保田と矢口は、お互い黙ったまま、一本目の木に着いた。
そこには、奇麗な茶色の髪をした少女が座っていた。
「ごっつあん!」
矢口は思わず、駆け寄って抱きしめた。
「うわ、何!?やぐっつあん!?」
それに続けて、保田も二人を抱きしめる。
「後藤〜!あ〜!」
「ちょっとちょっと二人とも!」
二人に抱擁された後藤は、流石に窮屈なので振り払った。
「もう、二人とも無事だった…。」
この現状が無事と言えるのかと思い、後藤の声は小さくなった。
矢口は後藤の言葉にうつむき、二人に問い掛ける。
「私たち…無事…なのかな?」
さきほどまでと同じ沈黙が、三人に訪れる。
この沈黙を破ったのは、後藤だった。
「何か…考えてもわかんないよ。死んでるなら、きっと天使さんたちが
こっちだよー!とか言ってくれると思うし。」
後藤の能天気な答えに、保田は少し突っ込んだ。
「でも、天国じゃないなら、ここは一体どこ?…。」
暗い空気が三人を飲み込もうとした時だった。
後藤と再会して持ち前の明るさが戻ってきた矢口が、声を張り上げた。
「よーし、わかんないから、ここではないどこかへ行こう!!」
そんな矢口を見て、二人は微笑んでいた。
ミニモニの時のテンションに近いものがあるな、と。
保田は、矢口にはやはりミニモニは似合っていると、心の中で呟いていた。
三人は、次の木のへ、ゆっくりと歩いていく。
希望と絶望の狭間で。
近づいてくるサイレンの音。
泣きながら、自分の子どもを抱きしめる母親。
大量の血を流し、アスファルトの上で動かない少年。
人が…集まってくる…。
飯田は、今自分がどんな状況にいるかわからなかった。
わかりたくないだけかもしれない。
吉澤と辻は、車の中からメンバーを運びだしていた。
自分の意志で車から出てきたのは、安倍、辻、吉澤、新垣、そして飯田の5人だった。
あとの8人は…これ以上何かを考えると、自分は壊れてしまう。
飯田は今、自分がどんな状態なのか気づいていた。
新垣と安倍が、隣で絶句したまま突っ立っている。
二人も今、自分と同じ状況なのだろう。
…何も考えたくない。何も言わないで…。
とりあえず、全員を運び出した時だった。
ついに新垣が、ぽつりと言葉を発した。
「みんな…嘘だ!嘘だよね!!死んじゃったりしてないよね。」
この言葉に、辻と安倍も次々とメンバーに話かける。
「あいぼん!寝たふりは良いから、起きてよ!!ねえ…ののに何か言ってよ!」
「そうだよ、早くなっちーって抱き着いてきてよ!ねえ矢口もほら!」
返事は、勿論なかった。
二人の一方的な会話を聞きながら、吉澤は加護の手首を調べてみる。
(脈は…ある。まだ死んでないのかな…。みんな酷いケガはしてないみたいなのに…
でも…なんでみんな起きないの…?外からじゃ原因がわからないケガ…?)
そう、どこから見ても、意識の無いメンバーに派手な外傷は無い。
まるで童話の、眠り姫のようだ。
(まさか…植物人間……嘘だ!そんな…)
飯田に話し掛けようと、彼女の方へ目をやる。
飯田はいつものように、激しく交信していた。
それだけなら、いつもと変わりはなかった。
しかし、辻が安倍の異変に気づく。
「ああ!安倍さん!どうしたの!?眠いの?」
焦点が合わぬ目を開けたまま、安部が辻にもたれかかっていた。
吉澤の混乱は、ピークに達しそうになった。