと考えるのです」
淡々とした言葉に深い悲しみが見え隠れする。
本当にロボットなんだろうか・・・・・・
そう思えるほど、その表現は人間よりも人間らしく見えた。
13
あたしたちは、街の雑踏を抜ける。まったく普通の街並み。
だけど――この人たちはロボットなんだ。
ここにいる人間はただ一人。
辻だけ・・・・・・
その一人のために存在している街。
その一人のために存在しているプログラム。
でも、誰が彼らのことをロボットだなんて思うんだろう?
少なくともあたしはそう思えない。
だって、あたしには辻と加護は本当の親友のように見えたし、
街の人たちの優しさや辻への思いはプログラムされたものとかじゃないように思えたんだ。
人間とロボットなんてそんなに違いはないのかもしれない。
「ごっちん」
「んぁ?」
みっちゃんに呼ばれてあたしは我に返る。
みっちゃんは、しゃぁないな〜と言うような表情であたしを見ていた。
「どこ行ってんの?こっちやで」
「あ、うん」
慌ててみっちゃんの方へ行こうとした瞬間前を横切る人とぶつかってしりもちをついてしまった。
「いたっ」
「あ、すみません、大丈夫ですか?」
ぶつかった人が手を差し伸べてあたしを起こしてくれた。
あたしは、その人にお礼を言って呆れ顔のみっちゃんの元へ急いだ。
きっとこの先も彼らは彼らが言う壮大なままごと遊びを続けていくんだろう。
辻の命が尽きるその時まで・・・・・・
街の人たちはどこまでも優しくて純粋だから――
Fine
チグリスとユーフラテスみたいだ。
ごめん、チグリスとユーフラテスって?河?
257 :
254:02/11/09 23:53 ID:us+/Wgev
>>256 それです。もしかしたら作者はこの本のこと知ってて今回の話書いたのかと思って
ちょっと言ってみた。
作者さんすごいね。そっこーお気に入りに入れました。
この小説について語り合うスレがあってもいんじゃないかとおもたよ。
小説は文字がチカチカしてくらくらするんで読めない。
でも、紹介見てみたら面白そうなので今度読んでみるか
ちなみにサクッと読めそう?
っていうかひっそりしてきたのに人がいてビクーリ。
But、こっからはグダグダになるんで読むべからず
あとで文句言っても知らんぜよ。
259 :
254:02/11/10 21:52 ID:aL7OUW4n
俺はあんまり面白いとは感じなかったよ。長いし。
素人にはお勧めできない。通はsecret fantasy(ry
あとメンバーで出てないのって矢口となっちだけか...。
期待保全
ゆきどんは?ねぇ、ゆきどんは?
絶望とは、闘う理由を知らずに、しかもまさに闘わねばならないということだ。
byカミュ
1
「うわぁー!!すっごいね〜」
新しい街に入っての第一声。
あたしは、口をあけたまま周りを見回す。
そこは、これぞファンタジーの王道といった城下町。
最近、普通の街並み見てきたからかなんとなく新鮮だ。
「ええところやな〜」
街は、異様な活気に満ち溢れている。
「よ、旅人さんたちはパレード見学かい?」
突然、なれなれしくそう声をかけられて振り返ると、銀の甲冑をまとった人のよさそうな男が立っていた。
「パレードって?」
「あんたたち、それも知らないで今日ここにきたのか?」
あたしが尋ね返すと男は心底呆れたような声を出した。
それから、パレードについて熱く語ってくれた。
男の話によると、今日はこの国の開国100周年という記念すべき日らしい。
そして、そのお祝いに隣国の王も招いて盛大な宴をひらくそうだ。
「そりゃぁ、めでたいな〜」
みっちゃんが呑気な声を出すと男は肩をすくめて
「まぁな。ただ、俺たち警備兵はあんまりめでたがってもいられないんだけどな」
とぼやいた。
「なんで?」
「隣国の王になにかあったら戦争もんだろ」
「あ〜そっか。でも、仲悪いの?」
あたしの問いに男は「ん〜どうだろうな?」と首をひねる。
「王同士は、幼馴染でかなり仲がいいらしいけどな。ま、国と国の話になるとな・・・・・・」
「ふ〜ん」
「ともかく、パレードを楽しんでくれよ」
警備の時間になったのか男はチラリと時計台の時計に目をやってそう言うとどこかへ走って言った。
「今の人、きっとうちと話したかったんやな」
男の背中を見送りながらみっちゃんがニヤニヤ笑いを浮かべてあごをさする。
自意識過剰だ。っていうか、みっちゃん、一言しか喋ってないじゃん。
きっとあたしに声かけたかっただけだ。
ま、それは言わないでおこう。優しいからね。後藤、いい子だね。
2
「マリマリマリマリマーリッペ!!」
「なっちーは天使!なっちは天使!!」
そんな声がそこかしこからあがっている。
なんか聞いたことある掛け声だな〜。っていうか、あんまり聞きたくないんだけどね・・・・・・
でもそのおかげでこの街にいるのが誰なのかすぐに分かった。
あたしは、掛け声の中心にあるお城のテラス(?)に目を向ける。
そこに予想通りの人物が立っていた。やぐっつぁんとなっち。
二人は、きらびやかな衣装を身にまとって――っていうか、コンサの衣装とそう大差ない――なにやら楽しそうに小突きあっている。
お城にいてあの格好でこの歓声ってことは二人がこの国と隣国の王なわけか。
「いや、すごい人気やなー」
「そうだね〜」
ここのやぐっつぁんもヲタ嫌いなのかな。
あたしがふとそんなことを思っているとやぐっつぁんが用意されたマイクの前に立つ。
その途端、ヲタ・・・もとい、国民たちの歓声が止まった。
「えー、みんな今日は来てくれてありがとーっ!!」
やぐっつぁんは、小さく咳払いをするとコンサのMCとあまり変わらないことを言った。
正直、もっと硬い挨拶をすると期待していたあたしには拍子抜けだ。
でも、ヲタ・・・もとい国民のボルテージはその一言でぐんぐんあがっている。
コンサの客席ってこんな感じなのかな。ちょっと怖い。
みっちゃんは、「あの子、ちっちゃくてかわいいなー」などと、少しずれた感想を口にしている。
「今日はね、えっと、この国の100歳のお誕生日ってことで、なんと隣の国からなっち国王もお祝いに来てくれました」
やぐっつぁんがバッと手をなっちに向ける。
それに反応する声。なっちも大人気みたいだ。
隣国からの遠征組みがいるんだろうな、きっと。
なっちがにこやかに手を振りながらやぐっつぁんの隣まで歩いてくる。
やぐっつぁんも嬉しそうに笑っている。幼馴染らしいから当たり前か。
「いやー、あの子もかわいいなー」
隣でみっちゃんがまたずれたことを口にした。
あたしは、呆れて視線をチラッとみっちゃんの方に動かした。
「?」
視界の隅にヲタ・・・国民たちに混じってなにやら怪しい動きをしている人物がうつる。
どこかで見たことがあるような気がするけど、遠すぎていまいち分からない。
ただ、妙に引っかかるものを手にしている。奇妙な形状の金属らしきもの。
なんだ?あれ?
あたしは、人ごみを縫ってなんとかその人物に近づこうと試みる。
が、ちょうどなっちのMCが始まって押し寄せるヲタ・・・国民の群れに見失ってしまう。
その時だった。
鋭くなにかを引き裂くような音。
さきほどまでの歓声とは違った異様な奇声。
あたしは、驚いて振り返る。
一番に目に飛び込んできたのは、真っ青な顔をして立ち尽くすやぐっつぁんと
その体にもたれかかっている血にまみれたなっちの姿だった。
3
城を取り囲む通称ナチヲタ・・・・・・違う、なっちの国の国民たち。
そして、守るように城門をバリケードするヤグヲタ・・・・・・違う、やぐっつぁんの国の国民たち。
さらにそれを抑える兵士たち。
先ほどまでの平和なお祝いムードが一転して険悪なものに変わってしまった。
あの警備兵が恐れていたことが現実になってしまった。
「なんや、危ない感じがするな〜今のうちに次の街に行っといたほうがええな」
みっちゃんが呟く。
次の街?
なっちが撃たれたってのに・・・・・・あたしは、とてもそんな気になれない。
かといって、あたしがいてどうにかなることじゃないのは分かっているけど。
・・・待てよ、さっきの怪しいヤツ。
もしかして、あたしって犯人見たってヤツ?目撃者じゃん。
これは、やぐっつぁんに報告。っていうか、話してみたいし。
「みっちゃん、先にゲートに行ってて!」
「な?ごっちん・・・・・・って、ちょっとごっちん!?」
あたしは、呼び止めるみっちゃんを無視してヲタの渦巻く城門へと走った。
ムリヤリ前へと進む。
ナチヲタをすばやく突破。ヤグヲタを交わしながら突破。
あとは、警備兵だ。
あの男がいてくれれば話は早いんだけど。
あたしは、同じような鎧をまとった兵たちの中からさっきの男の顔を捜す。
目的の人物はすぐに見つかった。
意外と偉い人だったのか、兵たちに指示を出している。
「おじさん!!おじさん!!」
あたしは、必死で男を呼んだ。
男が訝しげに振り返りあたしと目があうと不思議そうな顔をして部下らしき兵になにか囁いた。
それから、あたしの元へと歩いてくる。
「なんだ?まだいたのか?早めに出たほうがとばっちりくわなくていいぞ」
開口一番、男は忠告するようにそう言った。
「っていうか、なっちは大丈夫なの?」
男の言葉を無視してあたしは問いかける。
「なっち?あぁ、一応、命はとりとめたが・・・そんなことをわざわざ聞きにきたのか?」
「違うけど・・・あのさ〜、やぐっつぁんに会わせてくれない?」
「やぐっつぁん?」
男は首をかしげる。
「国王だよ。マリッペ」
「なぜだ?」
男の目が鋭く光った。
もしかして、怪しいヤツをみなされかけてる?これは、ごっちんピンチ。
「あたし、犯人見たんだよ」
怪しまれて死刑になったらしゃれにならない。あたしは、速攻で答える。
「犯人?なつみ国王を撃った犯人のことか?どんなヤツだ」
男があたしの肩を強く揺さぶる。
「ちょっと、痛いって」
あまりの力の強さにあたしは顔をしかめ男の手を振り解く。
「すまん。それで犯人はどんなヤツだったんだ?」
「だから、それはやぐっつぁんに話すから会わせて」
「それはできない」
男は即答した。
「じゃぁ、いいよ」
あたしも真似して即答し男に背を向けた。男は、引き止めない。
あれ?ごっちんの完璧な計画だとここで男が引き止めて、やぐっつぁんとご対面ってなるはずだったのに・・・・・・失敗?
あたしが、そう思った瞬間だった。
「分かった。謁見を許そう」
背後で男が、渋々といった口調でいった。
続きに激しく期待sage
4
謁見室に通されて数十分後、泣いていたのか赤い目をしたやぐっつぁんがあたしの前にようやく姿を見せた。
その様子から、相当のショックが窺える。
あたしが、どう声をかけようか逡巡していると気丈にもやぐっつぁんが口を開いた。
「・・・犯人を見たらしいけど、どんなヤツだった?」
あたしを見つめてくる視線は、国交とかじゃなく純粋になっちを傷つけられたことに対する怒りに燃えている。
「パッと見たからよく分かんないんだけど・・・・・・」
「はぁ?」
「次、見たら絶対分かると思うんだ〜」
あたしが言うと、やぐっつぁんは大きなため息をついた。
なんで?
つぎ見たら分かるって言ってるんだから喜んでもいいのに・・・・・・予想外の反応にあたしは戸惑う。
「次って、暗殺者がそう何回も姿見せるわけないじゃん・・・・・・」
「あ・・・・・・」
そういわれればそうだ。
やぐっつぁんは、あたしを呆れた目で見ながら言った。
「ったく、あんた、いったいなにしにきたの?」
「いや〜、やぐっつぁんの力になろうと思って」
照れながら答えるとやぐっつぁんは眉を寄せた。
それから、ポツリと疑問を口にする。
「・・・・・・あのさ、やぐっつぁんってなに?」
「あはっ・・・あはっ・・・」
笑って誤魔化そう。
やぐっつぁんの目がどんどんとまるでヲタを見るような視線になってきている。
あたしは、ヲタとは違う。
「あ、あのね、ぶっちゃけ、あたし、なっちの友達なんだ」
苦し紛れのウソをつく。
なっちの名前がでた途端にやぐっつぁんの顔が強張った。
「んぁ、それで〜やぐっつぁんのこととかよく話に出てたから、会っても初対面とは思えなくてさ〜」
「そ、そうなんだ。ほんとにこんなことになってしまって・・・どう謝罪したらいいのか」
やぐっつぁんは、本当にすまなさそうにうなだれた。
ウソついたのは悪いとは思うけど、ヲタと思われるよりはましだ。
それよりも今は犯人探しだった。
ぜったい、どこかで見たことあるんだよね、あの怪しい人物。
「ねぇ、なんか心当たりとかないの?なっちが狙われるようなこととか」
「・・・・・・心当たり?そんなのこの国となっちの国を戦争させたいからに決まってる」
あ、そういうことか。
確かに・・・・・・あたしは、さきほど城門前で見たナチヲタvsヤグヲタの様子を思い出した。
これでなっちが万一死にでもしたら絶対に戦争は回避できないだろうな。
・・・・・・・・ん?
でも、二つの国が戦争してなんかメリットとかってあるのかな?
あたしはそう思ってやぐっつぁんに訊いた。
途端、やぐっつぁんははっとした様に息を呑んだ。
その顔は、ひどく青ざめて見えた。
「・・・・・・・ん」
やぐっつぁんは、あたしがいることすら忘れているかのように小さくなにかを呟くと部屋を飛び出して行った。
――祐ちゃん?
確かにそう聞こえたような気がした。
5
「おい!どこに行く気だ?」
やぐっつぁんを追って部屋を飛び出したところを、男に呼び止められた。
ずっと部屋の前で見張っていたみたいだ。
「やぐっつぁんは?」
「いい加減にしないか。王はお前と違って暇ではないんだぞ」
男は、厳しい顔つきで言った。
「だから、どこ行ったの?」
「今は、隣国と話し合いの場についている」
「はぁ!?さっき出ていったばっかなのに?」
「そうだ」
男は、あっさりと頷く。
分刻みのスケジュールはざらじゃないのかもしれない。
仕方ない。まさか話し合い中に割って入るなんてできないし。
「ねぇ、祐ちゃんって知ってる?」
「祐ちゃん?」
「中澤裕子」
「皇帝のことか?」
男は、呆れた目であたしを見下ろす。
「皇帝って?」
「この地方でもっとも大きく力のある国だ。わが国とも親睦を深めている・・・・・・それがどうかしたか?」
祐ちゃんが皇帝。
「ねぇ、そこってなっちの国とも仲いいの?」
あたしの問いに男は眉を寄せた。
「・・・・・・なにがいいたいんだ?まさか、帝国がこの事件を諮ったとでも思っているんじゃないだろうな?」
男の言うとおりだったけど、あたしは首を振った。
男の様子からそれは言ってはいけないことだと悟ったからだ。
男は、少し安心したように言葉を続けた。
「ならいいが・・・ヘタなことは口にしないでくれよ。ただでさえ、国中がピリピリしているんだ。早々に立ち去ったほうがいい」
「ちょっとやぐっつぁんに言いたいことがあって」
「まだあるのか?」
「ちょっと・・・・・・ね」
あたしは、言葉を濁した。
その時、廊下の奥に見える大きなドアがひらく。
男がそれに気づきビシッと姿勢を正す。
中からはやぐっつぁんと、鈴音さんが連れ立って出てくる。
そして、最後にもう一人――
あたしは、その姿を見てハッとした。
その人物こそが、なっちを撃った犯人だと気づいたからだ。
保
281 :
名無し募集中。。。:02/11/17 00:01 ID:998nVJpo
(お宝) 松浦亜弥の携帯番号 ガセだと思ったけど、ちゃんと繋がるのでびっくり ロリエロモーニング娘。裏情報アプリ無修正
って本物なのか?
ここは小説スレです。sageでお願いします。
6
やぐっつぁんは、途中で立ち止まって鈴音さんと言葉を交わしている。
「ねぇ・・・」
あたしは、男に小声で声をかける。
「なんだ?」
「一番奥にいる人って何者?」
あたしが尋ねると男が視線を動かしてその姿を確認する。
「調停人の稲葉さんだ」
「調停人?」
「戦争が起こりそうになるのを回避させる話し合いの進行役を頼んでいる。それがどうかしたか?」
怪訝そうに男が尋ねてくる。
一瞬、言おうかどうしようか考え結局、男には言わないことにした。
とりあえず、やぐっつぁんに言おう。
ふとやぐっつぁんたちのいるところを見る。ちょうど、話が終わったようだ。
男は、護衛として鈴音とあっちゃんのあとに連れ立って城門へと歩いていった。
その間、ひどく悲しそうな顔でやぐっつぁんは二人の背中を見送っていた。
あたしは、やぐっつぁんの元へと駆け寄る。
「やぐっつぁん」
「え?あぁ、あんたか・・・・・」
あたしが声をかけるとやぐっつぁんは悲しそうなまま微笑んだ。
「ちょっといい?」
あたしは、返事も聞かずにやぐっつぁんの腕を引っ張ってさきほどやぐっつぁんたちが使っていた大きな部屋に入る。
「なに?」
「犯人が分かったの」
あたしは言いながらやぐっつぁんの反応を窺う。
「犯人?・・・・・・そう」
やぐっつぁんの反応は薄い。
少しだけ拍子抜けした。
さっきまであんなに犯人のこと知りたがっていたはずなのに・・・・・・
「あ、ゴメンね。思い出してくれたのに・・・・・・」
あたしががっかりしていることに気づいたのか、やぐっつぁんは取り繕うようにそう付け加えた。
見ていて無理しているのがすぐに分かる。
「なんかあったの?」
「なんかさー、戦争になっちゃいそうなんだよね」
「え?」
「キャハハ、まいったまいった」
やぐっつぁんは、頭に手をやりながら今にも泣き出しそうな顔で笑った。
かける言葉が見つからない。
――トントン
静まり返った部屋にノックの音がしてあたしたちは我に返る。
「なつみ王の意識が戻ったそうです」
――果たして、それはいい報告だったのか、悪い報告だったのか
だけど、そう報告を聞くやいなややぐっつぁんははじかれたように部屋を飛び出していった。
あたしも置いていかれないようにそのあとを追いかけていた。
7
なっちが寝ている部屋の前――
あたしは、少しだけひらいたドアの隙間から見える二人の重苦しい雰囲気に中に入ることもできずにいた。
二人の声が耳に小さく届く。
「なっちが・・・生きててよかった」
「・・・・・・・・・・・・よくない」
「・・・・・・」
なっちは、黙ったままやぐっつぁんを見つめている。
やぐっつぁんも、同じようになっちを見つめている。
見つめあう二人はなんともいえない不思議な表情で――ほとんど悲しげと言いかえれるほど優しく,愛しさに胸がはちきれそうな――あたしを、ひどくやるせなく、うずくような切ない気持ちにさせた。
もうこの二人がこうして会うことはないのかもしれない。
そう感じた。
二人が戦う理由なんてない。
でも、それが国単位としてなら話は別なんだろう。
あたしには、この国となっちの国
そしておそらくは全ての黒幕である祐ちゃんの国――それぞれがもつ事情なんて分からないし、
どうして、二つの国をわざわざ戦わせようとするのかなんて分からないけど・・・・・・
ただ、この二人を今、取り巻いている絶望は確かで
――もうなにをしても無駄だということだけは分かった。
あたしは、そのままお城の門をくぐった。
8
お城から出たあたしの目にはいまだに暴動を起こしている国民同士の姿が映った。
なんとかその渦を抜けてみっちゃんの待っている出向ゲートにたどり着く。
みっちゃんは、ゲート近くに備え付けられているベンチに座っていた。
あたしの姿を見て立ち上がる。
「ゴメンね、待たせちゃって」
「いや、ええんやけど。なんや、大変なことになっとるらしいで」
「知ってる」
みっちゃんの口から戦争という言葉が出ないように牽制する。
みっちゃんは少し妙な顔をして、それから「なら、もう他の街に行くで」とあたしの肩を優しく叩いた。
その瞬間、あたしの瞳から涙が零れ落ちた。
「ご、ごっちん!?どないしたん?」
みっちゃんの慌てた声が聞こえる。
だけど、あたしはこみあげてくる涙を止められなかった。
ずっと一緒にいられるわけじゃない旅人だから――
あたしにはあの二人の深い絶望を分かち合うなんてきっとできない。
だからこそ、あたしは悲しくてたまらなかった。
もしも、願いが叶うのなら――今度は、誰もが幸せな世界を。
もしも、願いが叶うのなら絶望のない世界を。
そう思わずにはいられない。
あたしは、歩きながらずっと泣き続けた。
みっちゃんは、そんなあたしの隣で慰めるように寄り添ってくれた。
背後で人々の狂気に満ちた歓声が遠く響いた。
Fine
うーん、中澤なんで裏で糸引いてるかが気になる
ho
なんだ、あれが僕達の探している青い鳥なんだ。
僕達はずいぶん遠くまで探しに行ったけど、本当はいつもここにいたんだ。
−メーテルリンク
1
もうそろそろこの旅も終わりだな。
大きな丘を越えながら漠然とそんなことを思った。
とりあえず、メンバーの皆(厳密には本人じゃないけど)には会ったわけだし・・・・・・
ま、そうはいっても戻り方が分からないことにはどうしようもないんだけどね。
あたしは、小さくため息をついた。
あたしたちは、さっきからずっと緩やかな傾斜を上っている。
緩やかでもそれが続くとさすがに疲れてくる。
どうせ、みっちゃんのことだからまた道に迷ってるんだろうけど――
あたしは、もうそれを当たり前のことと受け止めていたからなにも言わずにいた。
「おかしいなー」
あたしがなにも言わずにいると先にみっちゃんが首をひねった。
やっぱりか。
あたしは、なんとはなしにみっちゃんを見る。
それを勘違いしたのか慌ててみっちゃんは弁解をはじめた。
「いや、ちゃうんやで。確かにこの近くに街があったはずなんよ」
「はいはい。街があったはずだよね〜それがいきなり消えちゃったんだよね。分かるよ」
あたしは、みっちゃんを適当にあしらいながら足を進める。
とりあえず、丘をのぼりきればなにかが見つかるかもしれない。
そう思いながら早足で駆け登る。
たらたら歩くと長く感じていたのに意外にあっさりと丘を登りきることができた。
「・・・!?」
そこから見えた景色にあたしは思わず息を呑んだ。
「ちょっと待ってーな」
息を切らしたみっちゃんが少しおくれてあたしの隣に来た。
膝に手をついて息を整えている。
「ちょっとみっちゃん・・・」
「なん?」
あたしが呼ぶとみっちゃんは頭をあげた。
そして、あたしと同じように息を呑み「・・・なにがあったんや?」と、小さくつぶやいた。
2
あたしたちは呆然と眼下に広がる景色を見て立ち尽くす。
なにもかも、そう、まさしくなにもかもが壊れてしまった街並み
人っ子一人いない。のどかな空間に紛れ込んだ異物。
地震や竜巻、もしくは戦争か――
あたしたちにはこの街にそういったなにか悲惨な出来事があったと予想するしかない。
「どうする?」
もう日も暮れ始めている。
今から、次の街にたどり着くには到底無理だろう。
みっちゃんが当てにしていた街がこの様子じゃ、もちろん宿屋なんてないだろうし・・・・・・
今日は、野宿になるだろうな。
そう思いながらあたしはとりあえずみっちゃんに聞いてみた。
「そうやな、今から他の街なんて行けへんし・・・・・・」
みっちゃんは、困ったように頭に手をやった。
それから、少し考えて
「一応、下まで降りて使えそうな建物使わせてもらおか」と言った。
確かに、ボロボロの廃墟でもこのままここで寝るよりはましかな。
あたしは、考えて頷いた。
3
丘を降りて廃墟にたどりつく頃にはもうすっかり日も暮れていた。
あたしたちは、街を少し歩いて一番原型をとどめている廃屋に泊まることにした。
家の奥のリビングで体を休める。
「せやけど、なんでこんなんなったんやろうな?」
みっちゃんが、ボロボロの窓ガラスから見える街並みを見ながら独り言のように呟いた。
「旅してたらこういうことってよくあるの?」
あたしが尋ねるとみっちゃんはかすかに笑って首を振った。
「さすがにここまで完璧に街一個が壊れるんはありえへんやろ。
前に来た時から100年たってるとかやったらありえるかもしれんけどな。
うちが前来たのって3年前やで。普通ならありえへんわ」
「ふ〜ん・・・・・・じゃぁ、この街の人たちどうしたんだろうね」
「さあな〜、他の街に移住したんかも知れんな」
「神隠しにあってみんないなくなったのかもよ」
「怖いこと言わんといてよ」
あたしがからかうとみっちゃんは嫌そうに眉を寄せた。
「あたしたちもどこかに連れて行かれたりして・・・・・・」
わざと低い声でみっちゃんをからかう。
ヒサブリにからかった気がする。
みっちゃんは、「ホンマやめてって」と耳をふさいだ。
「あはっ、そんなのあるわけ・・・」
言いかけた瞬間、ガタンという物音が聞こえた。
咄嗟に後ろを振り向く。
なにも変化はない。
気のせいだったのかな?
「ねぇ、みっちゃん、今なんか変な音しなかった?」
「はぁ?もうええ加減にしてや」
耳をふさいでいたから聞こえなかったのか、まだあたしがみっちゃんをからかっていると思ったのか
みっちゃんは不機嫌そうに答える。
「いや、マジでなんか聞こえた気がしたんだって」
「ごっちん、ええ加減にせんと怒るで!」
みっちゃんが、そう声を荒げた。
その時に、再び――それも今度はこの部屋のすぐ近くで――ガタンと音がした。
あたしたちは、顔を見合わせる。
「・・・・・・ご、ご、ごっちん、な、なんか聞こえたで」
「・・・・・・・だ、だから、言ったじゃん」
あたしは、内心の気持ちを抑えてみっちゃんに言う。
みっちゃんの動揺が空気をつたってあたしに届く。
音のした方に視線を動かした。
このドアを隔てた向こうになにかがいるみたいだ。
人食い動物とかだったらどうしよう?
逃げたほうがいいかもしれない。
そこまで考えた時、みっちゃんがいきなり立ち上がって窓に向かった。
「ごっちん、逃げるで」
「んぁ?ちょっと、みっちゃん?」
みっちゃんは、窓をあけようと手をかけている。
が、立て付けが悪いのかなかなかあこうとしない。
「ガラス割ったらいいじゃん」
「ダメや、音が向こうに聞こえるやろ」
みっちゃんの言葉にあたしはドアの方を見る。
物音はもうしない。みっちゃんは、どうにか窓を開けようと四苦八苦している。
その姿を見ているうちに、だんだんと落ち着いてきた
――よく考えたら、ただ風が吹いてなにかがぶつかったのかもしれない。
逃げるよりも確かめるほうが先だった。
あたしは、意を決してドアに向かう
「ご、ごっちん!なにしてるん!?」
みっちゃんの恐怖に満ちた声が響く。
それを無視してドアノブに手をかける。
ごくりと息を飲む。その時、握ったドアノブが手の中で勝手に回った。
「うひゃぁっ!!!」
間抜けな悲鳴をあげてあたしは後ろに飛び上がる。
「うっひょーっ!!!!!!!!!!」
それにつられてみっちゃんはもっと間抜けな悲鳴を上げる。
――と、同時にドアが開いた。
そして、あたしたちは同時に悲鳴を上げた。
>もっと間抜けな悲鳴
にワロタ
うっひょーってミチャーソ
狙っただろ?>>作者
4
「んあ・・・?」
「んあぁ・・・?」
あたしは、ポカンと口を開けたままドアを開けて現れた人物を見つめた。
同じように目の前に立っている人物も自分のことを見つめている。
すごく間抜けな顔だ。
そう気づいてハッとしたあたしは口を閉じる。
同じように目の前の人物も口を閉じた。
なんとなくあたしが手をひらひらさせると同じように手をひらひらさせる。
まるで鏡を見ているみたいだ。
「ご、ご、ごっちん・・・」
みっちゃんの声に目の前の人物が反応する。
あたしも少し遅れて振り返る。
みっちゃんは、まるで化け物にでもあったかのように青ざめた顔をしていた。
それもそのはずだろう。
突然、一緒にいた人が二人になったらびっくりするよね。
あたしだって相当驚いているんだし・・・・・・
今までは他のメンバーたちだったからそう驚くこともなかったけど、今回は違う。
っていうか――
――なんで、あたし?
5
あたしたちは、汚い机を囲んでどう声をかけるべきかお互いを意識していた。
「あのさ〜」
あたしは、切り出した。
ほとんど同時に「あんたさ〜」と、彼女も切り出した。
「なんで――」
「あたしと――」
また、声が重なった。
ここまで一緒のタイミングで話さなくてもいいのに――思わず、苦笑する。
「っちゅうか、あんたら双子なん?」
そんなあたしたちをじれったく思ったのかみっちゃんが口を切った。
「んなわけないじゃん」
「初めて会うよ」
あたしたちは、同時に答えた。
みっちゃんは、変な顔をしてあたしたちを見比べる。
「・・・まんま双子やけど・・・・・・・・・・・・名前はなんて言うん?」
「後藤真希」
後藤さんの(自分で言うのも変な気分だ)答えを聞いてみっちゃんはあたしを見た。
あたしは、どんな顔をしていいのか分からずに曖昧に笑う。
「あんたは?」
「うちは、平家のみっちゃんや」
みっちゃんが後藤さんの質問に答えると後藤さんはふっと鼻で笑い、
それからあたしに挑むような視線を動かした
「あんたじゃなくて、あたしと同じ顔の方に聞いてるの」
みっちゃんがへこむようなことを平気で言ってのけた。
ひどいヤツだ。あたしのほうがまだ優しさがある。愛のあるいじりだし。
「・・・・・・あたしは、えっと、ごっちんで」
とりあえず、答える。
同じ顔で同姓同名なんて嫌だろうし・・・・・・気配り上手だな、あたしって。
そんなあたしの気配りも後藤さんの「変な名前」の一言で一蹴された。
こいつ、マジムカつく。
308 :
ho:02/11/28 04:26 ID:1Z6LgFtr
zen
6
「・・・それよりさ〜」
みっちゃんがへこんじゃってなにも言わなくなってしまったので、仕方なくあたしが話をふる。
自分で鏡の自分に語りかけてる怪しい人みたいで変な感じだ。
「ご、後藤さんは・・・なんでこんなとこに来たの?」
「・・・あんたらは?」
「あたしたちは、旅の途中でよっただけだよ」
あたしが答えると、後藤さんは「旅人・・・か」と、がっかりしたように小さくため息をついた。
旅人だとなにが悪いんだろう?
「旅人じゃ、この町がどうしてこうなったかなんて知らないよね」
途方にくれた声。
「知らないけど・・・・・・後藤さんも知らないの?」
「・・・・・・」
後藤さんは、答えてくれなかった。
いったい、こいつ、何者なんだろう?
「ねぇ、後藤さんってこの町となんか関係あるの?」
あたしは、訊いた。
「さぁね・・・とりあえず、あたし、もう寝る」
後藤さんは、めんどくさそうにそう答えると席を立って部屋から出ていった。
ほんとにマジムカつく。
あたしとは正反対だ・・・・・・多分。
「ねぇ、みっちゃん」
まだへこんでいるみっちゃんに声をかける。
みっちゃんは、「・・・・・・なに?」と顔を上げた。
よし、話は聞こえているようだ。
あたしと後藤さんのやり取りも聞いていただろう、そう思ってたずねた。
「どう思う?」
「そんなん知らんわ」
みっちゃんは、あっさりと首を振る。
「真面目に答えてよ」
「せやかて、あんなムカつくやつのこと考えたくないわ」
「ムカつくって失礼な!」
「別にごっちんのこと言うてへんやろ」
「・・・そうだけど」
珍しくみっちゃんに負けた。なんかショックだ。
「まぁ、あの子が何者なんか知らんけど・・・この町と関係あるんは確かやな」
そんなあたしに気づくことなくみっちゃんは後藤さんがいる2階に視線を動かした。
6
夜になって、いつのまにかみっちゃんは静かな寝息を立てて眠ってしまった。
あたしは、ついていた蝋燭の火を吹き消す。
あっという間に闇が空間を包み込む。
頬杖をついたまま窓から外を眺める。
誰もいない町。光のない町。
静寂。
自分はただ一人取り残されているような気がした。
あたしは、寂しいんだろうか?
ふとそんな疑問がわいた。
どうしてそんなことを思ったのか、それを考えるよりも先にあたしの耳にキィッと言うドアの開く音が聞こえた。
ハッとして窓に目を向けると後藤さんの姿が闇に浮かび上がった。
こんな時間にどこに行くつもりだろう?
あたしは、みっちゃんを起こさないようにそっと部屋を抜け出して彼女のあとを追った。
後藤さんは、慣れた足取りで町を歩く。
あたしは、少し離れて歩きながらもそれについていく。
不意に一つの廃ビルの前で後藤さんが立ち止まった。
表情は陰になっていて分からない。
後藤さんは、廃ビルを見上げて少し中に入るのを躊躇うかのような素振りを見せ、意を決したように階段を駆け上っていった。
なんで走るわけ!?
――あたしは、心でそう叫びながら慌てて後藤さんの上っていった階段に向かった。
一段一段のぼっていく。
きつい。あたしは、膝に手をついて息を整える。
「なにしてんの?」
頭上で声がした。
「んぁ?後藤さんを追っかけて・・・・って、後藤さんっ!?」
びくりとあたしは顔を上げ息を詰めた。
後藤さんが、あたしを睨みつけるようにして立っていた。
7
「・・・・・・・・・あんたってホントうざいね」
先を歩く後藤さんは、そう呟くと黙々と階段を上っていく。
「・・・あっそ」
あたしも小さく呟いてそれに続いた。
どうやら屋上に向かっているようだ。走らなくていいからさっきよりは幾分かましだ。
廃ビルの屋上にあがると突風が吹いてきてあたしたちの髪を掻き乱した。
後藤さんは、手すりに乗りかかるようにして地上を見下ろしている。
あたしは、その隣に座り込んだ。
後藤さんは、チラリとあたしを気にするような視線を投げかけたがすぐにそれを戻す。
しばしの沈黙。
「――ホントに知らないの?」
ややあって後藤さんがふっと呟いた。
「・・・なにを?」
「この町がどうしてこうなったかってことに決まってるじゃん」
後藤さんの顔にバカにするような皮肉っぽい笑顔が浮かんだ。
あたしは、こんな顔しないぞ・・・多分。
「知らないに決まってるじゃん、今日来たばっかなのに」
「あっそ・・・」
「後藤さんは、なんでこの町に来たの?」
あたしは、問いかけた。
すると、後藤さんはあたしから目を逸らし再び地上を見下ろしながら奇妙な調子で
「故郷に帰ってきてなにが悪い?」と笑った。
――故郷?
――ここが?
あたしは、驚いて彼女を見上げた。
その横顔に浮かんでいる笑顔はどこかさびしそうで、空気のように透き通っていた。
8
「なに、その顔?」
「え?」
あざけるような口調で言われてあたしはハッとした。
「故郷がこんなんなってる知らないで帰ってきたあたしがそんなにおかしい?」
「別になんにも言ってないじゃん」
あらぬ言いがかりをつけられてあたしは言い返す。
「顔が言ってるの」
「同じ顔でしょ」
後藤さんは、言葉に詰まってふぃっと顔を逸らした。
あたしは、立ち上がる。
「ねぇ、今までどこに行ってたの?」
「どこに?・・・さぁ、どこだったのかな〜」
後藤さんは、くすっと笑った。
あんたには関係ないじゃん、と言われるかと思っていたあたしは、その思いがけない反応に戸惑い言葉を捜した。
「あたし、なにしてたんだろうね」
次の言葉を見つけるよりも先に後藤さんが言った。
「こんな町よりもっとあたしには似合うところがあるってビッグになって帰ってくるって
大口叩いて家飛び出して・・・・・・結局、なにもつかめなかった」
彼女の瞳から静かに滴が一つ零れ落ちた。
それを気にすることなく地上を見つめたまま彼女は続ける。
あたしに話しかけているというよりは自分自身に問いかけているような口調。
「・・・大切なものはいつだってすぐ傍にあったのに自分で捨てて、
気づいた時にはこのザマか・・・・・・ホントバカだよ」
――大切なもの
後藤さんにとってはこの故郷。
あたしにとっては・・・・・・・・・
「あはっ、らしくないな〜。こんな話、あんたに言っても分かんないってのにね」
後藤さんが、目元を拭いながら涙をこらえるように空を見上げた。
「・・・分かるよ」
「え?」
「あたしも・・・今、おんなじような感じだし」
あたしの口は、自然と言葉をつむいでいた。
9
あたしたちは、きっと――寂しいのだ。
あたしは、さっき考えかけた答えを出していた。
後藤さんもあたしも寂しくてたまらない。
夢を追って一人で外に出て待っていたのは厳しい現実だった。
そう、あたしも後藤さんと同じ。
だからこそ、後藤さんのことならなんでも分かるような気がする。
後藤さんは、きっと最初から大切ななにかを知っていた。
でも、それが本当に自分のためにあるものじゃないと、それを知るのが怖くて、
だからそこから離れようとしたんだ。
そして、時間はかかったけどやはりそれこそが大切なモノだと気づいて引き返した。
引き返したところにはもうなにも残っていなかったけれど――
後藤さんにとってはこの故郷こそが全てだったんだ。
あたしは、思う。
じゃぁ、同じように大切なものを置いてきたあたしはどうなんだろう。
あたしは、もう引き返せはしない――
だけど、それはずっと心の中、細胞の一つ一つに残っている。
あたしにとって大切なもの。大切な場所。
それは――
10
「ねぇ」
あたしは、後藤さんに声をかけた。
「なに?」
気だるげに後藤さんは答える。
「大切なものってさ・・・・・・きっと目に見えるものだけじゃないと思う」
「・・・」
「後藤さんにとってこの町が大切なものなら、それはきっと後藤さんの中に残っているから・・・・・・だから」
そこまで言って、思った
――あたしは、いったい後藤さんになにが言いたいんんだろう。
思いだけが先走ってうまく言葉にまとめられない。
「ワケわかんない」
「だよね、あは・・・」
あたしは、自分が思っていたことを指摘されて曖昧に笑った。
後藤さんは「でも・・・」とあたしの方を向いた。
「ありがと・・・・・・」
「え?」
一瞬、聞き違いかと思って聞きなおすと後藤さんは「なんでもない」と言って、
それから意外にもふんわりとした優しい笑顔をあたしにくれた。
――あたしって、こんな顔して笑うんだ。
あたしの口元にも――抑えようのない微笑がひろがってゆく。
「アハッ、素直になろうよ〜」
「うるさいな〜」
あたしたちは、太陽が昇りきるまでただぼんやりとそこにいた。
なんか切ないな〜。好きですこの話。
作者サン、がんばってね。
11
さっきから妙に眠い。
この旅の最中こんなに眠気を感じたことは初めてだった。
それは、なにかを予兆しているかのようにあたしは感じていた。
「これからどうしようかな」
みっちゃんの寝ている家に帰る道すがら後藤さんが頭に手をやりながら言った。
あたしは、さっきからずっと考えていたことを口にする。
「ねぇ、あたしのかわりにみっちゃんと旅したらどうかな?」
「は?」
「いい人だよ。からかうと面白いし。旅してくといろんなことも経験できるし
その中で見つかるものもあるんじゃない?」
あたしが言うと、後藤さんは顔を曇らせた。
「あんたはどうすんの?」
「あたしは・・・ほかに行くところがあるからさ。
みっちゃんともここでお別れする予定だったんだ」
ウソをついた。
後藤さんがあたしのことを気にするといけないから――
それにさっきよりも激しい眠気があたしの全身に回っていた。
「でも・・・」
「大丈夫だって〜。それにみっちゃんは一人だとすぐにどっかで死んじゃいそうだから
一人にするの心配だったんだ。後藤さんと会えてラッキーみたいな」
あたしがなんとかそう口にしたとき、家が見えてきた。
ドアの前に心配そうな顔をしたみっちゃんが立っている。
なにかを言っているのか口がパクパクと動いている。
なぜか、あたしの耳にはその声は届かない。
不意に立っているのも辛くなってあたしはしゃがみこんだ。
後藤さんが、慌ててあたしを覗き込でくる。心配そうに口を動かしている。
なにかを言っているみたいだ。
だけど、同じようにその言葉は聞こえなかった。
視線だけ動かすと視界の端にみっちゃんがあたしの元に走ってきている姿がぼやけて移った。
全てが薄れていく。
ああ――
もう、この世界とはお別れなんだな。
ぼんやりと思った。
終わりは、突然に来るってよく言うけど・・・
ほんとに笑っちゃうくらい突然だな。
せめて、みっちゃんにお礼ぐらい言いたかった・・・・・・
「―――――――」
あたしは、顔を上げてなにかを口にした。
Fine
え?これで終わり?
最近のゴチーンを考えるとこの話切なすぎる・・・・・・
>>328 第9話が「Fine」ってことでしょ?
他の話もそうなってるし。
でも、324のメール欄に完って
331 :
名無し募集中。。。:02/12/03 20:02 ID:NYRRs9ra
ほんとに終わりなのか?
>>330 ほんとだ。。。。気づいてなかった。。。。
番外編とかないのかな?かなり好きな作品なんだけど。
最後の言葉、気になって仕方ないです。
これこそ作者さんの思うツボ…?
マジかよ。
続きそうな終わり方だったのに俺もメール欄のことはじめて知った・・・
けっきょくなんだったんだ、ごっちんの旅は?
完結ということで宜しいのでしょうか?
総合スレッドでの完結案内はもう少し待ってみます。
読んでる時にメール欄には気づいてたけど
第9話が終わりって意味だと思ってた。
て言うかそうでしょ?
一気に読んじゃいますた
作者さん素晴らしい作品ありがとうございます
視界に真っ白な光が飛び込んできた。
ここどこだっけ?
あたしは、重い頭をふって今、自分がいる場所を確認する。
長方形のテーブル、その上には携帯と聞いていたらしいMDウォークマン。
半開きになったロッカーには見慣れたバッグ。
TV局の楽屋だ。ハッと気づく。
そっか、あたし、ドラマの待ち時間で寝ちゃってたのか・・・・・・・・・・・
トントン――
ノックの音がしてADさんが顔をだした。
「後藤さん、そろそろ準備お願いしまーす」
「んぁ、は〜い」
あたしは、返事をして立ち上がる。
急に立ち上がったせいか一瞬ふらつく。
なんだか現実感がない。変な感覚だ。
ずっと長い長い夢を見ていたような気がする。
そう、確かすごく大切なことを得たような・・・・・・
あれ?
どんな夢だったっけ??
思い出そうとしてその記憶がなくなっていることに気づいた。
「んぁ〜、なんだったっけ〜」
髪を撫で付けながら楽屋を出ようとした。
その時、背後でメールの着信音がなる。
あたしは、見に行くべきかどうしようか迷い、けっきょく履きかけた靴を脱いだ。
メールをチェックする。
意外にたくさんのメールがきていた。
そのメールたちを見てあたしは嬉しくなる。
「そっか、これか〜」
意味もない納得。
でも、あたしの中のなにかがその言葉を言わせていた。
夢の内容は、もう思い出せないけどつまりはそういうことだったんだろう。
「・・・って、ヤバッ。のんびりしてる場合じゃないや」
時間に気づいて、あたしは急いで楽屋を飛び出した。
END
はじめにこんな駄作を読んでくださってありがとうございます。
一応、この話はこれで終了です。
昨日かきあげるつもりがPCフリーズで明日でもいいかなと思ってしまいました
僕の書いてる話はあんまり読者がついたことないし・・・
まるでテレ東のようなきり方になってしまってすみません。
っていうか、全体的に申し訳です。
いろいろあって話自体が当初の予定とまったく変わってしまったんで
最後に近づけば近づくほど話の書き直し率がUPしておかしくなってます・・・
キーパーソンだったはずのミチャーソはいかせてないし(さすがミチャーソ)
まぁ、一番嫌われるはずの最後のオチだけは変わってないんですけどね。
ところで、どの話が一番マシでしたでしょうか?
全体的に明るい話のほうが少ないんですけど、今後の参考によかったらお教えください。
それでは、ながながとすみません。
読んでくださって本当にありがとうございました
>作者さん
ホントの完結・脱稿お疲れさまでした。
今までにない不思議な感じが好きでずっと読んでました。
ちなみに自分が気に入ってるのは、
飯田、新垣・小川、辻・加護の話かな。
特に辻・加護の回はラストで・゜・(ノД`)・゜・涙しっぱなしでした
最初からずっと読んでるけど、辻加護のが面白かったな。
紺野の話でズガーンとハマった気がする。
作者さんありがとー。
俺も辻加護と紺野はおもしろかった。
よっすぃーの話も結構好きだな。。
作者さんオツカレさま!
作者さん乙。
自分は高橋の話が印象的だった。
色々と考えさせられるものがあったと思う。
脱稿おめでとうございます。
正直、最初はネタ小説かと( ´,_ゝ`)な感じで読んでました(すみません
が、1話のラストから認識改め
現在、自分の読んでる中で1番のものになってました。
好きだったのは飯田と高橋の話でしたね。
348 :
PEN:02/12/05 00:06 ID:Jum3daGW
シンプルに飯田の話が面白かった。
作者さんの世界観に初めて出会った回だったからかな。
それと最後。みんなからの心暖まる応援メッセージが入ってたと思うと嬉しくて泣けてくる。
とにかく、これでもかってくらいごっちんカワイイし。
作者さん素敵な作品ありがとう。
349 :
348:02/12/05 00:47 ID:Jum3daGW
ごめん。あげちゃった。
新垣・小川がすごい良かったな。
あとは石川・保田のも好き。
でもどの話もすごい良かったです。
お疲れ様でした。
う〜ん、どれも良かったです。
飯田の話で引き込まれた。
特に吉澤のはすごくキャラにあってて好きかな。
あとは辻加護、石川保田が好き。
ここであってますかね、作者さん?
一気に読んでしまいました。
自分は矢口となっち、あと後藤自身の話が切なくて好きです。
でも、全部よかったです。お疲れ様でした。
>>342 文章は面白く、内容は深め。
漏れが大好きなタイプなのでかなり良かった。
どれも良かったので、どれかってのは選べない。。。
兎に角一つ一つの話しで色々考えされられた。
他の作品も読んで見たいな。
354 :
七誌:02/12/06 07:26 ID:RTWmYQZg
>>352さん
ここであってます。
わざわざ出張ありがとうございます。
>>353さん
他の作品は・・・・・・今のところなんにもできてないっす
2chでもけっこう書いてたんですが過去は捨てましたので
新しいのできたらよろしくお願いします。
◆cCKOSINeoさんには交信情報をのせていただいて本当にお世話になりました。
ありがとうございます
>>皆様
娘小説書いてこんなにいい意味のレスもらったのはじめてなので嬉しいです。
こういう形式の話はあまりしたことがなかったんで不安でしたが
復帰作としてちょこっと自信がつきました。
ゴチーン卒業の時にこの話やめなくてよかったです。ありがとうございます。
それでは、またどこかの氏にスレで・・・・・・
hoze