同時刻・成田空港・国際線ロビー
>>おかけになられました番号は現在電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないためかかりません。しばらくたってから、もう一度おかけ直しください。
「圭ちゃん、仕事中かな。かからないや」
彼女は電話を切った。
何年ぶりだろう。
成田空港もあのころから、随分雰囲気が変わっている。
彼女はポケットから金貨を取り出した。
「ありがとう、圭ちゃん、私、日本に帰ってきたよ」
掌に乗せて金貨を見つめる。
浮かぶ保田の笑顔。
「あ、」
人ごみで誰かが肩にぶつかった。
はずみで金貨が床に転がる。
「あ、待って!」
彼女は転がる金貨を追いかけた。
数メートル転がって金貨は女性の足元で止まった。
その女性は金貨を拾い上げる。
「あ、ありがとうございます」
しかし、差し出された女性の掌には金貨が2枚あった。
彼女が持っているものと同じ、ハルギスタンの金貨。
「え?」
思わず顔を見る。
背の高い女性。
スタイルの良さはコート越しにもわかる。
長い髪、心地良い香水の香り。
彼女はゆっくりとサングラスをはずした。
「明日香!?」
「圭織!?」
「どうしてここに!」
二人は同時に叫んだ。
++++++++++ ++++++++++ ++++++++++ ++++++++++ ++++++++++
同時刻・茨木,福島県境付近の町・CATV局製作部オフィス
仕事中の紺野の携帯がまた鳴った。
「あ、はいはい」
そう言いながら、発信者の名前を見てまた驚いた。
「も、もしもし、紺野です」
「あ、紺野さん。福田です、お久しぶり。この前はありがとうね。
おかげで圭ちゃんと会うことができたわ」
電話の主は福田明日香だった。
「今、成田に着いたとこなの、また圭ちゃんと連絡とりたいんだけど、どこにいるかわかる?」
「に、日本に帰ってらっしゃるんですか?」
「ええそうなの、それとね……」
「おーい、紺野」
急に別の声に変わった。聞き覚えのある声だ。
「え、え?」
「何驚いてるのよ、私よ、ワ・タ・シ」
「リ、リーダー?」
声の主は飯田圭織だった。
「当り、驚いた?」
「お、お二人一緒なんですか?」
「うん、成田でね偶然会ったの。
でね、今から二人で圭ちゃんに会いに行こうと思ったんだけど。
携帯の電源切ってるみたいで連絡とれないのよ。
”そういう時は紺野に聞け”って明日香が言うから、
っていう訳で、何処にいるか知ってる?」
「あ、あのー保田さんは今、後藤さんのお見舞いに『赤牟療養所』にいると思います」
「後藤の……」
電話の向こうで飯田のテンションが下がったのがわかった。
「今からいくわ」
飯田の決心が伝わってくる。
「え?」
「今から明日香と二人でごっちんところに行ってみる。
赤牟だったらここからすぐだし。
一回もお見舞いに行った事なかったから、丁度いいわ。
ありがとうね、紺野」
「あ、あの……」
そう言い残して飯田は電話を切った。
(いつもそうだ)
紺野はつぶやいた。
(リーダーはこうと決めたらすぐ突っ走っちゃうんだから)
「こうしちゃいられないわ」
紺野は携帯の小川の番号のメモリーを呼び出した。
「もしもし、マコちゃん、今どの辺?」
「え、さっき静岡出たとこ」
「東京駅で待ってて!
私、今からそっちに向かうから」
「え、どうして?」
「リーダーが、飯田さんが日本に帰って来てるの。
福田さんと一緒なんだって。
保田さんがね、
後藤さんのね」
「ちょっと、コンコン何言ってるか全然わかんないよ」
「と、ともかく行くから、行ってから説明するから」
そう言って携帯を切った。
すぐに上司のデスクに向かう。
「部長!」
「な、なんだね」
「わたくし、今からどうしても行かなければならない取材先ができました。
今から行ってきます」
「おいおい、取材って?」
「今日はもう帰らないかもしれません。後はよろしくお願いいたします」
ぺこりと頭を下げて、彼女は取るものもとりあえずCATV局を飛び出した。
また携帯が鳴る。
「あれ、誰だろう」
ディスプレイに表示される名前
「えーっ!!」
++++++++++ ++++++++++ ++++++++++ ++++++++++ ++++++++++
同時刻・赤牟総合病院
曽根崎なつみは体の痛みで目を覚ました
明け方近くまで腹痛に苦しんでいた、娘のなつきはやっと薬が効いたのか、すやすやと眠っていた。
夫の幸仁はソファーで眠っている。
彼女はなつきのベッドの横で眠っていたようだ。
立ち上がると体の関節がぼきぼきと鳴った。
へんな寝方をしていたようだ、体中が痛い。
筋肉をほぐす為、伸びをしてみる。
幸仁も彼女もなつきの付き添いで早朝まで起きていた。
やっと効きはじめた薬のおかげで、痛みも治まったなつきはぐっすりと眠っている。
彼女は天使の寝顔にそっと頬ずりした。
「今のうち顔でも洗ってこよう」
廊下に出る
昨夜はばたばたしてたのと夜だったのでわからなかったが、ここは随分大きな病院のようだ。
窓の外に広大な敷地と、いくつもの病棟。
「ここは一体何処なんだろう?」
何気なしに窓の外を眺めていると、眼下に数人の人だかりが見えた。
なにかの撮影か、カメラや照明等のスタッフと出演者、それを取り囲む様に見物人がいる。
(ドラマかな? 映画かな?)
「あれ?」
出演者の中に知ってる顔が見えた。
「なんで、みんなここにいるべさ!!」
++++++++++ ++++++++++ ++++++++++ ++++++++++ ++++++++++
しばらくして、赤牟療養所
保田、矢口、辻の3人は後藤の病室の外に出ていた。
「圭ちゃんの歌のおかげだよ。
ここに来る勇気をくれた。
簡単なことなのにね、
ほんのちょっとのことだったのに、その壁を越える勇気がなかった」
矢口は保田の手を握った。
「ごっちんに会おうって、そうしないと何も始まらないんだって、
バカだね私。
今頃になってやっとそれに気がついたよ。
ありがとう、圭ちゃん。ホントに……ありがとう」
「そう言ってくれると嬉しいよ。
この歌を歌うために苦労した甲斐があるよ
実はねレコーディングでね、つんくさんに会ったんだ。
この歌でみんなの魂を動かしてやってくれって」
「私もねやぐっさんと同じなの。
今日、ごっちんのお見舞いに行くの迷ってた。
でも、圭ちゃんの歌で勇気が出たんだよ」
そう、自分がこの歌に出会い、この歌を歌う為に乗り越えた闇。
でもそれは、仲間がいたから、かけがえのない友がいたから
いつも一緒にいた家族以上の存在。
この歌に出会って感じた小さな光。
その光を追いかけてここまで来た。
自分の歌がその闇に小さな光でもさしのべられていたのなら本望だ。
その小さな光が集まれば、闇を追い払う大きな光になれると信じたい。
そしてその光は今、一つになろうとしていた。
「圭ちゃん!真里っぺ!辻!」
振り向くとそこには、中澤、石川、吉澤、加護、新垣、そして安倍の6人が立っていた。
「どうして、みんな!!」
「今日の映画撮影のロケこの隣の病院になったんですよ」石川が言った。
「私は昨夜なつきが腹痛になってこの病院に運ばれたの」と、安倍
チャリン
「あらあら、どうして?みんなお集まりじゃない?」
そして飯田と福田の二人も!
++++++++++ ++++++++++ ++++++++++ ++++++++++ ++++++++++
紺野と小川は少し遅れて赤牟駅に到着した。
路線の終着駅の為、電車に乗っている乗客は全て降りる。
だが相変わらず乗降客は少ない。
「マコちゃん、急ごう。
飯田さん達もう到着してるヨ、きっと」
「そうだね」
二人は走り出した。
何人か降りた客の中に、ひときわ目立っている流行の髪の色の女性が一人。
二人が追い抜かした時、ふわりと髪が揺れた。
やわらかい、シャンプーの香りがした。
「あれ、愛ちゃんの髪の染め方だね」
「流行ってるね、うちの会社にも何人かいるよ」
紺野はちらりと、その女性の顔を見る。
「あれ!?」
紺野は立ち止まった。
「コンコン?」
その女性は紺野に気がついた。
「愛ちゃん!!」
どうやら高橋と同じ電車だったようだ。
「コンコンもマコちゃんもどうしてここに!?」
「愛ちゃんこそ!?」
「私は……後藤さんの、お見舞いに来たんよ」
恥ずかしそうに高橋は言った
いつものキツいメイクでなく普通のメイク姿。
イントネーションはすっかり福井弁に戻っている。
「昨日、番組収録の時にね、保田さんに怒られたんよ。
何やってんだって。
何やってたんだろうね、私……
なんか、保田さんに怒られて色々考えさせられたんよ。
ダメだあ、こんな事じゃあって。
それよか、コンコンとマコちゃんは?」
「私も同じよ、愛ちゃん
昨夜の保田さんの歌を聞いて……じっとしてられなくなったの
保田さんに会いたくて、家出してきちゃった」
小川も恥ずかしそうに微笑む。
「飯田さんとね、福田さんが日本に帰ってきてるの。
多分、もう病院に着いてると思う」
「そうなんだ……
みんな、あの歌に動かされたってこと?」
「うん、それとこれとね」
紺野はハルギスタンの金貨を取り出した。
小川も、高橋も掌に載せる。
ここに新垣はいないが、「娘。」時代はいつもこのメンバーで一緒にいた。
同期でみんな年齢が近いということもあり、一番仲も良かった。
辛い時、嬉しい時、悲しいとき、楽しい時。
いつも一緒に過ごしてきた仲間。
なんか、何年かぶりにあの頃の気持になれたような気がする。
3人は『赤牟療養所』の門をくぐり、後藤のいる病棟に向かった。
後藤の病室前には、沢山の人が、それもみんな見知った顔ばかり。
「えええええええ!!
なんで、皆さんがここにいるんですか?」
3人は驚いて立ちつくすしかなかった。
次々に何かに導かれるように集まる「娘。」
すごい状態だった、ほとんどのメンバーがそこにいた。
中澤・飯田・安倍・福田・保田・矢口・石川・吉澤・辻・加護・高橋・小川・新垣、紺野
ということは?
「み、みなさん、ものすごいことが、ものすごいことが起きます!」
紺野が叫んだ。