「ねえ、ごっちんも見たんだよねぇ?草原の夢。」
先ほどまでベッドで布団にくるまっていた石川が、急に口を開いた。
唐突だったが、吉澤と後藤は何を話していた訳でもないので、
石川に静かに耳をかす。
「えー?まあ…うん。」
後藤はあっさりと返事をする。
自分の見て無い夢は、会話をそんなに暗くするものなのか、と黙って聞いていた。
後藤はもともと返事のそっけないところはあったが。
「おじいさんが出てきたんだよね?」
「私の夢はね。でも、梨華ちゃんの夢にはでてこなかったんでしょう?」
「うん…。」
「だったら、たまたまみんなが悪い夢を見ただけだよ。」
後藤は、石川が疲れて眠いのだが、夢が恐くて眠れないといった心境を
すぐ理解したらしい。
そしてうまい具合にフォローをいれている。
やはり、彼女は人の気持ちに敏感なんだなと、吉澤は改めて思った。
「そうだよね。ありがとごっちん。」
そういうと、石川は静かに瞼を閉じた。
「疲れちゃったから、先寝るね…。」
「おやすみ。」
吉澤は、石川に優しくそう言うと、後藤をきりっとした表情で見つめる。
気づいていたのだ。わざわざ部屋にまで訪ねてくるなんて、
よほど酷い夢だったのだろう。
そして、夢の内容を聞いた吉澤も、不安を抱いた。
自分の隣のベッドで、辻は気持ちよさそうに寝息を立てている。
結局自分は誰にも、見た夢の事は話さなかった。
誰かに相談しようかと何度も考えたが、加護の中の何かが、
それを何度も阻止した。
こういう夢を見た事ないわけやない。
たまたまみんなが似てる夢を見たんや。
加護は、心の中でなんども呟いていた。
まるで、自分に言い聞かせるように。
なにかあったら、ののを助けてやらなあかんなぁ…
そう考えながら、彼女の疲れた肉体は休息に入った。
愛ちゃんはやっぱり、明るく振る舞っていたのだろう。
バスの中で仕事前だし、何より夢の事を深く考えたくないから。
きっと、私と同じ。
そう考えながら、横で寝ている新垣の顔をじっと見てみる。
やっぱりさ、私たちの加入って、必要じゃなかった事なの?
前の先輩たちのようにはなれないの?
私たちなんて、愛ちゃんやあさ美ちゃんより全然人気ないんだよ?
新垣の顔を見て、そんな事を考える。
しかし、自分は新垣よりは、まだ良い待遇である事は知っていた。
彼女は、自らが望んだユニットに入れなかったのだ。
それでも、普段からケロッとでしている新垣は凄いと思った。
純粋に、彼女の強さを認めていた。
そんな事を考えていたら、しだいに夢への恐怖は消えていた。
私だって、戦えるよね。
疲れた体が望むように、彼女も眠った。
本当なの?圭ちゃん!?
私たちに命に関わる災害が降り注ぐって?
嘘だぁ…根拠がないよ!
あんなおじいちゃんの言ってる事なんて適当だって!
…本当なの?
酷い。愛ちゃんがそんな夢を見ていたなんて…。
大丈夫。けど…まったく嫉妬して無いかって言われちゃうと…。
「酷い夢。あ…あのね、私が見た夢は、もっと違った夢だったの。」
泣き出してしまいそうな高橋に、紺野は優しく語り掛ける。
「私が見た夢は、おじいさんが草原で、‘気を付けろ’って言っていただけ
なの。だから、きっともうあんな夢は見ないよ。もう遅いし、寝よう?
大丈夫、きっと大丈夫!」
まったく筋の通っていない事を言ったのだが、話しただけで情緒不安定になって
いた高橋は、静かにうなずいた。
「うん、おやすみあさ美ちゃん。」
紺野は普段、活発でしっかりしている高橋のこんな姿は、
あまり見たくなかった。
だから、ちょっとだけ嘘をついてしまったのだ。
あんな事を言われたのは自分だけなのかもしれない。
紺野はなんだか、複雑な気持ちのまま目を閉じた。