終末時計

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51名無し娘。
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 家中の者はあっけにとられていた。娘のからだつきをよくよく見れば梨華だが、話す言葉やしぐさは
真里そのものである。父親は問いつめた。
「おまえはもう死んでしまったはずなのに、どうしてこの世にもどって人を惑わすのだ」
「あたしは死にましたが、冥土のお役人さまはあたしには罪はないからとおっしゃって、捕らわれの身
にはならず、冥土の国のお役所の文書係りをしていました。あたしのこの世の縁はまだ切れておらず、
とくに一年の休暇をちょうだいし、この世にもどって芦さまとのご縁を結びおおせました」
 父親は、その切々たる訴えを聞いて胸をうたれ、これを許した。すると娘の霊はいずまいを正し、拝
礼して感謝し、さらに青年の手を握ってすすり泣き、別れを惜しんだ。
「父も母も許してくれました。あなたはうまいぐあいにお婿さんになれて、新しい奥様ができたからと
いって、古いおいらを忘れてはいやだよ」
 そう云い終わると、身も世もなく泣きくずれると床に倒れた。見るともう死んでいた。あわてて薬を
煎じて飲ませると、やがて息を吹きかえし、病気はけろりと治り、起居振舞いももとどおり、以前のこ
とを尋ねてもまったく知らず、まるで夢から覚めたような調子であった。
52名無し娘。:02/08/31 07:35 ID:eqk2sAoI
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 こうして、吉日を選んで芦の息子と婚礼を挙げた。青年は真里の情に感じ、例のかんざしを売って銭
を得、そのすべてをはたいて線香、蝋燭などを買いととのえ、僧侶をやとって、三昼夜にわたって祈祷
して真里の真情に報いた。すると、真里の霊がまた青年の夢枕に立ち、
「あなたに供養をしていただき、いまでもお情けをおかけくださり、三途の川を挟んではいますけど、
ありがたさ身にしみて感じています。妹は気立てのいい娘、どうかよろしくお願いします」
 と語った。青年ははっと目を覚ました。それきり真里の霊は二度と現れなかったという。さても不思
議な話ではないか。

=完=