おっ、いつのまに…。
惚
sage
132 :
第二章:02/10/23 23:35 ID:j57aW2/J
(3)
矢口真里は、モーニング娘。についてよく知らない。だが、テレビ番組に映る彼女たちからは、素朴
な印象を持っていた。保田圭と市井紗耶香の二人も似たようなものだった。ブラウン管の中のモーニン
グ娘。には、概ね好意を抱いていた。
だが、実際に対面してみるとその印象は一変していた。
モーニング娘。のメンバー五人の顔貌に変化があったのではない。オリジナルメンバーの矢口たちを
見る眼が尋常ではなかったのである。
とにかく氷のような冷たさだった。
133 :
:02/10/24 04:17 ID:7tpziBMg
ほ
ho
136 :
ゴマ乳:02/10/30 17:02 ID:ffZW7GGB
ハァハァ
あ
138 :
第二章:02/11/04 05:50 ID:iCgKGR6J
(5)
翌日も仕事である。たまりかねた追加メンバー三人は、オリジナルメンバー一人一人の下に出向き、
改めて挨拶をした。その上で、三人の中では最年長の保田圭が、自分たちは芸能界に飛び込んだばかり
であり、技能も礼儀も未熟であることを率直に語り、歌やダンス、そして芸能界の仕来りなどを教えて
くれるよう、頭を下げて頼んだ。返ってきた答えは、にべもない拒否だった。私たちはご縁があってた
またまあなた方より先にこの世界に入ったが、まだまだ未熟で修行中のみであるから、人様に教えられ
ることなど何もない。仮にあったとしても、下手に教えてあなた方を駄目にしてしまってはスタッフの
皆さん、ひいてはファンの皆様に迷惑をかける。私たちが中途半端なことを教えるよりも、スタッフに
直接訊いたほうが正確だし、あなた方のためになる。だからこの件はご容赦願いたい。五人が五人、揃っ
てそう云うのであった。
一応理屈は通っているが、矢口たちは嘘だと直感した。五人の眼が揃って冷たいのだ。せせら笑って
いるような気配すらある。理解できなかった。自分たちがオリジナルメンバーを怒らすようなことはし
た筈がなかった。そもそも初対面から二日目である。悪意の対象になる理由がなかった。むしろ、先方
がこちらに気を遣っているとも考えたが、それにしても眼の冷たさが尋常でない。
139 :
第二章:02/11/04 05:51 ID:iCgKGR6J
(6)
矢口たちは途方に暮れて、愚痴をこぼすしかなかった。
「あそこまで冷たかったなんてね……」
「怖かった……。あの人たちとなんか一緒にやって行けないよ」
「私たちにはどうしようもないよ。あの人たちとの間に大きな壁が出来ているから……」
愚痴など云っても始まらないことは、よく判っていたが、自分たちなりに最善の努力をした上でも事
態が変わらない以上、不満を口にでもしないとやりきれなかった。
「明日は明日の風が吹く……かも」
「吹けばいいけどね」
「やれることはやってみようよ。無駄かもしれないけど」
「そうだよね。明日こそ口を聞いてもらえるように頑張ろう」
だが、次の日も、追加メンバー三人は、五人に碌に口を利いて貰えなかった。
その次の日も、その又次の日も、更にその又次の日も、五人は三人を相手にもしようとしなかった。
140 :
第二章:02/11/04 05:52 ID:iCgKGR6J
(7)
そんな三人を労わるつもりだったのだろうか、マネージャーの和田薫は矢口たちを呼び出してねぎら
いの言葉を掛けている。オリジナルメンバーが冷たく感じられるかもしれないが、彼女たちも悪意があ
って君たちにそう接しているのではないから、どうか耐えて欲しい。増して、自分たちに原因があるの
だと思い込むのはやめて欲しい。遠くはない日に、このギクシャクした雰囲気も打ち解けるであろう。
否、モーニング娘。八人が一致団結しなければ、このユニットの明日はないのだ。
更に和田は続ける。
「五人が君たちに冷たく当たるからといって、君たちに非があるんじゃない。理由は、むしろあの子た
ちの境遇にあるのだ」
追加メンバーたちは無表情でマネージャーの次の言葉を待つ。
「君たちもテレビで見て知っていたと思うが、そもそもあの子たちは好んで今の仕事をしているわけで
はないのだ。自ら志願してモーニング娘。になった君たちとは違ってな」
141 :
第二章:02/11/04 05:53 ID:iCgKGR6J
(8)
モーニング娘。はオーディションの落選者を集めて結成されたユニットである。
1997年の春、あるテレビ番組の企画で『シャ乱Q女性ロックヴォーカリストオーディション』なる企
画が告知された。後にアイドルユニット・モーニング娘。のオリジナルメンバーとなる安倍なつみ、飯
田圭織、石黒彩、中澤裕子、福田明日香はこのオーディションに応募した。五人は音楽が、ロックが好
きで、歌唱にはそれなりの自信があった。そして、五人は苦もなく最終選考まで勝ち残った。全国約一
万人の応募者から選ばれた11人の最終候補者の枠に残ったのだ。
11人の誰もが、よもや自分が受かるはずはあるまい、と思っていた。だが、ここまで来ると欲が出て
くる。あわよくば自分が合格するかも、と内心では微かに期待していた。何しろ、合格者は大手レコー
ドレーベルからデビューでき、日本武道館でライブを催せるのである。自分が受かることはないだろう
が、合格する可能性はゼロではないだろう。
さっき確認したら、(4)が欠落していましたので、補充しておきます。
143 :
第二章:02/11/05 07:10 ID:D/kuYpv/
(4)
矢口たちもそれなりの覚悟はしていた。
前夜三人で宿泊したホテルで話し合った結論は、口を利いてもらえなくても頑張ろうね、だった。な
るほど、自分たちが逆の立場、すなわち既存のメンバーとして追加メンバーを受け入れる立場ならば、
やはりいい気にはなるまい。多少は冷たくされても仕方がないのではないか。
そう、あくまで、多少は冷たくされても、だ。
ところが実際に対面してみると、五人のオリジナルメンバーたちは実に素っ気なかった。あたかも自
分たちのことなど歯牙にも掛けていないかのようだ。
事実、オリジナルメンバーの一人・中澤裕子は当時を振り返ってこう証言している。
「三人の印象ですか?ないです。何も思わなかった」
さらに中澤は続ける。
「心配はあったんですけど、仲良くなる必要はないと思ってたから……」
他の四人も似たようなものだった。自分たちなど意に介す気もないらしい。
ヽ(`Д´)ノ ユーチャソコワイヨウワァァン
保全。
今日初めて読ませてもらいました。
硬質な感じの文章が読む事を集中させて一気読みしてしまいました。
リアルな話なのか虚構的な話なのか自分には判断できませんけど、とても面白かったです。
もしかしたらあの作者さんかな?と思いつつ保全
147 :
第二章:02/11/14 05:54 ID:WvpPFeQ3
(9)
『日本武道館』が候補者たちを狂わせたといっていい。日本武道館は、多くのアーティストたちがこ
こでのライブを目標にする場所である。いわば、アーティストたちの聖地である。日本武道館でライブ
を催せるということは、一流のアーティストの一員と見なされてよい。彼女たち一人一人は、日本武道
館の満員の観衆を前にして熱唱する己の姿を空想のうちに描いて、ほとんど陶然としていた。
とりわけ安倍なつみにはこの思いが強かった。このオーディションでは、候補者たちに歌の発注を出
し、そのVTRチェックを行い、発注とVTRチェックを繰り返す中で徐々に候補者を絞り込んでいく形式を
とっている。ところが、安倍の第一回目のVTRチェックを行っていた選考委員の面々は意外な結論を出す。
「安倍ちゃんは即決勝」
つまり、安倍なつみは、発注とチェックという段階を省略していきなり最終選考候補者となった。全
国約一万人が参加したこのオーデションで、このような扱いを受けたのは安倍なつみ一人だけである。
結果、最終合格者となる平家充代でさえ、これらの段階を一歩一歩踏んでいる。
安倍が狂うのはむしろ当然ではないか。
148 :
第二章:02/11/14 05:55 ID:WvpPFeQ3
(10)
そんな安倍たちの思いとは裏腹に、『シャ乱Q女性ロックヴォーカリストオーディション』のナレー
ションは非情に最終選考の結果を伝えていた。
「……というわけで、平家充代いかがでしょうか?」
このオーディションの最終合格者には、三重県の高校生・平家充代が選ばれた。中澤も、石黒も、飯
田も、福田も、そして安倍も、日本武道館で歌わせては貰えなかった。
合格者の平家充代(のちに『平家みちよ』と名乗る)は、いかにも日本武道館にふさわしかった。声
質・声域・声量・技術・そしてロックへの適性。どれをとっても、最終選考候補者11人の中で抜群だっ
た。平家はロックヴォーカリストとしての才能に溢れていた。
そんな平家と比較すると、落選者たちはロックヴォーカリストとしては何枚も格落ちだ。
飯田は音感に問題がある。石黒は発声におかしな癖がついている。中澤と安倍は声質が優しすぎてロ
ック向きではないし、声量が足りない。福田には、先に挙げた四人のような問題は見当たらないが、彼
女は当時中学一年生、ロックヴォーカリストとしてはいかにも幼すぎた。
厳しい現実を突きつけられた。ショックだった。泣きたくなった。自分の実力で、日本武道館にて歌
えると、たとえ一瞬でも思っていた己が愚かしかった。五人が五人とも、そう思った。
なっちにそんな過去が・・・この先が楽しみっす。
今思えば福田が一番ロックだったな・・・
ほぜん
152 :
第二章:02/11/20 18:24 ID:iUcKrhTt
(11)
合格者が平家充代と決定した日(正確にはオーディション合格者発表の収録が行われた日である)の
深夜、和田薫は上司たる芸能プロダクション社長(当時の肩書)・山崎直樹にある事項を伝えに来てい
た。山崎が経営するアップフロント・エージェンシーは平家が所属する予定のプロダクションである。
「テレビ局側にこちらの条件を飲ませることが出来たか?」
「はい。八割方はこちらの予定通りになりました」
「八割?何か通らなかった条件があったのか?」
「いいえ。こちらの要求はすべて通りました。プロデュース方針・プロモーション費用の按分・起用す
る人材すべて社長の構想通りでございます」
「うむ。平家のデビューを日本武道館ライブで華々しく飾る。一万人の観衆の前で『GET』(オーディ
ション当時から決定していたデビュー曲)を熱唱する。その動員をテレビ局の招待で賄えば、こちらの
懐は傷まないで済む」
「日本武道館公演は如何にやり繰りしても赤字になるのが通例でございますれば……」
「そうだ。だが、タレントに『箔』を付けさせるのに日本武道館ライブほど効果的な手段もない」
153 :
第二章:02/11/20 18:25 ID:iUcKrhTt
(12)
山崎の口上は続く。
「『日本武道館』で勢いを付けた平家が、洋楽ポップスの名曲〜例えばカーペンターズあたり〜をカバー
すれば世間の注目を集めるのは確実だろう」
「さようでございます。平家ならば実現できるでしょう」
「そして、アップフロントとテレビ局側の叡智を結集したファーストアルバムで、日本中の音楽ファン
を魅了する。こうすれば、平家は一線級アーティストの仲間入り、アップフロントも安泰なのだ。それ
をテレビ局の金と人で実現できるのだから、これほど喜ばしいこともない」
「おっしゃる通りでございます。社長の条件はすべて受け入れられました」
「条件は100%ではないか。何の問題もない。残りの二割など存在しないぞ」
「残りの二割というのは……向こうが提示した新規の条件でして……こちらとしては受け入れ難いもの
でしたが、平家の条件をすべて認めるという代償として認めて欲しいといわれましたので……」
和田が山崎の前で言葉を濁らせるのは、余程の場合に限られる。この二人の関係は上司と部下と云う
よりは親友同士に近いと、先に書いた。だから、このテレビ局が新規に追加した条件は、山崎と和田に
とって、相当の不利益が見込まれるに違いない。
「新規の条件とはまさか……」
「そのまさかでございます」
154 :
第二章:02/11/20 18:26 ID:iUcKrhTt
(13)
「落選者の安倍なつみを使って何かをせよ、というのが先方の要求だな?」
「厳密には、落選者十人を集めてユニットを結成して欲しいのだそうです。勿論、安倍は中核をなすメ
ンバーです」
「オーディションの選考過程で安倍なつみ一人だけ特別待遇するのを見て、嫌な予感がしたのは、虫の
知らせだったのか……」
「今になって思えば、テレビ局の指示でいびつな選考が行われたのが、伏線になっていたのですね」
「それにしても、十人か……。いかにも多すぎる」
「十人全員でユニットを結成できるとは思えません。わたくし、この打診を受けた直後に、安倍家を秘
密裏に説得することには成功したのですが、他の九人については依然交渉中でして……」
「さすが君だ。テレビ局の意向としては、安倍中心のユニットを作りたいのだから、要求の半分以上は
既に満たされていよう」
「引き続き、残りの落選者たちとの交渉にあたります」
「残り数日しかないが、健闘を祈るよ」
山崎に一礼すると、和田は社長室から立ち去り、無人のオフィスへと向かった。
155 :
第二章:02/11/20 18:33 ID:iUcKrhTt
(14)
このオーディションは、福岡・東京・大阪・札幌と全国三会場で実施され、三会場から候補者が選出
された。栄冠に輝いた平家(三重県在住である)は大阪会場で受験した。
オーディションを最終選考まで勝ち進みながら、力及ばず落選したのは、以下の十人である。
福岡会場からは、青木朗子(20)OL・松本弓枝(19)専門学校生・高口梓(18)フリータの三人。
東京会場からは、河村理沙(16)高校生・兜森雅代(19)フリーター・福田明日香(12)中学生の三人。
札幌会場からも三人で、安倍なつみ(16)高校生・飯田圭織(15)高校生・石黒彩(19)短大生である。
大阪会場からは、中澤裕子(24)OL一人が枠に残った。
この数日間、和田薫は目まぐるしく動いた。日本中に散らばっている落選者たちの説得(ただし、本
人に知らせず家族やそれに準ずる人と交渉にあたったのである)に奔走した。一日で東京と福岡を二往
復したこともあった。
だが、これらの落選者たちのうち、和田の説得に応じたのはたったの五人であった。
福田明日香・中澤裕子・飯田圭織・石黒彩・安倍なつみ。
この五人で新ユニットを結成することになった。
156 :
第二章:02/11/20 18:34 ID:iUcKrhTt
(15)
テレビ局の設定した期限の日になった。
「もう少し集めることは出来なかったのかね?」
山崎は和田を詰るようにいう。
「申し訳ございません。青木は人妻ですので、旦那の許可が得られませんでしたし、他の四人も学校や
職場の都合があるのです」
和田が答える。
「高口と兜森はフリーアルバイターではないか」
「彼女たちは職場ではリーダー的存在なのです。アルバイトたちを束ねる、いわば副店長でして、この
副店長を引き抜くのは並大抵では行きません」
「仕方がない。この五人で行こう。それにしても、中途半端な人数だ」
「五人は演技が宜しゅうございます。ビートルズは結成当時五人でした。ローリングストーンズも五人
ですし、最近では、イギリスのアイドルユニット・スパイスガールズもそうですし、日本ではチューリッ
プや……」
「シャ乱Qを忘れているぞ」
シャ乱Qはこの事務所に所属するバンドである。平家をプロデュースするのは、このシャ乱Qである。
「ははは。これは失礼しました」
「わっはっは。君らしくないなあ。元マネージャーじゃないか」
部屋中に二人の哄笑が響いた。
157 :
第二章:02/11/20 18:35 ID:iUcKrhTt
(16)
「そのマネージャーの件だが、新ユニットのチーフマネージャーは君に任せたい」
山崎は再び真剣な表情に戻っている。
「わたくしは平家の担当ではないのですか?」
「当初の予定では、私も、君を平家付けにして万全の体制を敷こうと思った。ところが、ぽっと出た新
ユニット結成だ。メンバーのご家族を説得した縁もあるし、このユニットのマネージメントは君が適任
だろう。それに……」
和田は山崎の言葉を待つ。
「それに、平家はどの道成功するだろうから、君の力を使うまでもないと思うのだよ。だが、新ユニッ
トが成功する可能性は、正直なところ、私にも見込めない。その状況を君の敏腕で何とかして欲しいの
だよ」
「わかりました。不肖、わたくし、尽力いたします。では、失礼させて……」
「待て!」
158 :
第二章:02/11/20 18:37 ID:iUcKrhTt
(17)
「新ユニットのプロデュースは寺田君にさせたい。彼を説得して欲しい」
寺田とは、シャ乱Qのボーカル・つんくの本名である。
「寺田君ですか?彼はシャ乱Qの活動に専念したいようですから、一筋縄ではいかないと思われます」
「心配は無用だ。彼は応じてくれるはずだ」
「社長には勝算があるのですか?」
「あるとも。シャ乱Qの楽曲を作っているのは、主に寺田君と畠山君(シャ乱Qのギター・はたけの本名)
だが、乱暴な言い方をすると、寺田君の曲は歌謡曲調で、畠山君の曲はロックそのものだ。その音楽性
の違いは、近い将来に空中分解を引き起こす原因になりかねない」
「しかし、その危うさがシャ乱Qの魅力です」
「問題はシャ乱Qだけじゃないのだよ。平家のプロデュースはシャ乱Q全体に任せているが、早晩、畠山
君一人がプロデュースを担当することになるだろう。平家はロック歌手だが、寺田君にロックは書けな
いのだからな。そうなると、畠山君の一人勝ちとなり、空中分解を促進しかねない」
「では、シャ乱Qのガス抜きのために、寺田君を新ユニットのプロデューサーに据えると?」
「そうだ。それに、新ユニットは歌謡曲路線ですすめようと思っている。ロックには適性のない連中だ
からな。そんな彼女たちには、やはりロックには向かない寺田君が適任だろう」
159 :
第二章:02/11/20 18:40 ID:iUcKrhTt
(18)
「彼女たちは捨て石ですか?」
和田は云う。
「そうさせないのが君の仕事だ。若いタレント五人を雇うと、給料やら家賃やらすべて含めて月500万
円ほどの経費が掛かる。その金額は、平家のプロモーション費用だと考えれば安いかもしれない。しか
し、一旦雇用したからには、彼女たちもアップフロントのタレントだ。それなりに働いて貰わないと困
る」
ここで山崎は一呼吸置く。
「時に、アップフロントの企業哲学は何かね?」
山崎は和田の頭脳に叩き込まれている筈のことを問う。
「『若い時が花なタレントは悲しい、30歳になっても現役でいられるタレントにならねばいけない』で
す。」
当然のように和田は即答する。
「その通りだ。彼女たち五人が、30歳の誕生日をアップフロントのタレントとして迎えるようにしてく
れよ。現時点では厳しいかもしれないが、君の努力次第で何とかできる筈だ。そのために、アップフロ
ント一の辣腕マネージャー・和田薫を新ユニットのチーフマネージャーに任命した」
「そこまでおっしゃるのでしたら、わたくしも最大限に努力致します。まず第一弾として、寺田君の説
得に行きます」
160 :
第二章:02/11/20 18:42 ID:iUcKrhTt
(19)
<途方もない話だ>
新ユニットのメンバーが30歳になるまで現役でいさせろ、というのだ。最年長の中澤裕子(24)が30歳
になるだけでも6年掛かる。まして、年少のメンバーがその年齢になることを考えたら、気が遠くなり
そうだ。例え、自分が説得に成功してプロデューサー・つんくが素晴らしい楽曲を提供したとしても、
例え、マネージャーの自分が持てる力を最大限に発揮して(今まで培った人脈を駆使して営業に励むな
どして)も、彼女たちは持ち堪えて半年、あとは多くの泡沫タレントのように、この世界から退場を余
儀なくされるだろう。和田が今まで手掛けてきたタレントは悉く成功したが、今回ばかりはとても大成
する見込みがない。正直云って、引き受けたくない仕事だった。だが、敬愛する山崎が彼女たちをよろ
しく頼むという以上、和田は全力を以って新ユニットのマネージメントにあたるしかない。
「俺はやるぞー!!新ユニットで天下を取ってやる!!」
両の拳を振り上げ、和田は夜の街に叫んだ。だが、内心は不安だった。天下など取れるとは微塵も思っ
ていなかった。こうでもしないと内なる弱の虫に負けそうだった。
この日に構想された新ユニット・モーニング娘。(この時点ではまだ命名されていないが)が大成長
して、アップフロントの大黒柱になるとは、そしてこのユニットのメンバーから、芸能界を震撼させる
人物が次々と輩出されるとは、和田にも、山崎にも、そして日本中の芸能関係者誰にも想像すらできな
かった。
遅々として進みません。この小説は年末までには、いや、新メンバー加入までには、
それでも駄目なら、( `.∀´)脱退までには完結できるかしら。
先の話になりますが、この小説には6期メンバーは登場しない予定です。
別に私が新メンバー加入反対派だからではなくて、6期メンバーが存在すると、
プロットを大幅に変更する必要が出てくるからです。それにキャラがわからない時点で
小説にする蛮勇は持ち合わせておりません。あしからず。
162 :
161:02/11/20 18:59 ID:v6wGHB+I
IDが変わってしまいました。作者は私です。
大量更新━━( ●´ー`)゜皿゜)`.∀´)^◇^)´Д`)^▽^)0^ー^)‘д‘)D`)’ー’川`▽´∬o・-・)・e・)━!!
気長に待ってます
読者1
今一番気になる小説
保田
全部
167 :
第二章:02/11/26 01:06 ID:VgdrH6j4
(20)
朝が来た。
石黒彩は自然に目覚めた。
<平家さんに負けたのだから、仕方ないな>
オーディション落選のショックも和らぎ、今となってはこの現実を受け入れられる。
歌も頑張った。ダンスも頑張った。けれども、平家は全部自分以上だったのだから、認められる。過
ぎたことだ。これからは私の日常を頑張ろう。そう思い、洗濯をはじめる。
洗濯物を全自動洗濯機に押し込み、洗剤を投入し、洗濯機を作動させると、遅めの朝食を作る。六つ
切りの食パン二枚に、スクランブルエッグとシーザーサラダ。軽く焼いたベーコンも添えた。予め沸か
しておいた湯を、ティーバッグをセットしたモーニングカップに注ぎ、紅茶を作る。スティックシュガー
は一本半。これ以上多いと甘すぎるが、これ以上少ないと物足りない。
<芸能人はもっと豪華な朝ご飯を食べているのかな?>
食パンにイチゴジャムを塗りながら、石黒は、一流ホテルで出されるようなイングリッシュ=ブレッ
クファストを食べる己の姿を空想した。今朝のメニューにヨーグルトとチーズが加わり、その上シリア
ルもつく。しかも、食材は更に良いものを使っている筈だ。
電話が鳴った。空想の世界から現実に連れ戻された。
168 :
第二章:02/11/26 01:07 ID:VgdrH6j4
(21)
電話の主は意外な人物からだった。
「わたくし、『シャ乱Q女性ロックヴォーカリストオーディション』の担当ですが、彩さんはご在宅で
しょうか?」
「本人です」
「では、用件を伝えますね。何があるか、現時点では申し上げられないのですけれど、今月の20日に東
京へお越し願えないでしょうか?」
「は、はいっ」
石黒は驚きのあまり、返事をまともに出来なくなっている。
「もう一つお願いがあるのですけれど、よろしいでしょうか?」
「はっ、はい」
「東京に呼ばれたことを他の参加者には絶対に言わないでください」
169 :
第二章:02/11/26 01:11 ID:VgdrH6j4
(22)
通話中だった。
暫く経ってから掛け直そうと思い、朝食の続きをとっていると、向こうから電話が来た。
「飯田です。飯田圭織です。お元気でしたぁ?」
石黒と飯田はともに北海道・札幌市在住である。やはり北海道の室蘭市に住む安倍なつみを含めた三
人は同郷の誼もあってか、気が合い、最終選考落選後も、何かあったら連絡しよう、と約束しあうまで
になっていた。
「彩っぺにはなんか変わったこと起きたぁ?」
「起きたよ。番組の人から、東京に来いって言われた」
石黒は嘘や隠し事の出来ない性格である。しかも、例え二部の理しかなくても、先にした約束を優先
して守るタイプだ。だから、番組スタッフに上京の件を口止めされていたが、飯田たちとの約束が先な
ので、飯田にありのままを話した。
「いいなぁ、彩っぺ。よかったね。圭織には何も連絡がなくってさ……」
石黒は若干気まずさを覚えた。だが、約束をした時点で、こういう事態は考えられたのだから、やむ
を得まい。
飯田との電話が終わると、石黒は安倍なつみに電話を掛け、飯田に話したのと同じ内容を伝えた。や
はり、同じような気まずさを覚えた。
約束をしたことを少し悔やんだ。
170 :
第二章:02/11/26 01:12 ID:VgdrH6j4
(23)
ほんの数十分だけ時を遡る。
実は、石黒が飯田宅にその日はじめて電話したとき、飯田は安倍と通話中だった。
「もしもし、なっちです。圭織には変わったこと、あった?」
(『なっち』は安倍なつみの愛称である)
「なかったよぉ。なっちは?」
「全然ない。やっぱり何もないね?しょうがないね」
二人とも、番組スタッフから上京するように云われていたが、その件については、お互いが全く喋ら
ないでいた。
石黒が上京組に含まれていることだけは、のちに石黒本人からの連絡で知ることになる。
だから、安倍と飯田は、上京して番組スタッフの元へ一堂に会した時、互いに対して、そして石黒に
対してかなり気まずい思いをすることになる。それはそうだろう。ここにいない筈の自分がここにいる
のだから。
当時を振り返って、石黒は苦笑しながら話す。
「いやあ、世の中、ウソつきが多いんだなって思いましたよ」
171 :
第二章:02/11/26 01:54 ID:+u9XHycq
(24)
約束の日が来た。番組スタッフから召集された五人はスタジオに集合した。
いささか気まずい空気に包まれながらも、彼女たちは尋常ならざる不安を抱いていた。
特に、最年少の福田明日香は極度の緊張状態にあった。
これから何が起こるかはわからないが、ここにいる五人で何かをせよ、というのは間違いない。中学
一年にして、年上ばかりの集団に放り込まれた少女の心理は容易に想像できよう。だが、福田を不安に
させる原因はそれだけではない。
<私とは背負っているものが違う>
これが、自分以外の四人に対して福田が受けた印象だった。彼女たちには、自分にはない匂い〜地方
出身者が放つ故郷の匂いとでも云えばいいのか〜が感じられる。
172 :
第二章:02/11/26 01:55 ID:+u9XHycq
(25)
福田以外の四人は地方出身者だった。中澤は京都府出身で、石黒と飯田そして安倍の三人は北海道で
生まれ育った。四人とも、いざとなれば故郷を捨てる決心を固めているだろう。
四人は故郷から離れ、東京で成功しようと体一つでやってきた。家族とも、友人たちとも、場合によ
っては恋人とも、別れてきたのだ。そんな四人の情念は全身に滲み出ている。自分は四人に呑まれるか
もしれない、そう福田は思った。
自分は、平家にこそ負けたが、いまテレビ局スタジオで同席している四人には歌で負ける気がしない。
それでも、気持ちの張りという点で、自分は四人に勝てないのではないかと福田は思っている。四人は
故郷を捨てて、単身で勝負しようとしている。そこに甘えはない。
だが、東京の区部(大田区)で生まれ育った福田にとって、故郷というものを意識したことはなかっ
た。今暮らしている町が故郷であり、友人たちも同じ土地に住み、家に帰れば家族がいる。福田にして
みれば、故郷は空気のようなものだった。そこに隙が生じる。これが自分の弱みになるのではないか、
と福田は危惧しているのだ。
<故郷を背負っている女たちとたたかうのか>
こう思うと、福田明日香は気が重たくなるばかりだった。
保全
田
保
175 :
.:02/12/01 14:48 ID:h8gv6lej
田
圭