前回 第97話 加護と石川
>>821-825 【T・E・N】 第98話 石川
武道館爆破事件から4ヶ月が経過したその日まで、話はさかのぼる。
事件直後の加熱した報道合戦はある程度沈静化したものの、いまだに熱狂的
だったファンたちの後追い自殺が続き、武道館症候群(ゴールデンオニオン=
シンドロームと呼ばれた)といった形の社会問題として強く人々の心に根付い
ていた。直接事件の被害を受けなかった一般の人々にも、かつての地下鉄サリ
ン事件に代表されるような深刻な心の病を植え付けた。
石川は爆破による怪我は完治したものの、しばらく実家に引きこもり療養す
る生活が続いていた。
強姦による石川の男性恐怖症は深刻で、テレビに男が出てくるだけでも悪寒
が走るらしく、親もあらゆるメディアから遠ざけることにかなり気を遣った。
だがこれは石川に限らず、程度の差こそあれ武道館での事件のトラウマを抱え
ている他のメンバーの家族にしても同じ事だった。
そんな折、石川の母親は初めて自分の娘の身体の異変に気がついた。
本人は極めて平静を装っているものの、家族にしてみれば最悪の事態を想像
せざるを得ない。
母親は思い切って、そのことを石川に問い詰めた。
しかし当の本人は話をはぐらかすばかりで、一切自分の身に起きている異変
には触れようとしない。