終末時計

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48名無し娘。
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 これを聞いた矢口は驚いた。
「うちの娘は病の床に伏したまま、もう一年になろうとしておる。お粥さえ咽喉を通らず、寝返りをう
つにも人の手を借りる始末、どうしてそんなことがあろうか」
 青年は、家門の恥が人の耳にはいるのを恐れて、そんなうそをついているのだと思い、
「いま梨華はあちらの旅籠におります。籠をやって連れてこさせてはいかがでしょうか」
 と云った。矢口は信じかねていたが、それでもともかく下僕をやってたしかめさせた。下僕が行って
みると誰もいない。それを聞いた矢口は青年を、でたらめもいいかげんにしろ、となじった。そこで青
年は袖の中から例のかんざしを取り出し、矢口に手渡した。矢口はそれを見てびっくりして言った。
「これは死んだ真里の棺の中へ入れて埋葬したものだ。それがどうしてここに」
49名無し娘。:02/08/30 08:08 ID:bQC1qwEC
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 事情がのみこめずにいると、そこに梨華が床から起き上がり、まっすぐに広間にやってくると、父に
拝礼して云った。
「真里は幸薄く、早く父上のおそばを離れて、遠くさみしい墓地へ葬られました。でも、芦家の若様と
のご縁が切れることなく続いていました。いまここにまいりましたのは、ほかでもありません。ただか
わいい妹の梨華に後添いになってもらえればと思っています。もしあたしの望みを叶えていただければ、
この病気はすぐにでも治ってしまうでしょう。おききいれいただけなければ、あたしの命はこれまでです」