高橋は、ここがどこか思い出そうとしていた。
しかし、さっきまで自分が何をしていたのかさえ思い出せない。
気がついた時には、とても広い草原に、ぽつんと一人立っていたのだ。
「どこかで見たことある気がする…。」
気を抜くと、自分が誰かも忘れてしまいそうだ。
そんな感覚と戦いながら、彼女は今から何をするべきか考えていた。
遠くのほうに、一本の木が小さくみえる。
きっと、草しかないから見えるのだろう。
よく見てみると、すぐそこに草のないところがある。
アスファルトで舗装されてないが、平らで奇麗な道だ。
なんとなく、あの木まで続いてる気がする。
とりあえず、高橋はあそこまで歩こうと決めた。
後藤は、やっとここがどこなのか思い出した。
少し前に見た、夢の世界。それを思い出した瞬間に、今日はコンサートの日だと
いう事や、自分、そしてメンバー達は、事故にあったのだという事を思い出した。
やはり、ここは天国なのだろうか。
色々な事を思い出すに連れて、周りの世界がはっきりと見えてきた。
周りに気を配る余裕が無いという事では無く、まるで視力が落ちたかのような
感覚に襲われていたのだ。
遠くに、一本の木が見える。いや…よく見ると、さらにむこうにもう一本。
自分がもたれている木の他に、まだ木がある。
もしかしたら、みんな木の下にいるのかもしれない。
彼女は目を覚ました時、この大きな木の下にもたれ、座っていた。
(歩いてみようかな…。)
しかし、そこまで考えた時、後藤はさらに新しい事に気がついた。
「体が、動かない!(苦笑)」
さあ、歩こうと思った瞬間、確かに脳から命令が出ていた。
ただ、酷い疲れのようなもので、首から下が動かないので無意味だった。
石川は、自分が誰なのかを忘れる所だった。
まわりはすべて緑色で、誰もいない。
何も考えられない。
心の奥底から出てくる、自分の叫び声が聞こえる。
(助けて!誰か!お父さん!お母さん!)
「助…けて…誰か?誰?お父さん、お母さん…誰?」
わからなくなっていく。何もかも忘れていく気がする。
(助けて!みんな!)
「みんな?…みんなって誰?」
みんなと口にした時だった。彼女の脳裏にある景色が浮かぶ。
(人がいっぱい…私たちを見てる…。光ってる。何か…言ってる?
ガヤガヤ!わー!チャーミー!ワー!石川ー!梨華ちゃんー!わー!
私…梨華?石川…チャーミーみんな…石川梨華…みんな!?)
「みんなー!!!」
石川はそう叫んだと同時に、目を大きく広げた。
そして視界の緑が草である事に気づいた。
世界に焦点が合い、草原にいる事がわかった。
「モーニング娘。のみんな…」
石川は、自分がメンバーに助けを求めていた事に気づき、
そして周りに誰もいない事に気づいた。
「みんな…どこ?」
そして自分が誰なのかを思い出した。