高橋愛のルーズソックス萌え

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758鮪乃さしみ ◆VnvDQxEgzk
前回 第92話 保田 >>702-709

【T・E・N】 第93話 矢口と保田

「なっ・・・!」

“辻は生きているかもしれない。
 後藤の手紙の中に出てきた「のの」は本人ということもありえる”

 保田のその一言に、他のメンバーは皆、言葉を失った。

「何故か辻だけ・・・今でも生きている、みたいな感じがするの。
 ホラ、なんかあの扉の向こうから『遅れてごめんらさ〜い』みたいな感じで
 ・・・何事もなかったように現れるみたいな・・・」

 目に一杯の涙を溜めて、保田は居間への扉を指さす。当然そこには何も無い
し、何も起こらないわけなのだが。
 石川の肩がビクっと震えたのを吉澤は見逃さなかった。その吉澤も、全身に
鳥肌が立ち膝がガクガクと震えるのを隠すのに必死だった。

“辻が生きている”

 保田の3つめの仮説は絶対現実に起こり得ないと分かっていれば、譫言(う
わごと)として聞き流すこともできるだろう。しかし石川にしろ吉澤にしろ、
その言葉と———想いが虚構をリアルに変えてしまう力を持っているような、
そんな予感がしたのだ。
 二人は昼間見た辻似の女の子の呪縛に囚われ(第29話)、そして今の保田
の言葉に身震いした。
759鮪乃さしみ ◆VnvDQxEgzk :03/01/11 13:32 ID:Wb+drr8u

 意外なほど、誰も喋らなかった。
 むしろ奇想天外な発想の割に誰一人として反論しないことが、やけに不気味
だと矢口は感じた。

「ちょっと・・・圭ちゃん何いってんの・・・?」

「ゴメン・・・。
 私サ・・・見てないから・・・直接見てないから未だに信じられないのよ、
 あんな元気だった辻が・・・」

「だけど・・・」

「ねえ。本当に辻は、辻はもういないの?
 私・・・まだ実感沸かなくってさぁ。絶対認めたくないよお・・・。
 ここにいる誰かで見た人いる? あのコの・・・最期」

 安倍が目を逸らす。

「なっち・・・見たの?」

 無言で必死にぶるぶる首を横に振る。
 平静を装っているが、吹き出た汗でべっとりと前髪の一部が額に貼り付いて
いる。
760鮪乃さしみ ◆VnvDQxEgzk :03/01/11 13:33 ID:Wb+drr8u

  ガチャン。

 石川が手にしていたフォークを、思わず皿の上に落とした音だ。
 吉澤とともに、どこかソワソワして落ち着かない様子。保田のやぶからぼう
な「仮説」には誰もが度肝を抜かされたが、その中でも特にテーブルの厨房側
に座っている———石川・加護・吉澤・安倍———の4人は、視線の焦点が定
まっていなかったり、髪を頻繁にいじくり回したりして、あからさまに気が動
転しているのが手に取るように分かる。

(やっぱり、触れちゃいけないことだったのかな・・・辻の最期には)

 それにしても、やけに過剰な反応のように保田は思えた。
 次の瞬間「うわあああっっ!」と悲鳴に近い鳴き声で、テーブルに突っ伏せ
るメンバーがいた。

 加護だった。
761鮪乃さしみ ◆VnvDQxEgzk :03/01/11 13:33 ID:Wb+drr8u

 自身も半泣きのくせして石川が肩を揺さぶり励ますが、堰を切ったように泣
き声を張り上げる加護を止めることはできない。

「ゴメンね・・・加護はいたんだよね。辻のさいご・・・」

「圭ちゃん、いい加減にしなよ。
 あんまり無責任なこと言って、これ以上みんなを傷つけないでよぉ・・・」

「うん・・・あくまで希望も少し込められていた仮説だったんだけど・・・。
 不注意でした。お詫びします」

「いや、俺も生きていると思う」

 唐突に吉澤が、無表情のまま右手を挙げて立ち上がった。
 一同が硬直する。加護ですらその嗚咽を呼吸ごと止めて、次に吉澤が発する
言葉を聞き逃すまいとじっと見守る。

「オレ見たもん、ののを。今日。この屋敷で」


【93-矢口と保田】END
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