終末時計

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111第一章

(9)
<終わりか>
 AIは絶望し、部屋に戻るとすぐ寝込んだ。矢口が部屋に駆けつけたが、AIは知らない。今日までの疲
労が一気に発したかのように、只もう眠りこけた。頬をげっそり落ち窪ませて只もう眠りこけた。まる
で黄泉の国に呼ばれているかのようだった。

<ここまで追い詰められていたのか>
 AIの寝顔を見ながら、矢口はそう思った。あの時、彼女の望み通りにすればよかった。そうすれば、
ひょっとしたらユニット・ミラクルボイスの構想は潰えるかもしれないが、AIが声を失うことはない。
だが今となっては後の祭りである。
112第一章:02/10/04 19:19 ID:JGpilpss

(10)
 ミラクルボイスの二人が老ボイストレーナーの元に付けられてから数ヶ月たった頃、AIは一勝負に出
る。社長の矢口に直訴するためである。
 RIKAに差を付けられて焦っていたせいもある。老トレーナーの視線が冷たい気がするせいもある。そ
して何より、本人が歌手としての才能に限界を感じていた。とても歌で食っていく気にはなれなかった。
こんな声なのに歌が巧いと思っていた自分が羞ずかしかった。こんな自分では矢口の役には立つまい。
迷惑を掛けるばかりだ。

 矢口の仕事場のドアをノックしても返事がない。不躾だと思ったが、ノブを回すと、あっさりドアが
開いた。
 女社長は詞を書いていた。机の片隅にはカップラーメンの空容器が無造作に積まれ、床にはペットボ
トルが散らかっていた。