765 :
隣の席の紺野ちゃん:
ボクの席のとなりに転校生が来た。
芸能人らしい。北海道から来たその女の子は紺野ちゃんという。
彼女はいつもぼんやりと笑っている。彼女を表現する言葉でみんなが思いつくのはぼんやりとか、ふんわりとか、曖昧な感じの表現だろう。
ボクの思いつく表現もそんな程度だ。自分のボキャブラリィのなさに笑ってしまうけど。
今日はちゃんと授業に出てきている。
たまに早退したり、欠席したりする。
芸能界にまったく興味がなくて、どんなことをやっているかは知らないけど、
766 :
隣の席の紺野ちゃん:03/01/01 19:53 ID:AnUEFmA4
紺野ちゃんはとても人気のあるアイドルグループに入っているらしい。ボクの興味のあることといえば、カーレースとパソコンとゲームだけ。
インターネットも少しするけど芸能人関係にはまったく興味ない。
隣の席にいるボクをみんなうらやましがるけど、芸能人と一緒にいるという感覚はボクにはないので、よく理解できない。
今日の紺野ちゃんは、いつもと違って、ぼーっと窓の外の景色を眺めていない。
一生懸命にノートに何か書いている。
珍しいこともあるものだと、ボクはノートを覗いてしまった。
767 :
隣の席の紺野ちゃん:03/01/01 21:15 ID:WYRLVapg
紺野ちゃんは絵を描いていた。
なんか猫の絵みたいだ。
絵の下に「キティちゃん」の文字が無かったら、とてもそれが「ハローキティ」とは気づかなかったと思う。
ボクの視線に気づいた紺野ちゃんが笑った。ボクは恥ずかしくて、慌てて視線をそらした。
その時、先生が紺野ちゃんの名前を呼んだ。
今は数学の授業だ。ヤバイと思った。
紺野ちゃんが、ゆっくりと立ち上がって黒板を見つめている。
ちょっと下を向いた。もうだめだと思い、同じように下を向いたボクの耳に紺野ちゃんの自信なさそうな声が届く。
768 :
隣の席の紺野ちゃん:03/01/01 21:26 ID:WYRLVapg
「解はx=3です」
先生は忌々しそうに唇の端を曲げると語気荒く言った。
「よし、正解!次、吉田、解いてみろ!」
紺野ちゃんは、とても頭のいいコなんだと思った。
ボクは尊敬してしまった。
すぐ後の給食の時間、デザートに出たイチゴのケーキを食べている紺野ちゃんが、とてもかわいく見えて、ボクは意地悪したくなった。
ボクは横から手を伸ばして上に乗っていたイチゴを横取りすると食べた。
紺野ちゃんの顔がびっくり顔になる。でも、予想に反して笑った。
「イチゴ、嫌いなの。食べてくれてありがとう」
769 :
隣の席の紺野ちゃん:03/01/01 21:32 ID:7wOWZPF9
ふんわりと笑う紺野ちゃんの顔を見つめてボクは確信した。
ボクはこのコに恋しているって。
次の日も、その次の日も紺野ちゃんは欠席した。
コンサートツアーで遠いところにいっているらしい。隣の席のぽっかり空いた机の上がやけに広く見える。
午後から授業がホームルームだけの日、紺野ちゃんは午後から登校してきた。
ボクなら一日休んでしまうのにと思った。
紺野ちゃんが、クラスの女の子たちとなにやら騒いでいる。
自分の席で机に肩肘ついてぼんやりしていると、
770 :
隣の席の紺野ちゃん:03/01/01 21:40 ID:upg7ioZi
紺野ちゃんがいきなりボクのほうへ振り向きざまに蹴りをした。短いスカートが勢いよくひるがえる。
友達に空手の型を見せていたようだ。
真っ赤になったボクと紺野ちゃんの目があった。
紺野ちゃんもみるみる真っ赤な顔になると、みんなを置き去りにして教室から駆けだした。もうすぐホームルームが始まるというのに。
ホームルームが終わってボクはすぐに下校の道へと向かった。
後ろから紺野ちゃんに声をかけられた。
「一緒にかえりませんか?」
はにかむの笑顔の紺野ちゃんが立っている。
771 :
隣の席の紺野ちゃん:03/01/01 21:48 ID:p0yl7M9R
「でも、紺野の家って逆方向じゃなかったっけ?」
精一杯に平静を装ったボクは言う。
「ロケバスが迎えに来るんです。ちょっと場所がわからないので一緒にいってくれませんか?」
とても丁寧にお願いする紺野ちゃんにボクはうなずいた。
一言も話をせずにボクは紺野ちゃんと並んで歩いた。
でも、なんかとても楽しい。
このままロケの現場まで送って行きたいと思う。
突然、紺野ちゃんがつまずく。
ボクに寄りかかってきた。しがみつかれてボクは動けなくなった。
恥ずかしそうな、申し訳なさそうな紺野ちゃんが
772 :
隣の席の紺野ちゃん:03/01/01 21:54 ID:upg7ioZi
とてもかわいかった。
自分の気持ちを抑えきれないボクは自分でもびっくりするぐらいに大胆になった。
紺野ちゃんの手を握って、子どもを案内するように歩き始めた。
振りほどこうと思えば軽くほどけるぐらいにしか握らなかった。でも、紺野ちゃんは振りほどかなかった。
紺野ちゃんの様子を伺った。
ボクの顔を見て紺野ちゃんは恥ずかしそうに笑った。
「嫌じゃない?ボクはとてもうれしい。だって、紺野のこと好きだから」
ボクは思いっきって言ってしまった。
773 :
隣の席の紺野ちゃん:03/01/01 21:59 ID:upg7ioZi
後悔した。やめておけばよかったと思った。
「嫌じゃないよ、私も……」
聞き取れなくなるほど小さくなった紺野ちゃんの声だったけど、ボクにはちゃんと聞こえた。
信じられないぐらいうれしい一言が。
ロケバスが止まって待っているのが見え始めたあたりで、ボクは紺野ちゃんの手を離した。
途端に紺野ちゃんが駆けだした。
後ろ姿を見送っていたボクに紺野ちゃんが振り向いて立ち止まった。
774 :
隣の席の紺野ちゃん:03/01/01 22:04 ID:p0yl7M9R
とても大きく三回ほどボクに手を振ると、とてもかわいい笑顔をくれた。
そして、ロケバスに向かって再び駆け出す。
ボクの隣の席に転校生がきた。芸能人らしい。北海道から来たその女の子は紺野ちゃんという。
いつもぼんやりとふんわりと笑っている彼女はボクのガールフレンドだ。
『隣の席の紺野ちゃん』
終