「嫌!まだ死ぬなんて嫌や!」
加護は、木にむかってひたすら走っていた。
寒い。まるで真冬のような体感温度に、彼女は泣きそうになっていた。
「ののは…みんなはどこやねん!」
全力で走っているのに、疲れないうえに暖まらない。
「ここは…どこや!」
寒さと寂しさで涙が出てくる。視界が悪くなったせいで、小石につまずいて
転んでしまった。
「痛い…。」
痛みと寒さ、寂しさ、そして、自分がなくなっていくような感覚が、
彼女を追いつめた。
「…みんなぁ…えっく…」
地面に座り込んだまま、彼女は泣いてしまった。
しかし、すぐ様立ち上がり、泣きながら走りだした。
「絶対、誰かおる!」
彼女は不安と戦いながら、ひたすら走っていった。
保田と矢口は、二人一緒に歩いていた。
二人は、お互いに違う道から歩いてきた。
そして数分前、はるか後方に見えるあの木の下で逢った。
まるで、彼女たちの人生のように。
そう、一度木の下で逢えば、他にも木の下に誰かいると思うだろう。
むこうに何本かの、似たような木が見える。
そこに誰かいるような気がして、二人はもくもくと歩いていた。
「矢口…。」
「何?圭ちゃん?」
「私たちってやっぱ死んだのかな…。」
「うん…そんな気もする。」
「おじいちゃんが言ってた事、当たったね…。」
「…うん。おじいちゃんは神様か何かなのかな…。」
「私たちだけかな…。
みんないて欲しいような、欲しくないような…。」
「うん…。」
もうすぐ、二人は一本目の木に着く。
二人はほとんど会話をしなかった。
紺野は、歩きながら色々な事を考えていた。
ここは夢で見た場所だという事。そして、夢に関係があるという事。
もしかしたら、自分は死んだかもしれない事。
他のみんなが、ここにいるかもしれない事。
あのおじいさんが、鍵を握っているという事。
その結果出た結論は、これだけじゃ何もわからないという事。
彼女は、きっとみんな木の下にいると思った。
人間は、多分、この状況ではあそこにいくしかないからだ。
どこか高い土地が近くにあれば別だが、そんなものはどこにもない。
何よりも、道は木へとしか進んでない。
絶対とは言えないが、信じるしかない。
発狂しそうな自分がいる事には気づいている。
しかし、紺野は必死になりながらそれを押さえた。
自分に負けたら、自分を失う。
そんな気がしていた。