高橋愛のルーズソックス萌え

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439鮪乃さしみ ◆VnvDQxEgzk

【T・E・N】 第86話 安倍

「ホラホラ! いま自分のこと『わたし』って言った!」

 保田が鬼の首を穫ったかのように、ハシャギまくる。

「昔は、なっち、って言ってたのにね〜」

 と、加護も笑う。

「あ〜そーゆーこと? それ、ここに来る途中、やぐっつぁんにも言われたよ」

「ねー、なんか変な感じじゃない?」

 矢口は他のメンバーにも同意を求めたが、ほぼ全員一致のようだった。

(でも今はルックスの話しているじゃん)

 安倍は「変わった」と言われることに対しては、あまりいい気がしない。自
分たちがモーニング娘。に加入する前と後を較べることを考えれば、変化とい
うより「進化」でありたいと思う。
 そのために自分は日々慢心することなく努力を続けてきたのだ。
 矢口にしても、保田にしても、彼女らの発言には現在の安倍を否定している
かのようなニュアンスが含まれているのが、少しだけ気に入らなかった。
440鮪乃さしみ ◆VnvDQxEgzk :02/11/04 00:11 ID:QIo+5LYZ

「いや呼び方だけじゃなく・・・どこか雰囲気が・・・」

「雰囲気って?」

「オトナになったってか・・・」

「大人?」

 そういった言われ方もまた、安倍とっては納得がいかない。
 年齢的にはここに集まっているメンバーの中では、最年長の保田と一つしか
違わない。昔は童顔ということもあって、2トップの片割れの後藤が4歳年下
にもかかわらず大人っぽいキャラが定着する一方で、安倍には子供相手に動揺
を歌うなどといった仕事が多かった。
 でも現在は違う。
 歳相応の役柄もちゃんとこなしているし、一定の評価を得ている。
 未だにモーニング娘。だった頃の安倍なつみを、押しつけられているような
気がしてならないのだ。特に保田に関しては、日本をしばらく離れていたこと
も影響しているのだろうか、安倍に限らずメンバー全てにおいて過去のキャラ
クターのまま接しているような姿勢すら感じられる。

「そんな・・・ねぇ、いつまでも無邪気な感じだと、(女優として)役が限定
 されてしまうし・・・」

「ううん、そんなんじゃなくて今のなっちって、どこか影があるような・・・
 そんな感じしない? 矢口」

「影?」
441鮪乃さしみ ◆VnvDQxEgzk :02/11/04 00:11 ID:QIo+5LYZ

 その瞬間、安倍の眉間にくっきりとした縦皺が2本、浮かび上がった。
 今まで見せたこともないような憎悪に満ちた表情。発言した張本人の保田は
まったく気付いていないようだが、矢口はしっかりとその黒い波動を真正面か
ら受けとめて心底背筋がゾッとした。

「ちょ、ちょっと圭ちゃん」

 矢口が慌てて言葉を遮る。

(圭ちゃんったら、いくら日本を長いこと離れていたからって、なっちが笑顔
 を失ったことぐらいは・・・知らないの? もしかして)

 安倍もさすがにマズいと思ったのか慌てて表情を取り繕って、涼しい顔で話
を流すつもりのようだ。

「なっちだってねぇ、その〜あの・・・」

「ねえ、カオリもそう思わない?・・・って聞こえないんだっけ」

 保田のテーブルの位置だと、同窓会幹事・飯田に話かけるということは距離
的にかなり遠くなるので割と大きめの声で話しかけたが、そのこと自体あまり
意味のないことに喋ってから気が付いた。
442鮪乃さしみ ◆VnvDQxEgzk :02/11/04 00:15 ID:QIo+5LYZ

「いえ・・・ある程度は唇を読むことができるみたいですよ」

 と紺野は言ったものの、念のため今保田が話しかけたことを手話で飯田に伝
える。飯田はメンバーたちの会話を「読む」ことに必死のためか、あまり並べ
られた料理が減っていないのに石川は気が付いた。
 飯田は少し首を捻って考えた後、紺野に何かを伝える。

「(変わった、変わってないは問題じゃない)」

「(なっちらしく生きているかどうか、が大切なんじゃない)」

「(私は、今のなっちがとっても好き)・・・と言っています」

 紺野はその手話を「翻訳」して皆に伝えていたが、なんだか照れ臭くもあり、
心にジン、響くものもあったりと複雑だった。


【86-安倍】END
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