普通、夢はこういう場面でさめるものだが、矢口が目をさましたのは
草むらの上だった。
まださっきの怒りがおさまらない。
「くそう!なんだよあいつら!言いたい事があるなら直接言ってみろ
てんだ!」
独り言を大声で言うと、矢口に老人が話し掛けてきた。
「チビでわがままで、整形してもブスでうるさいか。大変じゃのう(微笑)」
矢口は怒りに満ちた視線を老人にむける。
小さいからこそ、自己主張をすることを得意とした矢口は、
老人を睨み付けたまま、強い口調で言う。
「チビでブスでうるさいかもしれないけど、整形なんてしてないし、
少なくとも辻加護よりわがままじゃないよ!」
「ほう。まあ、自分の姿ってのは見えないもんだからのう。」
わかったような口を聞く老人に、とうとうきれてしまった。
「何、じゃああなたは私の何を知ってるの?
あなたはなんのために生きてるのよ。」
その問いに、激しく老人の目が開かれた。
矢口は背筋が凍るような、凄まじい恐怖を感じた。
そんな矢口の反応を知ってか知らずか、老人はまた落ち着いた口調で、
ゆっくり話し始める。
「人が死ぬときっていつだと思う?」
何をまたいきなりと感じていた矢口だったが、老人がなんとなく、
悲しみのオーラを放っているのに気づいた。
黙って話しを聞こうという姿勢の矢口に、老人は続けて言う。
「わしはな、他の人間から忘れられた時だと思うんじゃ。」
哲学のような答えに、矢口は苦笑いをする。
「おぬしはまだ何かを求めておるな…幸せの証拠じゃ。」
結局それが言いたかったのかと呆れている矢口を見て、
今度はとても小声で、独り言のように話す老人。
「巻き込まれるぞ、気をつけな。」
小さな声だったが、聞き逃さなかった。
「…何!私何かにまきこまれるの?」
ふらふらと向こうへ歩いて行こうとする老人に、矢口は尋ねた。
しかし、老人はふっと消えて、同時にまわりは暗闇になっていった。
ここからが、信じられない悪夢だった。
まるで走馬灯のように、脳に直接叩き付けられる何か。
めまぐるしく場面が変わり、気分が悪くなっていく。
どんな場面にいっても、矢口がやらしい事をされているところだったり、
陰口を叩かれている場面だったり、ファンがやめろと言っていたりという
酷く醜いシーンばかりだった。
いつまでも終わらない悪夢に、流石に矢口も発狂した。
「イヤーーーーーーーー!!!!!もう何も見たくない!!!!!!」
そりゃあね、酷い夢だったよ。最近はそうゆう夢は見てなかったし。
私一生の夢の中でも、上位にはいるくらい、嫌な夢だったよ。
でも、あんな夢を今まで見なかった訳じゃないし。
多分、みんなが似ている悪夢を見ただけ。
ごっつあんの卒業とか、ユニットの再編成とかで、
みんな疲れてるから。きっとそうだ。
矢口はそれでも、老人の一言が気になってしょうがなかった。